今回も、WBB Forumから『NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!』の連載記事をご紹介します。
NEDOという名前を知ったのは、まだ特殊法人「新エネルギー総合開発機構」のころでした。「~機構」という名称からNATOを連想し、どんな役割の組織なのだろう?と興味を持った覚えがあります。現在は独立法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」となっており、新エネルギー(再生エネルギー)を有効活用し、かつ、通信、IT、電力系統技術という3つの産業技術にまたがるスマートグリッドを総合的に開発する機構ということになると、日本のスマートグリッド開発のために存在する組織として、これほど適役はないでしょう。
今回ご紹介するのは、NEDOの新エネルギー技術開発部系統連系技術グループ諸住哲主任研究員へのインタビュー記事です。前回同様、日本語の記事ですので、URLをお知らせして「スマートグリッドにご興味をお持ちの方は読んでみてはいかがでしょうか」ですますこともできるのですが、いくつかコメントしたい部分がありましたので、すでにこの記事をご覧になった方も含めて、日本のスマートグリッドについてごいっしょに考えたいと思い、ここでご紹介しようと思った次第です。
なお、文字色が緑の部分は、筆者が追記した部分です。
動き出したNEDOのスマートグリッド戦略を聞く!
WBB Forum 2010/3/17の記事:
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20100317/787
タイトル:NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(1)
中の小見出し:第1回:始動するNEDOのニューメキシコ州プロジェクト
≪1≫NEDOが、ニューメキシコ州プロジェクトへの事前調査企業31社を決定!
≪2≫NEDOのニューメキシコ州プロジェクトの総予算は30億円
構成:NEDOの組織、これまでのNEDOの取り組みと、米国ニューメキシコ州におけるスマートグリッド実証試験の予算・内容の紹介
概要:
- NEDOは、英語でNew Energy and Industrial Technology Development Organizationの略称で、所轄官庁は経済産業省。1980年10月1日、特殊法人「新エネルギー総合開発機構」という名前でスタートし、2003年10月1日、現在の名称の独立行政法人となった。業技術本部とエネルギー・環境技術本部という2つの大きな柱がある
- 系統連系技術関係は、2002年ごろから活発な活動をしており、これまでの取り組みとして、
・群馬県太田市の「PalTown城西の杜」で、550軒の住宅に太陽光発電を集中的に設置する「集中連携型太陽光発電システム実証研究」プロジェクトを実施
・そのほかに、大規模太陽光発電や風力発電所と蓄電技術を組み合わせたいろいろな実証研究などを実施。さらに、大規模太陽光とか風力発電所などの分散型の新エネルギーを組み合わせて、その地域の電力事情に応じて需給バランスをとる(いわゆるマイクログリッド)システム的な実験も2002年から現在に至るまで進めてきている - 新エネルギー技術開発部の事業予算規模は200億円前後 (⇒コメント1)
- スマートグリッド関係の取り組みとしては米国のニューメキシコ州で行われるプロジェクトがある。2010年度、このスマートグリッド実証事業のための「事前調査」を行う企業31社と役割が決定している
- スマートグリッドを核としたスマートコミュニティ関連市場に日本企業が積極的に参画できるよう、また、官民連携によるスマートコミュニティの実現に向け、共通の課題に取り組むための実務母体として、2010年3月に「スマートコミュニティ・アライアンス」が設立された
WBB Forum 2010/3/25の記事:
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20100325/789
タイトル:NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(2)
中の小見出し:第2回:電力会社が3000社以上の米国
≪1≫NEDOがニューメキシコ州と共同実験する理由
≪2≫電力会社数の違い:日本は10社に対し米国は3000社以上もある
≪3≫ニューメキシコ州「ロスアラモス・サイト」の実験内容
構成: NEDOがニューメキシコ州と実施する共同実験に関して、その背景や、具体的な実証実験の内容、日米の電力会社の違いについてのインタビュー記事
概要:
- 共同実験で合意に至った背景:
・ ニューメキシコ州と経済産業省の間で包括的な協力関係の協定があった
・州内に2つの国立研究所があり、研究の協力相手として有望だった
・ニューメキシコ州自体には、すでにグリーン・グリッド・イニシアチブ構想(The New Mexico Green Grid Initiative:NM-GGI)があった - 日米の電力会社の違い:
・米国では、ある電力会社が自前で電源(発電所)を持つのではなく、発電会社から電気を集めてきてユーザーに売るという、日本とは異なる市場になっている
・日本では、民営電力会社が、どこの離島であろうが、東京のど真ん中であろうが、同じ電気料金で、しかも同じような電力品質のサービスを提供するというのが基本だが、米国では、すべてのユーザーに私営(民営)の電力会社がサービスを提供する義務がなく、電力が提供されない(家庭)が、第2次世界大戦の直前ぐらいまでかなりあった (⇒コメント2)
・日本では、ユーザーの家庭に近い末端の配電系統、いわゆる電柱から先の世界では、配電の自動化が進んでいて、停電があっても、早ければ15秒後で復旧できるが、米国では、現地の停電箇所を確認した上で、人間が電力系統を切りかえる作業を行うので復旧時間がかかる。しかし、ニューヨークの中心地の停電時間は東京電力とあまり変わらない - ニューメキシコ州ロスアラモス・サイトでの実験内容:
・このエリアは日照時間が長い(アルバカーキは年間300日が晴れ)とともに、風が強く風力発電所の適地
・ロスアラモス群では、メガソーラーおよび蓄電池それぞれ1MWを導入しマイクログリッド実証を行うとともに、スマートハウス向けのリアルタイム料金による電力消費削減効果を実証する
WBB Forum 2010/4/2の記事:
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20100331/790
タイトル:NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(3)
中の小見出し: 第3回:重要な「リアルタイム料金」と「デマンド・レスポンス」
≪1≫米国特有の電力の「リアルタイム料金」とは?
≪2≫なぜ米国は、デマンド・レスポンスを重視するのか?
≪3≫電気自動車の実験を行わない理由
構成: 第2回に引き続き、日本と米国の電力事情の違いや今後の日本におけるスマートグリッドの展開、ニューメキシコ州におけるスマートグリッドの実証試験の特殊点などについてのインタビュー記事
概要:
- 日本と米国の電力事情の違い:
・日本では電気料金制度の面から、ニューメキシコ州でやろうとしている「リアルタイム料金」の実証実験をそう簡単に導入できない
・米国では電力会社(小売/配電会社)が他の発電所(発電会社)から電気を買ってきて家庭に売っているので、電力の卸の値段が上がったときに、小売の値段も一緒に上がらないと赤字になってしまう
・デマンド・レスポンスというのは、電力使用量がピークに達したときにオン・デマンドでユーザー側の電力消費を、スマートメーターを通じて削減できるようにする仕組み。(企業レベルの施設では日本でも行われているが)これを一般家庭の住宅まで適用しようというのが、米国でのスマートグリッドの重要な目的の一つになっている
・日本では、高圧までは自由化されたものの一般家庭の電力小売は総括原価主義が採用されているので、現在、リアルタイム料金を導入する理由がない。つまり、スマートメーターを導入する差し迫った必要性がない状況
※ これから先、太陽光発電や風力発電などが大量に導入される時代になると、昼間、家庭などから大量に電気が余って、基幹の系統(電力システム)に流れ込んでいく可能性がある。その電気をだれかに消費してもらうため、従来とは逆に、昼間の電気料金を安くするというような世界が始まる可能性もある。太陽光発電が家庭にたくさん入ると、日本でもスマートメーターで制御するような対策も必要になってくる
※ 再生可能エネルギーは、出力を上げたり下げたりできない電源なので、気象条件がいい(例:晴れでしかも風が強い場合)と容赦なく発電してしまう一方、電気が足りなくても夜になったら太陽光発電は発電しないので、需要側(家庭側)で電力をコントロールすることが重要。今後、日米欧を問わず、スマートグリッド的な対応、あるいは蓄電池を使って、「いつ上手に電気をためて、いつ放電するか」というような技術が重要になってくる
- ニューメキシコ州での実証実験内容の特殊点
・日本では、1日平均30km~60km程度走れれば、多分90%以上の車需要をまかなえると言われているが、ニューメキシコ州の州都サンタフェとアルバカーキの間が100km。サンタフェからさらに60kmほど行ったところにロスアラモスがあり、現在の電気自動車の充電能力では、フル充電しても往復できない。しかも、アルバカーキの標高は1,600メートル、ロスアラモスが2,100メートルで500メートルの標高差があり、上り下りの坂もかなりきつく厳しい。 そういう背景もあり、あえて電気自動車はプロジェクトに入れなかった
・実験の内容はこれから詰めていくが、一つ注目しているのは、スマートメーターの技術そのものよりも、サイバー・セキュリティについて。米国というのはサイバー攻撃を非常に受けやすい国でもあるので、スマートメーターやスマートグリッドに関する情報技術の中で、とくにサイバー・セキュリティの研究を重視する
WBB Forum 2010/4/9の記事:
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20100408/792タイトル:NEDOのスマートグリッド戦略を聞く!(4最終回)
中の小見出し: 第4回(最終回):日本のIT産業はスマートグリッドでも取り残されている
≪1≫ニューメキシコ州「アルバカーキ・サイト」の実験内容
≪2≫米国のスマートグリッドの大きな2つの流れ
≪3≫これからのビジネス・チャンスはIT産業にあり!
≪4≫今後の日本におけるスマートグリッドの展開
構成:ニューメキシコ州アルバカーキ・サイトにおけるスマートグリッドの実証試験の内容、米国IT産業がスマートグリッドに注目している理由、スマートグリッドに関連するビジネスの可能性、今後の日本におけるスマートグリッドの展開に対する思いについてのインタビュー記事
概要:
- アルバカーキ・サイトでの実証実験内容:
・モデルとなるようなビル1個(NEDO商用ビル)と家庭1戸(NEDOハウス)を作り、太陽光発電システムとあわせてマイクログリッドを構成
畜電池のかわりに、太陽光発電システムの出力電力の変動を、NEDOのビル側のコージェネレーションとか蓄熱槽で吸収するというような実験を考えている
・NEDOハウスに関してはスマートメーターを通して、人間に「見える化」情報を提供していく実験を行う - 米国IT産業がスマートグリッドに注目している理由
・米国ではスマートグリッドに大きな2つの流れがある。一つは電力系企業のスマートグリッドの流れで、もう一つはIT系企業のスマートグリッドの流れ
・IT産業は、従来バーチャル市場と呼ばれるゲームとかエンターテインメントで産業を引っ張ってきたのが、ここ2~3年マーケットが停滞。人間に対してバーチャルなサービスでマーケットを広げるのは限界で、リアル・ワールドに、IT産業が出ていく時期にきているという認識が広まってきた。今後、つなげる相手は機械(装置/システム)だというのがIT産業の戦略となってきている。そして、「機械同士をつなげる」事に関して、今一番わかりやすくて、目の前にある対象が、スマートグリッド
※ それに対して、日本のIT産業と家電産業は、それほど危機感を持たずに動いているところが問題。日本のIT産業は、「スマートグリッドは単なるエネルギー技術の革新」だと思い込んでいるところがあるが、これは大変な誤解。日本のIT産業に、世界の中で電力会社が取り残されているのではなくて、IT産業が取り残されているのだという認識がないところに大きな危惧を感じている (⇒コメント3) - スマートグリッドに関連するビジネスの可能性
・電気自動車は、受電点が移動する機器なので、ホーム・ネットワークから、もうちょっと広いエリア・ネットワークでIT産業は何ができるか考えた方がよい。だれがコンセントを使って充電したかという情報が、電気と一緒に並行に処理される必要が発生するので、投資としてはIT(情報)系の投資がどんどん増えていく。それは、家庭内に限らず、エリア(その地域)、ソサエティー、いわゆる社会の中で必要となってくるはず
ビジネス・チャンスは、まず情報系およびそれに関連するシステム、あるいはそれぞれのシステムに対応する新しいIT関連機器のところに創造されるだろう。それらを使ったビジネス・モデルを展開する人間にもいろいろチャンスが回ってくると思われる
・たくさん設置された太陽光発電がきちんと動いているかどうかを遠隔でだれかがモニターするサービスというのも、スマートグリッドの一つの重要なアプリケーション。例えば、グーグルは、どこが停電しているかという情報を、電力会社より先につかんで、その情報を例えば警察なり治安組織に売ったり、マーケットの関係者に売るなどのビジネスを考えている
※ 米国で最高に傑作なのが、電力会社じゃない人たちが、送電線のそばに、いわゆる磁気を計測する装置を置いて、送電線が今どれくらい電気を送っているかとモニターし、米国の電力網のうちどこの電力網が正常に動いていて、どこが停電しているかという情報を作成して、それを売ってビジネスしている会社もあるほど。そういうことは、米国人のほうが、発想が豊かなので、向こうのほうから、ビジネス・モデルはいろいろな案が出てくると思われる
- 今後の日本におけるスマートグリッドの展開に対する思い
現在、日本の場合、少し遅れてはいるが、今回のスマートグリッドが、エネルギー系の競争ではなくて、IT系の競争だということに気づいてくるようになると思う。それをビジネス・モデルとして発展させ、世界的な市場をにらんで挑戦していく日本の企業が出てくるのを期待している。
これから先は、単に1個1個の技術がすぐれているだけではなくて、その技術を組み合わせて、どのようにシステム的に動かしてビジネス・モデルを構築するかという、結構、これまで日本人が得意でないところまで踏み込む必要がある。
どのようにして、そういう人材を育てていくかということが大きな課題。
いかがでしょうか? 詳細は原文をお読みいただきたいのですが、いろいろ考えさせられるところがありました。
コメント1:
まず、スマートグリッドという言葉こそ使われていませんが、そして、どちらかというとハードウエアよりの実証研究が多かったですが、NEDOでは、これまでも、電力系統技術開発に携わってきています。次の3つの表は、2年前になりますがNEDOのスマートグリッド関連の実証研究を整理してみたものです。
・表1:NEDO 負荷集中制御調査リスト
・表2:NEDO HEMS調査リスト
・表3:NEDO 省エネ関連調査リスト
・表4:NEDO 新電力システム関連調査リスト
この表を見ていただければ分かるように、NEDOでは10年以上前から、すでにスマートグリッドの系統側の実証実験や、スマートメーター/デマンドレスポンスといった需要家側の実証実験まで手幅広く実施しています。ただ、調査/実証実験に手をつけたのが早すぎたため、「技術的な可能性は確認できたものの、経済的には見合わない」というような結論で終わっているものに関しては、定期的に、技術動向を見直し再評価することが大切だと思います。
そして、冒頭で述べたように、日本のスマートグリッドを推進する上で、これほど適任の組織はありません。ところが、スマートグリッドの研究開発を含むNEDO新エネルギー技術開発部の予算が年200億円というのは、少なすぎるのではないでしょうか? 行政刷新会議の事業仕分け第2弾2日目、NEDOに関して「先端技術や環境関連の共通基盤技術を開発する研究開発関連業務は事業規模の縮減」との判定が出たようですが、非常に気になるところです。スマートグリッドは、電気、通信、ITの3つの産業に関わる裾野の広い分野ですので、将来の日本の発展を考えた場合、むしろ、事業規模を拡大すべきだと思います。
コメント2:
次に、日米の電力会社の違いのところですが、米国では、電力会社にユニバーサルサービスの提供義務が課せられていないという件。ローカル空港への定期便が(他にもあるでしょうが)JALを経営破たんに導いたように、電力供給に関してもユニバーサルサービスを再検討する時代に来ている気がします。それこそ、NEDOがニューメキシコ州で実証実験をするように、まずはビル/家屋内での電力自給自足を基本とし、次に再生可能エネルギー主体の分散電源と蓄電装置を用いて、地域ごとにマイクログリッド内での自給自足を考える。大量に電力消費する大都会のみ、すべてのビルに太陽光パネルや風力発電装置をつけてもその地域内の電力需要を満たせないでしょうから、従来の大規模発電所から提供される系統電力を用いる。いつ実現するのかわかりませんが、日本型スマートグリッドを推進するに当たって、日本の技術/産業の育成/振興、ユニバーサルサービスをどうするか、エネファームのような家庭用燃料電池とどう協調していくのか、まずはビジョンを定める必要があると思います。
コメント3:
最後に、諸住氏が日本のIT産業に対して抱いている危惧「今、世界の中で日本の電力会社が取り残されているのではなくて、日本のIT産業が取り残されているのだという認識がない」に関しては、自戒も含めて、深く受け止めるべきだと思います。実は、2年前、AMI/MDMの調査の一環で、BERG INSIGHT社のレポート「SMART METERING AND WIRELESS M2M」を読んだのですが、折角「M2M」というキーワードを目にしていたにもかかわらず、「機械同士をつなげる事に関して、今一番わかりやすくて、目の前にある対象が、スマートグリッド」であるという認識は思いもよりませんでした。IBM、Google、Ciscoの戦略を再度吟味し、日本のIT業界としてどう対応していくべきか。遅れが決定的とならないようにするためには、あまり時間が残されていない気がします。「スマートグリッドが、エネルギー系の競争ではなくて、IT系の競争だということに気づき、それをビジネス・モデルとして発展させ、世界的な市場をにらんで挑戦していく日本の企業が出てくるのを期待」している諸住氏の期待に応えなければならないと思いました。
おわり
- 投稿タグ
- M2M, Smart Grid, 次世代送配電網, 次世代送電網
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