GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の2章を翻訳しています。今回は2.5節をご紹介しましょう。

なお、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

2.5 エネルギー貯蔵

ストレージ技術の進歩は、電源供給システムを革新する可能性がある。従来、グリッドレベルでの電力もしくはエネルギーの貯蔵はあまり検討されてこなかった。電力を貯蔵するのは非常に高コストだからである。現時点ではまだ理想的なストレージ技術は存在しないが、今後数年のうちに、ストレージ技術に関するブレークスルーが起きる可能性が非常に大きい。なぜなら、今後不可欠な技術として、また、今後発展する、そして非常に儲かる可能性のある技術として、今ストレージ技術に注目が集まっているからである。

国会議員、フォーチュン500の企業経営者、技術系ベンチャー企業から金融投資家まで、名だたる面々が、ストレージ技術の実用化を喫緊の課題の1つと認識し、実用化に向けた政策や投資が、かつてないほどこの分野の技術進歩を促進している。エネルギー貯蔵は再生可能エネルギー活用の「決め手」と考えられてきたが、これまでは、それほど開発資金が投入されてこなかった。それが、2009年に入って、風向きが変わった。スマートグリッド技術(とりわけ、ソフトウェアと分析関連)が、大容量分散ストレージ・ソリューションをリアルタイム・ソリューションとして世に出そうとしているのだ。逆に言うと、エネルギーを貯蔵できないスマートグリッドは、ハードディスクドライブのないコンピューターのようなもので、できることが非常に制限されてしまうのである。エネルギー貯蔵設備で何が可能となるか考えて見よう:

  • 余剰電力(夜間で風が強い場合に需要以上に余分に生成される風力発電のエネルギーなどは、従来は使えずに捨てていた)を蓄積し、再生可能エネルギーのパワーを有効に利用する
  • 出力変動の激しい風力・太陽光発電など再生可能エネルギーの出力を受け入れ、平滑化して出力する
  • 化石燃料ベースの火力発電を代替する
  • バックアップ電源として、大きな被害をもたらす電圧低下や停電を防ぐ
  • グリッドの全体的な信頼性を保証する(例:周波数調整への利用)

この、使われずに捨て去られる運命のエネルギーを蓄積するだけではなく、再生可能エネルギーの出力変動問題解決を支援し、系統電力の安定供給にも資することができるエネルギー貯蔵が、今や、夢物語ではなく、実現可能で、将来のインテリジェントな電力系統に必須のコンポーネントであるという認識ができつつあるのだ。
なお、スマートグリッドの将来形を考えた場合、エネルギー貯蔵形態として大型集中ストレージではなく、分散ストレージ(と分散発電)が注目されている。また、新しい発電所や送電線を作らなくて済むように、エネルギー貯蔵装置は、電気を使う場所のなるべく近くに分散して配置されるだろう。

現在、主要なストレージ・ソリューションとして、ポンプを使ったもの(揚水式水力発電所の揚水装置と、圧縮空気を利用したストレージ:CAES)、フライホイール、NaS電池、スーパーキャパシター、フロー電池がある。
まだ電力の形での貯蔵装置は非常に高価なので、はるかに安価な物理エネルギーとして貯蔵する(位置エネルギーとして保存する揚水式水力発電所や圧縮空気を利用したストレージ)技術が実用化、あるいは試験運用されている。設置場所の制約、コスト、スケーラビリティ、平均寿命など、それぞれに課題はあるが、より実行可能になってきているように見える。(圧縮空気を利用する方式が、最も経済的なオプションであるように見えるが、地理的な制約が展開を阻んでいる)
スマートグリッドは、グリッドに高性能ストレージを接続し、充電・放電を管理するために必要なインフラとソフトウェア・ソリューションを提供することができる。

図20:エネルギー貯蔵による再生可能エネルギー問題への対応

図21:エネルギー貯蔵の選択肢

2009年5月、世界有数の発電プラント製造メーカーのGE(ゼネラル・エレクトリック)社は、ストレージの重要性に注目し、NaS電池工場への1億ドルの投資を発表した。ストレージ素子の予想生産能力は1年当たりほぼ1GWで、これは従来の発電所の発電容量に匹敵する。
電力会社のエクセル・エナジーと新興企業のGridPointは、ミネソタ州で、風力発電用の蓄電池プロジェクトに1MWのNaS電池を使用している。同じく、PG&E(Pacific Gas and Electric)、AEP(American Electric Power)、東京電力のような、他の主要な電力会社も、既にNaS電池を5MWから20MWの風力発電用ストレージとして設置している。
さらに、5月、米国のRon Wyden上院議員は、議会に提出した新しい法案の中で、「エネルギー貯蔵は、再生可能エネルギーの進展に資するのと同様、(石油のような)海外エネルギー資源から独立するためにも大いに役立つ」と、その重要性が増していることを強調した。

エネルギー貯蔵はグリーン・テクノロジー界で一度は期待されたものの、その後ほとんど無視されていたが、このところ、引く手数多の状況である。再生可能エネルギーをインテグレートし、かつ新たな発電所の代替としても働くエネルギー貯蔵のポテンシャルは、投資活動を強く刺激している。2009年第1四半期のベンチャー・キャピタル投資中、1億2150万ドルがストレージ技術開発に向けられた。これは、太陽エネルギーへの投資に次ぎ、クリーン・テクノロジー分野で第2位であった。

今回は、スマートグリッドと関連した、米国におけるエネルギー貯蔵の動向をご紹介しました。
スマートグリッドの観点からは、再生可能エネルギーの出力変動問題解決が一番のメリットですが(そのように文章中には記載されていたのですが)、「エネルギー貯蔵設備で何が可能となるか」のリスト項目になかったので、文字色=緑で追加してあります。

興味深かったのは、『エネルギーを貯蔵できないスマートグリッドは、ハードディスクドライブのないコンピューターのようなもの』の件で、本レポートで著者が抱いているスマートグリッド像を物語っています。
なお、本レポートでは、小規模分散発電装置とペアになった分散型のエネルギー貯蔵装置を想定しているのに対して、日本型スマートグリッドを検討していた次世代送配電ネットワーク研究会では、需要側に蓄電池を置くか、系統側に蓄電池を置くか検討した結果、系統側に蓄電池を置くほうが良いという結論になっています。(参考:次世代送配電ネットワーク研究会報告書(2)33ページ「2020 年までの対策シナリオごとのコスト試算結果」)
この違いはなぜか考えたのですが(本レポートでは、コスト試算的な根拠が示されていないので憶測になってしまいますが)、米国は、日本と違い、今後も電力需要の伸びが予想されているので、新たに発電所を作る際、遠隔地に集中型大規模発電所、送電線まで建設する代わりに、新たな電力需要地の近くに、小規模再生可能分散電源とエネルギー貯蔵装置をペアで建設していくイメージではないかと思います。

次回は、2.6節 PHEV、スマートチャージングおよびV2Gをご紹介したいと思います。

終わり