© Copyright Maigheach-gheal and licensed for reuse under thisCreative Commons Licence.
今回は、低炭素電力供給システムに関する研究会の第1回(平成20年7月8日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。
研究会メンバーに関して
その前に、まず本研究会の委員と所属を見ておきましょう。
研究会のメンバー構成は、産:3、学:7、その他:2で、大学・研究所関係者が多いですね。
※ 電力会社が含まれていませんが、電気事業連合会廣江事務局長は関西電力からの出向と思われます。
※ ただ、電力会社の肩書きをもたれた方が委員に入っていないことに、本研究会に対する電力業界のスタンスを垣間見た気がします。
※ 上記の委員の他に、オブザーバとして必要な方が適宜研究会に招聘されており、第7回では東京電力の渡辺勉氏が、「日本型スマートグリッドへ向けて」というタイトルのプレゼンをされていますが、電力会社の考えではなく『あくまで私見を述べる』という立場で参加されています。
また事務局としては、資源エネルギー庁電力・ガス事業部の吉野電力基盤整備課長を筆頭にして、電力・ガス事業部政策課、原子力政策課、電力市場整備課、電力需給政策企画室の方および省エネルギー・新エネルギー部の政策課、新エネルギー対策課の方が適宜参加されています。
低炭素電力供給システムの構築を目指していますので、事務局としては、電力基盤整備課がイニシアチブをとっていることが窺えます。
第1回研究会でのプレゼン内容について
第1回は、この研究会の位置づけ・目標に関するコンセンサス作りでした。以下、議事録および配布資料をもとに、プレゼン内容を振り返って見ましょう。
1)事務局:「低炭素電力供給システムに関する研究会」について設立趣旨等の説明
- この研究会は、2008年6月9日、洞爺湖サミットに向けて福田総理大臣(当時)から発表された『「低炭素社会・日本」を目指して』(いわゆる福田ビジョン)に対応する
- そこで示された「再生可能エネルギーや原子力などのゼロ・エミッション電源の比率を50%以上に引き上げ、特に太陽光発電の普及率を2030年には現在の40倍に」を実現するための方策を検討する
- 具体的には、低炭素電力供給システムを確立し、低炭素社会システムを実現する具体的な方策について検討を行う
2)新エネルギー部会:緊急提言の説明
この緊急提言は、平成20年2月から総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会で検討されてきたことを、中間報告の形で平成20年6月24日開催の第26回新エネルギー部会に向けてまとめられたものがベースとなっており、低炭素電力供給システムに関する研究会のために作成されたものではありません
※ その後、この緊急提言は、パブリックコメントを反映して、平成20年9月25日、正式に緊急提言『新エネルギー政策の新たな方向性 - 新エネルギーモデル国家の構築に向けて-』として発表されています
- 2008年5月に総合資源エネルギー調査会需給部会で作成された長期需給エネルギー見通しの中で再生可能エネルギー最大導入ケース(1次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を2020年には8.2%、2030年に11.1%)を実現するための規制、支援、自主的取組みの適切な組み合わせを考える必要がある
- そのためには、どうしてもコストがかかる。トータルコストの最小化に努力するが、何らかの方法で最終的には国民の負担、国民の相互理解、協力が必要
- 水力・風力・バイオマスの伸びが限界をむかえる。2030年に向けて飛躍的に伸ばしていける可能性があるのが太陽光と考えられている
- 福田ビジョンの目標(太陽光発電を2020年に10倍、2030年に40倍)を達成するためには技術開発、需要創出による太陽光発電の価格を大幅低下で大量普及につなげる。あるいは電気事業者によるメガソーラー(大規模太陽光発電)の全国展開などが必要
- 新エネルギーの発電は不安定なので、系統安定化のための技術が必要。そのコストをいかに下げていくかが重要になる。技術的な課題、トータルコストがどうなるのか、その費用をどうしていくのか検討が必要
3)電気事業連合会:電気事業におけるCO2排出量削減に向けた取り組みについての説明
こちらは、電気事業者を代弁して、この研究会の目指す低炭素電力供給システムの構築に向けての考え方が述べられています
- 地球環境保全の重要性は言うまでもないが、同時に供給の安定性と経済性を見過ごしてはならない。経済性・環境保全・安定供給確保の3つの要素を同時満足させる必要がある
- これまで、主として原子力発電の比率を上昇させることで、CO2排出原単位を着実に低減させ、CO2排出量の伸びを抑制してきた。原子力発電の活用が最も重要・効果的と考えている
- ところが、このところ人災・天災が重なって原子力発電の設備利用率が相当落ち込んでいる
- 設備利用率の向上は極めて即効性の高い有効な手段なので、今後とも安全運転・安全確保を大前提に、既設炉の適切な活用に引き続き取り組んでいく
- 風力発電・太陽光発電は、出力がかなり大幅に変化する可能性があり、需給調整電源(例えば、火力発電等々)によりカバーする必要がある
- 今後更に再生可能エネルギーの導入が進むと既存の需給調整電源のみでは対応は困難となり、例えば蓄電池設置などの対策が不可欠
- 現在整備されている配電網では太陽光発電の大量導入による逆潮流を想定していなかったので、これを有効活用するためには系統側での対策が必要
4)事務局:低炭素電力供給システムの構築に向けての説明
事務局の吉野課長の説明によると、背景/総論が「1.低炭素電力供給システムの構築に向けて」、「2.電気事業分野における温暖化対策の取組」、「3.電源のベストミックスについて」の26ページ、電源ごとの課題が「4.新エネルギーについて」、「5.原子力・核燃料サイクルについて」、「6.水力・地熱発電について」、「7.火力発電について」の52ページ、その他に「8.需要サイドの取組(省エネルギーと負荷平準化)」10ページ、「9.CO2フリー電気等の取引」3ページと、90ページを超える膨大な資料ですが、事務局として、低炭素電力供給システムの構築に向けて何を考えているのか見てみましょう。
- 50%以上のゼロ・エミッション電源を導入するにあたって、全体としては常に電源のベストミックスを維持しなければならない
- 新エネルギーに関しては既存電源との発電コストと同等になってくると導入量が飛躍的に増加する可能性がある。他方、導入量の増加に伴って出力変動対策費用等のコストが系統全体にかかってくる可能性がある
- 今後の供給計画によると原子力発電は今後10年間に9基の新規運開が期待されており、それによって41.5%の供給シェアを確保できる。50%以上のゼロ・エミッション電源の導入を考えた場合にはそれが実現されること、さらには設備利用率が向上することが前提である
- 核燃料サイクルまでの流れが確立されることによって長期的安定的な原子力の利用が実現できる
- 電力の負荷平準化はこれまでも安定供給の観点から重要視されてきたが、今後は需要全体が減少する中で原子力の導入を拡大していくために、より一層の負荷平準化対策が必要となる
第1回研究会で感じたこと
2)の新エネルギー部会から出された緊急提言では、福田ビジョンを素直に解釈して、新エネルギー最大導入ケースを実現するためには何をなすべきかというスタンスであるのに対して、3)の電気事業連合会のプレゼンでは、CO2削減のみに焦点を当てるのではなく、経済性・環境保全・安定供給確保の3つの要素を同時に満足させる必要があるというスタンスが見受けられます。したがって、長期需給見通しの最大導入ケースでは「実用段階にある最先端の技術で、高コストではあるが、省エネ性能の格段の向上が見込まれる機器・設備について、国民や企業に対して更新を法的に強制する一歩手前のギリギリの政策を講じ最大限普及させることにより劇的な改善の実現」を目指していますが、電力業界は、安定供給も見据えた既存電力流通設備への追加投資に関する投資対効果が重視されている感じです。4)のエネ庁事務局のスタンスは、ちょうどその中間でしょうか?新エネルギー部会の緊急提言最大導入ケースの2030年目標まではコミットしたくないが、2020年の目標である「2020年までにゼロ・エミッション電源50%以上を目標にむけて、具体的な検討を行っていく」というスタンスを取っているように感じました。
なお、この研究会が構築を目指す低炭素電力供給システムは、スマートグリッドが目指すものと重なっている気がしたのですが、少なくとも第1回目の議事録および配布資料を見る限り、スマートグリッドというキーワードは1つも見当たりませんでした。
- 投稿タグ
- Smart Grid, 低炭素電力供給システム, 次世代送配電網, 次世代送電網