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前回は、
1) V2Gの定義を振り返り、
2) 車から直接系統に電気を供給するV2Gというのは、論理的にあり得るけれども、実際には、系統側のソリューションが個々の車とコミュニケーションして電気のやり取りをするのではなく、マッチメーカーとしてのアグリゲーターが介在するのが現実的ではないか
3) ただし、現状では車のオーナーが積極的にV2Gに協力するとは思えない
ということをお話ししました。
ネットで同じような意見があるかどうか検索したところ、木野龍逸という方が、日経BP:ECO JAPANサイトの『電気自動車狂騒曲』というコラムで連載しているEVにまつわるレポートの中に、「EVは本当にスマートグリッドに利用できるのか?」と題したレポートがありました。
今回は、その内容を検討してみます。
件のレポートを読んでみると、『V2Gにはいくつかの疑問がある』として、大きく2点指摘されています。
指摘事項1:移動体であるEV(PHEV)を、本当に電力需給の安定化に利用できるのか?
A) 系統の安定化に利用するためには、バッファとなるEV(PHEV)の状況(電池の電圧と状態、今どこにいるか)を管理する必要がある
B) 仮に位置だけを把握しても、必ずグリッドに接続されるという保証はない
C) 「すいません、ちょっと今はV2Gで利用しているので、動かさないでもらえますか?」と、ユーザーに対して言うことは困難
D) 自動車関係者や電力関係者の中には、クルマに搭載している電池容量の低下を促進する可能性を不安視する声もある
E) 使いたいときに充電が減ってしまっている可能性は常にある。航続距離に制限のあるEVで、電池の充電量が減る事態はできるだけ避けたいと考えるのが普通のユーザー心理
指摘事項2:EV(PHEV)が電力系統の安定化に寄与するほど、台数が普及するのか?
A) 「次世代自動車戦略2010」に基づく推計では、2020年のEVやPHEVの年間販売は最大100万台
B) 仮に、100万台のすべてがEVだったとして、1台の電池容量が24kWh(日産「リーフ」並み)と仮定すると、1年間のEV販売で増える容量は2万4000MWh
C) 年を経るごとに、世の中に出回るEVの累計容量は増えていくが、現在、深夜電力のバッファに使用している揚水発電の2009年度の発電量は、全国10電力会社の合計の約596万MWhと比べると桁が違う
D) 電力の安定化のためには、揚水発電並みの電気容量が必要になるのではないかと仮定すると、EVやPHEVの電池容量は、あまりにも少ない。揚水発電並みの量を確保するのは容易ではないだろう
以下は、これらの指摘に関する考察です。
指摘事項1に関して
指摘事項1-A)、B)、C)を見ると、木野氏は、よく見受けられるV2Gの定義(前回のブログでの定義1、図1.右側参照)に基づき、V2Gでは、系統側が電力を供給する個々のEV/PHEVを認識・管理するという前提で、問題点を指摘されているように思われます。
図1.一般的なV2Gのイメージ
しかし、屋外で充放電する場合も、
1) 図1のように、EV/PHEVと接続された充放電ステーションを系統運用者(Grid Operator)のソリューションが直接制御するのではなく、
2) 図2のように、アグリゲーター(Aggregator)が、その時充放電ステーションに駐車しているEV/PHEVに対して、
3) 図3のように、それぞれのEV/PHEVのバッテリー状況(Driver’s Usage Profile)を把握し、系統のひっ迫状況(Grid OperatorからのPower Command)に応じて、複数台のEV/PHEVの充放電を制御するなら、
指摘事項1-A)、B)、C)は容易にクリアできます。
指摘事項1-E)に関しても、EV/PHEVを充放電ステーションに接続する際に、何時間駐車する予定か、および放電する場合も最低バッテリー容量の何%残しておくか等(図3でのPreferences)が指定できれば、EV/PHEVオーナーの不安は解消できます。
図2.実際のV2Gのイメージ
出典:Dolcera Public Wiki 「A market study on Hybrid vehicles and the concept of V2G」
図3.V2G技術を可能にするモデル(Possible model to Introduce V2G technology)
ただし、指摘事項1-D)は、単にEV/PHEV用途としてよりも毎日頻繁に充放電を繰り返しても、10年はEV/PHEVを駆動できるパワーを維持できるようなバッテリーの開発を待たなければなりません。
※先日(8/4)、一般社団法人スマートプロジェクト主催の『緊急課題「蓄電池」と「需要応答」の最前線』というタイトルのセミナーを受講しましたが、伊藤忠商事(株) 小野氏の『車載用蓄電池とその二次利用の取り組み』によると、現状では5年くらいでEVバッテリーの出力が落ちてEV駆動用には使えなくなるとのことでした。したがって、EV駆動以外にV2Gにより頻繁に放電が行われると、EVバッテリーとしての寿命が更に短くなってしまう可能性がありそうです。
また、EV用のバッテリーと、家庭用定置型バッテリーでは性格が違うので、EV/PHEVのバッテリーを家庭用定置型バッテリーとして二次利用する場合にも注意が必要とのことでした。
【結論】
移動体であるEV(PHEV)を、本当に電力需給の安定化に利用できるのか? : YES
指摘事項2に関して
指摘事項2-A)、B)では、2020年の年間EV/PHEV販売台数を100万台として、その台数で判断していますが、まず、2020年にEV/PHEVが何台あるのかを推測する必要があると思います。
これに関しては、弊ブログ「電気自動車の将来を見極めよう-その2」で、いろいろ想定を置いて計算したところ、(バッテリー寿命によりますが)200万 ~ 300万台という値を得ています。
そこで、木野氏と同じく、1台の電池容量が24kWhと仮定すると、2020年時点でEVが提供できる電力量は24kWh × 200万 = 4.8万MWh ~ 24kWh × 300万 = 7.2万MWh。中をとって6万MWhと考えてみます。
ただし、これは、それぞれのEVが1年に1回フル充電した分でしかありません。
指摘事項2-C)で、2009年度の1年間全国10電力会社の揚水発電量(約600万MWh)と比較するなら、1台のEVが平均年何回充電した分を「V2G」するか考えなくてはなりません。
平均して3日に一度、EVバッテリーのフル充電量を「V2G」すると想定すると、
6万MWh × 365 ÷ 3 = 730万MWhで、年間の揚水発電量を超えています。
【結論】
EV(PHEV)が電力系統の安定化に寄与するほど、台数が普及するのか? : YES
したがって、きわめておおざっぱですが、アグリゲーターを介したV2G制御の技術面と、2020年時点のEV普及台数で考える限り、2009年度の年間揚水発電量くらいV2Gで賄える-すなわち、「EVは本当にスマートグリッドに利用できる」という結論になるのではないでしょうか?
※ただし、経済面でのEV/PHEVオーナーのメリットから考えると、2020年に「V2G」がビジネスとして成立しているかどうかが、現時点では疑問ですが。。。
終わり
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- Demand Response, EV, EV-Battery, Smart Community, Smart Grid, V2G, スマートグリッド
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