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去る3月12日、約1年ぶりに経産省資源エネルギー庁のスマートメーター制度検討会が開催されました。現在、下記の通り、当日の配布資料のみが公開されています。

第11回スマートメーター制度検討会
開催日: 平成24年3月12日
配布資料
座席表
資料1 議事次第
資料2 委員名簿
資料3 スマートメーターの最近の動向について
資料4-1 スマートハウス標準化検討会とりまとめ概要
資料4-2 スマートハウス標準化検討会中間とりまとめ
資料5 省エネルギー部会中間とりまとめについて
資料6 スマートメーター導入に係る電気事業者の取り組みについて
 添付資料1 スマートメーターに係る取組・検討状況【集約】
 添付資料2 各社取組のトピックス
  別添1 中部電力
  別添2 関西電力
資料7-1 ガススマートメーターへの取組み
資料7-2 ガススマートメーターに関する当社の取組み状況
資料8 スマートメーター大規模導入効果実証実験事業結果概要
資料9 スマートメーター及び柔軟な料金制度に関する海外動向
参考資料 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー部会 中間取りまとめ

残念ながら傍聴の抽選に漏れましたので、どのような議論が実際に行われたのかは分かりませんが、配布資料から、どのようなことが議論されていたのか、簡単にご紹介したいと思います。

なお、文字色を変えてある部分は、コメントを挿入(文字色=緑)したものか、あるいは原文へのハイパーリンクを貼った部分です。

では、はじめます。

  スマートメーターの最近の動向について

資料3を見ると、これまでのスマートメーター制度検討会の議論として「Aルート」には遠隔検針用通信、「Bルート」にはHEMS用通信という名前が付けられ(「Cルート」に関しては名前も付けられていないのは、優先度の低い証拠でしょうか?)、スマートメーターとHEMSの連携により期待されるイメージとして、下図が載せられています。

出典:資料3 - 3ページ

図.1 スマートメーターとエネルギーマネジメントシステムの連携により期待される効果

図中の3つの期待される効果のうち、「①:業務効率化のための遠隔検針・開閉」はこれまでこの検討会で話し合われてきた日本型スマートメーターの機能範囲、「②:需要家による省エネ・省CO2のためのデータ活用」はHEMSが提供する機能範囲なので、「③:系統安定化のための需要家側の機器制御」がスマートメーターとHEMSが連携することによって期待されている効果と考えられます。
これは、国家戦略室のエネルギー・環境会議における議論を踏まえた、スマートメーターに対する期待の変化を表していると思います。すなわち、昨年の3月11日の東日本大震災以降の電力需給の逼迫を背景にスマートメーター導入の機運が一層高まり、電力使用情報を見える化し、柔軟な電気料金メニューを実現するデマンドレスポンスのツールとしてのスマートメーターの機能に期待が集まっているというのが、最近の動向ということですね。

昨年7月、エネルギー・環境会議において決定された「当面のエネルギー需給安定策」では、「スマートメーターの導入促進及びそれを活用した需要家に対するピークカットを促す料金メニューの普及」、「今後5年以内に高圧を含めた総需要の8割をスマートメーター化し、これによりスマートグリッドの早期実現」という方針が打ち出されましたが、その後、「電力会社の事情を考えると、5年後の導入見込みは総需要の6~7割程度」という発表が資源エネルギー庁からあったことをスマートグリッド/スマートメーターに関する、ここ1ヶ月で気になったニュースでお伝えしました。その後の動きを当ブログでフォローできていなかったのですが、下図の通り、スマートハウス標準化検討会の中で、スマートメーターとHEMS間のインタフェースの標準化が検討されていたようです。

出典:資料3 -16ページ

図.2 スマートメーターとHEMS間のインタフェース標準化

また、電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議(第1回会合は昨年11月で、合計6回の会合が開催され、今年3月15日に「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議報告書」がまとめられている)で、デマンドレスポンス料金とスマートメーターの導入について検討されています。その中で、「スマートメーターの早期導入に向けて規格の標準化を進めるとともに、効率的な調達の観点からオープンな形で実質的な競争がある入札を行うこと」が提言されました。

これを受けて3月21日、東京電力は、スマートメーター通信機能基本仕様に関する意見の募集を行っています。また、その提案募集において、提案された技術のうち、コスト、機能、品質等の面で優位性が認められる可能性の高い技術については、今後、実証試験を含めた更に詳細な提案依頼予定としています。
なお、採用に当たって、スマートメーターが実現する機能に関する前提条件として、以下が示されています。

1)30分検針値を収集できること(収集には、定期収集とデータ欠損時等の個別収集が規定されているが、定期収集が30分ごととは規定されていない)
2)センターからスマートメーターの設定・制御ができること
3)ハンディターミナル(検針装置)を用いた直接検針、設定・制御もできること
4)スマートハウス標準化検討会で取りまとめられたスマートメーターとHEMSのインタフェース標準(ECHONET Lite)に準拠し、通信ネットワークはIPに準拠、伝送メディアは920MHz帯特定小電力無線、無線LAN、PLCの3方式のいずれかであること
5)通信傍受やなりすまし、データ改ざん、電波妨害などを排除し、確実なセキュリティー対策を施すこと
6)運用保守機能として、スマートメーター自らが設備管理情報をセンターに自動送信(=プラグアンドプレイ機能)し、遠隔から通信ネットワークを介して通信ソフトウエアを更新できること

 省エネルギー部会中間とりまとめについて

資料5によると、総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会では、『現行省エネ法には「ピーク対策」の観点は含まれておらず、自家発や蓄電池を導入している事業者を評価していないため、今後は、「ピーク対策」を積極的に評価する体系に変えてはどうか』等、震災によって生じた課題の検討を行うべく、昨年11月より5回の会合を持ち、中間とりまとめ(冒頭の参考資料)を2月29日に公表しています。
この中で、「省エネ法改正の方向性について」のピーク対策として、以下の提言が行われています。

① 需要家側における対策:省エネ法を見直し、需要家が電力ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合に、これを評価できる体系にすべきである。具体的には、例えば、ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合に、当該取組が評価されるよう、省エネ法のエネルギー消費原単位の算出方法を見直す。算出方法の見直しにあたっては、国全体として省エネを推進するという考え方の範囲内で合理的なものとなるよう留意する。

② 電気事業者からの需要家への情報提供について:ピーク対策の効果的な推進のためには、スマートメーターの早期普及を通じて電力の需給状況に応じたピーク時間帯料金等の柔軟な料金メニューの構築や電力使用情報の見える化により、需要家側が電力の需給状況に応じたピークコントロールを行うようにすることが重要である。

なお、平成23年度経済産業省関連第三次補正予算の概要「エネルギー対策の推進」を見ると、以上の流れと並行する形で、経産省平成23年度第三次補正予算の1つとして「エネルギー管理システム(BEMS・HEMS)導入促進事業費補助金」300億円が計上されています。

出典:平成23年度経済産業省関連第三次補正予算の概要「エネルギー対策の推進」3ページ

図.3 エネルギー管理システム(BEMS・HEMS)導入促進事業費補助金

 電力会社のスマートメーター導入状況と今後の予定

まず、我が国の電力需要家構造とメーター機能の対応状況は下図の通りです。

出典:資料3 - 10ページ

図.4 我が国の需要家構造とメーター機能の対応状況

• 需要家構造:大きく特高・高圧大口(契約電力500kW以上)、高圧小口(契約電力50kW以上500kW未満)、低圧(契約電力50kW未満、一般家庭等が該当)の3部門に分けられる
• ピーク需要に占める各部門の割合はおよそ1/3ずつとなっている
• 設置されているメーターの性能は各部門で異なり、特高・高圧大口需要家では大部分の需要家で遠隔検針が実施されている
• 低圧では9割が機械式メーターのままとなっている

最近、いろいろな場面でパレートの法則(あるいは「2割8割の法則」。例えば、「全所得の8割は、人口の2割の富裕層が持つ」など)の当てはまることが指摘されていますが、日本の電力ピーク需要においては、もっと極端で、全体の67%(高圧・特高需要家のピーク需要合計のピーク需要全体に占める割合)は、実は全需要家数の1%以下(高圧・特高需要家合計:(5万+70万)÷(5万+70万+7700万) < 1%)の需要家が占めていることがわかります。

また、各電力会社は、昨年11月のエネルギー・環境会議に「電力会社の需給対策アクションプラン」として下表のようにスマートメーター導入見通しについて報告しています。

出典:資料3 - 11ページ

表.1 電力各社のスマートメーター導入等に関する取組

※経産省が昨年8月ごろ電気新聞にリークした?「電力会社の事情を考えると、5年後の導入見込みは総需要の6~7割程度」というのは、各電力会社が、この報告を行う過程で得た感触を事前に経産省に伝えたものかもしれません

 スマートメーター大規模導入効果実証実験事業結果について

この第11回スマートメーター制度検討会では、電力会社から、関東・関西で合計900世帯のモニターを募集し、それを以下の4つのグループに分けて、料金プログラムによるピーク需要削減効果測定の実証実験を実施した結果も報告されています。

出典:資料8 - 3ページ

図.5 デマンドレスポンス実証実験のグループ分け一覧

その実証実験結果は、図.6の通りで、以下の知見が得られたと報告されています。
• 各グループでのロードカーブ(時間帯別の平均電力消費量)を見ると、CPP発動日の方がより顕著に、ピーク時間帯(13時~16時)のグループ間の差が出ていることが分かる。
• CPP発動日平均の関東と関西を比較すると、関東の方がややグループ間の差が大きく、地域差が確認される。

出典:資料8 - 4ページ

図.6 デマンドレスポンス実証実験結果比較

このグラフを見て、一般家庭にスマートメーターを導入して、その投下資本に対して見合うだけの効果が得られるのか、少々不安になったのは私だけでしょうか?

更に、問題だと思ったのは、実証実験に参加したモニターに関して、下図の通り、恣意的な偏りが存在することです。

出典:資料8 - 2ページ

図.7 デマンドレスポンス実証実験のモニター属性

去る3月15日、「東京都の1世帯当たりの平均人数が1.99人となり、1957年の調査開始以来初めて2人を下回ったことが、2012年3月15日、都の調査で明らかになった」というニュースを耳にしましたが、この実証実験では、単身世帯がなぜか含まれていないのです。独身で昼間は家にいない世帯や、逆に独居老人でずっと家にいる世帯をモニターに含めてこそ、実態に合った実証実験になったと思うのですが、いろいろな角度から創意工夫してデマンドレスポンスの効果測定をされているにもかかわらず、実証実験対象世帯を選定するという原点で、実態を反映していない点が非常に残念です。

以上、第11回スマートメーター制度検討会の配布資料から、その内容をかいつまんでご紹介し、気づいたことに関して述べさせていただきました。

以前から感じていたのですが、図.6を見ればわかるように、ピーク時間帯の一般家庭の電力需要は、それほど高くありません。効率的にピーク需要削減を行うには、ピーク時間帯に一番大量に電力を使用している部門が率先して需要削減すべきではないでしょうか?それはどのような部門なのか?

エネルギー白書2011の東京電力管内の夏期最大電力使用日の需要構造推計図によると、業務部門が一番多く、2500万kWとなっています。(下図参照)

出典:エネルギー白書2011

図.8 東京電力管内-夏期最大電力使用日の需要構造推計図

更に同白書は、業務部門の8業種(オフィスビル、卸・小売店、食品スーパー、医療機関、ホテル・旅館、飲食店、学校、製造業)について、業種別電力消費量の推計を行っています(下図参照)が、これによると、オフィスと卸・小売店部門のピーク需要が多いことがわかります。

出典:エネルギー白書2011

図.9 東京電力管内-夏期最大電力使用日の業務部門-業種別需要構造推計図

また、業務部門の用途別電力消費量の推計(下図参照)も行われていて、これによると、空調と照明の電力消費が大きいことがわかります。

出典:エネルギー白書2011

図.10 東京電力管内-夏期最大電力使用日の業務部門-用途別需要構造推計図

非現実的かもしれませんが、スペインのシエスタのような制度を取り入れて、クリティカルピークが予想される日は、13~16時の時間帯を昼休みとし、オフィスおよび卸・小売店の照明・空調を最低限に抑えることを、政府・経済界などの間で合意できれば、システム投資=0のピーク需要削減が実現できるのではないでしょうか。

終わり