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また、しばらくブログ更新が滞ってしまいました。
『Release 2.0 of the NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards』(長いので、以降、フレームワークと略します)を読もうとしていたのですが、なかなかまとまった時間が取れず、リリース2.0へのパブリックコメント提出締切日(11/25)も過ぎてしまいました。(もともとコメントするつもりはありませんでしたが。。。)

前回、フレームワークのエグゼクティブサマリから「リリース2.0での変更点」の節をご紹介しましたが、今回は、リリース2.0(以降2.0)とリリース1.0(以降1.0)をもう少し詳しく比較することを通して、ブログのタイトル通り、米国のスマートグリッド標準規格の動向を探ってみたいと思います。

では、始めます。

まず、どの部分を比較したかを以下に列記します:

1) 1.3節「Definitions」
2) 同じく1.3節「Applications and Requirements」
3) Table 4-1「Identified Standards」
4) Table 4-2「Additional Standards, Specifications, Profiles, Requirements, Guidelines, and reports for Further Review」
5) PAP (Priority Action Plan)

1.0と2.0の該当部分を抜粋し、横並びにして比較した表を作成しましたので、詳しくは比較基礎資料をご覧ください。

※比較した結果、

・内容が同じ部分は、文字色=黒
・2.0でなくなった部分は、文字色=赤
・2.0で追加・変更された部分は、文字色=青

としています。

  Definitionsの変更点

スマートグリッドは、電力・通信・ITに深くかかわっています。「Definitions」は、スマートグリッド関連の主要なキーワードに関して、それらの関連業界の方たち間で誤解が生じないよう、解説を試みたものですが、2.0で以下の6つのキーワード定義が増えています。
1. Energy Service Interface (ESI)
2. Functional Requirement
3. Legacy Systems
4. Mature Standard
5. Non-Functional Requirement
6. Reliability

このうち、Mature Standard以外は、長年IT業界に身を置いてきた自分にとって、わざわざ説明の必要もないくらいに感じますが、1.0以降のスマートグリッド関連標準規格間の調整活動を実施してきて、認識合わせが必要と感じたということでしょうか?
逆に、数年経てば新たな技術で置き換えられることの多いITの世界ではあまりお目にかかれないMature Standardが加わっているのは、スマートグリッドを実現する上で、10年、20年使われ続けることを前提とした仕組みづくりの重要性が示されていると感じました。
なお、ESIに関しては、定義には掲載されていないものの、1.0でも「3.5.2 The ESI and the Home Area Network」で、ESI(下図の赤線で囲った部分)とHANの関係が説明されています。
スマートグリッドでは、双方向通信機能を持つスマートメーターで、使用電力量の計測・記録・通信と遠隔開閉といった“電力業務”の他に、自動デマンドレスポンスのように、(電力会社から見て)メーターの先の機器まで制御できてしまいます。しかし、論理的に考えた場合、電力業務用のモジュールと、HAN(下図では、Premises Networks)とインタフェースして消費者が電力会社や第3者のエネルギーサービス・プロバイダーとデータ交換を行う、いわゆるホームゲートウェイ(HGW)は、機能的に別物と考えられます。ESIは、この後者に相当する論理的なモジュールで、有線/無線/PLCといった通信レイヤから独立したH2G/B2G/I2Gインタフェースを表しています。

図の拡大

「Definitions」の比較に戻ると、Interchangeabilityの定義が、1.0では「プラグ&プレイ」を意識した夢が語られていたのに対して、「システムのパフォーマンスに悪影響を及ぼさないmutual substitutionができる機能」といった控えめなニュアンスに変更されていました。

   Applications and Requirementsの変更点

1.0、2.0における、この項のタイトルは「1.3.2 Applications and Requirements: Eight Priority Areas」で、スマートグリッドにおける、8つの優先度の高いアプリケーションと、それに対する要件が記載されています。
1.0と2.0で8つのキーワードに変化はないのですが、表示順が入れ替わっていることに気付いた方はおられるでしょうか?
Definitionsでは、キーワードがアルファベット順に並べられていましたので、キーワード間の重要性の差異を推し量ることができませんでしたが、1.3.2では、キーワードが順不同に並べられていますので、著者らがどれほど意識していたかどうかは別として、キーワード間に何らかの重要度の差があることが考えられます。
詳しくは、比較基礎資料の5/27-6/27ページをご覧いただきたいのですが、2.0では1位、2位の出現順位が入れ替わり、「Demand response and consumer energy efficiency」が1位、「Wide-area situational awareness」が2位となっています。これは、広域監視よりもデマンドレスポンスによるピーク削減や消費者の省エネが優先課題だということではないかと考えられます。
その後、3,4位のキーワードはポジションが変わっていませんが、1.0では5位だった「Cyber security」が2.0では8位となり、1.0の6-8位が、それぞれ5-7位に繰り上がっています。なぜ、2.0で「Cyber security」を後回しにしたのか、それと先日ブログでご紹介した、NISTの推奨する5つのスマートグリッド関連の標準規格の不採用をFERCが決定したことと何か関係があるのか・・・
わかりません。
なお、2.0で5位となった「Network communications」、6位となった「Advanced metering infrastructure (AMI)」には、大幅な加筆・変更が行われていました。

   Identified Standardsの変更点

前回、「リリース2.0の変更点」では、原文をそのまま訳して「表4-1中のエントリーの数は、リリース1.0の25から34まで増加」とご紹介しましたが、比較基礎資料の10/27ページをご覧いただければわかる通り、2.0で選定されたスマートグリッド関連標準規格の数は35に上っています。新たに加わったものには、1.0で表4-2の検討項目に挙げられていたもの(3件)を含め10件で、サイバーセキュリティ標準化「NISTIR 7628:Smart Grid Security Strategy and Requirements」も含まれていますが、まだ個々の内容を確かめられていませんので、現時点でこれ以上コメントできません。

   Additional Standards, ~ and Reports for Further Reviewの変更点

表4-2「追加された標準規格、仕様書、プロファイル、要件、ガイドライン、および今後の調査予定の報告書(Additional Standards, Specifications, Profiles, Requirements, Guidelines, and Reports for Further Review)」中のエントリーの数は、1.0の50から62まで増加しています。逆に2.0でなくなっているものが5件あり、うち3件は、レビューが終わってスマートグリッド関連標準規格に認定され表4-1への追加となっており、2件(いずれもHomePlug関連)は、詳しく調べていないのですが、PAP15で検討されたため、こちらのリストから削除されたのではないかと推測しています。
新たに追加となったものに関しては、こちらもまだ個々の内容を確かめられていませんので、現時点でこれ以上コメントできませんが、OpenADEは「Energy Service provider Interface」として、OpenADRは、OASIS Energy Interoperation (EI)として表 4-2に登録されていました。

   PAPの変更点

PAPは、1.0で15あったものが、2.0では19に増えています。当初の15のPAPのうち、作業が完了したものがPAP01(Role of IP in the Smart Grid)とPAP10(Standard Energy Usage Information)の2件、および1.0時点ではなかったPAP00(Meter Upgradeability Standard)で、合計3件。
PAP00の結果は、「NEMA Smart Grid Standards Publication SG-AMI 1-2009 – Requirements for Smart Meter Upgradeability」として2.0ではTable4-1(Identified Standards)No.14に追加登録されています。
同じくPAP01の結果は、「Internet Protocol Suite, Request for Comments (RFC) 6272, Internet Protocols for the Smart Grid.」として、Table4-1(Identified Standards)No.11に追加登録されています。
PAP10の結果は、既にスマートグリッド関連標準規格として登録されている、OASIS、IEC61970/61968、 IEC61850、 ANSI C12.19/22、 PAP17/ American Society of Heating, Refrigerating and Air Conditioning Engineers (ASHRAE) SPC201、およびSmart Energy Profile (SEP) 2.0で対応するということで完了とされているようです。
その他2011年中に完了予定のものが、以下の通り目白押しで、2012年になるとスマートグリッド関連標準規格の相互運用性が飛躍的によくなりそうです。

PAP02 「Wireless Communications for the Smart Grid」、
PAP03 「Common Price Communication Model」、
PAP04 「Common Schedule Communication Mechanism」、
PAP05 「Standard Meter Data Profiles」
PAP06 「Common Semantic Model for Meter Data Tables」
PAP08 「CIM for Distribution Grid Management」
PAP09 「Standard DR and DER Signals」
PAP11 「Common Object Models for Electric Transportation」
PAP12 「Mapping IEEE 1815 (DNP3) to IEC 61850 Objects」
PAP13 「Harmonization of IEEE C37.118 with IEC 61850 and Precision Time Synchronization」
PAP14 「Transmission and Distribution Power Systems Model Mapping」
PAP15 「Harmonize Power Line Carrier Standards for Appliance Communications in the Home」
PAP16 「Wind Plant Communications」
PAP17 「Facility Smart Grid Information Standard」
PAP18 「SEP 1.x to SEP 2 Transition and Coexistence」

以上、今回も短めですが、フレームワーク1.0と2.0の相違点を少し詳しく眺めてみました。

米国では、スマートグリッド関連の標準規格としてリストアップしたものをつなぎ合わせても非整合が起きないよう相互運用性確保の努力が続けられていることがわかりました。

なお、これまでOpenADR、OpenADEについては、調査した内容を、都度ばらばらと本ブログでご紹介してきましたが、そのうちに、それぞれまとまったレポートにしようと思っていました。今回、OpenADRからEI、OpenADEからESPIという、これまでの流れをVersion.1としてまとめ、弊社ホームページ「調査実績」No.20No.21として登録しましたので、ご興味のある方はご覧ください。

終わり