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今回は、低炭素電力供給システムに関する研究会の最終回、第8回(平成21年7月1日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。
第8回研究会でのプレゼン内容について
第8回目は、「低炭素電力供給システムの構築に向けて」研究会の最終報告書を提出するに当たって、事務局から総論/各論案の説明の後、自由討議が行われています。
第8回については議事録が作成されていない(少なくともホームページ上公開されていない)ので、議事要旨と、配布資料をもとに、内容を振り返ってみます。
1) 低炭素電力供給システムに関する研究会報告書の概要(案)の説明
この説明で、本研究会のこれまでの検討内容と結論が概観できますので、少し詳しく見てみます。
A)研究会報告書の概要
① 平成20年7月閣議決定低炭素社会づくり行動計画:原子力や再生可能エネルギーといったゼロ・エミッション電源の比率を2020年までに50%以上
② 平成20年5月長期エネルギー需給見通し:太陽光発電の導入見通しを2020年に現在の10倍の1400万kW、2030年に40倍の5300万kW
③ さらに、新たな買取制度等によって、2020年頃に太陽光発電の導入を現在の20倍程度に加速することに
④ 以上の目標の達成と、電力の安定的かつ経済的な供給とを両立する「低炭素電力供給システム」の実現に向けて、本研究会で必要な検討を行い、報告書を取りまとめた
B)発電側の課題 電源毎の「低炭素電力供給システムのあり方」
①太陽光発電
【課題】
・新たな買い取り制度により、大量普及が進む
・天候の変化による出力変動が電力送配電システムに影響
【対応策】
・次世代送配電ネットワークの整備
②原子力発電
【課題】
・既設炉の稼働率改善 ・着実な新増設の推進(今後10年間に9基計画) など
【対応策】
・原子力発電所運転のための事業環境の整備
・地域共生 ・出力調整運転の検討など
③水力・地熱発電
【課題】
開発地点の制約、地元関係者等との調整の困難さなど
【対応策】
・RPS制度の対象拡大 ・補助金の拡大など
④火力発電
【課題】
・新増設時の最新技術の導入
・急激な出力変動に応答する出力調整能力の確保など
【対応策】
火力発電の一層の効率化のための技術開発など
C)太陽光等の導入拡大に伴う系統側の課題
① 当面の対策
【課題】
・太陽光の電力流入による配電網の電圧上昇
・余剰電力の発生
【対応策】
・電力系統安定化対策 (変圧器の増設、蓄電池の活用等の余剰電力対策)など
② 次世代送配電ネットワークの整備に向けて
【課題】
・周波数調整力の不足
・2020年において、導入量が1300万kW程度を超えると新たなシステム開発・導入が必要
【対応策】
・太陽光出力データの蓄積・分析
・太陽光出力の予測システムの開発
・頻繁な充放電制御に耐える高性能蓄電池システムの開発
・離島におけるマイクログリッド実証事業 など
D)需要側の課題
①負荷平準化
電力需要が抑制される中での原子力導入拡大のためには、夜間電力需要の拡大が重要
②DSM(デマンド・サイド・マネジメント)
太陽光発電等の分散型電源を有効活用するため、IT等を活用した需要家側における多様なマネジメントを行うシステム(スマートメーター、スマートハウス等)などの研究開発も課題
E)現状認識
①わが国の系統におけるITを活用した送配電網の自動化:【実施済】
・送電網自動化:送電ネットワークの状態の監視と自動的な制御システムを導入実施
・配電自動化:停電範囲を最小化する制御システムをほぼ導入実施
F)今後の方向性
ITを活用した送配電網の自動化、分散型再生可能エネルギー導入への対応、需要家サイドの多様なマネジメントが必要。その候補としてスマートグリッド(未来型低炭素電力網)を位置づける。本研究会報告書でのスマートグリッドの定義:
従来からの集中型電源と送電系統との一体運用に加え、情報通信技術の活用により、太陽光発電等の分散型電源や需要家の情報を統合・活用して、高効率、高品質、高信頼度の電力供給システムを目指すもの
2) 低炭素電力供給システムの構築に向けて」研究会報告書(総論)(案)の説明
ここでは、第7回の総論案と比較し、どこがどのように変更されたのか確認してみます。
A)目次構成
①太陽光発電等の新エネルギーについて(3ページ追加)
②「スマートグリッド」による系統安定化対策について(5ページ削除)
③ 低炭素電力供給システムを実現するための系統安定化(9ページ追加)
④ まとめ(2ページ追加)
B)太陽光発電等の新エネルギーの取り扱いについて
① 2009 年4月10 日に政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議が公表した「経済危機対策」の太陽光発電導入方針:2020 年頃に20 倍程度を反映し、「太陽光発電シナリオ」の図を入れ替え
② 太陽光発電大量導入は、需給調整上、電力の安定供給に極めて大きなインパクトがあり、これらの発電施設を一般の発電所のように系統運用側から制御することは事実上困難。そこで、後述する系統安定化対策を本格的に講じていくことに加え、太陽光発電設備の稼働に応じた適切な需要創出や蓄電池等による需要家サイドのマネジメントも課題
C)原子力発電について
原子力発電比率が高まると負荷平準化がますます重要となる。逆に原子力発電をベース電源としての運用から、一時的に定格出力以下での運転を行うことも検討する必要がある
D)火力発電について
火力発電については、「(4)電気事業に供する石炭火力発電の環境適合についての考え方」の節(1ページ)を追加
E)低炭素電力供給システムを実現するための系統安定化対策等について
① 前回の総論案で「スマートグリッド」による系統安定化対策について-として記述されていたものを、「低炭素電力供給システムを実現するための系統安定化対策」という視点を中心に書き直されたもの
② 2020 年頃に20 倍(2,800 万kW)程度を目指すという政府方針は、蓄電池の性能やコストをのぞき、活用可能な技術により送配電ネットワーク側での受入れがぎりぎり可能な試算値1,300万kWを遙かに超えるものであり、系統安定化対策にとって大きな課題を投げかけている-と問題提起
③ 前回の総論と同じく、この章に、コスト検討小委員会の報告書の結果を含んでいる
④ 新たに、2009 年度補正予算において7.5 億円を計上し実証事業の実施が予定されているスマートハウスプロジェクトに言及
F)まとめについて
① まとめ冒頭での表現が、前回『2030年度に約40倍(5321万kW)の太陽光発電大量導入見通し(最大導入ケース)は、現状の原子力発電の設備容量が4820万kWであることや、我が国の最大電力が1.8億kW程度であることと比較しても、非常に大きな導入量』という事実ベースの意見表明から、『2030年度に約5,300 万kW と極めて野心的な目標』という、ある種、感情的な表現に変化
② 原子力、新エネルギー等を着実に進めるためにRPS 制度の見直しや関係法令による規制緩和等も課題-政策面にも言及
③ 火力発電については、効率改善のための一層の技術開発を進めていく必要性を強調
④ 「スマートグリッド」を「次世代送配電ネットワーク実現が鍵」と表現
3)低炭素電力供給システムの構築に向けて」研究会報告書(各論)1 の説明
内容は、第1回~第5回研究会配布資料の抜粋なので、具体的な内容紹介は割愛します。興味のある方は上記リンクをたどって、内容をご覧ください。 各論1の資料でカバーされているのは、以下の5領域です。
Ⅰ.電力分野における新エネルギーの普及見込
Ⅱ.新エネルギーの大量導入時の系統安定化対策とコスト負担の在り方
Ⅲ.原子力発電について
Ⅳ.水力・地熱発電について
Ⅴ.火力発電について
4)低炭素電力供給システムの構築に向けて」研究会報告書(各論)2 の説明
内容は、基本的に第5回研究会配布資料の抜粋なので、具体的な内容紹介は割愛します。興味のある方は上記リンクをたどって、内容をご覧ください。
各論2の資料の章立ては以下のとおりです。
Ⅴ.火力発電について(の後半)
Ⅵ.低炭素電力供給システムを実現するための系統安定化対策について
Ⅶ.負荷平準化対策について
Ⅷ.低炭素電力供給システムにおける技術課題について
Ⅸ.今後の取組への期待
・低炭素電力供給システムに関する研究会委員名簿
・低炭素電力供給システムに関する研究会審議経過
5)自由討議
第8回に関しては、議事要旨しかホームページ上で公開されていないため、どの委員の発言かわかりませんが、気になったコメントのみ、以下に再掲します。
① 技術革新により太陽光発電の発電効率が向上する見通しもあるため、発電効率の向上も見込んでおいた方が良い。2020年で現在より1.5倍程度の(太陽光発電の)効率向上が見込まれる
② 2050年を念頭においた「スマートエネルギーネットワーク」という都市熱部会の議論のサブセットのように見えてしまう。次の段階では、全体のエネルギーシステムの議論をすることが必要
③ 本研究会においては、余剰電力対策を中心としたkWhベースの議論が中心であったが、kWベースでの議論も必要
④ 本研究会の試算の前提として、電力需要は努力継続ケース、太陽光の導入量は最大導入ケースだが、電力需要が最大導入ケースとなった場合には、系統安定化対策費用が増加することも記載すべき
⑤ 太陽光の大量導入に伴う系統安定化対策費用について、余剰電力対策の観点から系統側に蓄電池を設置することが経済的という結論だが、周波数調整力の観点からも早急に検討すべき
第8回研究会で感じたこと
前回の、「スマートグリッドは手段であって、本研究会の目的ではない」という村上委員の指摘により、表面上スマートグリッドという言葉はあまり見当たりませんが、次世代送配電ネットワークの整備や、原子力、水力・地熱、火力等の既存発電の課題・対策、新エネルギー大量導入に当たっての系統対策、需要側の課題・対策が盛り込まれ、日本向けのスマートグリッド実現に向けて、よい方向でまとまった感じがします。
以下、気になる点をいくつか述べたいと思います。
1)C)②次世代送配電ネットワークの整備に向けて
東京電力 渡辺氏が示唆されていた、太陽光発電を有効利用するための「ミニグリッド」。また、いくつかのミニグリッドを束ね、ミニグリッド間の需給調整をする役割を持たせたマイクログリッド。更に離島型のマイクログリッドではなく、上記のような下部構造を持つマイクログリッド間の需給調整をする役割を持たせた「次世代送配電ネットワーク」こそが、私が現在描いているスマートグリッド像で、それはIntelliGridが描いているビジョン:The Information and Electrical Infrastructure(エージェント志向の自律分散型マイクログリッド集合体)に近いものです。
1)E)①わが国の系統におけるITを活用した送配電網の自動化:【実施済】
これは、前回指摘したとおりで、大量の再生可能エネルギーの導入目標達成のための研究会であるにもかかわらず、系統に悪影響が出る場合は出力抑制することを前提とした現状の送配電網を、自動化実施済みと考えるのには、違和感があります。
2)B)太陽光発電シナリオと系統安定化対策
単に、2010年導入目標が10倍から20倍になったことを反映するだけでなく、2030年の40倍の目標値が絵から消えている点が気になります。
2)E)②や、2)F)①もそうですが、もし2030年太陽光発電40倍/5321kW導入が専門家として無謀だと思うなら、例えば「現時点では今後の技術革新の予想を組み込んでも、政府目標達成が不可能」と明言すべきではないでしょうか?
2)B)②(大量導入した太陽光の)発電施設を一般の発電所のように系統運用側から制御することは事実上困難
これは、現在の中央集権型の系統運用システムでは不可能ということだと思います。1)C)②に対するコメントとして前述したとおり、であるからこそ、「次世代送配電ネットワークの整備」が必要であるということだと思います。
2)C)原子力の一時的に定格出力以下での運転
第7回研究会までは、大量導入する太陽光発電の余剰電力が系統に悪影響が出るようなら出力抑制を実施するという前提で議論されていましたが、ここでは、原子力発電を常にベース運用するのではなく、場合によっては負荷追従運転(=出力抑制)も検討してもよいのではないかという意見表明と受け取りました。系統安定化の視点からは抜け切れていませんが、「原子力発電は常にベース運転」という硬直した考えから脱却しようとしているのは一歩前進したと感じました。
2)E)②2020 年頃に20 倍程度を目指すという政府方針は、系統安定化対策にとって大きな課題
2)B)へのコメント参照
2)F)①2030年度に約5,300万kW と極めて野心的な目標
2)B)へのコメント参照
5)①太陽光パネルの発電効率
先日(2009年6月)幕張メッセで開催されたPVJapan2009では、GridParity(太陽光発電単価が系統電力発電単価である7円/kWh程度)に近づくのはそう遠い先の話ではないということでした。後は、太陽光パネルの製造コストがどれだけ下がるかと、太陽光パネルの単位面積当たりの発電効率がどれほど向上するかですが、米国でオバマ政権が強力に環境・エネルギー政策を推し進めているので、太陽光パネルの新素材開発や発電効率改善で、うかうかすると日本の太陽電池企業は追い抜かされるかもしれません。
5)②全体のエネルギーシステムの議論をすることが必要
そのとおりだと思います。本研究会は、低炭素社会の電力供給システムに関するものですが、確かに、本来は、ガスも含めた低炭素社会のエネルギー供給システムということで検討した方がよかったと思います。そうすれば、第2回研究会でコメントが出たように、燃料電池も交えた形で、将来のエネルギー供給システムの議論ができたのではないでしょうか?
5)③kWベースでの議論も必要
私も感じたことなので、第5回研究会の感想として、系統側に用意する蓄電池に関して、瞬間瞬間のkW値として、太陽光発電の大量余剰電力発生を吸収できる実用的な蓄電池が2030年までにできているのかどうか疑問を呈しました。
5)④電力需要データと⑤周波数調整力の件
④は、政府の太陽光発電大量導入推進に必要な系統安定化コスト見積もりのフレ幅をあらかじめ覚悟しておく上でも非常に重要だと思います。更に言えば、コスト想定シナリオごとに系統安定化対策コストを算出するに当たって、それぞれのケースで調整電源がどの程度必要かを見積もらない限り、実は、小委員会で算出した3種類のコスト算定用シナリオのうち、どれが一番よいかもわからないのではないかと危惧しています。
以上11回にわたって、低炭素社会電力供給システムに関する研究会の概要紹介と、スマートグリッドとの関連を見てきました。
次回は、平成21年7月28日に公開された最終報告書の内容を見てみることにします。
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- Smart Grid, Smartmetering, 低炭素電力供給システム, 次世代送配電網, 次世代送電網