今回は、2010年3月29日発刊されたスマートグリッド (電気新聞ブックス―エネルギー新書) を紹介したいと思います。
著者の東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の横山明彦氏は、経済産業省の(昨年度)「低炭素電力供給システムに関する研究会」座長、「次世代送配電ネットワーク研究会」座長、「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会」座長、「次世代エネルギー・社会システム協議会」委員などを歴任されており、日本のスマートグリッド推進の旗頭と言って良いでしょう。
まず目次構成と、それぞれの内容を簡単に紹介します:

なお、文字色が緑の部分は、筆者が追記した部分です。

第1章 スマートグリッドという言葉がブームになりつつあるが、何が起ころうとしているのか

  • スマートグリッドとは、賢い電力系統
  • 名付け親はアメリカでなくヨーロッパ
  • 同じ名前で語られているが、欧米でも国によりスマートグリッド事情は異なる
  • 日本では、すでに送電ネットワークの監視・制御システムの導入や、配電自動化を実施済みだが、日本型スマートグリッドとして考えなければならないことがある
  • 各国の電力事情の違い超え共通課題の解決策として何がスマートグリッドに期待されているか

第2章   スマートグリッドを理解する上で必要な基礎知識の整理と、スマートグリッド完成予想図、スマートグリッド構成要素の現状と課題について

現在の電力系統(=グリッド)はどうなっているのか

  • 発電所から、送電線、配電線を介して家に電気が届くまで
  • 電気は(現在の技術では)貯めることが難しいので、瞬時瞬時で需給バランスをとる(電力需要に応じてジャストインタイムで発電する)必要がある
  • 一日のうちでも変動する電力需要に対して、どのようなタイプの発電所の電源があてられているか
  • 電気が安定的の届くというのはどういうことか(交流電気の4つの品質指標)

再生可能エネルギー導入の問題点

  • 太陽光発電や風力発電は発電電力をコントロールできない。需給バランスが崩れると、周波数が変動してしまう
  • これまでは、電力需要だけを見ていればよかったが、これからは太陽光・風力発電量の変動も相手にしながら需給バランスをとる必要がある
  • 日本の電力系統規模は欧州の1/2。ただし、東西で50Hz、60Hzと周波数が違うので、同一周波数のネットワークの規模としては1/4。更に電力会社間の送電線容量が小さいので、再生可能エネルギーの出力変動を吸収しづらい
  • 電力系統の需給バランスをとるに当たっては20分ぐらい先の予測が必要だが、自然エネルギーの出力予測は難しい
  • 日本政府の太陽光発電大量導入政策で、配電線への逆潮流が心配

スマートグリッド完成予想図

出典:東京大学横山研究室:http://www.syl.t.u-tokyo.ac.jp/
  • スマートグリッド構成要素それぞれの現状と課題:①送電ネットワーク・配電ネットワークでの監視・制御システム、②分散型電源の管理、③スマートメーター、④スマートストレージ、⑤デマンドレスポンス、⑥スマートアセットマネジメント
  • スマートグリッド最終型を実現するためには、上流から下流までの機器の一体運用が欠かせないが、実現までには時間がかかる

第3章 欧州のスマートグリッド関連の取り組みについて

出典:http://www.smartgrids.eu/documents/shortened_version.pdf
  • 欧州では、各国間が連系線で結ばれており一つの大きな送電ネットワークとなっているので、分散型電源や風力発電の出力変動もネットワークで吸収されてきた
  • 風力発電の導入が進み系統に影響が出てきた(2006年欧州大停電の経緯紹介)
  • 2006年に、将来の欧州電力系統のためのビジョン・戦略とりまとめ
  • 欧州のスマートグリッド構想と4つのキーワード(柔軟性、アクセス性、信頼性、経済性)
  • 風力発電大国スペインの再生可能エネルギーに特化したコントロールセンター紹介
  • 欧州諸国のスマートメーター導入状況

第4章 米国のスマートグリッド関連の取り組みについて

出典:http://www.oe.energy.gov/DocumentsandMedia/smartgrid_diagram.pdf
  • 米国では1980年代以降、電力自由化が進み、結果として大型発電所や送電線建設が進まず電力網が弱体化。ひいては、カリフォルニアやニューヨークの大停電の一因となった
  • スマートグリッドに繋がる一連の政策:①2003年国家電力ビジョン「GRID2030」策定、②2005年「エネルギー政策法」で老朽化した送電設備対応を打ち出し、③2007年「エネルギー自給・安全保障法」でスマートグリッド支援策
  • 2008年オバマ大統領はグリーン・ニューディール政策で、強力にスマートグリッドを推進。民間資金を含めると総額81億ドルがスマートグリッドに投資されている
  • 本来発電設備や送電設備の増強が必要だが、電力自由化で発送配電会社の分離などにより現在3000の電力会社があり、規模の小さな会社も多いので大型設備投資が難しい
  • そこで、ピーク時の需要を減らす配電ネットワーク側に重点をおいているのが米国型スマートグリッドの特徴
  • 全米各地のスマートグリッド・プロジェクトの紹介:①コロラド州ボルダーのスマートグリッドシティ、②イリノイ工科大学のパーフェクトパワーシステム、③ニューメキシコ州のグリーングリッドイニシアチブ、④マウイ島スマートグリッド・プロジェクト、⑤グーグルパワーメーター、⑥サザンカリフォルニア エジソンプロジェクト、⑦グリッドフレンドリーアプライアンスプロジェクト
  • 米国のスマートグリッド実証実験は、地域のマイクログリッドに需要家を制御するスマートグリッド的要素を取り入れた、スマートマイクログリッドプロジェクトが多い
  • 米国のスマートグリッド推進体制:①DOE(エネルギー省)がビジョンなどを作成し補助金交付。デマンドレスポンスでは民間推進団体の②DRSG(Demand Response and Smart Grid Coalition)、③DRCC(The Demand Response and Smart Grid Coalition)が設立されており、他に、スマートグリッドの温室効果ガス削減への貢献をアピールする業界団体GSGI(The Green Smart Grid Initiative)がある。
    ※ 本文(141ページ)では、「スマートグリーングリッドイニシアチブ」となっていましたが、グリーンとスマートが逆のようです。

第5章 日本のスマートグリッド関連の取り組みについて

  • 日本の送電ネットワークには事故時の監視制御システム技術が導入されており、配電ネットワークにもほぼ100%停電範囲極小化のための自動化技術が導入されている
  • 太陽光・風力発電や天然ガスコジェネなどの分散電源の系統連系に関してもマイクログリッド実証実験を行い、需要側の電力消費制御以外のマイクログリッドで想定される技術開発は終了している
  • しかし、今後出力変動の激しい太陽光・風力発電が更に増えた場合、(米国型のピーク需要抑制ではなく、需要を促進するため)需要側の制御も必要となる
  • 日本版スマートグリッドの課題は現在系統電力が提供している電力品質を落とさず、如何に大量の太陽光・風力発電を導入するかにある
  • 現在の電力系統設備で電力品質を保つには、太陽光発電の導入は1000万kWが限界なのに、日本政府は2020年までに2800万kWの太陽光発電導入目標を立てている
  • 蓄電池導入を基本とした2800万kWの太陽光発電の出力変動を吸収する系統安定化対策には最大6兆7000億円が必要と試算されている
  • 日本型スマートグリッドに求められるシステム:①再生可能エネルギーを含めたすべての発電所や蓄電池を協調制御して電力需給バランスをとるシステム、②需要側の機器に働きかけて余剰電力や周波数制御、電圧上昇抑制を行うシステム、③家庭の電気製品や(電気自動車のバッテリーを含む)蓄電池をオーナーの嗜好を反映しつつ第三者が制御するシステム
  • 日本型スマートグリッドに必要な機能:①太陽光発電の出力の把握・制御、家電機器の電力使用量の把握・制御、電気自動車やプラグインハイブリッド車の重電状況の把握・充放電制御が可能なスマートメーター・インタフェース、②再生可能エネルギーの発電量予測、③昼間の太陽光発電の余剰電力を有効活用させるための(エコキュートを作動させるなどの)需要促進メカニズム、④リアルタイム料金導入し、スマートグリッドの双方向通信を利用した電気自動車充電スタンドの負荷移動や電気自動車にためた電気を系統側に戻し電力需給安定化に貢献するV2G(Vehicle to Grid)技術
  • その他の考慮点:①独立発電事業者(IPP)や特定規模電気事業者(PPS)の電源も電力需給バランス達成のために利用するバーチャルパワープラント技術(中央集権的制御)、②双方向通信システムを用いてマイクログリッド間で余剰電力を融通しあい、周波数制御・電圧制御する(地方分権的制御)、③(現行6600Vから22000Vへ)配電ネットワークを昇圧し、出力変動の影響を緩和
  • 日本のスマートグリッド推進体制:経産省主導研究会として「次世代送配電ネットワーク研究会」、「蓄電池システム産業戦略研究会」、「ゼロ・エミッションビルの実現と展開に関する研究会」、「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会」、これらの研究会の議論を横断的に統合しスマートグリッドを基にしたスマートシティ、スマートタウンの展開戦略を検討する「次世代エネルギー・社会システム協議会」、官民で構成される「スマートコミュニティ関連システムフォーラム」
  • 2009年から始まったスマートグリッド関連プロジェクト:①九州電力・沖縄電力の離島におけるマイクログリッドシステム実証プロジェクト、②東京電力・関西電力供給エリア内でのスマートメーターと需要変動に応じた料金設定プログラムを組み合わせた実証実験
  • 2010年以降の(経産省がらみの)スマートグリッド関連プロジェクト:①次世代送配電ネットワーク構築に向けた技術開発・実証事業(78億円)、②クリーンエネルギー自動車導入促進対策事業(137億円)、③住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業(77億円)、④エネルギーマネジメント構築(87億円)、⑤太陽光パネルや電気自動車等を組み合わせた最適な蓄電池システム技術とその蓄電池の開発を行うための実証事業(43億円)、⑤スマートコミュニティ関連システム開発事業(11億円)、
    ※()内は計上予算。これらの関連施策を一堂に集めた実験を行う次世代エネルギー・社会システム実証事業を2010年度以降4地点で実施予定
  • 海外スマートグリッド関連プロジェクトへの参画:①米国ニューメキシコ州の大規模実証実験への参加、②日米クリーンエネルギー技術協力に基づくハワイ・沖縄での共同研究、③インド2都市で環境配慮型都市づくりを目指したスマートグリッド実証事業を実施

第6章 中国、韓国のスマートグリッド関連の取り組みについて

  • 中国のスマートグリッド事情として、①現在の中国の電力事情、②中国版スマートグリッドの目標、③中国版スマートグリッドのロードマップを紹介
    ※ 広域送電ネットワークの高度化のため、すでに1000個のPMU(電圧位相測定ユニット)を設置済み。米国では、景気対策法によるスマートグリッド支援事業でこれからPMUを用いた送電ネットワーク高度化を予定しており、米国より先行している
  • 韓国のスマートグリッド事情として、①韓国版スマートグリッドのロードマップ、②韓国版スマートグリッド・プラットフォームの5つの要素を紹介
    ※ 韓国は、自国のスマートグリッド化だけでなく、スマートグリッド関連の自国産業間の融合・シナジーの機会を作り国家ビジネスとして新しい価値を創造するグリーン成長プラットフォーム作りを目指し、1億2000万米ドル相当の国家予算を投入している

第7章 スマートグリッドの将来像と実現への課題、注意点

スマートグリッドが実現して変わること、変わらないことは何か

  • 変わらないこと(変わるべきでないこと):生活レベル
  • 変わること:電気事業、電気事業を取りまくビジネス

スマートグリッド実現への課題、注意点

  • 携帯電話のように日本版スマートグリッドが「ガラパゴス化」しないよう、国際標準化に積極参加する
  • 関連法制度の整備を行う
  • (標準化し多様なステークホルダが関与することで発生しやすくなる)サイバー攻撃への対応を考える
  • スマートグリッド化の費用を誰が払うか
  • スマートグリッド実現には、コストもかかるが、時間もかかる
  • 日本の電力システムは世界最高レベルにあるので、このレベルを下げることなくスマートグリッド化を如何に行うかが最大のポイント

特別対談:電気新聞社の司会で、著者と日本IBM 未来価値創造事業 事業開発部部長の池田一昭氏との対談

  • 国内外で多数のスマートグリッド関連プロジェクトに参加しているIBMのスマートグリッドについての認識
  • スマートグリッドにスマートメーターは必須か
  • 国内外のスマートグリッド関連プロジェクトについて
  • 日本型スマートグリッドのガラパゴス化の懸念について
  • 家電機器制御は電力会社がやるのか、新規参入者になるのか
  • スマートグリッドで収集されるデータは誰のものか
  • 家庭向けESCO事業その他新規ビジネスについて
  • スマートグリッドが実現された社会とは

引き続き、所感をと思っていたのですが、簡単に紹介するつもりが長くなってしまいましたので、コメントは次回とさせていただきます。

おわり