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今回は、低炭素電力供給システムに関する研究会の第3回(平成20年10月9日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。

第3回研究会でのプレゼン内容について

第3回は、原子力発電に的を絞っての現状把握、今後の課題検討が行われました。以下、議事録および配布資料をもとに、研究会での説明・討議内容を振り返って見ましょう。

1) 事務局:原子力発電についての説明

原子力発電について、低炭素という切り口から現状と課題について説明されています。

  • 日本における原子力発電の政策的位置づけの確認

・「原子力政策大綱」(2005年):「2030年以後も発電電力量の30~40%程度以上」
・「低炭素社会づくり行動計画」(2008年):「2020年を目途に原子力等の「ゼロ・エミッション電源」の割合を50%以上」
・長期エネルギー需給見通し(2008年)では、2020年までに原発の「新増設9基・設備利用率約80%」を仮定

  • 原子力発電の発電比率:これまでは約30%だったが、直近は柏崎原発の停止などで25%程度に落ちている。長期エネルギー需給見通しの仮定「新増設9基・設備利用率約80%」に従えば、新エネルギーの最大導入ケースでゼロ・エミッション電源全体の発電比率が55%程度になり、努力継続ケースで50%くらいと予想される
  • 原子力発電設備利用率:近年低迷し、最大で70%程度。(トラブルや自然災害等による計画外停止や、定期検査期間の長期化等が原因)長期エネルギー需給見通しの前提となっている設備稼働率80%が達成できないと、原発新増設9基では間に合わない
  • 既存原子力発電所の活用策:米国で120件以上原子力発電所の出力向上の実績があり、技術的に確立されているので、日本でも同取り組みを進める必要性
  • 原発新増設実現に向けた課題:①バックエンド、原子炉解体問題を含めた財務面での負担の平準化、②核燃料サイクル確立への対応、③国際的な安全なり原子力の管理スキームの変更とか、安全規制の変更のような予め想定することが困難なリスクへの対応、④原子力発電比率の増大や新エネルギーの大量導入に当たって、ベース電源である原子力発電でも負荷追従運転の必要性 

2) 電気事業連合会:原子力発電の現状と今後の課題についての説明

一般電気事業者の立場から見た既設発電所の活用と新増設について課題と取り組み状況が説明されています。

  • 日本の原子力発電の設備利用率:2001年まで平均80%台をキープしていたが、原子力不祥事(点検保守作業にかかわる不具合隠しあるいは記録の改ざん)や地震による原子力発電所の停止、更に予防保全の観点から定検が長期化していることなどで、60%~70%で推移
  • 電力会社の対応状況:①保全活動の充実、②地震対策、③情報共有、④高経年化対応を実施している
  • 既存原子力発電所の出力向上:日本原子力発電東海第二発電所で、2010年度約5%の向上を目指し設備の信頼性向上を図る工事を計画中
  • 2008年度の供給計画:2020年までに13基の原子力発電所開発計画があり、内3基は着工済み
  • その他:バックエンド対応引当金制度の創設、廃炉費用負担の軽減・平準化に関しては、解体引当金制度の検証中

3) 自由討議(気になった意見のみ)

① 新エネ(第2回)のときは太陽光発電2020年10倍、2030年40倍、需給見通しの最大導入ケースというのが繰り返し前提になっていたが、今回は努力継続ケースの方が数字の前提なっている。(2020年)ゼロ・エミッション電源50%というのが研究会の第一義の目的なのか、(2030年)太陽光発電を40倍にするのが目標なのかで、原子力発電の比率が変わってくる
② 今でも特殊日であるゴールデンウィークとかお正月の二日の日とかというのは非常に原子力のウェートが大きくなって系統運用上非常に周波数調整とかが難しくなり、それで可変速揚水発電とかが入れられている。新エネが入ってくると大きな問題となってくるわけで、負荷変動に対して原子力の負荷変動運転というのもあり得るが、CO2のフリーな電気をお互いに出し入れし合い、トレードオフしているだけで余り意味がない
③ 低炭素社会の実現方策には、供給サイドと需要サイドの2つがある。需要サイドにはエコキュートなどが入っている。供給サイドには電源と、もう一つは流通の部分でのロスを減らすことで、これは永遠の課題

第3回研究会で感じたこと

第2回研究会での説明と異なり、1)事務局の説明(原子力政策課高橋課長)と2)電気事業連合会廣江委員の説明のベースの考え方に齟齬がなかったのですが、自由討議でも指摘されたように、第2回までは長期エネルギー需給見通しの最大導入ケースを目標とした議論であったのに対して、今回は努力継続ケースを目標としている点が気になりました。

自由討議6)で気になった点ですが、①に対して事務局(原子力政策課高橋課長)より以下の回答がされています。
高橋課長:長期エネルギー需給見通しの最大導入ケースだと2020年断面では現状よりエネルギー需要が減ると、電力需要が減るという絵姿。一方努力継続ケースというのは大体0.5%ぐらい現状から伸びるという絵姿になっている。原子力の供給計画を考える上で、努力継続ケースを一つの指標として御議論をさせていただいた。
一見もっともだと感じるのですが、②で指摘されている点を考え合わせた時、2030年太陽光発電40倍が第一目標なら、大量の逆潮流を如何に制御するかと合わせて原子力の供給計画も下方修正の見直しを行う必要があるのではないでしょうか?逆に、発電コストを優先して考えるなら、高コストの太陽光発電に固執しないで、原子力発電を優先するということもありえると思いますが、今回の議論では「2030年太陽光発電40倍」の議論をもう少し掘り下げて欲しかったと思います。③は、夜間電力を使う電気自動車とエコキュートが負荷平準化に貢献することで、ベース電源である原子力発電の比率が上がるのに有利であるという指摘で、そのためには夜間料金が安いTOU(Time of Use)料金メニューと、それを可能にするスマートメーターの設置が必要となります。

今回も、議事録や配布資料を見る限り、スマートメータリングやスマートグリッドのキーワードは、陽には見当たりませんでしたが、自由討議③が、唯一スマートメーター/スマートグリッドにつながる考え方だと思います。

※余談ですが、本日(7/28)、電気新聞社主催セミナー「低炭素電力供給システムとスマートグリッド」を聴いてきました。講師は、本研究会の座長:東京大学 山地教授と、第7回研究会でスマートグリッドの事例紹介をされたIBMの宮坂氏、それに、研究会とは関連しませんが九州大学の合田教授でした。この中でも、日本向けのスマートグリッドと低炭素電力供給システムの関係についての考え方が示されました。
ただ、せっかく第1回、第2回、第3回の研究会の内容をフォローしてきたので、第4回以降の研究会の内容紹介と、私自身の考えるスマートグリッドと低炭素電力供給システムがどう違うのか、同じなのかを、順を追って見ていきたいと思います。セミナーの話は、その後、別途報告させていただきます。