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スマートグリッド業界のプレーヤーを概観するため、GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の5章を簡単にまとめています。今回は第5.7節「その他のスマートグリッド関連メジャー・プレイヤー」です。

なお、従来どおり、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、また、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

5.7 その他のスマートグリッド関連メジャー・プレイヤー

5.7.1 シスコ:Cisco

シスコ・システムズは、インターネット・プロトコル(IP)ベースのネットワーク機器やICT業界向けの製品の設計・製造と、それらの製品に関連したサービスを提供する会社である。同社は、建物内、大学のような構内全域、さらに世界中を飛び交うデータを転送するための製品ライン用意しており、人々の結び付き、会話、協働の仕方への変革をもたらしている。
ルーター、スイッチをはじめとする同社の製品は、企業、公共機関、通信事業会社、営利事業会社から個人宅まで幅広く用いられている。1984年設立され、本拠はカリフォルニア州サンノゼ。従業員は66,000人以上。

これまで水面下でスマートグリッドを追求していたシスコは、2009年5月、正式にスマートグリッド市場でリーダーシップをとる決意を発表した。
AMIネットワークと通信、配電および送電の自動化、データ記憶装置およびホーム/ビル・エネルギー管理など、スマートグリッドの広範囲な分野への進出を明確にしたのである。
それに先立つ2009年1月、商業ビルのコンピューター、照明、電話その他のビル内の電気製品をエネルギー管理プラットホームに連係させる新製品EnergyWiseを発表した時、既にホーム/ビル・エネルギー管理システムへの関心の高さを示していた。
しかし、2009年5月の発表で、シスコは、スマートグリッドに巨大なビジネス機会を見、事実上、スマートグリッドのすべての領域に参戦することを明らかにしたのである。

【アナリスト ノート】

2009年4月、フロリダ・パワー&ライト(FPL)は、2億ドルを投じて「エネルギースマート・マイアミ・プロジェクト」という興味深いスマートグリッド展開を行うことを発表した。そのプロジェクトでは、GEがスマートメーター、シルバースプリングが無線通信部分、そしてシスコが、この分野でははじめてネットワーク提供者として参加していた。

また、6月、デューク・エナジーの10億ドルのスマートメーター/AMIプロジェクト開始に先立って、シスコは、デューク・エナジーと業務提携を結んだことを公表した。
デューク・エナジーは、この5年間でPHEVからマイクログリッドまで種々のアプリケーションのテストに関わってきた、スマートグリッドの最も熱烈な信奉者の1人だったにもかかわらず、AMIネットワークのパートナー選びには非常に慎重だった。
安心・安全をモットーとするこの業界で、シスコという選択は、有名・優秀ではあってもベンチャー企業がひしめくスマートグリッドベンダーの中で、一際「安全な選択」と映るようで、この先、他の多くの公益企業も先例に従う予感がする。
今後のAMI契約において、シスコは、現在のAMIネットワークビジネス・リーダーであるシルバースプリング・ネットワークと競り合っていくことになるだろう。

5.7.2 IBM

IBMは、1910年の設立。ニューヨーク州アーモンクに本拠を置き、従業員数は400,000人を超える。IT関連製品の開発製造とサービスを世界的に展開している企業である。

中小企業のビジネスから、バンキング、保険、教育、政府、ヘルスケア、生命科学、航空宇宙および防衛、自動車、化学薬品及び石油、エレクトロニクス、流通、電気通信、メディアとエンターテインメント、そしてエネルギーおよび公益企業まで幅広くサポートを行っている。

スマートグリッド・プロジェクトの推進に当たっては、プロジェクトの設計から運用まで幅広く支援している。IBMは、スマートグリッドに関する社会政策の推進と広報活動にもっとも熱心な会社の1つで、スマートグリッドがもたらす便益、課題、技術、とりわけ(スマートグリッドを州単位や国単位で実運用までこぎつけるには、少なくとも数年を必要とし、その間にも技術進歩が考えられるので)異なる技術が展開していく期間等の認識を広めるのに貢献している。
IBMはスマートグリッドのサービスとソフトウェアの両方を提供しており、スマートグリッドの展開に当たって、①州規制機関に信頼できる情報提供をしたり、②配電事業者とITプロバイダーの間の「仲人役」を買って出たり、③特定のベンチャー企業/技術が、公益企業全体に大規模展開する準備ができているかどうか評価したり、最新のICT技術の展開に関して後れをとっているエネルギー業界が今後遭遇するであろう多くの問題に取り組もうとしている。
ソフトウェアに関して言うと、IBMは、スマートグリッド、AMIデマンドレスポンス、分散電源および電力貯蔵装置、HANおよびPHEVの主要市場に向けてシステム・アーキテクチャと業務アプリケーションを提供している。

テキサス公益企業のセンターポイント、オハイオ州に本拠を置くAEP(American Electric Power)、ミシガン州のコンシューマー・エナジーやフランスの公益事業会社であるEDFとスマートグリッド実証実験を実施している。
その他に、マルタ島で、エネルギーおよび水道水の供給を行う興味深いスマートグリッド・プロジェクトに関わっており、5年間で、島内全域にスマートグリッドを展開するための設計から実施までを担当する。

注:IBMのGlobal Financing部門は、スマートグリッドおよびエネルギー効率化のプロジェクトを含め、重要景気刺激策分野のITイニシアチブに20億ドルの投資を決めたと2009年3月に発表。
また、2009年6月には、エネルギー、水資源、廃棄物および温室効果ガス管理のためのスマートなソリューションを提供する目的で、メータリング、モニタリング、オートメーション、データ通信、ソフトウェア、解析を得意とする業界のリーダー達とアライアンスを組むことを発表している。
この同盟はGreen Sigma Coalitionと呼ばれ、ジョンソン・コントロールズ、ハネウェル・ビル・ソリューション、ABB、イートン、ESS、シスコ、シーメンスの
ビルディングテクノロジー部門、シュナイダー・エレクトリックおよびSAPが創立メンバーとなっている。
ここ数年間、IBMは、全世界で40を超える公益企業の協力の下、スマートグリッドのロードマップ作成に取り組んできた。その一環で開発した「スマートグリッド成熟度評価モデル」を、カーネギーメロン・ソフトウェア工学研究所(SEI)に寄贈すると、2009年3月に発表した。

【アナリスト ノート】

IBMは、スマートグリッドの最も初期の段階からの有力な支持者の1人である。
多くの公益企業は、まだ(IBMがスマートグリッドのインフラとして提唱するような)バスシステム・アーキテクチャを持ちさえしていないが、(逆に言うと)IBMには、今後、システム・アーキテクチャ、ミドルウェア、高度なアプリケーションから種々のコンサル作業まで、巨大なビジネス機会があるということになる。
世界中で、すでに最大級のAMI展開を多く手がけており、マーケットリーダーとなるべく、好位置につけているように見える。

5.7.3 マイクロソフト:Microsoft

本レポートが丁度印刷にまわっていたころ、マイクロソフトは「MS Hohm」の市場投入と同時に、ホーム・エネルギー管理の分野への参入を発表した。MS Hohmは、ユーザー個々人のエネルギー消費量を把握し、省エネや電気代節約のためのプランを提示するオンラインアプリケーションである。

マイクロソフトがスピーディーにMS Hohmリリースにこぎつけた背景には、当面、エネルギーデータを採取する装置としてスマートメーターにこだわっていないことがあげられる。(スマートメーターからのデータ採取は、スマートメーターが使えるようになって考えればよいというスタンス)
既に4つの公益企業(Puget Sound Energy、Seattle City Light、エクセル・エナジーおよびSacramento Municipal Utility District)の顧客への情報提供を行っており、その他の公益企業5、6社とも協力関係を結ぼうとしている。
一方、スマートメータリングの大手2社(アイトロンおよびランディス+ジル)とも協力関係を結んでおり、彼らのスマートメーターからのデータ採取にも対応しようとしている。

【アナリスト ノート】

同社はホーム・エネルギー管理市場への参入に力を入れており、今後、グーグル、テンドリル、グリッドポイント、グリーンボックス(買収されたので現時点ではシルバースプリング・ネットワーク)その他のエネルギー管理システム・ベンダーとの競い合いが予想される。
グーグルとマイクロソフトの大きな違いは、マイクロソフトがMS Hohmを自社ビジネスのコアの一つとすることをねらっているのに対して、グーグルは、自社(Google.org)の慈善事業の延長線上に製品(Google PowerMeter)を位置づけていることである。


MS Hohmの画面例

5.7.4 オラクル:Oracle

オラクルは、 1977年に設立。本社はカリフォルニア州レッドウッドシティーで、従業員数は84,000人超。企業向けのソフトウェア会社で、あらゆる組織のビジネス管理で必要とされるデータベースやミドルウェアの開発・製造・販売・サービスを手がけている。
会社の組織としては、①ソフトウェア②サービスの2つがあり、次の5つの事業分野に分かれている。
1)新規ソフトウェア・ライセンス事業
2)ソフトウェア・ライセンス更新と製品サポートを行う事業

3)コンサルティング
4)オン・デマンド
5)教育事業

2008年度では、ソフトウェア・ビジネスが総収入の80%を占め、サービス・ビジネスは20%だった。
2009年第2四半期に、「オラクル スマートグリッド・ソフトウェア」を発表したが、これは基幹アプリケーションとバックエンドの技術インフラを含む、エンドツーエンドのソフトウェアとなっている。
具体的には、MDM、AMIと停電管理の統合、グリッド最適化、デマンドレスポンス/負荷分析、CIS、作業管理/設備管理、再生可能エネルギーのインデグレーションなどの機能が含まれている。

【注】

2006年、オラクルは、(公益企業向けCISで有名だった)SPL WorldGroupを買収。2007年には、公益企業向けMDMソフト会社Loadstarも買収して、公益企業向けソフトを提供するIBMやSAPと肩を並べるとともに、eMeterやEcologic Analyticsなどのベンチャーと競争し、(自前のMDMソフトウェアを提供する)アイトロンのようなスマートメーター・メーカーとも競争する分野に足を踏み込んだ。

【アナリスト ノート】

2009年5月、オラクルは、スマートグリッド・ビジネス分野に乗り出した。企業向けソフトウェアベンダーのリーダーとして、オラクルは、ICTの取り込みで後れをとっているこの(エネルギー)業界で非常に多くのビジネス機会を得ることができると思われる。
公益企業が新たなアプリケーションを統合するため制御システムを更新するに当たって、オラクルは、システム・アーキテクチャとインデグレーションの課題解決の強力な助っ人と目されるだろう。オラクルが、公益企業のレガシー・システムをデジタル時代に適合させるための種々のミドルウェア・ソリューションを備えていることも大きな魅力である。
オラクルは既に多くの公益企業と取引関係を持っているが、スマートグリッド(とりわけAMIに関しての)プロジェクトでは、IBMの後塵を拝している。とは言え、CISとMDMという2つの有望な武器を持つオラクルは、十分な戦力も有しており、どこで攻撃を仕掛けるのか、非常に興味をそそられる。

以上、スマートグリッドに関連するメジャー・プレイヤーをご紹介しました。

どの会社も紹介するまでもないですが、スマートグリッドに関連して何をしようとしているか、興味深かったのではないかと思います。以下、それぞれのメジャー・プレイヤーに対する感想です。

シスコ

少し前に弊ブログでリアルワールドインターネット:RWIをご紹介しましたが、将来のインターネット(あるいは、モノのインターネット:IoT)のキラー・アプリケーションが、スマートグリッドであるというのが、シスコの捉え方のようです。
端末(スマートメーターや送配電制御機器その他のセンサー)数、ルーター(スマートメーターのデータ集約器や、送配電制御機器を制御するSCADAサーバなど)数などを考えても、現在のインターネットを上まわるネットワークとなることは必至で、そこに巨大なビジネスチャンスを見出したということだと思います。

※ 「モノのインターネット」に関して、今までで一番具体的で分かりやすいシスコの記述をEPRIのホームページで見つけましたので、脱線してしまいますが、ご紹介しておきます。
「モノのインターネット」とは、基本的に、無数の新たな応用を可能とする「スマートオブジェクト」同士を接続するためのアイデアである。その接続には、IP(インターネットプロトコル)を使用するが、それは、いわゆるインターネットでなくてもVPNあるいは全くのプライベートIPネットワークでも良い。
なお、「スマートオブジェクト」には、4つの種類がある:
① インテリジェントタグ(RFID)
② センサー:電力消費量、エンジン振動、排気ガス濃度、気温、CO濃度などの物理的な量を測定し、それをアナログまたはデジタル信号に変換するデバイス
③ アクチュエータ:ガスや液体の流量調整、給電制御、機械的な動作など、設備装置を制御するデバイス
④ より複雑なモノを形成する、上記の特徴の任意の組み合わせ

IBM

IBMは、イタリアの電力会社エネルのスマートメータリング・プロジェクトにかかわる等、早くからスマートグリッド関連のプロジェクトに携わっています。それも、先端的な実証実験プロジェクトだけではなく、スマートメーターの展開・実運用にかかわるプロジェクトに参加しています。それにもかかわらず、AMR/AMIのような製品を持っているわけではなく、また、送配電設備を制御するようなIBM製品も聞いたことがありません。ICTインフラの提供と、その企業規模を利用したシステム・インテグレーターとして、スマートグリッド・プロジェクトのまとめ役(5.7.2の②)に徹しているのだろうと最初は思っていたのですが、調べてみると、規制機関へ情報提供し、国/州の環境に適合する制度設計の支援(5.7.2の①)という地道な活動を大切にしているようです。
2007年には、先進6カ国の1,894人の消費者と約100名の産業界エグゼクティブを対象に、2008年には先進12カ国約5,0984人の消費者にインタビューした結果、エネルギー業界の将来に最も影響のある2つの要因は、技術進展と消費者の自主性(主導権)にあるとの結論に達し、その進展度合いの組み合わせにより、4つの業界モデル図を作っています。

出典:日本IBM 「スマートグリッド、スマートメーターの現状と事業化に向けた展望」

これまでのエネルギー業界モデルは、洋の東西を問わず、エネルギー事業者主導で大型集中電源からの電気を一方的に消費者に届ける形なので、図の左下に位置します。
これに対して、アメリカ型スマートグリッドは、デマンドレスポンスなどを通して消費者に一部主導権を委譲し電力需給のコスト最適を図る右下の方向に進もうとしています。
一方、ヨーロッパ型のスマートグリッドはウィンドファームやメガソーラーなど大型分散電源の有効利用という点からすると、左上の方向に進もうとしていて、図の中のコメントにあるとおり、消費者はあまり主導権を発揮できないといえます。
日本型スマートグリッドは、住宅用太陽光発電大量導入をベースとした再生可能エネルギー利用に力点が置かれていますので、本来ならIBMが理想とする右上の参加型ネットワークの業界モデルの方向に向かうはずですが、果たしてどうなるでしょう?

マイクロソフト

マイクロソフトのMS Hohmのニュースを聞いたときは、Google PowerMeterの二番煎じに過ぎないのだろう-と思って、ろくに内容を見ていなかったのですが、このレポートを読んで、①マイクロソフトの方がビジネスとして本気で取り組もうとしていること、②スマートメーターの普及を待っていられないので、料金計算に使用される電力計以外に設置したセンサーによる電力量計測データを受け付けることなどを知りました。
逆に言うと、Google PowerMeterは、グーグルにとって、消費者をiGoogleに呼び込むアクセサリーの1つということでしょうか。

オラクル

オラクルのM&A戦略は徹底しています。公益事業の顧客とターゲットにすると決めたら、この業界のCISを得意とするSPL社の買収に始まって、MDMや負荷分析を得意とするLoadstarその他を矢継ぎ早に買収。SiebelやHyperionのエネルギー業界向けの製品などを含めて、瞬く間にほぼエネルギー業界の業務すべてをカバーするに至っています。
下図を見ると、SCADAと電力取引及び電力リスク管理以外は自社製品でカバー)

出典:ORACLE SOLUTIONS FOR UTILITIES

最後に、例によって、GTMリサーチのスマートグリッドマップ上で、これらのメジャー・プレイヤーの位置を確認しておきましょう。

図の拡大

今回は、その他のスマートグリッド関連メジャー・プレイヤーということですので、GTMリサーチのスマートグリッドマップに占める位置は、ばらばらになっても仕方ないのですが、システム開発とインテグレーションの位置づけでは、アクセンチュア、CapGemini、EnerNex、HP、Logicaと競合していることが分かります。
シスコは、本来のLANの領域以外に、FAN/AMIとHAN/Building Area Networkの領域に進出しています。
IBMは、システムインテグレーターの位置の他にDistributed Generationの位置を占めていますが、調べたところ、「Rebuilding Our Energy Future with Power Generation Solutions from IBM」を見つけました。しかし、制度設計のための規制機関の支援や、スマートグリッド関連技術のアセスメントなどは、この図の中では表現できていません。
マイクロソフトは、図上、HAN/Building Area Networkの一隅を占めているに過ぎません。
オラクルは、システムインテグレーターの位置と、Meter Data Managementの領域にしか名前が見つかりませんが、LAN領域のSun Microsystemsも今やオラクルに買収されていますので、オラクルの領域がまた1つ増えています。

なお、これまで複数回にわたってご紹介してきたGTMリサーチ「2010のスマートグリッド」の5章分を1つにまとめ、5.8節も追加して、弊社ホームページ「調査実績 NO.13」として登録しました。ダウンロードしてご覧いただけるようにしましたので、あわせてご利用ください。

終わり