GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の2章を翻訳しています。今回は2.4節をご紹介しましょう。
なお、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。
2.4 再生可能エネルギーと分散電源のインデグレーション
大規模な再生可能エネルギーと分散電源のインデグレーションは、スマートグリッドが今後提供する革命的な機能の1つである。風力や太陽光のような再生可能エネルギーソリューションの多くは、数十年間から存在したが、大量導入するためのインフラが欠落していた。スマートグリッド技術は、再生可能エネルギー大規模展開時の管理上の問題解決を試みている。再生可能エネルギーおよび分散電源を大量に、広い範囲に展開できるようにするため、パーソナルコンピュータや携帯電話で実現したプラグ・アンド・プレイ型の相互運用性の技術開発が続けられており、将来、発電の形態はがらりと変わるだろう。
ところで、「再生可能エネルギー」と、「分散電源」という用語は、時々区別なく使用されるが、同じではない。分散電源には、小規模の発電設備とエネルギー貯蔵設備があり、エネルギーの消費場所あるいはその近くにある、再生可能エネルギーと、従来からある(化石燃料を使う)小規模発電設備が含まれる。一方、再生可能エネルギーには、ウィンド・ファームや集光型太陽熱発電プラントのような大規模集中型設備もあれば、屋上設置型の太陽光パネルや小型風力発電機のような小型分散電源設備もある。
この、再生可能エネルギーと分散電源の交点は次世代発電の最前線となっている。実質的にどこで発電して系統側に注入しても良いようになると、これまでのエネルギーの世界(遠隔地の大規模発電所で発電して、送電網、配電網を経由して需要家に電気を届けるという電力流通のしくみ)が根本から覆されることになる。
その変化には数十年を要するかもしれないが、我々は既にその変化の兆しを目の当たりにしている。電力系統に接続されるPV(小型分散太陽光発電)は世界中でもっとも成長激しい発電資源で、2008年の成長率は、70%近くあった。
そのような小型分散電源設備より前に、集光型太陽熱発電(CST)プラントやウィンド・ファームのような大規模集中型の再生可能エネルギー・プロジェクトが展開されたが、その理由の1つは、(従来の火力発電所と同じ)送電レベルに接続できる電源の方が扱いやすかったからである。また、全世界の再生可能エネルギー供給の約半分を占めるローテクの風力タービンの製造には大量の労働力が必要で、そのような雇用の創出が、多くの国々の政治家に好まれていることもある。
これらの大規模集中型の再生可能エネルギー・プロジェクトにより構築された発電容量はすでに数百GWにのぼるが、将来小型分散電源設備がもたらす貢献度と比べると色あせて見える。なお、分散電源を設置する場所として、一般家庭をまず最初に考えがちだが、(ショッピングセンターや工場の屋根のような)潜在的な業務用・産業用分散電源市場の方が、大きいだけでなく、手始めとして大量に展開する上では好都合だ。後者のユーザーの方が、分散電源設備を設置するために必要なより広いスペースを持っており、(将来の収益を得るために資金調達するのにも慣れているので)、長期間にわたって元を取るような投資に抵抗がないからである。
固定電話のネットワークより無線ネットワークの方がインフラ構築にかかる費用が安いので、開発途上国であっという間に携帯電話が広まったように、分散発電は、人々に直接エネルギーを供給する仕組みとして、開発途上国であるかどうかに関わらず、広く世界の電力需要を満たすポテンシャルを持っている。「マイクログリッド」は、一定の地域内のユーザーが必要とする電力を、大規模系統電力に頼らず独自に発電・貯蔵する小規模なグリッドをさすが、そのマイクログリッドを形成する要素として、今、分散電源の能力に注目が集まっている。マイクログリッドにはまだ様々な問題があるが、主要電力系統で停電が発生しても、主要系統とは独立に電力需要を満たせるマイクログリッドは、自分が電力供給する地域内のユーザーに対して「安全地帯」を提供できるという点が重要である。
現在、スマートグリッドに関する議論は分散電源の系統へのインテグレーションに集まっているが、他にも、電力貯蔵装置の進歩や分散インテリジェンス技術が出現して、多くの新たな可能性を創造しうる時代となっている。これらは、分散電源技術として収束して行き、今後もこの分野で世界的なブームが続くだろう。
分散電源と電力貯蔵装置がどれほど開発途上国の電力事情を改善するか想像してみるのは魅惑的だが、同じものが先進国の電力事情にどう影響するか考えてみるのは、多分もっと面白いだろう。なぜなら、分散電源は、エンド・ユーザーのエネルギーとの係わり合い方を根底から覆すかもしれないからである。昨今、環境問題に関心の高いドライバーや政府の補助金が、分散電源導入の流れを加速しているが、真の推進役はコストである。分散電源のコスト(特に太陽光発電)が史上最低値を更新し続けていることが、スマートグリッド技術を世界規模で推し進める原動力となっている。2008年、世界各地の主要なアナリストが、初めて太陽光発電のコストが「グリッド・パリティ」に達したと発表した。グリッド・パリティとは、発電コストが従来の化石燃料ベースの火力発電所から供給する系統電力(=グリッド)相当(=パリティ)になったということである。もちろん、発電単価は国によって異なり、中国やインドの5セント/kWhからイタリアの25セント/kWhまであるので、グリッド・パリティとなるレベルもまちまちだが、イタリア、スペイン、オランダ、イギリスおよびカリフォルニアのような小売り電力価格の高い地域で、太陽光発電の単価が従来の系統電力を代替するレベルに達している。
分散電源のグリッド・パリティが実現した世界では、エンド・ユーザーのエネルギーとの関係が変化する。エンド・ユーザーが、エネルギーの需要家であるにとどまらず、自分の所有する分散電源の電気を逆に売ることが当たり前となり、グリーンエネルギーに対して、これまでのように環境面からだけではなく、収益の観点でも関わるようになるからである。
再生可能分散電源設備を促進するに当たって、大きな課題が2つある
1. 再生可能エネルギーの出力変動
2. 数百万箇所に分散した地点での、双方向の電力潮流のインテグレーション
再生可能エネルギーの出力変動
出力変動の課題は、再生可能エネルギーが、火力発電所のように発電出力を制御できないことに起因する問題である。この課題を解決するには2つの方法がある。1番目は、様々な再生可能エネルギーを併用することである。すぐ分かる例として、嵐が太陽発電の邪魔をしても、風力発電のタービンが嵐からの風力をとらえて、太陽光発電の不足を補うことがあげられる。2番目の解決策はエネルギー貯蔵装置と併用することで、今盛んに議論されている。実際、エネルギー貯蔵は、再生可能エネルギー大規模実用化の決め手と呼ばれることもある。また、電気自動車のバッテリーは、電力系統で使い切れなくて捨てられる電気を吸収し、電力系統で電気が足りなければ戻す(また、系統で足りない分を火力発電で補えば排出されたであろうCO2のオフセットとなる)1つの実行可能な解決策と考えられている。エネルギー貯蔵技術開発の必要性は、今や、電力会社および再生可能エネルギーの世界だけでなく、金融界でも広く理解されており、ストレージ技術に対するベンチャー・キャピタルの関心は非常に高い。クリーン技術の中で、エネルギー貯蔵技術開発は、2009年第1四半期もっとも資金提供が多かった分野の1つである。
双方向の電力潮流のインテグレーション
現在の配電ネットワークは、一方向に電気が流れるようにしか考えられていない。2番目の課題は、そのような配電ネットワークに再生可能エネルギーを付け加えて、如何に双方向に電気を流すかである。配電ネットワークに大量の発電資源を接続するためには、真のエンドツーエンドのインテリジェンスが必要となり、従来にない複雑さが要求される。系統運用者が効率的に配電網の電気の流れを制御するためには、リアルタイムで、数百万もの発電資源がどれほど発電しようとしているか計測・集計しなければならない。分散電源の大きな利点の1つは、需要場所と近いところで発電するので、遠隔地にある大規模発電所の電気を遠路はるばる運ぶ必要がなくなり、送配電ロスを最小化できることである。問題は、大量の分散電源の準備が整った際、それらが発電する電気を、配電ネットワークの中で、どのように配給すれば良いかである。
従来、系統運用者は、変電所以下の配電ネットワークの電力潮流制御は「考えていなかった」が、何の考慮もしないで再生可能分散電源をどんどん入れてしまうと、大変なことになる。電力会社は、電力ネットワークのビジビリティ・制御・インテリジェンスを高めるため、システムの更新/再構築が必要である。今後十年間を考えた場合、すべての消費者まで通信網が100%普及することはないだろう。だが、系統運用者がこれらの(消費者が所有する)分散電源の電力を適切に配給するためには、電力価格情報を提供したり、分散電源を制御したりするために、通信システムは不可欠である。電力使用量を計測するだけでなく、分散電源から系統側に流れる電気出力も測定できるスマートメーターは、分散電源を推進する上でも非常に重要である。
欧米での大規模なAMIの展開は、この通信の問題を一部解決するが、大多数の消費者にとっては当面未解決のままの状態が続くだろう。
ITと通信に関する懸念事項とは別に、実際に電力網の設備を更新するに当たって多数の技術課題が存在する。一例として、配電線に流せる電力量に限りがあることがあげられる。これまでより30%多く電気を流そうとしても、ある場合には、それが電線に安全に電気を流せる限界値を超えてしまうので、電線自体を張り替える必要が出てくる。変圧器その他の配電設備にも同様の問題がある。配電ネットワーク上、双方向に電気を流すことを考えると、問題は更に複雑となる。保護装置間の協調が重大な関心事になっている。場合によっては、より大きな回路遮断器を導入するなど、電力会社は、システムの運用設計をやり直す必要があるのだ。
分散発電技術の利点として、集中型の発電所、変電所、送配電線設備への大規模な投資が不要もしくは延期できることがあげられる。パシフィック・ノースウエスト国立研究所は、その節減額は、20年間で数百億ドルにのぼると試算している。
分散電源はまだ初期適用段階にあり、最初の実質的な展開は、今後5~10年の間に起きると予想されるので、現時点でどれだけ従来タイプの発電設備が置き換わるか予想するのは困難だが、昨今、新しい石炭や天然ガス火力発電所建設への反発が強いので、電力会社の大規模投資プロジェクト用の資金は、大規模分散電源プロジェクトに注がれようとしている。すなわち、エンド・ユーザー任せで、個々の家や職場の分散電源の電気を売ってもらうのではなく、その電気をコントロールしようとしているのだ。具体的には、エンド・ユーザーの不動産(とりわけ、太陽光パネルを設置する屋根)を借りて電力会社所有の太陽光発電設備を設置するか、レベニュー・シェア・モデルにするか。これらはほんの一例であり、まだ決定していないが、多くの面白いビジネス課題をこれからクリアしていかなければならない。
これまで、再生可能エネルギーは、生産され消費される総エネルギーの3パーセント未満だった。したがって、系統電力としての貢献度はどう見ても低く、無視できるもの考えられてきた。本レポートでは、なぜ普及してこなかったかについてこと細かく議論するつもりはない。代わりに、スマートグリッド自体が、再生可能エネルギーの問題を解決する魔法の杖であり、すべての発電設備や電力貯蔵装置を系統にインテグレート/アグリゲートできるようになるだろうことを、例を用いて示したい。
2008年、ウェブサイトYouTubeが必要とした帯域幅は、2000年全インターネットで必要な帯域幅と同じくらいであった。これは、基礎となるアーキテクチャがシッカリしていれば、より新しくより良いアプリケーションが急速に導入・利用可能となることを示唆している。同様に考えると、分散電源設備を「プラグ・アンド・プレイ」で使えるような統一プラットフォームをスマートグリッドで提供できれば、スマートグリッドは再生可能エネルギーの真価を発揮させるポテンシャルがあることになる。
従来、再生可能エネルギーがエネルギー供給においてあまり寄与できなかった主要因として、①(化石燃料と比較して)高価で、②適切にスケールアップできなかったことがあげられる。しかし、これら2つの要因は、急速に変わりつつある。再生可能エネルギーの設備のコストは下がり続けており、大規模展開時の管理問題については、IBM、GE、シーメンス、シスコ、オラクル、グーグル等、世界で名だたる革新的な会社が、この問題を解決すべく、現在競争している。
将来の世界的なエネルギー需要を満たすために最も重要なのは全面的にエネルギー使用量を減少させることだと、科学者の意見は広く一致している。再生可能分散電源技術を如何に拡大するかを学ぶことは、石油に基づいた文明から電力に基づいた文明に遷移する上でクリティカルなステップであるというのは、恐らく地球温暖化を阻止し、将来のエネルギー需要を満たす上で2番目に重要なことであると思われる。スマートグリッドおよび再生可能エネルギー技術の世界市場は、急速に拡大し続け、今後5~10年非常に競争的だろう。なぜなら、いろいろな企業がマーケットリーダーたらんと、しのぎを削っているからである。「グーグル」と「シスコ」が、すでに公式にスマートグリッドのリングに参戦してきているが、誰がスマートグリッド時代のグーグルやシスコになるのか、今のところ不明である。いずれにしろ、今後数年間、非常に面白い市場となるだろう。
『電力会社は、これまでの遠隔地の大規模発電所で発電して、送電網、配電網を経由して需要家に電気を届けるというビジネス形態から、小規模の再生可能分散電源を大量に利用するビジネス形態/発電形態に変わらざるを得ないだろう。スマートグリッドは、そのためにあり、ICT業界からの新規参入者が、石油に基づいた文明から電力に基づいた文明への遷移を促すため、しのぎを削っている』というのが、この節における、本レポートの主張だと思います。みなさんは、どうお考えですか?
化石燃料はいつか枯渇する(その意味では、ウランもいつかは枯渇する)ので、最終的には(枯渇エネルギーではなく)再生可能エネルギーに頼らざるを得ない。これは事実ですが、本レポートが指摘しているように『今後十年以内に発電形態ががらりと変わる(原文:profound transformation to electric generation in the coming decade)』というようなことが果たして起こりうるのか?
10年後というと2020年。政府の太陽光発電導入目標2800万kW達成の年です。日本全国10電力会社合計の過去最大電力は、2001年の18300万kWなので、このうち2800万kWが太陽光発電に置き換わったとしても、15%程度。確かに無視できない大きさですが、少なくとも日本では「発電形態ががらりと変わる」というほどでもなさそうです。多分10年と言うのは言いすぎ(in the coming decadesではないか)と思い、上記の訳文中では、『再生可能エネルギーおよび分散電源を大量に、広い範囲に展開できるようにするため、パーソナルコンピュータや携帯電話で実現したプラグ・アンド・プレイ型の相互運用性の技術開発が続けられており、将来、発電の形態はがらりと変わるだろう。』 としています。
次回は、2.5節 エネルギー貯蔵装置 をご紹介したいと思います。
終わり
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