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前回、最後に言及させていただいたように、CHP (Combined Heat & Power) / DHC (District Heating and Cooling)のアイデア自体はかなり以前から存在し、すでに実用化されています。しかし、スマートグリッドが再生可能エネルギーの有効利用を含めたエネルギー利用の最適化であるととらえた場合、発電する側の最適化、需要家側の最適化に加えて、「エネルギー利用そのもの」の最適化(発電効率アップだけでなく、発電時に生じる熱損失を少なくして発電に使う一次エネルギーを有効に利用する、また、送電ロスを少なくする)が重要だと思います。温故知新と言いますが、海外でのCHP/DHCの最新事情をご紹介することで、日本のエネルギー政策に資するものがあるのではないかとひそかに期待しています。
これまで、様々なエネルギー統計データやグラフの出典として、IAE (International Energy Agency:国際エネルギー機関)の存在自体は認識していたのですが、直接IEAのホームページを見たことはありませんでした。この新しく始めたブログのシリーズでは、IEAのホームページから、世界各国のコジェネ/地域冷暖房の取り組みについてご紹介したいと思っています。
今回は、IEAの調査で最高評価を得ているデンマークの調査レポート「CHP/DHC Country Scorecard:Denmark」から、デンマークのCHP/DHC普及促進状況に関してご紹介します。
いつも通り、全文翻訳ではないことと、例によって、超訳になっている部分があることを予めご了承ください。また、勝手に補足した部分は文字色=緑にしています。
では、はじめます。
CHP/DHCに関する国別評価:デンマーク編
はじめに
デンマークは世界で最もエネルギーを効率的に利用している国の1つである。省エネ、再生可能エネルギー利用促進、および技術開発を奨励する積極的なエネルギー政策が、これを可能にした。経済成長を続けているにも関わらず、同国のエネルギー使用量は過去25年間常に安定している。
デンマークでは、地域暖房(District Heating、以下DHと略)および熱電併給(Combined Heat and Power、以下CHPと略)が広く行き渡り、省エネおよびエネルギーの自給自足に貢献している。実際、発電に占めるCHPの割合では、世界をリードしている。
1979年以来、デンマークはDH/CHPを推進するために、強力な奨励策を実施してきた。1973-74年の石油危機を経て1970年代後半まで、デンマークはエネルギー需要の90%以上を輸入原油に頼っていたが、このDH/CHP奨励策のおかげで、1997年までには、エネルギーの自給自足を達成したのである。北海油田の発見に負うところが大きかったものの、そこにはエネルギー効率向上とCHPの急速な展開が重要な役割を果たしている。
1979年に施行された「初代熱供給法」により、新たな公共事業での熱供給が促進され、CHP/DH市場の成長の重要な要素となった。政府が最近策定した「エネルギー戦略2025」は、高騰する燃料価格、国内エネルギー生産の低下、および環境問題を解決しようとしたもので、新たなクリーンテクノロジーを採用し、エネルギー市場および国際協力をうまく利用して、再生可能エネルギーとCHPのシェア拡大を目標としている。
ここでは、デンマークがいかにしてCHP/DHの普及成功を勝ち得たのか、それを可能にした政策を概観する。
デンマークのエネルギー事情
最近の主なエネルギートレンドは、エネルギー自給自足と効率化であった。1980年代および1990年代、CHPおよびDHが普及したおかげで、デンマークはエネルギー源として石炭および石油にそれほど依存しなくなった。(Figure1)
最初に、石炭炊きCHP、そして天然ガス炊きのCHP、その後再生可能資源の利用を増加させて行き、ゆっくり石油を減らすとともに、石炭も1990年半ば以降は減らしている。
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積極的なCHP導入展開とエネルギー効率化への努力は、北海油田から石油およびガス供給とあいまって、1997年にはデンマークはエネルギーの自給自足を達成した(Figure 2)。
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発電の分散化は、エネルギーの自給自足ならびにエネルギーの効率化と等しく重要なトレンドである。Figure 3は、国内の発電設備の変化を示したものである。1980年代中頃まで、国内には一握りの大型発電所があるのみだった。今日では、CHPおよび風力発電促進政策のおかげで、より小規模な装置が多数集まって電気を供給するようになった。それらの装置の主流は、熱需要があるところに設置されたCHPと、田園地帯に分散配備されたウインド・ファームである。
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CHPの利用状況
デンマークは、いろいろな場面(特に、地域暖房)にCHPプラントを使用することで、熱および電力の需要を満たしている。Figure 4を見ると、2006年までに、火力発電におけるCHPのシェアは47%、DHにおけるCHPのシェアは82%に達したことが分かる。CHPのシェアは1990年代顕著に増加したが、CHPが適用できそうなところへのCHP導入がほぼ終わったため、近年は横ばい状態である。
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Figure 5は、CHP進化のパターンが1990年代にどれほど劇的に変わったか示している。1990年までは大型のシステムが大勢を占めていたが、その後オンサイトのより小型のDHシステムが台頭し、主に商用ビルや公共ビルは、分散して個々にCHP装置を設置するようになった。1990年代の早い時期に、230のDHシステムがCHPに切り替わっている。
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※Autoproducers CHPは、自家発電用CHP
地域暖房
地域暖房は、デンマークのエネルギー・システムのバックボーンで、現在同国の熱ネットワークは、ほぼ完全にCHPプラントで成り立っている。公共の熱供給システムは、以下のプラントから構成されている:
● 285の分散配備されたCHPプラントと
● 16の集中型CHPプラント、および
● 130の分散配備されたDHプラント。
一般的に、集中型CHPは大型プラントで、以前の発電所である。分散配備されたCHPは、小型で、それらの内のいくつかは、もとは熱供給をしていたものである。DHネットワークに使われる大多数のCHPは、地方自治体や協同組合が所有し、天然ガスを燃料としている。非常に多くの家庭が地域熱供給に依存しているので、消費者利益を保護するべく、熱価格には激しい規制がしかれている。例えば、熱供給法では、「熱供給は非営利的な基準で運営され、熱供給/電力価格は、コストを反映したものにすべきである」と規定している。これは、地方自治体や協同組合というほとんどのDHシステム保有者にとって全く問題ない。
CHP/DH/風力発電をベースとした、非常に効率的なエネルギー・システムを作り上げることができたので、デンマークは、CHPプラントの燃料を、化石燃料からバイオマスに転換し、更なる温室効果ガスの排出の削減と、長期のエネルギーセキュリティ確保を目指している。
商業利用
デンマークのCHP装置の大部分は、DHネットワークにエネルギーを提供しており、DH分野以外の用途は限られている。しかしながら、小型のCHPは、熱需要の高い病院、ホテルおよび商業地区に設置されている。デンマークに設置された最初のCHPシステムは、1903年にコペンハーゲンのフレズレグズベル病院の近くに作られたものである。
これらの分散配備されたCHPの多くは、余剰熱を最寄りの配熱会社に売っており、2006年には、地域暖房スキームに20PJ(ぺタジュール)以上貢献している。
産業利用
デンマークは、他国ほどエネルギーを大量消費する産業を持っていない。2005年の産業分野のエネルギー消費は、全最終エネルギー消費の16%しかない。そのうちの2.5GWh以上がDHによるもので、全DH需要のほぼ9%に相当している。
全体で200の小規模な産業用CHPプラントがあり温室や、製造、製薬ならびに食料加工業で利用されている。
政府のCHP/DH促進政策
1970年代の石油危機を経験し、デンマーク政府は、1997年までにエネルギーの自給自足を達成するための効果的な政策を作成した。こうして最初に出来上がったのが、1979年施行された熱供給規制法である。概要は、以下の通り。
初代熱供給法
1979年、デンマークは、熱供給に関する最初の法律を導入した。この法律は、各地方自治体に、管轄区域で公共熱供給が必要な候補エリアを特定させ、その内の最も適切なエリアに、集合的に熱供給する構想を立てた。これが地域熱供給を形成する基礎となった。地方自治体が、独自に地域の熱供給プランを立てることもできた。この法律では、熱供給計画策定プロセスを3つのフェーズに分けて定義している。
フェーズ1:地方自治体は、暖房に関する要件、使用する暖房方法、および消費するエネルギー量に関するレポートを作成する。暖房方法に関するオプションも検討する。各地の暖房計画を州レベルの暖房計画に集約し、地方レベルの熱供給戦略を策定する。
フェーズ2:各地方自治体は、将来の熱供給計画の原案を準備する。各州議会は、所属する地方自治体の作成した将来の熱供給ニーズをもとに、州レベルの将来の熱供給計画の原案を策定する。
フェーズ3:各州議会は、この情報に基づいて、その地域の熱供給計画を立てる。
これらの地域熱供給計画には、トッププライオリティが与えられ、将来どこにパイプラインを敷き、どこに熱供給設置を設置するかを同定する。この政府による強いリーダーシップが、デンマークのCHP / DH産業の成功の礎となっている。
初代熱供給法をきっかけに、政府は次々と政策を打ち出した。中でも発展の初期段階でどのような規制をかけるかは、有効に市場を形成させる上で最も重要な要素だった。初代熱供給法に続いて、CHP/DH市場が経済的に自立できるような奨励策が導入された。
経済面でのCHP/DH化支援政策
暖房燃料への税金施策
暖房設備のCHP化を促進するため、発電用の燃料には税金をかけず、暖房に使う燃料にかかる税金を高くすることとした。2002年1月に、天然ガスを使用するCHP設備利用者は、燃料税の納付に当たって、発電に使用した燃料消費量を、全燃料消費量から差し引くことができるようにしたのである。また、燃料の種別によっても、エネルギー消費税額を変更した。
なお、CHP化の促進だけでなく、再生可能燃料であるバイオ燃料も、化石燃料と太刀打ちできるようにしている。
CHP発電補助金(フィード・イン・タリフ)
この補助金は、もともと、再生可能な技術および燃料によって生産された電気に関するものだったが、1992年に天然ガス炊きのCHPにも適用を拡張した。この結果、2006年には、CHPと風力発電それぞれの設備容量は、デンマークの全電源容量の47%および24%になった。
時間帯によっては、CHPと風力発電からの電力生産量がデンマーク全土の電力需要を超過するため、余剰電力として低価格で国外に輸出しなければならない状況が発生している。その際出た損失は、消費者によって支払われなければならなかった。そこで、現在では、いくつかのCHPプラントは、元通り、熱需要のみを満たすようなシステムとなっている。これは、CHP/DHの一層の進展がもたらす恩恵に問題を投げかけている。フィード・イン・タリフの導入により、多くのCHPプラントで、石油あるいは石炭から天然ガスあるいは再生可能原料への燃料転換に成功した。
購入義務付け
2005年まで、需要家は、最寄りのCHPユニットで発電された電力の購入が義務付けられた(現在は廃止)ので、大型で集中型のCHPプラントを含め、すべてのCHP事業者は、その恩恵を受けた。この施策が長期的な収益を保証したのでCHPへの投資を促進した。今日、電気は市場で売られているが、前述の燃料税の形で、補助を受けている。
バイオマスおよびバイオガスCHPのプレミアム
バイオマスおよびバイオガスを燃料とする(元来発電所だった)集中型CHPプラントは、すべての需要家が支払う電気代の中からプレミアムを受ける。
このプレミアムの額も、どのような燃料を使うかに依存する。
計画に関する政策
接続/接続され続ける義務(1982年施行、2000年改正)
地方自治体に、すべての住民が、天然ガス供給あるいは地域暖房ネットワークのいずれかに接続することを要求する権限を持たせた。この接続義務は新規および既存の家屋ともに発生するが、既存の家屋に関しては、(接続までの時間的猶予を与えるために)、住人への通知後9年以内に接続するものとした。この接続義務が、DHシステムの拡張を促し、DHビジネスが商業ベースで成り立つことを保証し、そのための資金調達も容易にした。
電気による暖房の禁止(1988年施行、1994年改正)
すべての新築家屋と、温水を利用したセントラル・ヒーティング・システムあるいは、天然ガスかDHを利用している既存家屋では、電気を利用した暖房を禁止した。これにより、DHシステム用に一定量以上の熱負荷を確保することが容易となった。
更なる飛躍に向けての課題
ここまで、政策立案に当たって、一貫した優先順位がCHP/DHに与えられてきたおかげで、デンマークにおいて地域暖房は順調に発展してきた。しかしながら、同じく重要度が高い風力発電も同時に進められたことで顕著となってきた電気の生産過剰が、今後のCHP/DH発展の主な阻害要因となっている。また、エネルギー効率向上は、熱需要の低下を招き、今後新規でのCHP/DH導入を難しくしている。
ビジネス拡大余地の欠如
既にCHPが広く行き渡り、成功しているので、今後、ビジネスを拡大する余地があまり残されていない。既存のCHP容量の壁を打ち破るには、革新的な手段が必要になるだろう。
地域冷房や、地域暖房における再生可能な燃料使用に関する情報の不足
デンマークでは、既に地域暖房用に再生可能資源の熱利用に取り組んでいる。しかしながら、潜在的には、更に多くの可能性がある。それを追求するには体系的なスタディが必須で、政策決定者には、CHP/DHの研究を続けるためのコストと利益を理解してもらう必要がある。例えば、近隣の北欧諸国では、既に地域冷房が実施されている。
デンマークでも同様の地域冷房事業が発展する可能性があるが、そのためには潜在需要など調査研究が必要である.
以上、IEAが「★5つ」と評価したデンマークにおけるCHP/DHCの普及促進状況をご紹介しました。
長くなるので割愛しましたが、上記IEAレポート中、事例(Case Study 1)として紹介されているMetropolitan Copenhagen Heating Transmission Companyの熱導管の総延長距離は54Km。コペンハーゲンを含む5つの自治体を通じて27万世帯に熱供給しており、それら自治体のエリアの住宅暖房ニーズの90%以上をカバーしているとのことで、やはり、「★3つ」の日本とは「格が違う」感じがします。
国自体が小さく、CHP/DHCを展開する上で有利だったこともありますが、DHCサービス利用の義務化、電気による暖房の禁止という思い切ったエネルギー政策や、その他、諸々の経済面でのCHP/DH化支援政策がDH普及促進に大きく貢献したことがわかります。
※事例紹介も含めたIEAのフル(に近い)レポートに関しては、ここからダウンロードしてご覧ください。
翻って「福島」に端を発する夏場の電力不足問題を考えた場合、日本では「電気による冷房の禁止」というエネルギー政策をとってはどうでしょうか?
というのは冗談としても、電気以外を使う冷房装置(例えば、ガス冷房)の導入/維持費に対して大幅な補助を出すことで、(この夏は無理ですが)今後の夏場の電力需要を低下させることは可能だと思います。
それと、Figure 3をもう一度ご覧下さい。デンマークには原子力発電所がなく、かつては、いくつかの大型火力発電所(Figure3の図中左側の大きな赤丸)から全土に電力を供給していましたが、現在は、全土に分散配置された無数の小型CHP(図中右側オレンジ色の点)と、これまた無数の風力発電(図中右側緑色の点)で基本的には電力供給を行っています。2006年時点で、すでにCHPと風力発電それぞれの設備容量が、デンマーク全電源容量の47%および24%、合計7割に達していたというのは、驚嘆するばかり。風況が良すぎると、CHP/風力発電量が国内消費できないくらいになるというのは問題ですが、デンマークにとって幸運なのは、欧州の他国と系統連携していることです。国内消費できなければ、他国に電気を「輸出」し、足りなければ「輸入」することで、風力発電の出力変動の問題も見事に?クリアされています。今、系統レベルの大規模蓄電技術開発が待たれていますが、デンマークにとって、欧州の電力系統自体が巨大な「蓄電池」として機能していることがわかります。また、電気自動車の充電を風力発電の発電量と連携させるようなスマートグリッド・プロジェクトも進行しており、「原子力発電に依存しないスマートグリッドのあるべき姿」を標榜するならば、デンマークはある意味で、お手本となる国だと思います。
終わり
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- CHP, DHC, Smart Community, Smart Grid, コジェネ, スマートグリッド, スマートコミュニティ, 地域冷暖房
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