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House at the T-junction at Breconbar

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第5章:今後に向けて

【短期ビジョン実現に向けて】 シャレット参加者は、スマートガレージ生態系の各領域を深掘りし、「ニワトリと卵」の問題を皮切りに、実現の障害となる問題点を検討していった。xEVsが路上を横行する前に、充電インフラを建設する意味があるのか?充電インフラの整備がされてなくても、消費者はxEVsを買うだろうか?消費者が買うかどうかもわからないxEVを自動車メーカーは作るだろうか?買いたくても、ほんの少ししかxEVが市場に出回っていない状況で、消費者はxEVを欲しがるだろうか? 卵の観点からすると、卵を作るにはニワトリが不可欠であるのに対して、ニワトリの観点からすると、ニワトリを作るには卵が不可欠なのも確か。しかし、この状態から抜け出すには、多くの関連していることを同時に着実に実施するしかない。そして、そこには、協働と先見性が不可欠である。 シャレット参加者は、トップ5に絞り込んだ主要障害の解決策と、それを実現するための戦略を考案した後、次のステップとして、xEV普及のための6つのプロジェクトを企画した。それらのプロジェクトのニックネームは以下のとおりである。 ①準備プロジェクト、②充電、充電プロジェクト、③中古バッテリープロジェクト、④全米公益事業政策プロジェクト、⑤PHEVデマンドレスポンス1.0プロジェクトおよび⑥消費者需要掘り起こしプロジェクトである。 【V1G完成後】 前に一歩踏み出す道を開いた効果は抜群だった。RMIのスマートガレージ・シャレット参加者は、柔軟で、消費者にとって魅力的で、(可能なら生成可能エネルギーからの)電力供給とEV充電のマッチングを図り、グリッドに余分な負担(発電量の増加)をかけないV1Gスマート充電:EV充電管理機能の周りに議論を集中させた。 ただし、V1Gにフォーカスした議論を進める中で、V1G後を対象とした課題の検討は後回しとなってしまった。第4章の「革新的アイデア」は、そのような、シャレットでは深く議論の対象とはならなかったアイデアをまとめたものである。 V1G完成後の道筋として、理想と、我々の想像もつかない結果の可能性を以下に取り上げる。 【V1GとV2G:どちらか一方という選択ではない】 電力系統は電力需給のマッチングを行わなければならない。V1Gは需要側を調整し、再生可能エネルギー利用を促進することで、系統運用を改善できる。しかし、V2Gでは需要ばかりか発電量も調整できるので、更に再生可能エネルギー利用を促進し、アンシラリーサービスを提供でき、系統安定化に貢献できる。 それなのに、なぜV2Gを後回しにするのか?それは、バッテリー、グリッド制御、通信の技術的な難易度が増し、費用も増大するからである。最初からV2Gという「完璧」を目指すと時間がかかりすぎる。それに対して、RMIおよびシャレット参加者はV1Gを、将来V2Gにつながる第一歩と捉え、V1Gが成功すれば、再生可能エネルギー利用促進、エネルギー貯蔵/グリッドサービス・ニーズの把握、電気による移動(EVの普及)など、V2Gを推進する理由も明確になると考えた。数年後、RMIは「V1GからV2Gへの移行」に関する次のシャレットを開催するだろう。 しかし、それまでに現在のV2Gの前提(更なる再生可能エネルギー利用、電気貯蔵とグリッドサービス向上、すぐれた競争者の欠如、分散電源制御のための更なるセキュリティおよび堅牢性の確保)は予期しない方向に変わっているかもしれない。 V1GからV2Gに移行する経路として、以下の4つがあると考えている: 1) 後にV2Gに簡単にアップグレードできる技術を用いて、まず短期間にV1Gの機能範囲でインフラを構築し、グリッド/通信/バッテリーの技術が成熟した時点でV2Gに移行する 2) 中間的なステップとして、次にV2Bを実現する V2Bは、車と建物間で双方向インタフェースを持ち、車(のバッテリー)は、建物に対するバックアップ電源となる。V2Bを実現することにより、 ① 建物の省エネ/バックアップ電源の一環として、大幅なインフラの変更なしにxEVを追加でき、電力会社は、個々の車と双方向通信する必要がない。 ② すでに多くの電力会社/エネルギーサービス会社が建物との間で、スマートグリッド/デマンドレスポンスの開発(=B2G)を行っている ③ 多くのビルではすでに洗練されたエネルギー管理システムを持っており、ビル駐車場に設置したEV充電ステーションを巻き込んで簡単にV2Bに移行できる ④ V2B + B2G = V2G V2Gは実現できないのではないか、少なくともトランザクション費用や膨大な数のEVとの接続における相互運用性/複雑性を考えるとロジスティック面で非常に困難であるという懸念に対して、V2Bを達成することでV2Gにたどり着けそうだという1つの答えを提供している 3) V2Gに移行するために、V1Gインフラを作り直す 4) それぞれの地域で独自のV2Gに移行し、達成したレベルに応じた利便性を得る 【予期せぬ結末】 RMIおよびシャレット参加者は皆、スマートガレージが環境にも、安全面でも、経済的にも素晴らしい潜在能力を持っていると信じているが、予期せぬ不都合が出る可能性がある。例えば: ・ ドライブのコストが安くなりすぎ、スマートガレージのせいで、人々がどんどん運転するようになってしまわないか?スマートガレージ実現時の車の使われ方、公共輸送機関、交通渋滞および土地利用の相互作用に関する研究が必要である ・ EV充電が期待通りピーク需要削減に貢献できなかったり、急速充電が系統安定性(特に配電網)に危害を与えたりして、もしPHEVのせいで停電が起きたりすると、NERC(北米電力信頼性協議会)は、スマートガレージ構築の動きを凍結させるだろう ・ その他、予期せぬ結末を招く原因として、リチウム素材の枯渇、リチウムバッテリーの輸入への依存、石油会社による潜在的反対、燃料税から他の財源へ幹線道路インフラの収益基盤の移行しなければならないこと、xEVオーナーとxEVを所有していないにもかかわらずxEV普及進行のために税金や高い電気代を支払わせられる不公平が発生すること などが考えられる。 かつて、NRDC/PERIは、EV普及インパクトに関する調査結果として、EV充電のために追加の発電所(石炭火力発電所)を建設する必要があると報じたが、V1G実現に当たって、この意見に同調するシャレット参加者はほとんどいない。スマートガレージ生態系を構成するグループ間の協働作業と注意深い設計によって回避可能と考えるからである。 しかし、この予期せぬ結末に示したように、将来を見越した用心・配慮を怠ってはならない。 【長期ビジョン】 スマートガレージというのは、つまるところ、エネルギーの自由についてのパラダイムである。 我々、その親たち、そのまた親たちの生活に必要なエネルギーは、どこか離れた場所で神秘的に勝手に作られた製品だった。それは、人々に移動、便利さ、繁栄をもたらしたが、そのために、コミュニティ、環境、セキュリティが犠牲とされてきた。 これに対して、スマートガレージは、使うエネルギーのタイプ、質、量の選択権を我々に与えるものである。車のドライバー、家の所有者を含む、エネルギーにかかわるすべてのプレーヤーが、どんなエネルギーをいつどこでどれだけ使うかに積極的にかかわり、かつ、エネルギーの使い方に対して責任を持つようになる仕組みである。 スマートガレージの実現は、米国および世界の気候変動に直面する国々が、化石燃料のエンジン/石油への依存と、脆い電力送電網、非雇用、エネルギー費用の高騰などの巨大な挑戦に取り組み、同時に我々の生活および移動の質を改善する絶好の機会だ。 難題ではあるが、見返りも非常に大きいものとなるだろう。  以上、Smart Garage Charrette Report から、スマートガレージについて、ご紹介しました。 私の場合、ITによる自動検針の将来形:スマートメータリングから、この世界に興味を持ち出したのですが、スマートメータリングは、スマートグリッド実現のための第一歩であると思い至り、また、EPRIのIntelliGridの資料を見て、スマートグリッドの将来形は、超分散電源を有効利用して、ミニ/マイクログリッドが基本的にはエネルギーの自給自足を実現するが、足りない分は、ミニ/マイクログリッドのシステムのエージェントが互いに自律分散制御メカニズムのもとで、融通しあう絵姿を、究極の姿として思い描いていました。 ところが、このロッキーマウンテン研究所所長のエイモリーロビンズ氏はすでに30年前にV2Gの構想を持っていたそうで、その先見性には驚くばかりです。 また、他にも面白い資料があれば、シリーズで詳しく紹介したいと思います。 -終わり-