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今回は、IAE(International Energy Agency:国際エネルギー機関)のホームページから欧州で発達しているDHC/CHPの話題を取り上げたいと思います。
DHC(District Heating and Cooling)は地域冷暖房。CHP(Combined Heat & Power)には、熱電併給あるいは熱併給発電の日本語訳が用いられていたようですが、最近は米国流にCogeneration(コジェネレーション、略称=コジェネ)と呼ばれているようです。「コジェネ」なら聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
まず、IEA事務局が2008年3月、気候変動とクリーンエネルギーに関するG8研究プログラムの一環として作成したドキュメント「Combined Heat and Power - Evaluating the benefits of greater global investment : 熱電併給 - 世界的な投資拡大がもたらす利点の評価」から、簡単にDHC、CHPとは何か、どんな利点があるのか、どんな課題があるのかをおさらいしておきましょう。
CHPとは何か?
CHP とは、使用する場所、またはそれに近い場所で、単一の燃料またはエネルギー源から生産した熱および電力を同時に利用することである。最適なCHPシステムとは、建物、産業、都市全体のいずれかのレベルのエネルギー利用者の熱需要を満たすために設計されたものである。これは、CHP プラントからの余熱を輸送するよりも余剰電力を輸送する方が経済的だからである。このため、CHP は、主に、副産物として発電も行う熱発生源と考えることができる。
※ 発電が主ではなく、熱供給が主というとらえ方なんですね
CHP は様々な形態をとり、広範囲の技術を網羅しているが、常に、発電と熱回収システムを組み合わせた、効率的な統合的システムに基づくものとなる。発電による熱出力を熱または産業用に利用することで、一般的なCHPプラントは燃料源の75~80%を有効なエネルギーに変換する。最新のCHPプラントでは変換効率が90%以上に達している(IPCC,2007)。さらにCHPプラントは最終使用者の傍に所在するので、ネットワークにおける損失も低減する。
CHP プラントは、原動機(エンジンまたは駆動システム)、発電機、熱回収システム、制御システムの 4つの基本要素で構成される。原動機は、発電機を駆動させるとともに、回収可能で利用可能な熱を生成する。CHP ユニットは、一般的に、その利用の種類、原動機、使用する燃料によって分類される。
新規のシステムでは、現在天然ガスが最も多く使用されているが、CHP では、理論上、ほとんどの燃料で適用可能である。他の一般的な燃料源は、化石燃料を中心とした市販燃料(すなわち、石炭、ディーゼル)、地方自治体の固体廃棄物、バイオマスなどである。環境およびエネルギー安全保障への関心の高まりから、今後バイオマスと産業用ガスが入手しやすく安価になれば、それらの重要性はより高まるだろう。また一部の CHP 技術は複数の燃料を利用することが可能なため、燃料供給が不安定になったり価格変動が激化した際には、貴重な柔軟性を発揮する。
地域冷暖房と CHP
地域暖房では、CHP プラント、産業プロセス、廃棄物の焼却から発生する廃熱の質を高め、「リサイクル」することで、主に、低・中温の熱需要(すなわち、空間暖房と水道水の加熱)に供給することに重点が置かれている。また DHC システムは、再生可能エネルギー源を熱と電力分野に取り入れる方法としてもますます利用されるようになった。熱は水を加熱するために利用され、その水は、十分に断熱された配管網を通じて需要家の住居まで届けられる。この方法で、個人の住宅、公共施設、商業ビル、さらに低温の産業用の熱需要を賄うことができる。熱交換器は地域暖房ネットワークと建物のラジエーターおよび給湯システムの間を結ぶインターフェースとして機能する。一方、地域冷房は、深度の深い地下水による自然冷却と吸収冷却器による廃熱の変換を利用している。
ほとんどの場合、DHC システムの一部として CHP プラントを設置するか否かは、産業分野での設置に関する決定と同じく、熱負荷の発生時期と性質、燃料の入手可能性、電力の経済的利用の機会などの要因によって決まる。しかし、DHC システムは空間暖房/空調に対する集中的な需要に依存するため、人口密度も主要な検討要素である。人口密度は、熱の輸送距離を最短にする必要性があること、また熱の分配システムの設置には相当のコストがかかることから非常に重要である。
暖房日が最も多い国々では地域暖房の浸透率が高くなる。さらに、この種のシステムは大資本を必要とする場合が多いので、サービスを提供する際、DHC は地方政府の関与を非常に高いレベルまで支援する。その結果、共同体が DHC システムのオーナーとなり、公的機関および/または地方自治体が資金を提供する場合もある。地域冷房は従来の電力またはガスを中心とする空調システムの代替手法としてますます注目を集めている。工夫しなければ廃棄される、あるいは利用しにくい資源を活用することから、地域冷房システムは、従来の電力駆動の装置よりも 5 倍から 10 倍効率が高い(Euroheat and Power, 2008)。この種のシステムは、冷房を必要とする季節に、電力のピーク負荷の回避に寄与し、コスト削減と信頼性向上の利点を持っている。
CHP/DHC普及の障壁
これらの技術を採用することは従来から以下のような重要な障壁によって制限されてきた。
● 統合された都市冷暖房供給計画の欠如。
● 電力網へのアクセスと相互連携に関する規制。
● CHP の利点と削減能力に関する知識不足。
● 省エネと環境上の利点を認識するための合意された方法の欠如。
以上、IEAのレポート「Combined Heat and Power」から抜粋してご紹介しました。
IEAの国際CHP/DHC共同事業(International CHP/DHC Collaborative)では、いくつかの国をピックアップしてCHP/DHC進展状況を調査するとともに、各国が採用している主要なエネルギー、環境、公共事業の規制/計画手法、CHP/DHC促進政策を網羅した一連のケーススタディを実施、CHP/DHCの進展度を「★いくつ」かで評価しています。
★の数に対応する評価は、以下の通りです。
★☆☆☆☆:国としてCHP/DHC普及促進のための施策がない、あるいはCHP/DHCを普及促進させる気がないので、当面CHP/DHCの普及は考えられない。
★★☆☆☆:国としてCHP/DHCの役割は少し認識しているが、CHP/DHC市場を発展させるために効果的な政策がとられていない、あるいは不十分である。
★★★☆☆:国としてCHP/DHCの役割をハッキリ認識し、CHP/DHC市場を加速するための施策も打たれているが、他のエネルギーソリューションと比較すると、優先順位が低い。さらに、CHP/DHCの統合戦略に欠いているので、CHP/DHC市場の成長は緩やかである。
★★★★☆:CHP/DHCは、国としてエネルギー政策の最重要項目(またはそれに近い)で、首尾一貫した戦略として、一連の効果的な施策が打ち出されているので、CHP/DHC市場の成長が期待できる。
★★★★★:CHP/DHC普及促進では世界の先端を行っており、CHP/DHC市場の成長とベストプラクティスとなりうる政策手段の構築に関して、明白で、実績のある戦略を有している。
このブログで、今後いくつかのIEAレポートを詳しくご紹介していこうと思っていますが、今回は、それらの概要をお伝えします。
栄えある「★5つ」に輝いたのは、デンマークとフィンランド。世界中のCHP/DHC利用のベストプラクティスと位置付けられています。
ドイツは、国のCHP/DHC普及促進施策の優位性が認められて「★4つ」。
オランダ、韓国、米国、および日本は「★3つ」ですが、マイクロ・コジェネ/燃料電池に関して日本は「★4つ」で、他の3か国より少しリードしているようです。逆に産業用CHPの普及度では「★5つ」に値するオランダは、エネルギー自由化がもたらした成長率の失速のせいで、この評価となっているようです。
惜しくも「★2つ半」との判定を受けたのがイギリス。世界に先駆けてエネルギー自由化を推進したにもかかわらず(あるいは、そのせいで?)CHP/DHC普及推進施策がうまくいっていないとの評価のようです。
この他に、インド、中国、ロシアの評価レポートが作成されているのですが、これらの国に対しては★表示がありません。CHP/DHCの普及において大きな潜在力を秘めている、いわゆるBRICの国々に対して、単にCHP/DHC普及の現状を評価するのではなく、CHP/DHC普及要因の阻害要因は何か、それを克服するにはどうすればよいか、国としてどのような施策を取るべきかといった観点でレポートがまとめられているようです。
最後に、「Combined Heat and Power」から、全世界の発電に供される一次エネルギーと需要家に届けられる電力を対比した「世界の電力系統におけるエネルギーの流れ」の図を掲載しておきます。
上図を見ると、発電時および送配電時のロスがゼロ(=一次エネルギーがすべて電力になる)になれば、世界に現存する発電所だけで、理論上、これまでの3倍以上の電力を需要家に届けることができる計算になります。
日本政府(=菅首相)はエネルギー政策として、原子力、化石燃料、自然エネルギー、省エネの4本柱にすることを考えているようですが、是非、5本目の柱として、発電時の熱生成による損失を減らすこと、6本目の柱として送配電時のロスを減らすことを加えていただきたいですね。
その場合、5本目の柱となるのが、正にCHP/DHCであり、6本目の柱も、地域分散した中小CHPによる電力の「地産地消」が功を奏するのではないでしょうか?
日本でも、エネルギー政策の柱として、もっとCHP/DHCの普及促進が図られるべきではないかと思います。
次回は、「★5つ」を獲得したデンマークに関するIEAのCHP/DHCレポートをご紹介します。
終わり
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