前回は、経済産業省の次世代自動車戦略研究会がまとめた「次世代自動車戦略2010」報告書から、政府目標が実現すると、2020年時点で、どれくらいの電気自動車(乗用車タイプのEV/PHEV)が路上を走っている計算になるのか、それは、同報告書にあるEV充電器設置政府目標(5000基)と整合性があるのかどうかまでを見ていきました。
今回は、一応の結論として得られた2020時点での電気自動車200万台の充電を考えた場合、何らかの対策が必要なほど電力系統に影響を及ぼす可能性があるのか検証したいと思います。

6.検証に当たっての前提条件

最初に、検証に当たっての前提条件をまとめておきましょう。

1) EVバッテリー/EVの仕様

今回は、日産リーフを参考にしました。

バッテリー容量:24kWh

充電所要時間と必要な電力

普通充電:リーフでは、家庭での普通充電(単相200V・20A)は、エンプティランプ点灯から満充電まで約8時間とされています。そこで、普通充電は8時間、充電中の使用電力は、終始4kWとします。

急速充電:エンプティランプ点灯→80%充電まで急速充電で30分とされています。バッテリー容量24kWhのリーフを30分で80%充電(すなわち19.2kWh分充電)する訳ですから、充電効率0.8とすると、30分で24kWhの電力を消費することになります。急速充電では、充電中の電流が一定ではないようですが、計算を簡単にするため一定とすると、充電中の使用電力は48kWとなります。そこで、急速充電は30分、充電中の使用電力は終始50kWとします。

フル充電時の航続距離:リーフは条件が良ければ満充電での走行距離が220キロに及ぶようですが、ここでは、市街地モードで160kmの航続距離があるものとします。

2) EV充電頻度

普通充電の頻度

EVを購入しても、乗り回さなければ、充電する必要もありません。平成16年度のデータですが、自家用乗用車の年間平均走行距離は10575km(出典:国土交通省「平成16 年度自動車の検査・点検整備に関する基礎調査検討結果報告書」URL:http://www.mlit.go.jp/jidosha/iinkai/seibi/6houkokusyo.pdf)というデータがあります。

この自家用乗用車の年間走行距離(=10,575km)を、1日平均走行距離にすると約29km。
前提条件より、フル充電で160km走行するので、一度フル充電すると5.5日間走行できることになります。ただ、これでは5日目は帰ってこられなくなりますので、3日ごとに、自宅で夜間4時間かけて普通充電することとします。
※200万台の電気自動車オーナーが一斉に3日ごとに夜間自宅で普通充電することは考えられないので、計算を簡単にするため、毎晩電気自動車の3台に1台、約67万台(200万台÷3)が4時間かけて普通充電しているということにします。

急速充電の頻度

急速充電のEV充電モデルに関しては、あまりアイデアがありません。
ベタープレイス社のビジネスモデル検証」で見たように、タクシーは全乗用車の1%以上の台数があり、ベタープレイス社モデル以外の(EVバッテリー交換型ではない)EVタクシーは、日に2、3度急速充電を行う必要があります。そこで、2020年時点で全乗用車の1%:2万台がEVタクシーで、毎日3度(したがって、延べ6万台のEVが)急速充電するものとします。

3) 2020年の電力需要パターン

EV充電が電力系統に影響を与えるかどうか検証するためには、電力需要データが必要です。平成17年度経済産業省総合エネルギー調査会でまとめられた「2030 年のエネルギー需給展望」(http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g50328b01j.pdf)によると、『最終エネルギー需要は、人口動態や産業構造の変化等を受けて構造的に伸びが鈍化し、2020 年頃には頭打ちとなり減少に転じる。電力需要は、引き続き増加するが、伸び率は低減していく。』となっています。

出典:2030 年のエネルギー需給展望 98ページ

上記のグラフを見ると、2010年から2020年までの電力需要は、年平均+1.2%増加し、2020年の総電力需要は2010年の1.13倍、約1兆2000億kWhとなっています。

先ほど、前提条件2で、1台のEVは3日ごとに4時間充電するので、年間の充電電力量を計算すると、4kW × 4時間 ×(365日÷3日)=1947kWh。2020年のEV 200万台の充電電力量は、総電力需要に占める割合を計算すると3.2%(1947kWh × 200万台÷ 1兆2000億kWh)に過ぎません。
したがって、年間電力需要で見る限り、電気自動車の充電が電力系統に影響を与えることはなさそうです。

ただし、電力需要は時々刻々変化しますので、特定の時間帯にEV充電が集中すると影響が出るかもしれません。そこで、2020年の1日の電力需要パターンを考えましょう。
電気事業連合会の「電気事業の現状 2010」の『真夏の電気の使われ方』を見ると、最大電力は平成13年度がピークで昨年(2009年)の1.15倍となっています。

一方、先ほどの「2030 年のエネルギー需給展望」では、2020年度の電力需要は2010年度の1.13倍との予想で、平成13年度夏の最大電力需要パターンとほぼ同じになります。そこで、平成13年度夏の最大電力需要パターンを2020年度の電力需要パターンとして流用することとします。

4) EV充電シナリオ

最後に、EVがどのように充電されるかがわからないと、EV充電がどれほど電力系統に影響を及ぼすかわかりません。
前回、「家庭(と職場)で充電されることを基本とし、急速充電が可能な公共EV充電スタンドの設置は、平均すると年間500基ペースで増え、2020年時点で5000基設置される - というのが2020年に向けての日本のシナリオではないか」と述べましたが、同じようなことを指摘されているブログを見つけました。

MobileHackerz – MobileHackerz再起動日記(blog)で以下のように述べられています:『電気自動車は、そもそも自宅で満充電しておく使いかた(そしてバッテリーが切れない範囲で行って戻ってくる)が主なので外出先で充電することが緊急時以外ありません。携帯電話の街頭100円充電器をどれくらいの頻度で使いますか?…というのを考えればわかるとおもうのですが、今のガソリンスタンドと同じ密度で充電設備がある必要は全く無いんですね。そこを見誤ると電気自動車の未来が読みにくいと思います。
これは、今後、公共EV充電ステーションを計画する上で、重要な指摘だと思います。

これを踏まえて、今回は以下の3種類のEV充電シナリオそれぞれについて、電力系統への影響度を検討することとします。

シナリオ1:午前3時から午前7時まで、毎日67万台のEVが自宅で普通充電される
シナリオ2:午前9時から午後7時までの10時間で延べ6万台のEVがほぼ均等(=毎時間2000台)に分散して急速充電される
シナリオ3:昼休みの時間(11時30分~午後1時30分)に集中して2万台のEVが急速充電される

7.シナリオ1の検証

前提条件2で、1日平均67万台のEVが4時間かけて普通充電するものとしたので、必要な電力は268万kW(4kW× 67万台)。これだけEV充電用に電力需要が増えることになります。東京電力柏崎刈羽原子力発電所の発電機6、7号機の定格出力を合わせると270万kWなので、決して無視できる電力量ではありませんが、グラフにすると次図のとおり、EV充電の影響がそれほどあるとは見えません。逆に、原子力発電等のベース電源の有効利用に繋がると考えてよいかもしれません。

EV充電時間帯の電力系統への影響度を見るため、午前1時~午前7時部分を拡大すると以下のとおりです。

8.シナリオ2の検証

前提条件1より、急速充電は30分、50kWでした。シナリオ2では、平均すると毎時間6000台のEVが急速充電するので、30分間で3000台。2020年の政府目標:急速充電器5000基の範囲内です。急速充電には15万kW(50kW × 3000台)の電力が使われますが、次のグラフを見ればわかるように、シナリオ2では、ほとんどEV充電の影響がわかりません。

10時から19時までの部分を拡大してもEV充電の影響はほとんど認識できないレベルです。

9.シナリオ3の検証

シナリオ3は、昼休みの時間(午後0時~午後1時)に集中して2万台のEVが急速充電する場合です。急速充電は30分で完了しますので、30分ごとに平均で1万台のEVが急速充電することになりますが、政府目標では急速充電器が5000基しかありませんので、昼休み時間帯を前後に30分延ばして、午前11時30分~午後1時30分の間、25万kW(50kW × 5000台)の電力が必要となります。しかし、この場合も、電力系統に対する影響はそれほどでもありませんでした。

11時から13時のグラフも以下のとおりです。

10.検証結果と考察

まず、以下に今回の検証結果をまとめました。

    • 年間電力需要で見る限り、電気自動車の充電が電力系統に影響を与えることはなさそう。

 

    • 自宅での夜間普通充電のためには、原発2基相当の電力が必要となるが、電力系統への影響の観点ではそれほど問題とならない。むしろ原子力発電等のベース電源の有効利用に繋がると考えてよい。

 

    • EV急速充電需要が、昼間分散されている場合、政府目標の5000基で十分需要をまかなえ、かつ、電力系統への影響もそれほどない。

 

    • 昼食時間帯に急速充電需要が集中すると、政府目標の5000基では不十分の可能性がある。その場合も、昼食時間帯前後30分まで急速充電が分散された場合、電力系統への影響はされほど認められない。

 

  • EV充電の電力系統への影響という観点では、自宅での夜間普通充電が一番影響度が大きい。

ただし、繰り返しになりますが、様々な前提条件の下での検証結果です。
そもそもの2020年時点でのEV台数が200万台という想定に始まって、EVバッテリー/EVの仕様、EV充電頻度とEV充電シナリオ、2020年の電力需要想定が異なれば、検証結果が大幅に異なる可能性が十分あります。それを考慮に入れて、何かの参考にさせていただければ幸いです。

いかがでしたか? いろいろ前提条件を決めながら計算していったところ、自分が思っていたよりもEV充電の電力系統への影響が小さく、内心驚いています。今回は全国平均で検討しましたが、例えば首都圏のみで考えるとEVの普及率、EVの使われ方、EV充電ステーション数、電力需要パターンなどが異なり、別の結果が出るのかも知れません。時間があれば、そのような別条件での検証もしてみようと思いますが、前提条件で、ここがおかしいというような点がありましたら、ご指摘ください。

なお、 電気自動車の将来を見極めよう-全3回分のブログ内容をまとめて、『電気自動車の将来を見極める』と題して、弊社ホームページの調査実績 No.11として登録しました。通しでご覧になりたい場合に、ご利用ください。また、今回の検証に用いたデータのEXCELシートも登録しましたので、前提条件を変更しての検証に興味をお持ちの方は、合わせてご利用ください。

終わり