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House and trees on Lyme Road

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今回も低炭素電力供給システムに関する研究会の第7回(平成21年5月22日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。

第7回研究会でのプレゼン内容について

第7回目は、スマートグリッドに的を絞って現状把握するため、事務局の他、東京電力、日本IBM、日立製作所の方を招いてスマートグリッドに関する説明を受けた後、最終報告書「低炭素電力供給システムに関する研究会」報告書の総論案について討議されています。
前回は、事務局からの説明部分に絞って内容を掘り下げたので、今回は、議事録および配布資料をもとに、東京電力 渡辺氏の説明内容を振り返ってみます。
渡辺氏は東京電力技術部長で、(聴講させていただいたわけではないのですが)先日(2009年5月29日)日本計画研究所主催のセミナーにて『持続可能な社会に対応した電力系統形成の課題への挑戦』というタイトルで講演されていたようです。説明を開始されるに当たって、スマートグリッドに関する今回の説明内容が、東京電力を代表した意見ではないことを強調されていますが、少なくとも電力業界の方のスマートグリッドに対する考え方の1つとして、参考になりました。
説明のシナリオをわかりやすく紹介すると、スマートグリッドへの欧米での期待効果は、下記A、B、Cの3点あり、それらの、日本での低炭素化への効果を俯瞰しながら「日本型スマートグリッド」のあるべき姿を検討する-という形をとっています。

A) デマンドレスポンス:ピークカットなどによって,CO2排出量の多いピーク電源の増加を抑制
B)再生可能エネルギーの活用:出力が不規則に変動する再生可能エネルギーを大量導入した場合に系統への影響を最小限に抑制
C)流通系統の高度利用:IT技術を利用した流通設備運用の自動化・高信頼度化等の高度化

以下、説明のサマリです。

A-1)デマンドレスポンスは日本では難しい

① 日本の真夏の電力需要ピーク時間帯長いので、需要家はその不便さを受け入れないのではないか
② (それに代えて?)日本では、ピークシフトに対応した契約が発達していて、すでに実施している
③ 電力系統の小刻みな変動に対して需給・周波数を調整するアンシラリー・サービスは、分単位、あるいは秒単位できっちり制御できなければならないので、需要家がデマンドレスポンスとして対応するのは困難

A-2)米国でもデマンドレスポンスの効果は定かでない

① フロリダ州FP&L社のOnCallと呼ばれる需要制御プログラムに78万軒の需要家が参加し、年間3,4回電力需要逼迫時に需要家の冷房装置・温水器・プール用ポンプの電力使用を自動遮断する仕組みが採用されているが、ピーク需要の抑制効果について明確に言及されたものは確認されていない
② それどころか、カリフォルニア州ではDSMの効果への期待で電源新設や送配電系統増強が十分されなかったことが、電力危機の一因となった。省エネとDSMへの過度の依存は危ない

B-1)スマートグリッドを使って、再生可能エネルギーを合理的に活用することで、低炭素化を図ることができる

① 太陽光発電のピークは、需要ピークと不一致(日本の家庭では朝と夕方にピークがあって、昼はあまり電気を使っていないというのが実態)、かつ、日本ではフェーン現象や湿度の問題があるので、必ずしも晴天の日の電力需要が最大ピークとはならない
② スマートグリッドを使って、太陽光発電が多い時間帯や、夜間時間帯に電力需要をシフトできる可能性がある
※ ただし、太陽光発電にあわせて需要カーブをいじるのは、スマートメーターなしのホームオートメーションのスタンドアローンでも可能
③ IT技術を活用して、近隣需要家が相互連携し、余剰電力を融通しあうことができれば、太陽後発電大量導入時の逆潮流対応コストを下げられる可能性がある

C-1)流通系統の高度利用が低炭素化社会実現のキーポイント

① 新技術(UHVなど)の導入,安定化技術の進展による高稼働率実現
② 高経年化設備の効率的な更新,電化進展を踏まえた高信頼度化
③ 新設設備も必要となる可能性があるので,送電線に建設インセンティブを与えるような法的な配慮も必要

【現状認識と今後に向けて】

日本の電力供給システムは、欧米に比べて高信頼度・高効率の電力供給ができているが、今後も,経済性に配慮しつつさらなるスマート化を進める

今後に向けての留意事項:

・ 太陽光等の導入拡大や電気自動車の普及など、低炭素化に対応するための系統対策コスト軽減や、電力品質・需要家の利便性向上(すでに産学連携により、日本型スマートグリッド技術開発に着手しているが、なお、費用対効果の見極めが必要)
・ 太陽光等の出力調整(軽負荷期の出力抑制)や、需要家機器の制御については、今後、各種技術検証に加え、社会的受容性等も含め,トータルに検討を進め,方向性を定める

東京電力 渡辺氏の説明に対して感じたこと

本来、もっと概要レベルで研究会の内容をお伝えしていくつもりだったのですが、スマートメーター/スマートグリッドにまつわる話題を取り上げるブログとしては、話された内容を安易に省略して紹介することができませんでした。

最初に私の感想を総括すると、スマートグリッドに対する期待効果を3つに分け、同様の効果が日本でも期待できるかどうか検討するというアプローチはすばらしいのですが、電力供給者の視点からしか効果の評価が行われていない気がします。

A-1)①に関して

デマンドレスポンスの例として説明されている内容は、きわめて初期の粗雑で強制的な需要抑制の例となっています。確かに、暑い最中に強制的に電力会社の都合で冷房をON/OFFされるのでは、需要家がついてこないでしょう。テレビでいくら「クーラーの温度は28℃に設定しましょう」といっても、無視する需要家が多いことからも明らかです。しかし、最近のデマンドレスポンスプログラムはもっと洗練されています。次のIBM宮坂氏の説明に出てくる、米国Southern California Edison社のEdison Smart Connectをごらんいただきたいと思います。

A-2)①に関して

2005年1月26日、米国オレゴン州の公共事業委員会(Public Utility Commission)が開催した「Metering Workshop」でFP&L社の事例報告をしているEd Malemezian Consulting社の資料FPL On Call – 1,000 MW and EighteenYears Laterによると、デマンド・レスポンスで(というか、On Callプログラムで)1000MWのピークカットに成功したとされています。 

B-1)①に関して

「スマートグリッドを使って、再生可能エネルギーを合理的に活用~」と言う表現自体、「まずは、系統の安定運用ありき」という感が否めないのですが、もう一点気になったのは、太陽光発電のピークと需要ピークが不一致であるというところです。確かに1軒1軒の一般家庭の太陽光発電量と、その一般家庭の電力需要パターンは一致しないかもしれないですが、よく見る日本の日負荷パターンのピークは正午前後にあり、太陽光発電のピークはそれほどずれていないのではないでしょうか?

電気は基本的に川上(系統電源側)から川下(需要家側)にしか流れない/流さないという前提だと、1軒1軒の太陽光発電から発生する正午付近の「逆潮流」は、系統の安定を乱す悪者かもしれません。ただし、デパートやビジネスビルの立ち並ぶビジネス街までその余剰電力を運ぶことができれば、系統のピーク電源運用を軽減する正義の味方に変身させられる可能性があると思います。
理想の電力供給システム(ToBeモデル)を考えるにあたっては、一旦現実的な制約をすべて忘れることも大切だと思います。

B-1)②に関して

渡辺氏は、スマートグリッドが、ピークカットではなくピークシフトに対して有効というお考えのようです。スマートグリッドがピークシフトにも有効という点ではまったく同意見ですが、スマートメーターなしでも良いとされている点が気になります。なぜなら、電力需給に対する一軒一軒の個別最適化の積み重ねは、必ずしも電力系統大の全体最適にはならないからです。
また、いつになるかわからない年に数回のクリティカルピーク時間帯のみ需要抑制するのは、スタンドアローンのホームオートメーションでは不可能だと思います。

B-1)③に関して

ここで渡辺氏が示唆されているのは、スマートグリッド、マイクログリッドを通り越して、ミニグリッドとでも言うべきものでしょうか? このように、IT技術を活用して近隣需要家が相互連携し、余剰電力を融通しあうことができれば、すばらしいことだと私も思います。これこそが、ToBeモデルで、たとえ諸外国のスマートグリッドでは実現されていない機能であっても、日本版スマートグリッドとして是非検討・実現して欲しいところです。

C-1)に関して

冒頭の感想で述べたように、電力供給者の視点からみた評価である気がします。 逆説的ですが、B-1)のミニグリッドを基本にして、それでも調整がつかない電力の過不足はマイクログリッド単位で調整、それでも調整のつかない電力の過不足は系統電力で調整-という「電気の地産地消」、「地方分権」こそ、スマートグリッドの目指す理想の低炭素社会ではないかという気がしています。
長くなってしまいましたので、この辺りで一旦終わりとし、次回、IBM宮坂氏のスマートグリッド事例紹介から始めさせていただきます。