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前回ご紹介したIEC61850国際標準規格が規定しているのは、主に変電所設備の情報交換モデルでした。現在、変電所だけでなく、風力発電所や、水力発プラントその他分散型エネルギー資源、いわゆる再生可能エネルギーを取り扱う設備の情報交換モデルにも援用されていきそうなので、それらをスマートグリッドにおける超分散型発電施設と見立てたVPP(バーチャルパワープラント)を設計・開発する上でも、重要な国際基準になると思います。
ところで、前々回のスマートグリッド関連のIEC国際標準規格をご紹介した際、もう1つ情報モデルに関連したものがありました。それがIEC61970で、そこではCIM(Common Information Model:共通情報モデル)が規定されています。でも、CIMというのは、なにがどのように共通なのでしょうか?
IEC61970も、61850同様いくつかのパートに分かれていますが、今回はCIMコアモデルを規定しているIEC61970-301を中心に深掘りしてみます。
なお、参考資料としては、2009年5月ベルギーのブリュッセル近郊Genvalで開催されたCIMユーザグループの会議での資料「Introduction to CIM」と、英国グラスゴウにあるStrathclyde大学で作成された「An Introduction to IEC 61970-301 & 61968-11: The Common Information Model」を使わせていただきました。では、はじめましょう:
CIMに関するこれまでの経緯
● 1992年:米国の電力研究所EPRIのOTS(送配電指令所のオペレータ訓練用シミュレータ)ベースで作成されたデータモデルは、将来の業界標準モデルを目指し、EPRI CCAPI Task Forceに引き継がれた
● 1993-1996年:ベンダーおよび電力会社は、制御所(Control Center)内で稼動する複数のエネルギー管理システム(EMS)や、EMSと発電管理・配電管理システムのAP間の相互運用性確保を目指し、CCAPI Task Forceの元でデータモデルを拡張し、ソフトウェア・アーキテクチャや運用プラットフォームから独立した論理的なオブジェクトモデルとしてCIMを完成
● 1996年:CIMは、IECのTC57 WG13/WG14に引き継がれ、送配電に関する国際標準規格となった
● 2003年:ISO/RTOカウンシルとEPRIは、CIMの電力市場運用へ拡張(CME:CIM Market Extensions)を実施
● 2005年:IEC 61970-301 CIMコア第1版が完成し、UCAユーザグループ内にCIM専門のユーザグループCIMugが設立される
● 2008年:欧州大半に跨る電力系統を管轄するUCTE (Union for the Co-ordination of Transmission of Electricity)がCIM採用を決定
CIMとは、一言で言うと一体何なのか?
● 制御所内で電力系統を構成する流通設備やその部品といった実世界の“オブジェクト”に対応するものだけでなく、
● 発電から送電、変電、配電までのバリューチェイン内で交換される情報エンティティすべてをクラスとして定義(クラス名を付け、属性を定義)し、
● 定義したクラス間の関連をオブジェクト指向の道具立てである、継承 (inheritance)、関連 (assosiation)、集約 (aggregation)を用いて表した
オブジェクト指向モデルである。
※ いろいろな説明を見たのですが、以上は、それらを統合して得られた結論です。
【CIMにおける継承の例:開閉器(ブレーカ)と、その親クラス】
【CIMにおける関連の例:電力系統構成要素間の関連】
【CIMにおける集約の例:トランスと、それを構成する4つのCIMオブジェクト】
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【上記の開閉器やトランスを持つ変電所(Substation)のCIM上の表現】
図拡大
CIMパッケージについて
CIMは、膨大な数のクラスから構成されるので、管理しやすいように、下図のようないくつかのパッケージに分けて管理されている。
主なパッケージについて、以下に概説する。
● Generation:Production(火力発電や水力発電等の発電機の種類や、その構成要素、および発電コストに関する情報を定義)と、GenerationDynamics(タービンのタイプのような動力源の情報と、原子力発電所の加圧水型/沸騰水型などの蒸気供給タイプ、石油・石炭などの化石燃料のタイプなどを定義)の2つのサブパッケージから構成されている
● LoadModel:需要カーブと関連データにより、エネルギー消費者のモデルを定義。
● Outage:電力網の構成変更計画を定義するもので、特定のある時点での遮断機の状態を保持するクラスなどを含む
● Protection:遮断機に指示を出す保護回路の設定を定義し、遮断機の振る舞いを定義する
● SCADA:SCADAの論理ビューを定義
● Wires:ネットワークに電気的に繋がれたすべての構成要素と、補助クラスから構成され、発電端のSynchronousMachineから需要端のEnergyConsumerまでが含まれている
● Mesurement(Meas.):特定のPowerSystemResourceで行われる、電流・電圧の計測を定義するために用いられる。電力網中のある地点での電流や電圧を現すが、トランスのような物理的な装置とは関連しない
● Topology:Terminalクラスとともに、ConnectivityNodeの集まりとしてTopologicalNodeクラスが定義される
● Core:PowerSystemResourceを親クラスとし、電力網に含まれる物理的な装置と、その部品、および、いくつかの部品を束ねたグループを表現するEquipment Containersと呼ばれるクラスで構成されている
● Domain:他のパッケージで使用されるクラス属性の計測単位などを保有するデータ辞書
● Financial:エネルギー取引に関連するクラスで、精算やビリング取引を定義
● EnergyScheduling:電力自体の取引に関連するクラスで、発電会社や、配電会社、大口顧客などで売買され取引された電力量を定義
いかがでしょうか?CIMについて、多少クリアになったでしょうか?
ただ、なぜCIMが必要になったのか? また、オブジェクトモデリングで当初揶揄されたように、CIMのオブジェクトモデル図も、所詮、単なる「お絵かき」でしかないのか?
長くなってきたので、次回は、CIMの紹介-2として、その辺りをフォローしたいと思います。