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欧州の国際電気標準会議(IEC)戦略グループSG3が、先月公開した「IEC版スマートグリッド標準化ロードマップ:IEC Smart Grid Standardization Roadmap Edition 1.0」をご紹介しています。
今回は、その第4章「IECスマートグリッド標準化ロードマップ」の前半部分をご紹介したいと思います。


出典:同ドキュメント表紙およびhttp://www.iec.ch/smartgrid より

では、はじめます。

4. IECスマートグリッド標準化ロードマップ

4.1  ロードマップ策定手順の説明

本節では、(スマートグリッドに関連する)既存のIEC規格を洗い出し、スマートグリッドに適用する場合、今後の新しい標準化活動が必要となりそうなギャップを明らかにするために採用した手順を概説する。

まず、その手順として、トップダウン方式を採用した。前述したように、スマートグリッドの主要アプリケーションの特徴はスマートグリッドの市場推進要因に求めることができる。したがって、スマートグリッド・アプリケーションのユースケースを吟味することで、そのアプリケーションとユースケースが提起する要件が明らかとなる。その要件が、当該アプリケーションの課題と標準化の必要性を分析する手がかりとなるのである。

要件を洗い出す部分の詳細な手順は以下のとおりである:
1. 電力業務におけるすべての機能要件とシステム管理要件を捉えて記述する

-ドメイン(例えば市場操作)ごとに操作をまとめる
-その操作に使われている/使われるであろう/使われ得るすべての機能(例えば配電自動化、発電ディスパッチ)をすべて洗い出す
- 各機能を非常に簡潔に記述する
- 各機能について、関連する要素間の重要なインタフェースを洗い出す
- 各機能をサポートするための(データ管理やセキュリティ等の)すべてのシステム管理要件をすべて決定する

2. 各機能要件およびシステム管理要件について、アーキテクチャ設計への影響度を評価し格付けする

3. アーキテクチャ設計に重要な影響を及ぼす可能性のある機能を洗い出し、簡潔に評価する

こうして洗い出した要件が、既存の規格で満たされているか、あるいは、新たな規格開発の必要性があるかどうかを分析検討し、最後にIECへの提言としてまとめた。これらの提言は、SMB/SB1のような最高管理評議会から、TC、SCのような委員会と、更にその下の作業部会まで、IECのいろいろなレベルの組織に向けたものになっている。

最初に、一般的な要件を調べたところ、ほとんどのスマートグリッド・アプリケーションおよびユースケースの主要共通要件として、増大するインテリジェントなデバイス、ソリューションおよび組織の高度な相互運用性が見いだされた。
かつてないほど複雑化した電力系統の相互運用性を考える場合、運用性自体と可制御性を考える必要がある。また、相互運用性には2つの側面、すなわち、「構文的な相互運用性」と「意味的な相互運用性」がある。
「構文的な相互運用性」とは、2つ以上のシステムがデータを通信し交換する能力を指す。これは、主に標準化されたデータ形式とプロトコルを通じて行われ、したがって、典型的な標準化対象分野である。IECおよび他のSDOの作業の多くは、相互運用性の形式策定に集中している。この「構文的な相互運用性」は、より高いレベルの相互運用性を実現するための必須条件である。
「意味的な相互運用性」とは、2つ以上のシステムが交換されたデータを自動的に解釈する能力である。これを達成するためには、共通の情報交換参照モデルを容認しなければならない。これも重要な標準化対象領域である。
以上のどちらの相互運用性についても、通信が、一般的な要件となっている。そこで、将来の電力網で、すべての主要ドメインにまたがる情報に関して、どのような情報交換/自動的な解釈が行われ得るか詳細に調査した。

もう1つの共通要件はセキュリティである。
セキュリティには、危険、損失および犯罪行為からの保護がある。セキュリティは、そのような危害を防ぐ行動に関する規定を含んでいなければならない。電力網は、重要な社会インフラなので、(セキュリティに関して)既に政府系機関による多くの規制や要件が存在するが、スマートグリッドの出現による、情報交換頻度の増大と制御性向上のため、サイバー・セキュリティという新たなレベルのセキュリティが求められている。

これら一般的な要件を吟味した後、SG3では12の特定アプリケーションとその要件の検討に専念した。それらは、スマートグリッドの主要領域をカバーするものである。
※実際の章立てでは、3つの一般要件と13の特定要件をカバーしている
また、ドキュメントの後半(4.4節)では、その他の要件についても分析している。それらは、主としてスマートグリッドの実装に必要な要件である。しかしながら、それらはスマートグリッド特有、あるいは、スマートグリッドがもたらす変化に特有なものではない。例えば、EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁妨害への耐性)は、スマートグリッド・ソリューションの要件の1つではあるが、他のシステムでも同様に要件となり得るものである。

個々のサブシステムの構成:

(4.2、4.3節の各項の要件に対するスマートグリッド標準化ロードマップの記述の構成)
サブシステムを概説する各項は、以下の5つの条からなる:
● 特徴:アプリケーションの短い説明と、必要なら、いくつかのユースケースを記述
● 要件:そのようなアプリケーションをカバーするため必要な要件を記述
● 既存規格:IECが公表した既存規格のうちに、既に必要な要件をカバーするような標準規格を記述
● ギャップ:必要な要件を満たすにはギャップが認められる場合、それを記述。新規の標準規格を策定する必要があるのか、既存規格を変更するだけで良いのかも示した
● 提言:IECへの提言を記述した。

※ IEC-SG3は、スマートグリッド標準化戦略を規定する責務のもとに本ロードマップをまとめており、具体的な対応(既存標準規約の改定や、新規標準規約策定)は、先にも述べられているとおり、内容によって、IECのSMB、TC、SCや、更にその下の作業部会に委ねられるため、「提言」の形をとっている。

4.2 一般

4.2.1 通信

4.2.1.1 特徴

セキュアで、信頼度が高く、経済的な電力供給を行うためには、高速で、高効率、高信頼度の通信インフラが欠かせない。通信ネットワークの計画と実現には、電力供給装置自身を設置するのと同等の注意が必要である。スマートグリッドを実現するためには、共通の概念のもと、すべてのコンポーネントとステークホルダは効率的にインデグレートされねばならない。そのためには、構文的および意味的な相互運用性という2つの課題をクリアしなければならない。
複雑なコンポーネントおよびステークホルダのインタフェースを明らかにするため、図3に電力業界における基本システムとそれらの相互接続について記述した。

図.3 概念モデル

通信の観点からすると、各システムはそれぞれ、情報提供者、情報利用者、あるいは、その両方の役割を果たしている。このシステム間通信に加えて、これらのシステムは、特定の内部通信を行うサブシステムから成っている。

以下のパラグラフでは、そのようなサブシステムを含むスマートグリッドの基本システムを紹介し、通信を行う動機を明らかにする。

システム:大規模発電

「発電」には、例えば原子力発電、水力発電や化石燃料を使う火力発電からメガソーラー、ウインド・ファームまで、大量にエネルギーを電力に変換するプラントが含まれる。それらのプラントは、送電系統に通常直接接続され、(単に電力を供給するばかりでなく)電力系統安定化装置(PSS)が提供するような、インテリジェントな機能も持っている。

大規模発電

サブシステム通信

プロセス自動化

発電プラントにおけるプロセス自動化は、エネルギー変換過程の制御・監督に用いられ、対応するEMS/DMSシステムや発電・負荷計画システムへのインタフェースを提供する

変電所自動化

「変電所自動化と保護」のスコープは、電気的なプロセスと、変電所の装置を保護・制御することである。

そのために、電気的なプロセスの状況に関する情報が保護・制御装置間で交換され、異常が見つかると適切な対応がとられる

システム間通信

運用

需給計画と、その修正計画の情報交換

市場

発電スケジューリングと電力取引のために利用可能な電力情報(送電量および運用予備力)が市場に公開される

システム:送電

送電系統は、発電所から遠く離れた需要地に電気を届けるための送電線と、変電所から構成される。遠隔制御、現場での制御、および送電系統を監視するため、変電所は、変電所自動化システムを装備している。

送電

サブシステム通信

変電所自動化

4.3.5 変電所自動化の項参照

システム間通信

運用

送電系統は、通常、送電系統運用者によって遠隔操作で制御・監督される。したがって、情報は変電所と中央のEMSアプリケーションの間で交換される。そこには、メーター計測情報だけでなく、設備管理アプリケーションで必要となる装置状況の情報も含まれる

システム:配電

配電系統は、消費者への電力供給を行うローカルな電力網である。従来、電力は送電系統により運ばれてきたが、分散電源によるローカル発電が増え、今後配電系統に直接供給する電源が増えると思われる。更に、変電所の自動化は、(中圧、低圧の)小型トランス変電所まで拡張され、故障識別がより早く行えるようになって、障害復旧までの時間が短縮されるようになる。

配電

サブシステム通信

変電所自動化

4.3.5 変電所自動化の項参照

配電自動化

4.3.4 配電自動化の項参照

分散電源:DER

4.3.6 分散電源の項参照

システム間通信

運用

配電系統は、通常、配電系統運用者により遠隔制御・監視が行われている。したがって、変電所と中央のDMSアプリケーション間で情報交換が行われる。

設備管理アプリケーションのための情報と、装置状況に関する測定情報の送信に加えて、分散電源プラントでは、VPP(仮発電所)のコンセプトに基づいた協調制御の情報交換が行われる可能性がある

サービス

運用支援機能の提供(例えば、再生可能エネルギーの発電量予測)

プロシューマ

メーター計測、デマンドレスポンスおよび分散電源管理のため、配電管理システム(DMS)との情報交換を行う

システム:運用

運用システムには、ネルギー管理(EMS)および配電管理(DMS)システムのネットワーク管理センターが含まれる。EMSの停電対応およびDMS参照。

運用

サブシステム通信

変電所自動化

4.3.5 変電所自動化の項参照

配電自動化

4.3.4 配電自動化の項参照

分散電源:DER

4.3.6 分散電源の項参照

システム間通信

大規模発電

大規模発電のシステム間通信参照

送電

送電のシステム間通信参照

配電

配電のシステム間通信参照

市場

発電スケジューリングと電力取引のために利用可能な電力情報(送電量および運用予備力)や、電力売買注文情報が、電力取引システムとの間でやり取りされる

サービス

運用支援機能の提供(例えば、再生可能エネルギーの発電量予測)

プロシューマ

メーター測定、デマンドサイド・マネジメントおよび分散電源管理で、DMSとプロシューマ間の情報交換が行われる

システム:市場

電力市場システムでは、電気エネルギーは商品として売買される。その電気エネルギーの売買価格は需給によって決定される。
将来のシステムでは、電力取引市場と価格の情報は、今現在そのような市場情報を受け取れない人まで広くいきわたるだろう。情報は、オンラインで、今日よりはるかに短い時限内に配信されるはずである。各消費者は、一時間ごとか、もっと短い間隔で、電力価格情報を受け取るようになると思われるが、それは、IECの定める標準規格対象外である。

市場

サブシステム通信

電力取引

市場の項 参照

※対応する記述なし

システム間通信

運用

発電スケジューリングと電力取引のために利用可能な電力情報(送電量および運用予備力)や、電力売買注文情報が、電力取引システムとの間でやり取りされる

大規模発電

発電スケジューリングと電力取引のために利用可能な電力情報(送電量および運用予備力)が、大規模発電システムから送信される

サービス

市場支援サービス(例えば再生可能電源の発電予測)

プロシューマ

発電スケジューリングと電力取引のために利用可能な電力情報(送電量および運用予備力)や、電力売買注文情報が、電力取引システムとの間でやり取りされる

システム:サービス

サービス・システムは、広い範囲にわたって新たなサービス展開の可能性がある。スマートグリッドをきっかけとして新たな事業モデルが出現するかもしれない。そのためには、サービス・システムは他の様々なシステムとインタフェースを持ち、それらのインタフェースに依存するだろう。

サービス

サブシステム通信

新しいサービスアプリケーションがシームレスにすべてのシステムに適合するためには標準化されたソフトウェア開発方法論に従う必要があるが、それは、IECが関連する標準規格の範囲外である

システム間通信

運用

運用支援機能(例えば、再生可能電源の発電予測)

市場

市場支援機能(例えば、再生可能電源の発電予測)

プロシューマ

設置、保守、ビリング、ホーム&ビルディングマネジメントなどの顧客サービスが考えられる

システム:プロシューマ

プロシューマ

サブシステム通信

HBES/BACS参照

プロセスの自動化

化学薬品工業や製造業など多くの産業では、プロセスオートメーションが製造工程だけでなくエネルギー消費や発電の制御・監督に適用されている

システム間通信

サービス

運用支援機能(例えば、再生可能電源の発電予測)

運用

4.3.6 分散電源および 4.3.7 AMIの項参照

市場

発電スケジューリングと電力取引のために利用可能な電力情報(送電量および運用予備力)が、電力取引市場システムから送信される

配電

通常、配電システムインフラがDMSとの通信に使われる

4.2.1.2 要件

スマートグリッドの通信の主目的は、すべてのコンポーネント間で高度に相互運用可能な通信を実現することである。これは、共通のセマンティック(データモデル)、共通のシンタックス(プロトコル)および共通のネットワークコンセプトに基づいて初めて可能となる。そこで、サブシステム間通信方式の収束と協調が推し進められている。
一般的要件として、時代遅れとならない通信コンセプトの採用が求められる。通信技術同様、アプリケーション分野でも、将来の拡張に対してオープンであらねばならない。ただし、(電力系統のすべてを同時に一斉に刷新できないので)単に最先端技術のコンポーネントを効率的に統合することに関してだけオープンなのではなく、レガシーな通信コンポーネントに対してもオープンである必要がある。
リアルタイム・アプリケーションでは、システム全体にわたる、高精度の同期を必要とする。また、重要なアプリケーションの場合、高いサービス品質が通信コンセプトに求められる。したがって、高度な冗長性のコンセプトが不可欠である。

中途半端ですが、かなり長くなってきましたので、一旦区切りをつけてアップします。
ここまでで、IECスマートグリッド標準化ロードマップの形が見えてきたと思います。すなわち、このロードマップを作成したIEC-SG3としては、既存のIEC国際標準をどのようにすればスマートグリッドに適用できるか、そのためにはIECのSMB、SC、TCおよび、それらの下部組織であるWGで何をすべきかを、IEC内のそれらの当該組織向けに提言するとともに、現状では、IECの国際標準を使ってここまでスマートグリッド化をサポートできるし、今後更にIEC標準規格をスマートグリッド構築向けに充実させていくという方向性を一般向けにも見せているということですね。

また、米国NISTの“労作”である概念モデルを、しっかり/ちゃっかり流用していることも確認できました。

次回は、この続きで、スマートグリッドの一般要件の1つである通信について、現在のIEC国際標準ではどのような規格があるのか(既存規格)、それらをスマートグリッド構築に利用するためにはどのようなギャップがあるのか、それに対してSG3としてはIEC内の当該組織に対してどのような提言をしているかを見ていきます。

終わり