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「リアルワールドインターネット:RWI-その3」で、スマートグリッドというのは、電力業界の次世代インフラですが、IoT/RWIという「インフラ」から見ると、IoEという応用(=アプリケーション)の1つという見方ができるということをお話しました。
ただし、IoT/RWIという「インフラ」自体が確立/完成している訳ではないので、IoT/RWIの「インフラ」の上に展開される交通、医療その他のアプリケーションを横にらみしながら、最適な「社会インフラ」としてのIoT/RWIと、IoE/スマートグリッドを同時並行的に構築していく必要がある。
-ということで、ブログ:RWIのシリーズは終わりにしようと思っていたのですが、前回、「4-更に昔、IoTを唱えた人がいた」の中で、『RWIが言及しているNEDというのは、坂村先生の「どこでもコンピュータ」に類似している気がしました』と書いてしまって、ではどのくらい類似しているのか、どこが違うのかが気になり、坂村先生の著書『ユビキタスとは何か―情報・技術・人間 (岩波新書)』(以降、著書と略)を紐解いてみました。
今回は、この著書で述べられている内容と、RWIのどこが同じでどこが違うのか、坂村先生の「どこでもコンピュータ」側から検討してみたいと思います。

では、はじめます。

1.「どこでもコンピュータ」のエッセンス

①著書3-4ページ:ネットワーク外部化、ユビキタス・ネットワーキング

「どこにでもコンピュータがある」ためには、コンピュータが「どこにでも置ける、または付けられる」くらい小さくなくてはならない。・・・さまざまな実現方法があるが、今注目されている技術の1つは非接触ICチップ・・・コンピュータというよりは小さな形をしたメモリ・・・情報の記憶と読み出ししかできないものがほとんど。容量もそれほど大きくない・・・そのため、私の考えるユビキタス・コンピューティングの実現方法は、チップをきっかけとしてネットワークにつなげることでトータルなシステムとして働くように構想・・・チップにすべての情報を入れるのではなく、コンピュータ・ネットにつながったもっと大きなコンピュータ(サーバ)が、必要な情報を保持するとともに「処理」も行う。・・・すべてのモノ、すべての場所に関する情報をネットがつなぐユビキタス・ネットワーキング

②著書5-6ページ:インフラとしてのユビキタス

あらゆるモノ、あらゆる場所、もっと広くいえば社会全体にチップを組み込んで、世界を情報のネットワークとして構造化する・・・そうすることにより、そのモノや場所自体の情報に加えて、他のモノとの関係や、この場所から他の場所へ行くにはどうすればいいかといった場所同士の関係等が、「いつでも」「どこでも」分かるようになる・・・重要なのはユビキタス・コンピューティングが社会インフラとして構想されるべき・・・「どこでもコンピュータ」がインフラとして実現することによって、世の中で実際に起こっている現実の問題を数多く解決できる可能性がある・・・例えば鉄道網や道路交通網、ガスや電力網、電話網-最近ではこれらに加えてインターネット

③著書17-18ページ:現実空間の認識/コンテキスト・アウェアネス

つきつめていうならば、ユビキタス・コンピューティングの研究の究極の目的は、現実の世界のコンピュータによる完全認識・・・現実空間というのは、人間が見ているあらゆるもの(モノであり、自分がいる場所であり、そこにいる人であり、その空間の状況)・・・「空間の状況」というのは、光、音、湿度、風、匂いといったもので、「センサー」と呼ばれる装置が、コンピュータで理解できる情報に変換・・・コンピュータが現実の状況を認識して適切な判断をしようというのは重要なテーマ

④著書23-24ページ:認識、区別、番号

ユビキタス・コンピューティングの目的は「認識」。その基礎は「区別」「識別」。そのために区別したいもの全部に1つ1つ違う番号:ユビキタス・コード(uコード)をふる・・・大切なことは、uコードに対応する情報が、その物とは別のところに保存されているということ

⑤著書51ページ:ユビキタス・コンピューティングの定義

ユビキタス・コンピューティングとは、「世界の情報構造化」、仮想の世界と現実の世界をつなぐインフラ・・・インターネット上に生まれている仮想世界は、現実のリアルワールドと切れてしまっている。そこをつなぐのがユビキタス技術。状況を自動認識し、人・モノ・場所・概念などをコンピュータが総合的に意識して、最適制御

⑥著書132ページ:概念、コンテンツにuコードをつける

仮想空間にある概念やコンテンツにもuコードをつけることで、デジタル・ミュージアムのような新しいコンテンツの使い方が生まれる・・・現実の世界では劣化するモノを情報として半永久的に残すことができる

2.RWIと「どこでもコンピュータ」の共通性について

  • 1-②で「どこでもコンピュータ」を鉄道網や道路交通網、ガスや電力網、電話網のための社会インフラと捉えているところは、RWIと共通しています。
  • 1-⑤「インターネット上に生まれている仮想世界は、現実のリアルワールドと切れてしまっている。そこをつなぐ」という部分も、RWIと共通の認識だと思います。「状況を自動認識し、人・モノ・場所・概念などをコンピュータが総合的に意識して、最適制御」という部分もRWIの目指すM2Mの世界に通じていると感じました。

3.RWIのNEDと「どこでもコンピュータ」の違いについて

  • RWIでは、NED(Networked Embedded Devices)を、「計算能力/通信能力を備えた様々なデバイス」としており、1-①で想定されている「どこでもコンピュータ」のチップより高性能なものが想定されている気がします。
  • さらに将来的には「計算能力、記憶容量、通信機能すべての点で、現在よりずっとパワフルで、他のデバイスやサービス向けにサービスを提供するようになります。やがて、パラダイムシフトが起き、それぞれのデバイスが更に多機能化して、ビジネスインテリジェンスを実行するホスト役を勤められるようになり、サービス指向アーキテクチャの構成要素として、有効に機能するようになるでしょう。(すべての情報をホストに集めて処理する中央集権型のビジネスインテリジェンスではなく)デバイス上で、ネットワークの中だけで、状況を感知し、対応できるようになるのです。この能力は、その場の状況をうまく利用して、よりダイナミックに、高度で洗練された判断を行う全く新しいアプローチの土台を提供します」とあり、「ユビキタス・ネットワーク内に高性能なサーバがあって、そこが情報の元締めで、かつ、情報の加工処理を行う」のではなく、個々のNEDが十分パワフルで、自律/自立している感じを受けます。
  • 1-④でも、重要な情報は、ユビキタス・ネットワーク内の「マスター・コンピュータ」が一元管理する「中央集権型」の情報モデルの雰囲気がありますが、RWIでは、もっとフラットな世界が目指されている気がします。

4.RWIと「どこでもコンピュータ」の範囲

  • 1-②の「あらゆるモノ、あらゆる場所、もっと広くいえば社会全体にチップを組み込んで、世界を情報のネットワークとして構造化する」というのは、「チップ」という表現を除けば、RWIの目指すところと同じように思われます。
  • ただし、1-⑥にあるように「仮想空間にある概念やコンテンツ」にもIDを割り当てようとしている分、「どこでもコンピュータ」の方が、範囲が広いといえるでしょうか。
  • また、1-③「現実空間というのは、人間が見ているあらゆるもの」としているところが、表現上だけのことかもしれませんが、ユビキタス・コンピューティングが人間中心であるのに対して、RWIではM2Mに重心が置かれている気がします。

以上、坂村健先生のユビキタス・ネットワークとRWIを比較し、どこが同じで、どこが違うのか検討してみました。
ユビキタス・ネットワークが今利用可能なチップ(モノ)と技術で何ができるかを含め、現実ベースで語られているのに対して、RWIでは、将来、ナノテク技術、センサー技術、無線技術、コンピュータ技術、ビジネスインテリジェンスなどの応用技術がさらに進歩した上で何ができるかを語っているだけの違いかもしれません。

なお、坂村先生の著書『ユビキタスとは何か』の『第5章 イノベーションとしてのユビキタス』、『第6章 日本が見るべき「夢」』は、ユビキタスの解説にとどまらず、イノベーションとは何かという話から、日本はどうすべきかという話まで、内容がヒートアップしています。そして、その内容は、平成21年12月7日に開催された、第4回国土交通省成長戦略会議で、坂村先生が『日本の成長戦略』に反映されているのを見つけました。いくつか興味深い表現がありましたので、以下に再掲します。

• 米国のやり方は大学の研究はすぐベンチャーでビジネス化。論文よりも商品が先に出てくる。コンソーシアムも民間が主体。インフラ的でビジネス主導が難しい分野のみDoDがサポート
• 欧州のやり方は、手を動かす前にまず哲学。関係者でまず哲学を議論しコンセプトを共有化してから要件定義。具体目標に細分化し個々のプロジェクトを起こし、さまざまな政府機関や民間からプール予算を分配してつぎ込む⇒そのパターンがCASAGRASからIoT
• 日本のやり方は? 米国と欧州の中間。いいとこ取り? それとも…
• イノベーションを「技術革新」と訳したのは日本にとって不幸な誤訳。 イノベーションとは利益を生むための「差」を新たに生む行為。差を生むのは技術だけではない。工場の移転や商売相手の変更制度の変更でも、…
• 社会インフラは技術+制度。技術設計と同程度かそれ以上に制度設計が重要
• (ユビキタス・コンピューティングは)インターネットの次のイノベーションインフラ。 インターネットは「ネットの向こう側」で多くのイノベーションを産んだ。次に必要なのは「ネットの向こう側」と現実世界を結ぶオープンでユニバーサルなインフラ
• 「ネットの向こう側」と現実世界を結ぶためGPSやRFIDや各種センサーを統合して現実世界の状況を認識し、それを標準的で汎用的なデータとしてネット側に送り広く利用できるようにする
• 「ユビキタス・コンピューティング」=状況を自動認識するために…環境中に「遍在的」にコンピュータ要素を配置すること
• 「ユビキタス・インフラとは、現実の物品・場所・状況などと情報空間をつなぎ、「その時・その場・その人」に合った情報サービスを「いつでもどこでも」呼び出せるようにする、いわば実世界をも取り込むクラウド・コンピューティング
• 「その場」から、「その時・その人」にあわせた情報サービスを提供できるようになる

最後に、RWI/IoTをさらに深く知るために参考になりそうな、今年に入ってから発刊されている文献をいくつか掲載しておきます。

文献タイトル

発行元

発刊日

頁数

ISBN

Internet of Things in 2020 A ROADMAP FOR THE FUTURE

EPoSS

2008.9

32

Global Trends 2025: A Transformed World

National Intelligence Council

2008.11

120

Real World Internet – Position Paper

European Future Internet
Portal

2008.12

8

Internet of Things:  – an early reality of the Future Internet

FIA WORKSHOP REPORT

2009.5

30

R&D on the Internet of Things:the EPoSS point of view

EPoSS

2009.12

21

CERP-IoT Vision and Challenges for Realising the Internet of Things

CERP-IoT

2010.3

236

978-9279150883

The Internet of Things: 20th Tyrrhenian Workshop on Digital Communications

Springer

2010.3

442

978-1441916730


The Internet of Things: Connecting Objects

Wiley-ISTE

2010.5

288

978-1848211407

Interconnecting Smart Objects with IP: The Next Internet

Morgan Kaufmann

2010.6

432

978-0123751652

終わり