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本来FERC DR評価レポートのご紹介の続編をお届けするはずなのですが、なかなかまとまった時間をとれずにいます。
そこで、今回は、前回の最後に、今後のデマンドレスポンスのトレンドとして考えている以下の図について、同じようなことを言っているペーパーを見つけましたので、ご紹介したいと思います。

ご紹介するのは、Energy Innovationという、エネルギーと環境政策を専門とするシンクタンクに所属する2人の著者、Sonia Aggarwal および Jeffrey Guが2012年12月に書いた『2つのデマンドレスポンス(原題:Two kinds of demand-response)』で、「ピーク削減のみがDRの目的に非ず」という点で共感を覚えています。

では、はじめますが、例によって超訳、補足/蛇足が混じっていることをお含みおきください。

2つのデマンドレスポンス

2012年12月 Energy Innovation社Sonia Aggarwal および Jeffrey Gu

2011年北米を襲った熱波は、東部海岸地域で100°Fを超える凄まじいもので、それに伴って、過去の電力消費の記録を大きく塗り替えた。ところが、本来、大停電や電圧低下を引き起こしても不思議ではない記録的な熱波だったにもかかわらず、何も起きなかった。

なぜか?

PJM始め北米の系統運用機関は、デマンドレスポンス(DR)キャパシティーという「架空の発電設備」を大量に準備していたからである。そして、発電機に発電量を制御するための指令を送る要領で、系統運用者たちは、その「架空の発電設備」を制御し、電力需要カーブを押し下げ、緊急事態を乗り切ったのだ。

これまで、電力需給調整と言えば、需要側に合わせて電力供給を制御するものと相場が決まっていた。しかし、今、需要側を制御することの効用が注目され出している。そして、その注目要因の1つが再生可能エネルギーである。今後再生可能エネルギーの大量導入が予想されているが、1つ大きな問題がある。出力変動が大きすぎるのである。そんな中、DRは、系統に接続される大量の再生可能エネルギーがもたらす出力変動を吸収する安価で便利な手段としての評価を固めつつある。

そもそも、DRプログラムというのは、消費者に報酬を支払う代わりに電気を使うパターンを変えてもらうものである。消費者一人が電気を使うパターンを少々変更しても、系統にとって大した変化はない。しかし多くの消費者が一斉に電気を使うパターンを変更することができれば、発電機数台分の発電量に匹敵する需給バランスの変化を生み出すことができるのだ。

DRが果たす役割として、今、次の2つが期待されている:

架空の発電設備容量(DRキャパシティー):これは、1年に数回起きるピーク需要に備えるためだけに発電機(ピーク電源)を保持するのに代えて、DR資源を「架空の発電設備」として、いざという時に備えるものである。
安定した電力供給を行うため、従来は長期需要想定に基づいて発電所の設備計画を立て、ピークに合わせた電源を確保してきた。しかし、DR資源(いわゆるネガワット)を利用することで、新しい発電設備を構築せずとも、ピーク時の需給調整を行うことが可能になってきた。

需給調整力(バランシング):従来、非常時対応の「代替電源」としてDR資源は利用されてきたが、今後再生可能エネルギーが大量導入されると、これまで考えられなかった供給側の出力変動が日常茶飯事で発生する。そこで、通常の系統運用の範囲で、需給調整力としてDR資源の利用が始まっている。

以下では、これら2つのDR資源の使い道を実現するに当たって、DRプログラムにはどのような違いがあるかを見てみたい。

 架空の発電設備(DRキャパシティー)

DR資源が架空の発電設備容量としてのどれほど可能性を持つかは、地域の発電資源の状況に依存する。米国では夏季ピーク需要の3~9%(地域によってはもっと多い)、ヨーロッパでは5~11%がDRキャパシティーでカバーされると考えられている。

DR資源が架空の発電設備容量としてどのように働くか例を用いて説明しよう:

バーモント州にあるアイスクリームメーカーのCabot Creamery社は、大口需要家を顧客とするDRアグリゲーターEnerNOC社の顧客である。同社は、EnerNOCが提供するDRプログラムに参加しており、年間で数時間、DRイベント発生時には、自社の製造ラインの一部と大型冷凍機を止めることによって電力消費を1MW削減する契約を行っている。
同社の製造工程は時間調整が可能で、冷却装置を数時間停止しても製品への影響がない。にもかかわらず、DRイベントに応じる契約をすることでEnerNOCから年間2万ドルの報酬が得られるというのは悪い話ではない。

また、電力供給側から考えても、年間数時間稼働させるために新たなピーク電源設備を作るよりは、この種のDRプログラムによってDR資源を利用する方が、よほど安上がりなのである。

出典:Siemens. “Buildings that change their behavior.”

図1 電力需要ピークの年間推移

図1は、年間の最大ピーク需要を100として、毎日のピーク需要をグラフにしたものであるが、ピーク需要の10%(オレンジ色の部分)は、年間電力需要時間の1%パーセントにも満たない。
Brattle Groupが2007年に実施した調査によると、米国のピーク需要が5%減少すると、発電コストが年30億ドル節約できるという。そのため、DR資源による「架空の発電設備」に注目する電力取引市場が増えてきた。

例えば、米国東部の地域系統運用機関で電力取引所も運営しているPJMである。電力取引市場とは、文字通り、電力(kWh単位)の売買を行う市場だが、PJMは、早くから「キャパシティー市場」を立ち上げた。
この「キャパシティー市場」というのは、発電設備容量(kW単位)を売買することによって、その場その場の電力取引ではなく、長期的な電源確保を目指すものである。
PJMは、2012年度(2012年6月~2013年5月末)、850万キロワット以上を発電事業者の代わりにDRキャパシティーで調達している。中でも注目すべきは、2011年単年でのDRキャパシティー増加量で、PJM管内の全設備容量のほぼ5%に達した。

この急激な増加の裏には、PJMの市場構造が関わっている。
これまでは、「キャパシティー市場」は、発電事業者を対象とし、長期的なピーク電源への設備投資を視野に置いた取引であったが、架空の発電設備としてDR資源が「キャパシティー市場」への参入を許されると、1年でPJMの「キャパシティー市場」の取引価格が85%も下落している。

出典:“The Role of Forward Capacity Markets in Increasing Demand-side and other low carbon resources.”

図2 PJM市場におけるDR資源利用の伸展

図2は、PJMの取引市場におけるDR資源の伸びを示したものである。

PJMでは、DR資源を有効利用するため、これまでいろいろな種類のDRプログラムを提供して試行錯誤が繰り返されてきた。遮断可能負荷(Interruptible Load:グラフ中、赤で示されたDRプログラム)と呼ばれる緊急DRタイプのDRプログラムが伸びてきていたが、FERCオーダー745により、経済的DRへの支払い条件が電源と同じになったことにより、2012年度、RPM(Reliability Pricing Model:信頼度価格モデル)と呼ばれる3年先までの発電設備容量(キャパシティー)確保を目指した「キャパシティー市場」向けのDRプログラム(グラフ中緑で示されたDRプログラム)にDR資源がシフトしていることが見て取れる。

FERCオーダー745に関しては1つ前のブログ記事「FERCのDR評価レポート-その1」参照

 DRによる需給バランシング

従来、需要側の変動に供給側が合わせることで電力需給バランスが保たれていたが、出力変動の大きな可変再生可能エネルギーを大量に供給側に組み込むに当たって、何らかの対策が必要となる。その解決策の1つとして注目されているのが自動DRである。

自動DRならば、天候の変化による再生可能エネルギーの出力変化を予測し、発電機に発電量をUp/Downさせるための制御指令を出すのと同様にして、DR資源(および分散電源)を持つエンドユーザに対して系統からの電力消費量を調節する指令を出すことができる。
再生可能エネルギーを大量導入すればするほど、系統内の出力変動量も大きくなるので、需給バランシングを保つ一方策としてDR資源を利用するために、自動DRが注目されているのである。

例えば、カリフォルニア州は、2020年までに電力供給の33%を再生可能エネルギーで賄う目標を立てている。その再生可能エネルギーの出力変動を吸収する手段として、系統側に大規模バッテリー装置を設置した場合と、自動DRを導入した場合を比較すると、現在の技術水準では、自動DRの導入コストの方が圧倒的に低い。(図3参照)

出典:“Grid-scale battery cost range data for 2012”

図3 DRと系統用電力貯蔵装置のコスト比較

カリフォルニア州では、これまで自動DRによって18万~90万kWの負荷制御が行われてきた。そして、わずかのシステム改良で、現在では180万kWの需要調整が可能となっている。これは、現時点でカリフォルニア州に設置された風力および太陽光エネルギーの設備容量の30%以上をカバーしている。その自動DRでは、ビルの冷暖房・空調および照明設備と連動し、系統の状況に応じてリアルタイムにそれらを調節することで、系統への負荷を調整している。

ところで、自動DRには、いくつかの異なる方法がある。

最もよく知られているものは、CPP(Critical Peak Pricing)のような電気料金に応じて振る舞いを変えるタイプの自動DRであるが、この同じ技術は、再生可能エネルギーを最大限に利用しつつ、系統運用者がリアルタイムで需給バランスをとるためにも拡張できる。

図4は、時間ごとに供給力の変化を予測し(グラフ中赤線)、それに基づいて自動DRにより需要量(グラフ中青線)を制御しているものである。

出典:“Open Automated Demand Response Communications in Demand Response for Wholesale Ancillary Services”

図4 自動DRにより、供給量変動予測に合わせて需要を追従させた例/p>

天候の変化を絶えずモニターし、電気料金をリアルタイムに変動させて、商工業顧客のビル冷暖房のサイクルを調整させ、再生可能エネルギーが豊富な時間帯に電力需要をシフトさせることができれば、顧客の電気代節約と同時に、再生可能エネルギーが系統にもたらす悪影響を最小限に食い止めることができる。

DR資源による需給バランシングのもう1つの例が、スマート家電である。皿洗い機や洗濯機のような電気機器が、系統運用者からのDRシグナルに基づいて、需給バランスを保つにはいつ作動を開始し、いつ停止するかを決定する。

電気自動車(EV)も電力需給バランシングに一役買っている。EV充電を系統の電力需給バランシングに利用する実証実験が世界各国で行われており、リアルタイムでの周波数制御にまで検討が進んでいる。

これらは、系統運用者にとってありがたいことであると同時に、電気代が安くなるなど顧客にとってもメリットのあるものである。

 電力系統の進化とともに成長するDR

再生可能エネルギーの時代は、すぐそこまで来ている。太陽光パネル(PV)の価格は2年前の半分以下となり、米国のPV設備容量はその間に3倍以上になった。ドイツでは、年間電力需要の1/4がすでに風力と太陽光で賄われており、昨年、中国では、オーストラリアとカナダで消費されたすべての電力以上を再生可能エネルギーでまかなっている。

系統でより多くの再生可能エネルギー利用を可能とし、かつ系統運用コストを低減させるには、現時点ではDRしか選択肢がないと言っても過言ではない。

DRは、フレキシブルで、新しい、クリーンな電力系統の時代の到来を告げている。

本日は以上です。

終わり