出典:4th EU Conference on the FP7 15-16 April 2010, Valencia, Spain
「2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー - その14」の紹介で、最後に唐突に「モノのインターネット:Internet of Things」という表現が出てきて、原文にはそれに関する説明がなかったので、とりあえずIBM社のビデオを貼り付けておきましたが、その後もこの言葉が気になっていました。
いろいろインターネット上で関連資料を探したところ、面白いものを見つけましたので、今回ご紹介したいと思います。
資料があったのは、「European Future Internet Portal」で、原文『Real World Internet』は、ここからダウンロードできます。
なお、いつもどおりですが、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。また、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。
リアルワールドインターネットの概要
インターネットは、その使い方や技術に関して今も発展しています。
インターネットは、世界中のネットワーク・コンピューターのオープン・インフラを作ろうとするビジョンから生まれましたが、今や、各国政府や、無数の個人ユーザ、ビジネスユーザが毎日使う、社会・経済的なバックボーンになりました。この目覚しい展開は、年々新たに利用可能となる先進技術と、いろいろなことに興味を向ける、ユーザ、オペレータ、メーカー、サービス・プロバイダやコンテンツ・プロバイダー等の新興プレーヤーのミックスによってもたらされてきました。
インターネットは、異機種のネットワークインフラをまたがって2人以上で情報交換ができる、単純で分かりやすい情報転送サービスを提供する目的で設計されました。ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)が今日のインターネットの隆盛をもたらす以前には、初期のアプリケーションとしてリモートログインとファイル転送がありました。今日では、電子メールや、ハイパーテキスト文書、オーディオ/ビデオ・ファイル、リアルタイムのマルチメディア通信のように、主として、人間中心の情報交換に関係する様々なアプリケーションが利用可能です。それに加えて、インターネットのインフラは、次世代モバイル・ネットワークを含む、モバイル・ユーザや、モバイル端末にその範囲を広げています。しかし、この無秩序な進展は、インターネットをつぎはぎだらけのものとしてしまいました。そして、これは、明らかに、インターネット・アーキテクチャの基本構造を考え直す時期が来ていることを物語っています。
従来の用途および現在までのインターネットのトレンドの変遷に加え、「モノのインターネット:the Internet of Things:IoT」と名付けられたイノベーションによって、インターネットは、実世界にまでその範囲を延長しようとしています。IoTの概念は、当初、電波による個体識別(RFID)や無線センサ・アクチュエータ・ネットワーク(WSAN)の技術周りで使用されていましたが、最近では一般にネットワーク化された埋込みデバイス(Networked Embedded Devices:NED)と名付けられた、計算能力/通信能力を備えた様々なデバイスが大量に出てきています。サプライチェーン・マネジメントやロジスティクスへの適用から始まったIoTは、今や、オートメーション、エネルギー、e-ヘルスなどを含む多数の分野をターゲットとしているのです。更に最近では、実世界のモノすべてをインターネットに統合するビジョン「リアルワールドインターネット(Real World Internet:RWI)」へと、IoTを駆り立てています。
また、「サービスのインターネット(Internet of Services:IoS)」のような新たなコンセプトも出現し、RWIおよびIoTとのコラボレーションが期待されています。IoSとIoT/RWIを組み合わせることにより、「エネルギーのインターネット(Internet of Energy:IoE)」のような革新的なエネルギー・インフラが出来上がると予想されているのです。RWIは、私たちが、(従来のインターネットの)バーチャルな世界と(実世界のモノと対応する)フィジカルな世界の間で対話する方法に根源的な影響を与え、未来のインターネット構築にも大きく貢献するでしょう。
リアルワールドインターネットのビジョン
モバイルデバイスの遍在性とワイヤレス・ネットワークの急増により、今後は、すべての人がいつでもどこでも、インターネットにアクセスできるようになるでしょう。また、無線での接続は人間相手のユーザ端末に限らず、衣類から建物まで、ほとんどどんなものでも無線接続が可能となり、NEDとしてコラボレーションするようになります。更に、新しいセンサー技術および無線センサー・ネットワークが、環境情報を感知、推論し、かつ行動する能力を提供するようになるでしょう。そこから、私たちのまわりの実環境に埋め込まれた「モノたち」が相互接続し、「インテリジェントなモノ」と「スマートな空間」が社会を形成する、エキサイティングな世界が見えてきます。
そこでは、広場や、既存のモノ、RFID対応の製品、ロボット、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)その他一般の様々なデバイスにセンサーやアクチュエーター等のNEDが組み込まれ、インターネットの機構と連動しています。その1つ1つが、通信能力と計算能力を持ち、実世界の状況を正確に投影するとともに、きめ細かい情報を伝えるので、バーチャルな世界と実世界の間で、ほぼリアルタイムの相互作用が可能となるでしょう。
そこでは、モノや人の位置・状態・状況に関する情報、場所の情報、その場所に影響を及ぼし変化を起こさせる情報や、情報収集した結果や策定された規則/ポリシーに基づいた、モノや人の情報がエンタープライズシステムになだれ込み(Figure 1)、リアルタイムで意思決定が行われます。
NEDは、計算能力、記憶容量、通信機能すべての点で、現在よりずっとパワフルで、他のデバイスやサービス向けにサービスを提供するようになります。やがて、パラダイムシフトが起き、それぞれのデバイスが更に多機能化して、ビジネスインテイジェンスを実行するホスト役を勤められるようになり、サービス指向アーキテクチャの構成要素として、有効に機能するようになるでしょう。(すべての情報をホストに集めて処理する中央集権型のビジネスインテリジェンスではなく)デバイス上で、ネットワークの中だけで、状況を感知し、対応できるようになるのです。この能力は、その場の状況をうまく利用して、よりダイナミックに、高度で洗練された判断を行う全く新しいアプローチの土台を提供します。
そこでは、RWIのようなダイナミックで多種多様なインフラの中で、レイヤやドメインをまたがったコラボレーションを如何にうまく行うかが主要な課題となるでしょう(Figure 2)。
そのようなコラボレーションがうまく行えると、かつて無いレベルの詳細情報が得られるようになり、例えば次にあげるような様々なアプリケーションが実現するでしょう:
- 「アンビエント」支援による生活およびヘルスケア: 高齢者や障害者をサポートし、他者への依存度を減らす新しいライフスタイルを可能とする。また、より多くの患者が自宅で療養することを可能とする
参考:次世代ITのキーワード「アンビエント」 - サプライ・チェーンの監視とロジスティクス: 効率的なリサイクルを含め、製品のライフ・サイクル全体にわたって監視・追跡を行い、偽造の防止、(定期点検ではなく)インテリジェントなメンテナンス、顧客サービス向上と効率向上を図る
- 輸送、エネルギー、および設備管理の効率改善
輸送:時間表どおりの運行ではなく、必要に応じて運行するインテリジェントな公共交通機関を提供して、混雑を緩和する
エネルギー:部屋の使われ方や人数など、状況レベルに応じてオフィスや住宅の照明や冷暖房の運用管理を行う - 拡張現実(Augmented Reality:AR)シミュレーションの改善: バーチャル環境と実環境を同時に見える化する
参考:ウィキペディア-拡張現実 - 社会生活やレジャー向けアプリケーション: (Facebook、HI5、Google-MySpaceなどのような)ソーシャル・ネットワーキングベースのプロファイルを自動的に更新する。活動中のユーザのフィットネスレベルをモニタし、練習プログラムを適時補正するよう、タイムリーにフィードバックする 等
- メーカーは、識別のためにRFIDを用い、センサーやアクチュエーターを使ったサービスが行えるようにして、従来の単なるモノとしての商品を付加価値の高い製品にする
RWIの主な成功要因を以下に列挙し、Figure 3に図示します:
- 様々なNEDを、効率的にインターネットにつなぐ
- 統一されたインターフェースで、RWIが安全かつ信頼のおけるやり方で生成した情報にアクセスできるようにする
- 新しい革新的なサービスを作り出せるよう、組み立て易い情報の形式を考える
- 実世界の情報を記述する、標準化された方法を確立する
- NED、インフラおよびサービスのレベルでのセキュリティ確保とプライバシー保護を統合する
- データ収集デバイスやセンサーを利用するオーディオビジュアル無線ネットワークのような、他の隣接した分野との組み合わせを考える(例えばセキュリティ・アプリケーションの強化)
- 位置、時間、センサー情報のような動的な情報と、モノそのものの詳細情報を組み合わせることができる全体的なディスカバリーサービスを実現する
例えば、インターネット技術タスクフォース(Internet Engineering Task Force:IETF)で検討されている拡張可能なサプライチェーンディスカバリーサービス(Extensible Supply-chain Discovery Service:ESDS) - 安全で信頼できるリアル・タイム・ネットワークインフラを構築する
- ID管理: 今後、人、機械、その他あらゆるモノに複数のIDが割り当てられるので、どのようにIDを割り当てるかを明示する必要がある
- 障害や中断に対応する能力という意味でのレジリエンス(回復力)を実現する
今後の方向性
RWIのアーキテクチャはスタンド・アローンではありえません。基礎をなす通信インフラ、すなわち(モバイル・ネットワークを含む)インターネットと密結合し、IoEのような他のイニシアチブの基礎となるとともに、逆にそれらのイニシアチブを利用する形をとり、共通した将来のインターネット・アーキテクチャに向けて発展していくと思われます。RWIは、将来のインターネットとなる通信/サービス・インフラの設計に影響を及ぼし、また、設計を支援するでしょう。
以下に、RWIの今後の方向性について記述します。
マネジメント、スケーラビリティと、多様性
RWIは、無数のセンサーと、RFIDに対応したモノおよびアクチュエーターで構成されます。また、これらが合わさったものが、インターネットに接続されたデバイスの大勢を占めるようになるでしょう。単に接続されているデバイスの数が増えるだけでなく、接続されているデバイスのタイプは、パワフルなコンピューターから非常に単純なデバイスまで、いろいろです。
同時に、インターネット上で提供されるサービスの利用者は形を変え、人間の利用者から機械へ、つまり、M2Mが重要な役割を果たすようになります。
そこで、マネジメント、スケーラビリティ、デバイスおよびユーザの多様性が、RWIの主要な課題となります。
- 莫大な数のデバイスをどのように効率的に管理しネットワーク化すれば良いのか?
- 現在の名前空間、アドレス空間は、効率的かつ十分か?
- 非常に多くの単純なデバイスに対してどのようにIPアドレスを割り当てればよいのか?(例えば6LoWPANを使用?)
- (アドレスセントリックなこれまでのメカニズムに対して)インターネット上で、これまで以上にデータセントリックなサービスをどのように統合すればよいのか?
- 特に、無線センサー・アクチュエーター・ネットワークは信頼性が低く、頻繁にインターネットへの接続と切断を繰り返すので、果たして効率的なプラグ・アンド・プレイ(PnP)の機構を設計し、組み込むことができるのか?
ネットワーク化された知識とコンテキスト
RWIが産み出す詳細情報のレベルはこれまでの想像を絶するものとなるでしょう。無数のセンサーが生成する生データは、その手始めに過ぎません。この情報が組み合わされ、更に膨大なデータとなっていきます。すなわち、ネットワーク内の情報処理装置とサービス機能は、より高いレベルのコンテキスト情報を提供するために、複雑な制御ループを形成したり、後処理や統計情報作成のため正確な実世界の情報をリアルタイムでストリーミング配信したりします。
そこで、ネットワーク化された知識とコンテキストに関する課題が出てきます。
- この情報をフィルタリングし、ネットワーク化された知識を検索するためには、どのような手段が必要か?
- インターネット上、(電子メール、ウェブ・ブラウジング、IPTV)で普段見られるデータトラフィックに加えて、どのようなトラフィックパターンに私たちは対処しなければならないのか? また、RWIがもたらす新しいトラフィックパターンは、従来のインターネット・サービスに影響を与えないか?
- RWIが生み出すデータは、どのようにモデル化して表現できるか?
- RWIで迅速に新しいコンテキスト情報を構成するには、どうすればよいか?
プライバシー、セキュリティおよび信頼性の確保
RWIの世界では、単純なデバイスと、RWIの実現をとおして利用可能になる非常にセンシティブな情報の両方で、プライバシー、セキュリティおよび信頼性の確保が必要となります。特に、様々な資源制約を受けるデバイスにおいても実施可能で、機密性、完全性および真正性といった基礎的なセキュリティ・プロパティを提供する、高効率の暗号のアルゴリズムおよびプロトコルの開発が必要となるでしょう。更に、(基本的人権の尊重、法の遵守は言うに及ばず)個人の安全性、プライバシーおよび自由を保障するため、RWIの開発においては、インフラとアプリケーション層の両方で適切なセキュリティおよびプライバシー保護の考慮が必要とされます。すべてのデバイスは論理的なレイヤでセキュリティを確保できるとともに、起こり得るセキュリティ攻撃にうまく対処し、ネットワーク・システム全体の通常運用に支障をきたさないことが重要です。センサー無線ネットワークおよびRFIDネットワークのセキュリティは、特に重点的に対応が必要です。
そこで、以下が今後の研究課題となるでしょう。
- 資源制約の多いデバイス上で、どうすれば処理速度が速く、安全な暗号化アルゴリズムやプロトコルが実現できるか?
- どうすれば、ユーザが自分のデータを把握するための、使い勝手が良くプライバシーを保てるID管理ツールを設計できるか?
- どのように、匿名性、観察不能性、リンク不能性および仮名のプロパティを提供すれば良いか?
- 個人が生成したデータを、どのようにして匿名情報にすればよいか?
- 利用者にセキュリティとプライバシーに関する注意を喚起するには、どのような仕組みを用いればよいか?
- 通信システムに対してデータ解析攻撃を仕掛ける外敵から、どのようにしてインフラを保護すれば良いか?
RWIで生成されたネットワーク・トラフィック
最後になりますが、重要なこととして、RWIで生成されたネットワーク・トラフィックは、既存のトラフィック資源の通信量モデルとは異なり、多くの場合、基礎をなす転送ネットワークに対して特定のサービス品質(QoS)を要求するでしょう。RWIのエンティティ数がスケールアップするにつれて、これは特に重要になります。現代のネットワークは、既存のトラフィックモデル用に調整・最適化されています。特にモバイル・ネットワーク(ネットサーフィン、SMS、音声、VoIPなど)がそうです。
RWIのトラフィックをできるだけ効率的に捌くには、基礎をなす転送メカニズムを改良し、新しいタイプのトラフィックやアプリケーションに適合させる必要があり、そこから以下のような研究課題が見えてきます:
- RWIのトラフィックモデルとは、いかなるものか?
- RWIアプリケーションの、基礎をなす転送ネットワークに対するQoS要件とは、いかなるものか?
- 大量のRWIトラフィック資源を如何に捌けばよいか?
- どうすれば、サービス品質を維持しながらネットワーク資源利用度を縮小できるか?
以上4つの他にも、RWI実現に向けて検討が必要ないくつかの課題があるので、以下に列挙します:
- 標準化:基礎的なNEDサービスの標準化が必要
- 社会的・法的な意味
- サービスの理解/自動的な構成とモデリング(例えばオントロジー)
- モビリティのサポート、 opportunistic networking、 dynamic discovery & usage
- 大量のNEDの管理/大規模な分散型インフラ
- ハード対ソフトなリアルタイム制御
- インテリジェントな処理(in-network、on-edge、など)
- レイヤをまたがったコラボレーション(ビジネスシステム/ネットワークサービス/デバイス)
- セルフ・サステナビリティ(セルフ・マネジメント、セルフ・ヒーリングなど)
- 複数のビジネスモデル-コンテキストベースのソリューション
- 使い勝手の良さ/アプリケーション・モデリング/ツールキット
- インフラ管理(HWとSWのセットアップ/保守など)
- デバイスの識別
- システムとオブジェクトの相互運用性
- プラグ・アンド・プレイデバイス
- RFIDのサイズ:センサーとアクチュエーター
- デバイスのエネルギー自治力(energy autonomy)
結論と今後の進め方
リアルワールドインターネット:RWIは、IoTの特徴を、実世界の現象をインターネットに組み込もうとするビジョンに関与させようとする学際的な研究領域です。この目標を実現するには、例えば、以下のような個別の目的を成就させる必要があります:
- 適切なRWIアーキテクチャのスケッチを描く
- NEDを将来のインターネットに統合するよう先導する
- コンテキストの動的生成、より基本的なセンシングに基づいたアクチュエーション・サービス、アクチュエーションおよび処理を遂行する資源、および、多数のアプリケーション向けてその資源の再利用を促進する
- RWIの実験施設の使い方を明らかにし、付加的な実験施設あるいは機能について提案する
- 将来のインターネットの課題に対応するプライバシーとセキュリティの技術を開発する
RWIが、私たちのビジョンを反映した形で成長していくかどうかは、時間が経てば分かることです。しかし、それを成功させるためには、私たちは、RWIに関与する異なるステイクホルダー間でコンフリクトが起きていないか注視し、RWIが将来のインターネット空間で有機的に成長できるよう基本設計を行っていく必要があります。
今回は、ヨーロッパでのインターネットの将来を考えるサイト:European Future Internet Portalより、「モノのインターネット:IoT」のコンセプトを更に敷衍した、リアルワールドインターネット:RWIの方針説明書:Position Paperをご紹介しました。
GTMリサーチのレポートでは、ごく簡単にスマートグリッドの最終形としてIoTの世界を紹介していましたが、ここでは、「サービスのインターネット:IoS」とIoT/RWIの融合したものを「エネルギーのインタネット:IoE」と表現し、これこそがスマートグリッドのあるべき姿(革新的なエネルギー・インフラ)であると(言外で)言っています。
なお、芋づる式に新しい用語/概念が出てきています(特に箇条書き部分)が、日本語に翻訳するに当たってすべてを調査する時間がありませんでしたので、一部英語のままとさせていただきました。 IoT同様、スマートグリッドを考える上で重要と思われるものは、別途フォローしていきたいと思います。
最後に、「Real World Internet」のパワーポイント資料に載っていたIoEの絵を再掲しておきます。
終わり
- 投稿タグ
- IoT, M2M, Real World Internet, RWI
Pingback: 新谷 隆之
Pingback: 新谷 隆之