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今回も低炭素電力供給システムに関する研究会の第7回(平成21年5月22日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。

第7回研究会でのプレゼン内容について

第7回目は、スマートグリッドに的を絞って現状把握するため、事務局の他、東京電力、日本IBM、日立製作所の方を招いてスマートグリッドに関する説明を受けた後、最終報告書「低炭素電力供給システムに関する研究会」報告書の総論案について討議されています。

第7回の紹介が、「低炭素電力供給システムに関する研究会とスマートグリッド – 8」から始めて、今回で3回目になってしまいましたので、なるべくサクサク、概要と気になった点に絞って紹介していきたいと思います。

では、議事録および配布資料をもとに、IBM 宮坂氏以降の説明内容を振り返ってみます。

1) IBM 宮坂氏:スマートグリッドに関する情報共有の説明

A) 米国のEPRIが描いた電力セクターにおけるCO2排出量削減のロードマップで、4施策(省エネ、自然エネルギー、PHEV、分散電源)がスマートグリッド技術を必要とする

B) IBMが独自に実施したエネルギー消費者サーベイによると、まだまだエネルギー利用に無関心で、少々高くついてもエネルギー多用による快適な暮らしを好む人達が多いものの、自主性の高い人達に料金的なインセンティブや環境問題を訴えることで、太陽光発電を自主的に入れていくとか、省エネ活動、DSMへの参加促進が期待できる

C) スマートグリッドでは、エネルギー需給のバリューチェーンの変革でエネルギーの流れと情報の流れがより双方向かつ複雑化してくることになり、ITを活用した情報制御と意思決定支援が必要となる

D) スマートグリッドというと系統の話に陥りがちだが、米国での広義のスマートグリッドには、

① 事故修復機能の強化
② 消費者の意識付けと取り込み
③ テロ攻撃への耐性強化
④ 21世紀のニーズに応じた電力の品質向上
⑤ すべての発電・貯蔵オプションの適用
⑥ 取引市場の適正機能化
⑦ 資産の最適化と効率的運用

が含まれる(系統の話だけではない)

E) 日本向けスマートグリッドを検討するうえでの論点

① 「世界に冠たる日本の配電自動化、電力品質」の精査が必要
② より安い技術、オープン技術、オープンスタンダード技術、IP技術に則った先進技術を日本でも取り入れるべきか
③ DSM/デマンドレスポンスで、どこでどれだけのコストセーブができるか
④ 送配電設備の状態保全に検討余地があるかどうか
⑤ プラグインハイブリッドEV等を、電力の供給と併せて、電力設備の一つのサブセットとして組み入れていくかどうか
⑥ 省エネ促進と、電力会社の売上減に対する上場企業としての株主責任を両立させる法制度の整備

F) 事例紹介

① 米国Southern California Edison(SCE)社の取組み
② デンマークEDISON スマートグリッドプロジェクト

2)日立 原田氏:スマートグリッドに関わる技術動向~電力系統技術を中心に~の説明

A) スマートグリッドは、米国を中心に議論されている将来の社会要請に適した電力流通基盤(電力網)システムの近代化のビジョンであり、現状、明確な定義はない

B) 日立のスマートグリッドの定義:供給信頼性を維持し低炭素化社会を支える、高効率で経済的な電力を供給する次世代の電力流通システム

C) 将来の日本の電力流通基盤:分散型電源と共存し、電力貯蔵設備や電気自動車の充電等新しいタイプの電力需要が現れてくるので、そういうものに対してセンサー類を追加して、計測、通信、運用、制御、機器それぞれの新技術の研究開発が必要(対応機器例:SVR、SVC、PCS、FRT)

D) 将来のスマートグリッド像:大規模集中電源と再生可能エネルギーが共存していて、一方で需要家がそれぞれ環境に配慮して自分たちの使いたい形で電気を使える形

3) 事務局:「低炭素電力供給システムの構築に向けて」研究会報告書(総論)(案)の説明

A) 検討の背景:昨年の長期エネルギー需給見通しと低炭素社会づくり行動計画の閣議決定を受け、ゼロ・エミッション電源の比率を50%以上にするという目標達成に向けて低炭素電力供給システムを目指す

B) 原子力発電:低炭素化ということに向けてのメリット、効果があり、電力供給計画で今後10年間に9基建設予定。電力供給システムを考える上では、負荷平準化の一層の推進が重要で、原子力発電所の負荷追従運転についても検討が必要

C) 水力・地熱発:純国産エネルギーで、かつ、ゼロ・エミッション電源。開発地点の制約はあるが、低炭素システムの中においては重要な役割を果たす。水力発電のうち調整池、貯水池、揚水式の発電所の発電にいては、太陽光発電等の大量導入に対して、出力調整電源としての役割が期待される

D) 火力発電:供給安定性と経済性を考慮しながら、火力発電全体としても低炭素化が必要。IGCCや、先進超々臨界圧発電の開発を進めていくべき。 石炭火力はバイオマス資源の混焼も考えられる。また、火力発電の役割として、出力変動対応で出力調整能力に関しては、これまで以上にその必要性が高まることに十分留意することが必要

E) スマートグリッドは、従来からの集中型電源と送電系統との一体運用に加え、情報通信技術の活用により、太陽光発電等の分散型電源や需要家の情報を統合・活用して、高効率、高品質、高信頼度の電力供給システムの実現を目指すものと認識。「低炭素電力供給システム」の構築に向けては、こうしたスマートグリッドの構築、すなわち電力供給システムの更なる高度化も大きな課題

F) 太陽光発電等の大量導入時の系統安定化対策: 2030 年度までの対策費用として、現在価値の換算で4.6~4.7 兆円の費用がかかるとの試算。2020年度では一定の出力抑制を行えば、太陽光発電の導入量が1300万キロワット程度までは可能という試算があるが、特に周波数調整力に関して、新たな非常に大きな課題が出てくる。この壁を乗り越えるための研究開発、データ蓄積等を重点的かつ集中的に推進する必要がある

G) まとめ:

① 太陽光発電の出力抑制に関して、具体的にどのような方策で進めていくのか議論が必要
② 周波数変動対策については、今後、全国ベースでの太陽光発電のデータ取得に向けた実証試験等を通じて知見を高める
③ 太陽光発電大量導入時における電圧安定性や同期安定性の低下、出力予測の困難さ、蓄電池の充放電制御、潮流の把握及び予測等の課題への対応や、適切な系統安定化対策を講じるための様々な技術開発・実証実験などが必要
④ 今後大量導入が予測される太陽光発電の導入環境を可能な限り早期に整備するためには産官学におけるあらゆる取組が必要

4) 自由討議(気になった点のみ)

松村委員:日本の電力系統は、本当にスマートなのか?

日本の電力系統は欧米に比べて極めて高いレベルにあり、スマート化の観点ですでに90点、95点レベルであるという認識は、過大評価ではないか。
日本は諸外国に比べて恥ずかしいぐらいしか風力発電が入っていない。にもかかわらず、非常に厳しい制約がかかっている。これがメッシュ型の系統や、連系線がもっと太ければ、そして柔軟な系統の運用ができれば、もう少し入ったはず。「停電率がこれだけ低いからすごく進んでいます」というのは、浅簿な評価だ。

松村委員:日本は多様な料金メニューで電力需要の誘導が進んでいるのでDSM/デマンドレスポンスを実施しなくてもよい-とは思わない

その反証として、特異日の太陽光発電の出力調整等をする一方で、ゴールデンウィーク中の昼間でも平日の昼間でも同じ料金であったり、10年に1回しか発動しないような希頻度の需給調整契約はあるが、実際電気が足りなくなると、そのような契約に基づく価格メカニズムではなく要請ベースで節電してもらって乗り切っている。

松村委員:スマートメーターなしというのは、ありえない

スマートメーターをつけて時間帯別に合理的な料金体系にし、その上で各事業者がいろいろ工夫して、ある種の効率的な電力利用を促すような技術革新を競うという姿をイメージしている。インセンティブがないところでは技術開発、普及は困難。スマートメーターの普及は10年がかりのプロジェクトになるだろうから、その間の過渡期の議論ならともかく、太陽光、新エネの大量普及後の長期の姿として、スマートメーターなしに、ホームオートメーションで十分対応することができるというのは、一つ間違うとかなり危ない議論。

村上委員:「スマートグリッドありき」ではない

ここの論点は低炭素電力の拡大浸透と上手な利用、日本としての最適な利用はどうあるべきかという議論。スマートグリッドは手段であり、総論での位置づけが違うのではないか。スマートグリッドさえ完璧に導入すればいいというものではなく、スマートグリッドがあろうがなかろうが整備しなければならないものというのも多くあるように思う。

戒能委員:周波数調整コスト

コスト負担小委員会では、逆潮流と余剰電力対策をどうするかということに重点を置いた議論をしたので、周波数調整の問題は置き去りになっている。したがって、コスト負担小委員会の結論である再生可能エネルギー大量導入への系統対策費4.7兆円程度という値は、実際これよりたくさんお金がかかると考えられる。

廣江委員:停電をしないというのは非常に大事な価値。

確かにドイツと比べると風力発電は少ないが、日本の発電電力量当たり/販売電力量当たりのCO2排出量は、実はドイツよりも低くなっている。CO2を減らすことに価値があるとするならば、停電も非常に少なく、なおかつCO2の排出も低いという日本の電力系統を評価してもよいのではないか。

第7回研究会のプレゼンおよび自由討議で感じたこと

【IBM宮坂氏のプレゼンに関して】

今回、スマートグリッド導入事例として2つ紹介されていますが、世界中のスマートメーター/スマートグリッド導入事例を調査すると、IBM社の名前が良く目に付きます。これまで電力流通設備というと日本に限らず重電メーカーの牙城で、コンピューター・メーカーの出る幕などなかったのに、「なんでIBMなんだ?」と思わずつぶやいてしまうほどです。
ですが、スマートグリッドの世界を垣間見ると、かつてコンピューターの世界でメインフレームからダウンサイジング/オープン化が進んだように、電力流通システムの、特に制御の部分のオープン化が進んでおり、コンピューターではオープン化の波に乗り遅れたIBMが、ここに来て、かつてのメインフレーム・メーカーのように既得権益を固守したい重電メーカーを相手に、「意趣返し」をしている感じがします。
それと、M&Aの影響ですね。宮坂氏のプレゼンテーションにも出てきましたが、IBM社が全世界5000人を対象として実施したというエネルギー消費者アンケートの分析結果の報告書を見せていただいたところ、分析手順がかつてのPwC(PricewaterhouseCoopers:現在は買収されてIBM社の一部)のコンサル手法解説本と完全に一致しています。で、PwCのサービスラインとして「Infrastructure, Government and Utilities (IG&U)」とあり、その流れを汲んでいるものではないかと推測しています。
話が横道にそれてしまいました。本題に戻ります。

C)に関して

システム面からスマートグリッドを捉えると、双方向の情報流をITを活用して制御し、意思決定支援までを範疇であるとしています。
ここは、ITベンダーならではの視点が出ていますね。

D)広義のスマートグリッドの定義に関して

スマートグリッドは決して系統の話だけではなく、消費者の参加が大事であることが強調されています。また、テロ攻撃への体制強化や電力品質向上などは、米国特有の問題かもしれませんが、電力取引市場が有効活用されていない日本の状況を考えると、⑥でうたわれている「取引市場の適正機能強化」は、JEPX・ESCJ活性化の起爆剤となる可能性があると思います。

E)②に関して

並列で述べられていますが、オープン技術、オープンスタンダード技術、そしてその1つの例で今やビジネスの世界でも必要不可欠になっているIP技術を用いることが、より安い技術でスマートグリッドを構築するポイントです。
安心・安全を標榜する電力需給の世界では、これまで「安かろう悪かろう」より「高かろう良かろう」の技術が採用判断基準であったと思います。しかし、これからは、オープン技術、オープンスタンダード技術を採用することで、系統設備を従来の一握りの重電メーカー任せにすることなく、多くの民間会社が切磋琢磨して提供する送配電設備機器およびその部品が「安かろう良かろう」で手に入り、それらを自由に組み合わせてシステムを構築できる時代となるのです。
来る低炭素電力供給システムのアーキテクチャ設計に当たっては、日本の電力会社独自仕様/独自通信プロトコルというのは、もうやめて、ぜひオープン技術、オープンスタンダード技術を採用してもらいたいものです。
TCP/IPに関しては、その「ベストエフォート」というデータ転送の考え方が災いして、当初ビジネスには不向きと考えられていましたが、今やTCP/IPのお世話にならないビジネスは考えられません。スマートグリッドの情報通信手段に関しても、IP技術を採用し、普段は独自ルートでも良いですが、切り替えでインターネットのルートも使えるようにしておくことで災害時に強いシステムが出来上がると思います。電力会社が膨大な資金をつぎ込み自前で通信経路の二重化・四重化対策を採ったとしても、元来軍事目的での安全対策が考えられたインターネットに勝つはずがありません。

F)SCE社の事例紹介について

米国Southern California Edison(SCE)社のEdison SmartConnectサービスが提供するデマンドレスポンスが、当初の一方的な需要抑制メカニズムに比べてどれほど繊細なサービスになっているかは、同社の説明を見ていただければ一目瞭然ですが、このサービスを受ける需要家は、電気代と、利便性・快適な暮らしの優先順位に応じて、スマートサーモスタットと呼ばれる装置上で、クリティカル・ピーク時間帯にOn/Offする電気機器の取捨選択や、我慢できる範囲でクーラー温度設定を指定しておくことができるので、サイフの中身、生活の利便性と、環境問題に貢献することへの知的満足度を天秤にかけて、自分の好みに応じたレベルで電力需要削減、ひいてはCO2削減に協力できる仕組みとなっています。

【日立 原田氏のプレゼンに関して】

第7回研究会では、スマートグリッドについて、事務局(規制機関の立場)、東京電力(電力業界の立場)、IBM(スマートグリッドの実現にかかわるITベンダーの立場)からの説明があり、最後が日立からの説明で、従来から電力系統設備の製造にかかわってきた重電メーカーがスマートグリッドをどのように認識しているかを理解する上で参考になりました。

A)について

「スマートグリッドは、電力流通基盤システムの近代化のビジョンであり、現状、明確な定義はない」というのは、そのとおりで、これからもいろいろ実証実験などを通してブレークスルーを達成した先進技術を取り込みながら形を整えていくものであると思います。

B)について

日立としてのスマートグリッド/将来の日本の電力流通基盤の定義には、良くも悪くも重電メーカーの系統設備提供者としてのスタンスが感じられます。

D)について

将来のスマートグリッド像の後半「需要家がそれぞれ環境に配慮して自分たちの使いたい形で電気を使える形」というのは、先ほど紹介したSCE社Edison SmartConnectのサービスに通じるものを感じました。

【自由討議での委員からのコメントについて】

続く事務局説明への感想をとばして、第7回研究会で一番目を惹いたのは、松村委員のご意見です。低炭素電力供給システム構築に当たって、「日本の電力系統は、本当にスマートなのか?」、「日本は多様な料金メニューで電力需要の誘導が進んでいるのでDSM/デマンドレスポンスを実施しなくてもよい-とは思わない」、「スマートメーターなしというのは、ありえない」という熱い問題提起は、私も同感する部分がほとんどです。

また、それに対する村上委員の「論点は低炭素電力の拡大浸透と上手な利用、日本としての最適な利用はどうあるべきかであり、スマートグリッドありきではない」というクールな指摘も最もだと思います。

また、戒能委員の指摘にあった、周波数調整問題もクリアすると再生可能エネルギー大量導入への系統対策費4.7 兆円ではすまないのが事実なら、研究会の報告書にはそれを明記する必要があると思います。

以上、8、9、10の3回のブログで、第7回研究会の内容を振り返ってみました。その中で見えてきたのは、「現状ではスマートグリッドは将来の電力供給システムについてのビジョンで、明確な定義は定まっていない。これまで系統設備にかかわってきた人たちは、自分たちのこれまでの系統設備へのかかわりの延長線上で考える傾向にあるが、ITベンダーは、これまでより重要なポジションを占める可能性を嗅ぎつけ、重電メーカーへの食い込みを図っている」という図式です。

では、次回は、第8回研究会の内容を振り返ることにしたいと思います。