© Copyright Andrew Smith and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

少し間が空きましたが、IEAによる世界各国のCHP/DHCの調査・評価報告書をご紹介しています。今回は、IEAで「★3つ」の評価を得ている4カ国の1つ、日本です。
日本のコジェネや地域冷暖房が海外ではどのように評価されているのか、IEAの報告書、「CHP/DHC Country Scorecard:Japan」を見てみましょう。

では、はじめます。

CHP/DHCに関する国別評価:日本編

はじめに

日本は世界で最もエネルギー利用効率の高い国の1つで、輸入エネルギーへの依存度を減らし、気候変動に対応する戦略として、これまで野心的なエネルギー目標の設定を行ってきた。政府の熱電併給(CHP)促進への補助金と減税が推進力となり、過去20年間でCHPの利用度は国内総発電量の4%に達している。更に、政府の研究開発予算により、マイクロエンジンと燃料電池からなる家庭用CHP開発専門の企業クラスターが育成されている。

日本のエネルギー事情

日本は、世界の経済大国中最もエネルギー資源の乏しい国の1つである。
政府のエネルギー政策は、国内の乏しいエネルギー埋蔵量と、高いエネルギー輸入への依存を基本としており、2005年には、必要な化石燃料の81%を輸入で賄っていた。
その後、政府はエネルギー供給構造の多様化を図り、石油、石炭、天然ガス、原子力で全一次エネルギー供給の96%となる、バランスのとれたエネルギーポートフォリオが出来上がった。 (Figure 1)

日本は、エネルギー技術の研究開発にも多大な投資を行い、1970~1990年で大きくエネルギー効率改善を達成し、世界中で最もエネルギー利用効率の高い国となった。 (Figure 2)

気候変動に関する動き

国連の気候変動枠組み条約の下、京都議定書の批准国として、日本は2012年までに1990年比、温室効果ガス(GHG)の6%削減を世界に約束している。
日本の気象変動戦略は、技術革新とエネルギー効率改善に依存しており、次のプログラムおよび目標を含んでいる:

1. 京都議定書目標達成計画が主戦略で、2010年度での天然ガスCHP設置予定4980MW等、60の温暖化ガス排出削減の施策が盛り込まれている。

2. 2005年9月に始められた日本の自主参加型の排出量取引制では、第1期32、第2期は59の参加者があった。これは、将来の義務的排出量取引制度導入に向けてのパイロット的取り組みである。

日本は、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)の国際プロジェクトにも参加している。ほとんどのプロジェクトは中国にあるが、環境省および経済産業省(METI)からの委託を受け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がCDMからのGHGクレジットを購入している。2007年~2013年のGHGクレジット購入予算として122億円の予算が計上されている。

CHPの利用状況

日本はCHPの設備容量で世界をリードする国の1つであり、この20年で飛躍的に設置数が増加している。(Figure 3参照)
2006年時点のCHP設備容量は8700MWe以上で、国内総発電量の4%を占めている。2008年3月に内閣が採択した京都議定書目標達成計画によると、政府は、2010年度での天然ガスCHP設置目標を4980~5030 MWとしている。(現在、およそ4500MWe)
日本で使用されるCHP技術の3大要素は以下の通り:

● ガスタービン 3770MW
● ディーゼル  3080MW
● ガスエンジン 1940MW

産業界での利用

産業用CHPの平均規模は3.3MWeで、全国のCHP設備容量の80%を占めている。 (Figure 4参照)

設備容量では、化学薬品と機械業界が多く、設置数では食品業が多数を占めている。近年、石油価格の高騰の影響でCHPの運転コストが押し上げられ産業用CHP市場は停滞している。

地域暖房としての利用

日本では現在地域冷暖房はあまり普及していないが、今後ますます重要になってくる。
政府は各地にある従来の小規模な地域冷暖房ネットワークの組合せを既存の分散熱資源と接続し、エネルギー・ネットワークを介した地域冷暖房の役割拡張を画策している。これらのネットワークの構築は、日本の京都議定書目標達成計画に含まれており、低金利ローンと補助金対象となっている。

小売り事業者および家庭での利用

商用施設には日本国内で稼働しているCHP総数の71%、設備容量で20%が設置されている。小売業、病院、ホテル、オフィスビルおよびスポーツ施設は、その代表例である。
また、設備容量は小さいものの、日本は、マイクロCHPの技術開発および設置で世界のトップクラスである。

政府のCHP促進施策

燃料価格が高騰してくると、政府による支援なくしてCHPの普及促進はあり得ない。
日本では、これまで固定買取(FIT)制度ではなく、投資補助金および税給付金の形でCHPへの支援が行われてきた。補助金額は、技術的・経済的に妥当かどうか定期的に見直されてきたが、CHPへの継続的な支援が続いている。
以下に主なCHP支援の仕組みを記述する:

A) 10 kW~3000 kWの高性能天然ガスCHP向けの補助金

新エネルギー利用者への支援プログラムとして、天然ガスCHPシステムや燃料電池のような新しいエネルギー・システムを導入するビジネスに補助金を供給するもので、2008年度予算は335.8億円。補助率は導入コストの3分の1までで、最高限度は、天然ガスCHPシステムで5億円、燃料電池では10億円である。

B) 地方での新エネルギー促進プログラム

新エネルギー・システムの導入を計画する地方公共団体に補助金を出すプログラムで、補助対象は、クリーンエネルギー車両、天然ガスCHPシステムおよび燃料電池、再生可能エネルギーのようなエネルギー効率の高い用途のもの。
2008年度のプロジェクト予算は41億5000万円で、導入コストの半分までカバーされる。

C) CHP投資の加速減価償却

エネルギー需給に関連する投資を促進するための税制として、中・小型CHPへの投資ビジネスで7%の減税、あるいは、CHP設備標準取得価格の30%の加速減価償却が認められている。

D) 高性能天然ガスCHPおよび燃料電池に関する研究開発への支援

政府は、家庭用のガスエンジンと燃料電池CHPシステムの研究開発、実証実験および商業化を積極的に支援している。

E) 系統接続手順の簡素化

政府は、第三者への電気供給に必要な管理上の協定用ガイドラインの制定を含め、CHPシステムのグリッド接続用に特別の手続きを導入した。家庭用CHPシステムもグリッド接続用技術標準を満足する必要があるが、電力会社による現地査察をなくしたのである。小型/マイクロCHPシステムのような新興市場を支援するには、系統接続手続きを簡素化し、管理上の諸経費を軽減することが特に重要である。

F) DHC構築用の低金利ローン

日本政策投資銀行は、コストを下げ、DHCへの投資を加速する目的で、HC構築用の低金利ローンを用意している。

ステークホルダー

政府

● 経済産業省(METI):国内のCHP普及に関して責任を持つ
● 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):燃料電池のような最新CHP技術の開発・促進の責任を持つ

産業

多くの企業がマイクロCHP市場に関係している。以下にそのような関連企業を列挙する。
荏原バラード、パナソニック、ENEOSセルテック、東芝、ヤンマー、ホンダ、アイシン電気、トヨタ および東京ガス、東邦ガス、西部ガス、北海道ガス、日本ガス、日本石油およびコスモ石油。

NGO

● 日本コージェネセンターおよび日本ガス協会は、CHPに関する情報提供と、CHPの普及・促進に努める主要な民間組織である。
● これらの組織は、CHP産業と協力して、2008年7月の北海道のG8会議でIEAの国際CHP/DHC共同事業を支援するため、2008年3月に日本CHP・DHC促進コンソーシアムを創設した。

CHP普及の阻害要因

日本においてCHPが商業的に成功するかどうかは、他の国々と同様、エネルギー価格およびCHP代替物との相対コストにかかっている。日本は、国外からの一次エネルギー輸入に大きく依存しているので、燃料価格の高いことが特徴となっている。(輸入した)化石燃料を使って発電のみを行うよりCHPにした方が有利になるが、一方、化石燃料を用いたらCHPも運用コストが嵩むので、日本のCHP運用コストはG8の他の国々と比べて非常に高い。
したがって、CHPで使用する燃料に何を使うかが重要である。現在CHP設備容量の1/3は石油を燃料としているが、環境にやさしく、石油に比べれば価格変動も少ないガスやLNGベースのCHPが増加してきている。今後のLNG価格動向が気になるところである。
これらの経済面での阻害要因の他に、日本でのCHP普及の阻害要因として、以下が考えられる:

環境政策におけるCHPに対する認識不足

環境上の利点、特に、CO2排出削減に関してCHPシステムが寄与するということが、まだ日本では正確に認識されていない。
温室効果ガス排出削減の切り札としてCHPが認識されれば、更なるCHP利用増が期待できる。

マイクロCHPの技術障壁

家庭用CHPが普及するかどうかは、マイクロCHPユニットが十分価格競争力のある値段で提供できるかどうかにかかっている。
家庭用燃料電池については、更なるコストダウンとユニット寿命および効率アップが望まれる。
2008年3月、政府は、家庭用CHPに関して、kW当たり40万円へのコストダウン、製品寿命は2倍、発電効率は10%アップする開発目標を立てた。
家庭用CHPを普及させるためには、これらの目標を達成することが非常に重要である。

産業用CHPおよび業務用CHPのための障壁

現在、燃料費が高くなっているにもかかわらず、電力会社がCHPの余剰電力を買取る価格はそれほど高くない。そのため、たとえ、他のユーザーあるいはネットワークに熱と電気を供給することができたら全体としてより大きな恩恵が受けられるとしても、ほとんどの日本のCHPプラントでは自家消費する分しか電気と熱を作らない。
しかし、CO2排出量削減の重要性への認識の高まりが、この問題克服のカギとなるかもしれない。

DHC / エネルギー・エリア・ネットワークのための障壁

DHCネットワーク構築に要する初期投資が嵩むことが、一番の課題である。
六本木ヒルズ・プロジェクトのように、小規模の熱供給ネットワークにとどめる現在のアプローチは、この障壁を克服するための1つの方策ではある。

CHPのポテンシャル

2008年3月、METIは、燃料電池の利用を含め、2030年までにCHPの設備容量が16.3 GWeに達するとの予測を発表した。この潜在的なCHP設備容量の伸びを反映して、京都議定書目標達成計画の中には、2010年までに天然ガスCHP容量4980 MWeを新設すると記載されている。
IEAの国際CHP/DHC共同事業は、もし日本政府の強力な支援があれば、日本におけるCHPは、2030年に199TWhの電力供給能力を持つことができると推測している。
本報告書を含め、G8および他の5つの経済大国でCHP使用が増加すれば、以下のような便益が得られると予想している:
● 今後2030年まで、エネルギー投資コストを3-7%減少できる
● 消費者の電気代が少しだけ安くなる
● 2030年までにCO2排出量がおよそ10%削減できる

日本でCHP/DHCの真価を発揮させるには

過去20年以上にわたって、日本は、CHP/DHC市場を大きく育んできた。
IEAは、日本がこの努力を継続し、以下を遂行することで、真のCHP/DHCの恩恵に浴することができると確信している:
● 政府支援の維持・拡大
● 更に効率的な燃料電池を開発するため、革新的な研究開発プログラムを展開し続ける
● 業務用および産業用CHPに適したエンジン、タービン・システムを含め、CHP技術に関して、より広範に支援を行うための新しいプログラムを始める

IEAからの政策提言

市況を反映した補助金と税制面での優遇措置

日本は、税制面および補助金の支給で新規のCHP設置を経済的にバックアップしてきた。CHP・DHC市場の成長を継続・加速するためには、燃料費の変動と、比較的低価格の電気料金を考慮した補助金額の調整が不可欠である。

新しいCHP/DHC技術の開発・導入

家庭用CHPプログラムは軌道に乗っており、将来大成功を収めるポテンシャルを持っている。そのポテンシャルを実現するには、燃料電池その他の研究開発プログラムを継続するとともに、成熟してくる様々な技術について新たな実証と商用化に向けたプログラムの実施が望まれる。

CHP/DHCの恩恵を最大化するため、既存エネルギー・ネットワークを利用

家日本は既にCHPによってCO2排出削減・コスト削減を達成している(=個別最適)が、地域のエネルギー・ネットワークおよび配電網を利用した、面としてのエネルギー・ネットワークの展開が重要で、それにより、CHPのもたらす恩恵を最大化することができる。
それには、CHPで発電した電力が、CHPプラントオーナーにとって利益の出る価格で電力会社に買い取られる仕組みが必要である。

CHP/DHCと気候変動政策

CHP/DHCのサイトごとではなく、CHP/DHCのある地域ごとに温暖化ガス排出削減効果が確認できれば、排出量取引の仕組みをCHP/DHCの普及促進ツールとして利用することができる。排出量取引に関しては、欧米で採用されている限界排出係数(marginal emission factor)を研究するべきである。

同じようなエネルギー問題に直面している他の国々への協力

日本は、先進的で高効率のエネルギー利用技術を持っているので、同じく高効率CHP/DHC開発を目指す他の国々は、分野を横断してCHP開発・促進にあたった日本の経験から、多くを学習することができる。

日本のCHP/DHC評価

総合CHP評価:★★★☆☆

マイクロCHP/燃料電池の評価 :★★★★☆

以上、IEAの「CHP/DHC評価報告書:日本編」をかいつまんでご紹介しました。事例などを含め、全訳(に近い)日本語訳も用意してありますので、ご興味をお持ちの方は、ここからダウンロードしてお読みください。

この報告書が作成されたのは、2008年6月末頃のようですので、その後の日本の状況を確認しておきましょう。
以下は、一般財団法人コージェネレーション・エネルギー高度利用センターのホームページの情報を再掲させていただきます。まず、2010年3月現在の日本でのCHP導入状況を見てください。

下記の燃料種別導入実績を見ると、日本におけるCHPの設置台数は、順調に増えているものの、京都議定書目標達成計画に盛り込まれた2010年度の天然ガスCHP設置予定数4980MWに対して、実績値は266MW(約1/20)にとどまっています。


また、報告書の「CHPの利用状況」にある原動機種別に関しては、下記の2010年3月末時点の原動機種別導入実績と比べると、ガスタービン(3770MW→4050MW)、ガスエンジン(1940MW→2297MW)が伸び、ディーゼル(3080MW→3054MW)がわずかに減少していることがわかります。

※表の中段(赤線枠内)は、項目名が「導入台数(kW)」となっていますが、1つ前の燃料種別・累積容量の表にある合計値9,440MWと小計の値が同じなので、累積容量(MW)のデータであると思われます。

小売り事業者および家庭での利用も報告書作成時点より伸びています。

民生用CHP導入件数の全CHP導入件数に占める割合は、71%→約75%。ただし設備容量では、産業用を含めた全CHP設備容量の20%→21%弱と、微増にとどまっています。

次に、地域冷暖房(上記の2つのグラフ中「地冷」)に注目すると、2010年3月末現在で件数割合が1%にも拘わらず容量割合では16%を占めており、CHP導入1件当たりの発電容量は4498kWと、他の民生用CHPと比べて破格の大きさであることがわかります。ただ、2010年3月末時点でも、地域冷暖房の導入件数が民生用の1%(71件)、発電容量319.4MWにとどまっているのはさびしい限りです。

地域冷暖房の現状についてですが、「まちづくりと一体となった熱エネルギーの有効利用に関する研究会」 第1回資料5によると、下図の通り、熱供給事業者は、平成22年時点で84社、許可地点数は145地点。その多くは都市部に位置していて、平成17年以降、事業者数・地点数ともに微減傾向にあるそうです。

また、同資料で、近年、販売熱量の減少傾向が続いていることも指摘されており、その背景として、化石燃料価格の高騰やリーマンショック後の景気後退、需要家の省エネ意識の向上、個別熱源機器の性能向上などが挙げられています。(下図参照)


※なお、この図を見ると、これまで見た海外のIEAのCHP/DHC評価報告書では、DHCと言っても地域暖房(DH)が主でしたが、日本では、すでに地域冷房の割合が多いことがわかります。

この2つのグラフを見ると、日本でのDHCの将来が不安になってきますが、「まちづくりと一体となった熱エネルギーの有効利用に関する研究会」は、『熱供給事業法の対象となる地域冷暖房、地点熱供給や建物間熱融通などを検討対象とし、いわゆる「エネルギーの面的利用の推進=京都議定書目標達成計画の中での表現」を目指す研究会』ということなので、正にこの問題に取り組むための研究会と言えます。さる7月4日に第6回会合があり、中間とりまとめ(案)が検討されていました。研究会は、これまで課題を洗い出し、今後の方向性を検討する上で論点を整理するところまでを行い、この「中間とりまとめ」の報告書を作成して、後続にバトンタッチするようですが、エネルギー利用効率を向上させるため、今後の地域冷暖房の発展に期待したいと思っています。

最後に、日本のコジェネ(CHP)はこのままでよいのでしょうか?

この、IEA国際CHP/DHC共同事業がまとめた、主要国のCHP普及予測(Major economies’ CHP potentials under an accelerated CHP scenario, 2015 and 2030)を見ると、2005年時点ですでに日本はG8その他主要5カ国平均CHP設置容量を下回っており、2030年時点では、原子力発電に力を入れているフランスと並んで、南アフリカやブラジルよりCHP後進国になってしまっています。

IEAのCHP/DHC評価で「★3つ」の意味は、『国としてCHP/DHCの役割をハッキリ認識し、CHP/DHC市場を加速するための施策も打たれているが、他のエネルギーソリューションと比較すると、優先順位が低い。さらに、CHP/DHCの統合戦略に欠いているので、CHP/DHC市場の成長は緩やかである。

なるほど!と、頷かざるを得ません。

3.11以降、原子力行政が見直される中、CHP普及に関しても、積極的な促進政策が必要だと思われます。

そして、「まちづくりと一体となった熱エネルギーの有効利用に関する研究会」と、それ以降の動きをこれからも注視していきたいと思います。

昨年、IEAによる各国の地域冷暖房の取り組み評価の報告書群に遭遇した時、(自分が知らなかっただけかもしれないのですが)こんな情報が埋もれているのはもったいない、ブログで紹介しようと思い立ちました。しかし、報告書の翻訳作業負荷が結構大きいので、とりあえず、「IEAによる各国の地域冷暖房の取り組みの評価」をご紹介するブログシリーズは、これで終わりにしたいと思います。

終わり