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「DRはどこへ向かうのか」のシリーズは終わりにしようと思っていたのですが、先月末greentechgrid.comに掲載された記事に気になる記事があったので、読んでみたところ、FERCオーダー745に関連して、このブログシリーズと似た方向性がが示唆されていましたので、補足の意味でご紹介します。 例によって、全訳ではなく、超訳になっていることはご承知おきください。 では、はじめます。
FERCオーダー745に関する裁判所の決定はDRにとって何を意味するのか?
Greentechgrid:
Katherine Tweed
2014 年 5 月 27 日
先週金曜日(2014年5月23日)、DRはワシントンDCの高等裁判所の決定で大打撃を食った。「FERCのオーダーは行き過ぎである」として、2対1でFERCオーダー745を覆す判決が出たのである。
表面上、ここ数年本件で争ってきた電気供給協会(Electric Power Supply Association:エンタジー、NRG エナジーおよび PSEGパワーを含む発電事業者の組織)の大勝利である。しかし、電力生産を生業とする彼らにとって、たかだかワシントンDCでの裁判でオーダー745を無効とすることに成功したところで、これで枕を高くして寝ることができるようになったとはいえない。近年、ユーティリティや、州・連邦規制機関は次第に「需要管理とエネルギー効率化(Demand management and energy efficiency)」を珍重するようになり、今後数年間その方向は変化しそうにないからである。
2012年に承認されたFERCオーダー745は、系統運用者に対して、「Economic DR(経済的DR)」を電源と比較して経済的であるという理由から利用する場合、スポット市場またはリアルタイム市場における地点限界価格(Locational Marginal Price:LMP)を、DR資源提供者にも支払うことを義務付けたものであった。
これに対して裁判所は、電力料金の支払いに関する取り決めは州政府の専任事項であり、FERCのオーダーは、越権行為であるという判断を下した。判決の主文では、「FERCオーダー745は、EconomicDR資源の市場参入を促そうとするあまり、参入障壁を低くしすぎて、不用意に大量のDR資源を取り込む結果を招いてしまった」としている。
DR普及の立場からすると一歩後退した形とはなったが、これでオーダー745に関する争いが終わった訳ではない。FERCのスポークスマンは、「我々は今次の手を検討している。たとえ今回のような判決が出ようとも、PJMのようなエネルギー市場においてDRが果たす役割がなくなることはない。」と語っている。
なお、現在全米最大のDRアグリゲーターであるEnerNOCは、系統運用者が運営する容量市場で取り扱われるピーク負荷削減用のDR(Capacity DR)を主に取り扱っており、EconomicDRにはほとんど手を出していない。このCapacityDRという、容量市場でのDR資源調達量にも減少傾向が見られるが、これは、今回の裁判結果とは無縁である。
先週金曜日、PJMは、直近に行われた容量オークションの結果を発表した。内容的には夏季限定のCapacityDR資源調達から一年中を対象としたCapacityDR資源調達に変化したものの、依然として10,000MW以上のDR資源調達が行われている。夏季限定の調達から一年中を対象とした調達への変化は、とりもなおさず、DR資源の重要度/信頼度が増しているという見方もできる。
EconomicDRに関しては、FERCオーダー745があまりうまく機能せず、市場での売買に精通している大口需要家が市場価格を吊り上げてしまった。実は、2年前のWebinarで、オハイオ州公益事業委員会の元長官で分析グループVPでもあるPaul Centolella,氏が、オーダー745 はすべての規模のユーティリティ顧客にとって、必ずしも有効ではないと主張していたが、果たしてそのとおりであることが判明した。その結果が、今回の判決をもたらしたとみるべきである。
その他にも市場参加者の変化は進行中で、Stemや Greensmith などの企業はアンシラリーサービス市場にDR資源を提供できるよう、バッテリーシステムの販売を展開している。
ところで、FERC以外にも、独自にDRの普及促進を図っている州がある。ニューヨーク州の電力業界向け規制改革がその1つで、FERCオーダー745以上の成果が期待されている。テキサス州の系統運用機関ERCOTは、当面容量市場運営を行う計画はないが、アンシラリーサービス市場設計を再考しており、スポット価格の高騰回避にもDR資源の利用促進を検討している。ERCOTはテキサス州内の系統運用を司っているので、オーダー745の適用対象外だが、電力調達の多様化と、設備容量確保の限界を打破する手段として、DR資源に期待を寄せている。
一方、EDF等、FERCおよびオーダー745 の支持者は、「米国がクリーンエネルギー経済に変貌するためにDRは今後ますます大きな役割を果たさなければならないのに」と、今回の判決に対して失望の色を隠していない。
今回の判決は、確かにDR普及促進の妨げとなる可能性を持っているが、おそらくいくつかのレポートで示唆されているようなことにはならないだろう。今回の判決の結果、州規制当局もDR資源をどう取り扱うか判断することが余儀なくされ、周りの州でDR資源をエネルギーミックスの一部として有効に利用していることが分かれば、DR資源を見直す結果になる可能性がある。規制当局がダメでも、いくつかのユーティリティでDR資源提供者への支払いを見直すきっかけとなることが予想される。事実、ConEdison電力会社はDR資源提供価値を見直した結果、DR資源提供者への支払いを2倍にアップさせている。
「今回の判決は、FERCと州規制機関の管轄権に係わる問題であり、その最終結果がどのようになろうとも、EnerNOC は、今後ともDR資源が米国エネルギー市場にとって重要であるとの確信を持っている」とEnerNOCのTim Healy会長は述べている。
ピーク負荷削減命令を州政府から受けている電力会社や、OG&E(オクラホマ ガス&エレクトリック)のように、火力発電所の新設延期を検討している電力会社にとって、重要なのは、CapacityDRであって、実は、オーダー745およびEconomicDR自体にはそれほど期待していない。 今日多くのユーティリティが利用しているのは、価格反応型のDRプログラムである。そして、スマートサーモスタットから蓄電池システムへと自動DR技術の進展に伴って、DRの守備範囲は、今後オーダー745が対象としているEconomicDR以外、アンシラリーサービスにも広がっていくだろう。
今回は以上です。
DRの用途として、従来の価格反応型DRやインセンティブ型DRは、ピーク負荷削減という用途に向けたDR資源ということでは、今回の記事の中での表現に従うとCapacityDRに相当します。EconomicDRというのは、純粋に発電機の代用としてスポット市場あるいはリアルタイムのエネルギー取引市場向けのDR資源ということになりますが、それよりも、今後はアンシラリーサービス向けDR資源調達に目が向いてくるだろうということで、図らずも、弊社ブログシリーズと同じ意見でした(だから紹介したのですが)
ただ、今回の記事のなかでも、PJM容量市場におけるDR資源調達量の減少傾向に関して言及していましたが、なぜ減少したのかの説明はありませんでした。
DR + PRD + EE = 一定
という、エネルギー保存則のような弊社仮説の検証は、少なくとも来年のPJMの容量市場調達結果を待たなければならないようです。
終わり
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