- 自動デマンドレスポンス・インフラ -


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前回は、時間を溯って、デマンドレスポンス(以降、DRと略)の生い立ちを見てみました。
今回はADR(Automated Demand Response:通信、コンピュータシステムを家電機器などと連動させ自動的に需要抑制を行うDR)を取り上げます。
ご紹介するのは、米国ローレンス・バークレイ国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory:以降、LBNLと略)のMary Ann Piette氏、Sila Kiliccote氏、およびGirish Ghatikar氏による、2007年11月に開催されたGrid Interop Forumでの講演資料「Design and Implementation of an Open, Interoperable Automated Demand Response Infrastructure:オープンで相互運用可能な自動デマンドレスポンス・インフラの設計と実装」です。

いつもどおり、全訳ではないことと、場合によっては「超訳」になっているかもしれないことは、予めご承知おきください。
また、本文中へのコメント・補足の追記は文字色を緑にしています。

では、はじめます。

はじめに

カリフォルニア州の公益企業は、夏季ピーク時間帯の負荷軽減のため、緊急ピーク時間帯料金その他のDR価格メカニズムを使用し、DRプログラムの有効性について実証試験を実施してきた。
この資料は、2003-2007年、カリフォルニア州で実施されたDRフィールドテストの概略を紹介するものである。ただし、DR自動化の設計の歴史に焦点を当てたもので、省エネの方策の詳細や、実際の計測結果に焦点を当てたものではないことに、留意されたい。

DRは、個々の顧客が能動的に負荷を調整する(=DR対策を講ずる)ことにより、電力需要の負荷曲線の形を変える仕組みである。
DR対策には、
① 照明を暗くする/不要な照明をきる、
② エアコンの設定温度を調整する、
③ 必須ではない設備機器の電源を落とす
などして、電気的負荷を軽減すること等が含まれるが、系統負荷軽減は、DRに始まった訳ではない。需要側管理(DSM)として既に実施されてきたが、これまでの需要抑制手順は人間系で出来上がっており、

  • まず、ビルの管理者が電子メール、電話、あるいは無線呼び出しで合図を受け取り、
  • その合図に従って需要抑制を実施する

というものだった。

すなわち、最終的に人間が家電機器のスイッチをオフにしたり、コントローラの温度設定を手動で変更したりしていた。

やがて、「半自動デマンドレスポンス」が出現し、DRシグナルを受けた人は、(個々の家電機器ではなく)、DRシグナルに対してどのように反応するか事前登録した集中制御装置(一般家庭の場合は、コントロールパネルとか省エネモニターなどと呼ばれているもの)からDR手順の起動指示を行うだけでよくなった。

更に「完全自動デマンドレスポンス」が出現。人間の介在は一切不要となり、外部からDRシグナルを受けると、それを受けた家/ビル/設備が自動的に事前登録されていたDR手順を遂行するようになった。
ここでは、「完全自動デマンドレスポンス」のことを自動DR(Automated Demand Response:以降、ADRと略)と呼ぶことにする。

ADRが、従来のDSMと異なる点は、ADRの場合、住宅所有者や設備管理者が、DRシグナルを受けてもDR手順を実施したくなければ、いつでも事前登録したDR手順から「抜けだせる」あるいは、DR手順を「上書き」できることである。

DR自動化の歴史

カリフォルニア州では、2002年に発生した電力市場危機をきっかけとして、ADRプロジェクトを発足させたが、それは次の3つの重要な「問い」への回答を得るためのものだった。
Q1:カリフォルニア州の需給メカニズム改善のため、今日の技術を使い、安価で完全に自動化されたDR機能が実現可能か?
Q2:(ADRを実施するに当たって)商業ビルはどれほど、共通のDRシグナルを受ける「準備」ができているか?
Q3:商業ビルがDRシグナルを受けることができたとしても、そのシグナルによって、どれほどDR対策を自動的に実施できるか?
同プロジェクトは2002年に始まり、100箇所以上の設備、計200kWの需要抑制について、論理設計から、開発・導入を経て一連のフィールドテストが実施されている。

2003年:初期の開発とテスト

2003年、相互運用可能なDRシグナルの授受を実現する方策として、XMLベースの価格情報シグナルと、DR自動化のためのサーバ設計を開始。自動化にはクライアントサーバ・アーキテクチャが採用され、Push/Pull通信方式でのテストが実施された。
テストサイトは5種類:
1) 大型オフィス、
2) スーパー・マーケット、
3) カフェテリアとオフィスを含む医薬研究所キャンパス、
4) データ・センター/オフィスおよび
5) 大学図書館

テストサイト選定に当たっては、
① 異なるタイプの設備、
② 複合ベンダーのエネルギー情報システム(EIS)、
③ 複数ベンダーのエネルギー管理制御システム(EMCS)、
④ 多数の技術関門、
⑤ 異なるタイプの設備所有形態、および
⑥ 最終的に様々な負荷低減対策

がカバーされるよう考慮された。

選定されたサイトには、カリフォルニア州の「Enhanced Automation program」の予算で最新の通信監視システムが装備された。また、テスト開始に先立って、(DR価格シグナルをPush型で自動配信する)DR自動化サーバの開発と、テストサイトへのクライアントXMLソフトウェア導入が行われた。
テストでは、2回の需給逼迫イベント発生に対して、平均約10%のピーク削減を全自動で達成することに成功している。

2004年:リレー(継電器)を用いてテスト・スケールを拡大

実は、前年のテストにおいて、多数の設備のEIS/EMCSがXMLによるDRシグナルを取り扱えなかった。2004年のテスト設計は、その対策検討から始まり、既存の技術を調査して、廉価なインターネット継電器と連係できるようDR自動化サーバを修正した。
インターネット継電器は、インターネット・プロトコル(IP)を使用して、ローカルあるいは広域のネットワーク上でリレー接点を遠隔操作可能とする装置である。
なお、2004年のテストは、2003年同様、DR対策を実施してもテストサイトに報酬を与えない、純粋に自動需要抑制機能を試すテストとして実施している。
また、15のテストサイトのおよそ半分がXMLソフトウェア・クライアントを使用。もう半分はインターネット継電器を使用したテストとなったが、これら15サイトでの需要削減率は、ビル全体のピーク電力需要の約14%を記録した。

2005年:緊急ピーク時間帯料金(CPP)テスト

2005年、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)社と共同で、CPPのADRテストを実施した。今回、テストに参加するサイトは、PG&E社のCPP料金契約を結んでのテスト参加となった。そのCPP料金では、通常の電気料金は割り引きされているが、特異日の電力価格は下図に示されるように増加している。
※ピーク時間帯の料金が、特異日以外は通常の時間帯別料金(TOU)より低く設定されているが、特異日には、12-15時が3倍、15-18時が5倍の価格設定となっている

図の拡大

PG&Eでは、CPPの特異日は、毎夏12回と定められていた。が、ADRシステムのインストールが遅れ、ADRのテストは晩夏までずれ込んだ。
2005年9月29日のCPPイベントに対する8つのテストサイトの結果は以下のとおり。
・ 通常電力価格の3倍にCPPが設定された12-15時(CPP1)では、0~24%(平均9%)の需要削減
・ 通常電力価格の5倍にCPPが設定された15-18時(CPP2)では、4~28%(平均14%)の需要削減
なお、2005年のADRテストから、DR Automation Server(DRAS)と呼ばれる新ADRサーバが使われている。

2006年:CPPの拡充

2006年は、CPPパイロットテストに引き続き、よりPG&E社との連携を深めてADRのテストを実施した。これまで培ったLBNLのADR導入展開のノウハウを第三者に移管するため、LBNLは、第三者がADR技術サービスを提供するための認定手続きを開発。その認定を受け、DRインテグレーションサービス会社(DRISCO、2007年には、AutoDR Technical Coordinator:AutoDR技術コーディネータ社と改名)が発足し、テスト参加した。
2006年度は、完全に自動的にCPPイベントに対応できるサイトが11に増え、テスト期間中12回のCPPイベントでのテストを実施した。
2006年7月は猛暑だったが、全テストサイトとも、DR機能をオフにしたり、事前に設定したDR対策を緩和したりすることなく、ADRテストに協力してくれた。
下図はカリフォルニア州マルチネス市のオフィスビルのADRテスト結果である。


図の拡大

グラフ上、電力価格に応じてCPP1の時間帯で、数度エアコンの温度設定を上げ、CPP2の時間帯で更に設定温度を上げることで電力需要が抑えられる、典型的なDR反応が確認できる。CPP2時間帯では100kW以上の需要削減が実現しており、CPP2時間帯が終わった18時以降の電力需要のリバウンドも発生していないことがわかる。
テストの結果、CPP2時間帯の平均ピーク需要削減率は14%だった。
ただし、大口需要家のテストサイトでは、セキュリティ上の問題で、インターネット継電器がうまく作動していないことも判明した。ファイアウォールがネットワーク継電器の作動を阻害していたのである。
※この結果を踏まえて、ITフレンドリーで「プラグ・アンド・プレイ」機能を実現した自動化クライアント:CLIR(Client and Logic with Integrated Relay)が開発され、翌年のテストで使用された。このクライアントは、セキュアな企業内ネットワークから、HTTPSプロトコルを使用する128ビットのセキュア・ソケット・レイヤー(SSL)暗号化通信を用いてCPPイベント情報を問い合わせるように改良したのである。

2007年:商業化とDRプログラムの展開

2006年の猛暑にかんがみ、カリフォルニア州公益事業委員会(California Public Utilities Commission:CPUC)は、カリフォルニア州の公益企業3社に、デマンドレスポンス研究センター(DRRC)と協働してADRを本格導入するよう要請した。
※ DRRCは、DRに特化した、カリフォルニア州エネルギー委員会(California Energy Commission:CEC)と、LBNL、PG&Eの共同研究センターである
これを受けて、SDG&E(San Diego Gas and Electric)社は、DRアグリゲーターを交えた実証試験を実施。
SCE(Southern California Edison)社は、GEP(Global Energy Partners)社という第三者機関をプログラムマネージャに据え、2006年度PG&E(Pacific Gas and Electric)社が実施した自動CPPプロジェクト相当のテストを実施している。
PG&E社は、テスト内容を拡張し、自動CPPに加えて、デマンド入札(Demand bidding:以降DBと略)のテストを実施した。
DBは、PG&EとCPP料金契約をしなくても多くの需要家がCPPプログラムに参加できるよう考慮したもので、いくらの価格なら電力需要抑制に応じるかの「売り注文」を予め出しておくと、CPPイベント発生時、自動的にDR対策が実施されるようにしたものである。2007年のPG&EのADRプログラムでは、ADRシステムの市場投入促進・評価・管理を行うために、調達担当者と技術担当者を増員し、
22MW以上の需要抑制が可能となる数の需要家をADRプログラムに参加させることができた。

次のステップと今後の方向性

カリフォルニア州における自動デマンドレスポンスの発展の経緯と商用化の動きを概観した。
今後DRを普及させるには、一般家庭だけでなく商業ビルの需要制御も有望である。そのためには、通信とDRシグナル・システムの標準化、更には、ADRを視野に入れた建築基準・標準の整備が望まれる。

以上、今回は、DSMからADRまでの、カリフォルニア州でのデマンドレスポンスの歴史を紐解きました。
スマートグリッドの実証実験の一環としてデマンドレスポンスが語られる場合、当然(?)ADRを前提としていると思われますが、最後に、ADRアーキテクチャの図を掲載しておきます。

出典:「How Energy Efficiency and Demand Response can Help Air Quality」 図の拡大

なお、次回は、ADRから今日のOpenADRへ至るデマンドレスポンスの流れをご紹介しようと思います。

終わり