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デマンドレスポンス(DR)実行結果の計測と検証(M&V)の標準について取り上げています。
前回は、DRアグリゲーターであるEnerNOC社の白書『デマンドレスポンスの基準(The Demand Response Baseline)』より、「はじめに」および「第1章 DRと、そのベースラインの基礎」をご紹介しました。
まず、DRプログラムのベースラインについて、復習/補足しておきましょう。
出典は「NAESB MEASUREMENT AND VERIFICATION MODEL BUSINESS PRACTICE RETAIL ELECTRIC DEMAND RESPONSE」です。
図.1 DRイベントの実施タイミング
上図は、DRイベントを実施する上で、各タイミング(青の矢印)と、DRイベントを構成する複数の期間の名称を示しています。
図.2 ベースラインのコンセプトとDRイベント実施時のメーター計測値の関係
図.2の中でなだらかな緑色の山の稜線をなすのがベースラインで、もしDRイベントが発生しなければ、このような需要カーブなっただろうという予測値の集まりです。これに対して、下段にあるようにDRイベントが発動され、この顧客は、「負荷削減義務実施完了期限」までにDRプログラム契約で約束しただけ負荷を削減。DRイベントの解除通知を受けて、徐々に元の需要予測値まで負荷が戻っています。また、青の点線が、インターバルメーター(一定時間間隔ごとの電力使用量を計測・記憶できるメーター)による負荷の計測値で、DRイベント期間、この顧客は契約した削減量以上に負荷削減を実施したことがわかります。
この図にある通り、一般にDRイベント期間中も負荷は一定ではないので、インターバルメーターで計測する時間区分ごとに[ベースライン-契約上の負荷削減量]と実際のメーター計測値を比較することで、顧客が約束通り需要削減しているかどうか判定されます。DRプログラムによっては、削減義務違反の場合、達成しなかった削減量に応じたペナルティが科せられますので、顧客にとっても、DRプログラムの運用者にとっても、ベースラインを正確に予想することが非常に重要であることがお分かりいただけると思います。
では、今回も、EnerNOCの白書『デマンドレスポンスの基準(The Demand Response Baseline)』から、引き続き「第2章 ベースラインの類型」をご紹介します。
例によって、全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足が混じっていることをご承知おきください。
EnerNOC 白書:デマンドレスポンスの基準 (続き)
2.ベースラインの類型
米国各地の卸売市場・リアルタイム市場で実施されているDRプログラムを調べてみると、顧客がDRイベントに対して期待通り負荷削減を実施したかどうか計測と検証(M&V)を行うため、実に様々なベースライン(基準)を採用していることが分かった。それらに共通していることと言えば、唯1つ。どのベースラインも完全ではないということだ。ベースラインは、予測値でしかないからである。
ところで、DRプログラムといっても、DRイベントを発動する条件や、頻度、通知のタイミング、継続時間などいろいろなものがあるので、DRプログラムのタイプによって、適切なベースライン、すなわち、もっともらしい予測値の考え方が異なっても仕方がない。NAESBでは、卸売市場・リアルタイム市場で実施されているDRプログラムが採用しているベースラインの考え方を整理し、5種類のベースラインに類型化した。
• ベースラインタイプ Ⅰ:Baseline Type Ⅰ
過去のインターバルメーターのデータ(たとえば1時間ごとに計測されたもの)をもとにベースラインを計算するタイプ。天候情報を加味して調整する場合もある。
• 最大ベース負荷:Maximum Base Load (MBL)
DRプログラムのルールとして、DRイベント期間中、顧客は負荷を一定レベル以下に抑えることが義務付けられている場合に有効なベースラインで、過去のDRイベントで当該顧客がキープできたフラットでコンスタントな値をベースラインとする。
• DRイベント開始前後のメーター値:Meter Before / Meter After (MBMA)
事前通知を行う暇がないアンシラリーサービス用DRプログラム等に用いられるベースラインで、DRイベント開始前後のメーター値(計測値)をベースラインとするタイプ。
• ベースラインタイプII:Baseline Type Ⅱ
インターバルメーターが付いていず、時間区分ごとの電力使用量計測が不可能な顧客に関して、同じタイプの顧客の負荷カーブの統計データをもとにして、想定ベースラインを生成するもの。
• 発電タイプ:Metering Generator Output (MGO)
ベースラインは全期間0で、DRイベント期間中、顧客が保有する緊急バックアップ発電機の発電量がDR資源提供実績として計測される。
最後のベースラインタイプは、通常のデマンドレスポンスの対象となる負荷削減量を計測するものではなく、オンサイト発電機を保有する顧客が提供する電力を計測するものなので、以降では、これを除く4つのベースラインタイプそれぞれについて、更に詳しく説明する。
2.1 ベースラインタイプ I
ベースラインタイプⅠは、インターバルメーターで計測された過去のデータに基づいてベースラインを決定するもので、現在、もっとも多くのDRプログラムで採用されている。
このタイプのベースライン計算法として、平均化法、回帰分析法、同等日採用法および加重移動平均法がある。
まず、これらの計算法に共通する、ベースラインタイプIの特性を示す。
• ベースラインのグラフ形状は、図.2のように、時間区分ごとに変化した曲線になる。
• DRプログラムを適用する 個々の顧客サイトのメーター計測データを利用する。
• あまり古いデータを使うと季節変動その他の影響を受けるので、比較的DRイベントの直近に計測されたメーターデータを使う。
• 電力使用量は、季節の他にも、天候や曜日によって影響を受ける。そこで、過去に計測されたメーターデータをそのまま利用するのではなく、天候や曜日による調整が行われることがある。
次に、ベースラインタイプⅠの4つのバリエーションそれぞれの詳細を示す。
2.1.1 平均化法(Averaging Methods)
ベースラインタイプⅠの中でも最も広く使用されているもので、個々の時間区分ごとに、直近の過去のメーター計測値を平均化して需要予測値とし、ベースラインを形成する方法。実際に平均化法を適用するにあたって、「High X of Y」という手法が採用されている。
【「High X of Y」手法】
この手法は、DRイベント直近のY日間のうち、電力使用量の高かったX日分のデータをベースラインの計算に採用するものである。
「High X of Y」手法は、全米の卸売市場向けDRプログラムのベースライン決定手法としてあまねく採用されている。例えば、PJMは「High 4 of 5」、カナダのオンタリオ州では「High 15 of 20」、カリフォルニア州では「High 10 of 10」が採用されている。
ここで、XとYには、以下の考え方が採用されている。
ルックバック期間
「High X of Y」手法でベースラインを決定するにあたって、DRイベントに先立って過去のメーター計測値を参照する期間「Y」のことをルックバック期間という。あまり過去に遡りすぎるのは、DRイベント当日の負荷を予測するのに適さないので注意が必要である。
排除ルール
「High X of Y」手法でベースラインを決定するにあたって、「Y」の期間内であっても、DRイベント日とは特徴的に異なる日の計測データを排除しないと、適切な負荷予測ができない。
一般に、DRイベント日となるのは、ウィークデイなので、負荷パターンの異なる祝祭日や週末の土曜日、日曜日は、「Y」期間内にあっても、ベースライン算定対象日から除外される。多くのDRプログラムでは、北米電力信頼性協議会(NERC)がオフピーク日として定めた休日標準を、除外ルールを適用する日としている。また、過去にDRイベントが発動された日が「Y」期間内に含まれていた場合、その日も除外する。
この基礎的な排除ルールに加えて、定休日などあらかじめ負荷の低いことが分かっている日も除外する。「Y」期間内で、NERCの定めたオフピーク日でなくても、同じ時間区間の他の日の平均負荷より極端に低い負荷実績値は、平均値を不当に押し下げてしまうからである。
過去データの中で、DRイベント実施日、休日、週末に加えて、例えば、過去のある日の特定時間帯の負荷が、「Y」期間内の平均の負荷のZ%以下ならば、そのデータはベースライン算定に使わないというような閾値の考え方がベースラインタイプⅠ決定にあたってPJM等で採用されているが、欠点として、ベースラインの算定処理が複雑になってしまうことがあげられる。
XとYの関係
「Y」期間が定まったら、その中から、DRイベント当日に近いと予想される日を「X」日分選択する。ただし、X日分のデータ選択は、DRプログラムの性質に基づいて決定しなければならない。
例えば、緊急DRプログラムでは、ハリケーンのような異常気象による需要増大が予想される場合にのみDRイベントを発動する。しかしながら、直近の過去データで、同等のDRイベントが発生した日が「Y」期間内に存在することは、まずない。
したがって、緊急DRプログラムにおいては、不用意に「Y」期間内の「X」日分の過去のメーター計測データを未調整のままベースライン算定に使用してしまうと、当日の負荷予測を過小評価し、顧客の負荷削減努力を正当に評価できない結果となる。これを避けるため、多くのDRプログラムでは、ベースライン算定にあたって、過去の「X」日分のメーター計測データのうち、最低負荷のデータを排除するルールを適用している。
一方、オンサイト発電設備を有する大口顧客は、いわゆる高負荷日のピーク時間帯には自家発を稼働させるためピークが立たない。したがって、そのような顧客向けのDRプログラムは、夏冬のピークより、春と秋の中程度の負荷ピークをとらえるため、「High X of Y」法ではなく、「Middle X of Y」と呼ばれる方法によりベースラインが算定される。
「High X of Y」法および「Middle X of Y」法のバリエーションとして、「ベースライン調整」の考え方がある。
ベースライン調整
前述の通り、「X」日としては、DRイベントと似た日を選ぶのが基本である。しかしながら、そもそもDRイベントが発生するのは、通常範囲で需要がおさまらないことに起因することが多い。CPPのようなピーク需要削減を目的とするDRプログラムや、発電機の故障などをトリガーとする緊急DRプログラムがその好例で、その背景には想定範囲外の事態が関係している。ということは、「Y」の期間をいくら長くしても、DRイベントに似た「X」日というのは存在しない可能性がある。そこで、「High X of Y」ベースラインの調節が必要となってくる。
ベースライン調整では、過去のメーター計測データではなく、DRイベント日のメーター計測データに基づいて調節が行われる。どのように調整するかについては、①調整を行うために使用される時間枠、②調整値を絶対値指定するのか増分割合を指定するのか、③調整値の上限を設けるか否か、④調整方向として±どちらもありとするか、増加する方向の調整だけにするかを検討しなければならない。
① 時間枠
ほとんどのベースライン調整は、DRイベントを実施する以前の2~4時間の時間枠のメーター計測値を使用する。
ベースライン調整が必要かどうかを見極めるには1時間以上必要であり、4時間以上になるとDRイベントと同一条件下にあると考えにくいからである。この時間枠内のメーター計測値を、同一時間帯の負荷予測値と比較することで、適切な調整量が決定される。
ただ、このベースライン調整時間枠の運用については、注意が必要である。例えば、DRイベントを12:00に開始するということを11:00に顧客に事前通知するDRプログラムの場合、ベースライン調整計算に使用する時間枠が4時間なら、8:00~11・:00にするべきである。
DRイベント開始直近の9:00~12:00のデータを用いて調整計算を行う方が正確なベースラインが計算できる気がするが、DRイベント実施の通告を受けた顧客が、11;:00~12:00の間、不正な負荷調整を行うことで、調整量の計算値が不正確となる可能性があるからである。
② 絶対値指定と増分割合指定
ベースライン調整法として、絶対値(kW)を用いる方法と、予測値に対する増分(%)を用いる方法がある。
例えば、DRイベント前日のメーター計測値が、ベースラインの30%増しならば、DRイベント当日のベースライン調整法として、本来予測していたベースラインの130%とするのが、増分割増。その代りに、前日の実需(kW)とベースラインの差を計算し、「下駄をはかせる」のが絶対値によるベースライン調整である。
※EnerNOCの経験では、調整時間枠内の負荷が非常に低い場合、増分割増法は非常に不安定で誇張された結果を生む。従って、絶対値指定の使用を勧めている。
③ 上限値設定の有無
DRプログラムの中には、過大な調整になってしまわないよう、上限値を設けているものがある。例えば、100kWのベースラインを持つ顧客の負荷が、DRイベント通知直前130kWだったとする。調整量に上限値を設けない場合、絶対値指定の調整値計算では、30kWを調整と考える。しかし、あるDRプログラムで負荷調整の上限を20%と決めていたとすると、調整値は30kW×20%=6kWに制限される。
④ ベースラインの調整方向
ベースラインの調整方向として、増加も減少も考える方式と、増加しか考えない方式がある。
DRイベントを発動するかどうかは、当日の状況によるが、その状況としてはベースラインを増加させる方向に変化している場合もあれば、減少させる方向の場合もある。したがって、調整値として増加・減少両方を考慮する方式の方が、ベースライン計算が正確になると考えられる。
しかしながら、増減両方向の調整方式は、場合によっては、意図せず有害な結果を招く場合がある。
例えば、DRイベント当日、DRイベント開始直前に定常業務が終了してしまった顧客は、生産ラインを止めて負荷削減するかもしれない。生産ラインを止めた後のメーター計測値をもとにベースラインの調整値を計算してしまうと、その顧客のベースラインが下方修正され、本来、DRイベント期間に当該顧客が使ったであろう負荷を示すべきベースラインとの乖離が生じる。
このようなケースが起こりうるので、DRプログラムを設計するにあたって、調整値計算に利用する時間枠の決定には熟慮が必要である。
2.1.2 回帰分析法(Regression)
ベースラインタイプIの2番目のバリエーションは回帰分析法で定めるものである。
このベースラインは、それまでの負荷パターン、天候、曜日(土日・祝日か、普通の日か)等に基づいて当該顧客の負荷を予測するために回帰分析を使用して構築するものである。
負荷に影響する多くの変数を考慮に入れる回帰分析法は、ベースラインの構築方法の中で、最も正確なものかもしれない。過去10年にわたって、多数のグループが、回帰分析法で作成したベースラインと、「High X of Y」手法で作成したものとの比較研究を行っている。結果はいろいろあり、正確性において優劣付けがたいというのが現在、大方の見方となっている。ただし、リアルタイムにベースラインを計算する必要性を考え併せた場合、負荷データだけでなく、天候や曜日データなど多種類のデータから複雑な計算を経て計算される回帰分析法は、手間がかかりすぎる。正確性を追求するあまり、ベースライン計算の簡潔さ、わかりやすさが犠牲になっている面があり、総合的にみた場合、ベースライン作成手法として「High X of Y」手法の方に分があるようである。
2.1.3 同等日採用法
もう1つのベースラインタイプIのバリエーションは、同等日のメーター計測値からベースラインを決定する方法である。
この手法では、状況がDRイベント日と最も似ている一日を見つけ、その日の負荷データを、実施しようとしているDRイベント日のベースラインとして採用する。この手法でも、過去のメーター計測値が使用されるが、平均化手法と異なり、複数日の同一時間区分のデータを平均してベースラインとするのではなく、選定された日のメーター計測値がそのままベースラインとなる。
この手法でのベースラインには2つの問題がある:
1)負荷削減目標を達成しているかどうかの判断に、そのようなベースラインを用いてよいのか?
2)ベースラインとして採用する同等日の選択基準が定かではないので、同等日自身の正当性の評価が困難。
2.1.4 加重移動平均法
ベースラインタイプⅠ最後のバリエーションである加重移動平均法でも、ベースライン計算に過去のメーター計測値を利用するが、DRイベント発動日に近いデータの重みを増すことによって、なるべくDRイベント当日に近いベースラインを得ようとするものになっている。
一般的には、多数のデータから平均値を計算する方が、少数のデータから平均をとるより、平均値としての信頼性が増すと考えられる。しかし、電力使用量が季節間で変動する顧客に対して、年間を通したメーター計測データから時間区分ごとの平均値を計算し、それをもってベースラインとするのは得策ではない。例えば、夏季は閉鎖されているスキー場で、冬の間だけ、平日休日を問わず毎日スキーリフトを10時間作動させスキー場軽視る顧客のベースラインを考えれば、自明であろう。
2.2 最大ベース負荷(Maximum Base Load:MBL)
5種類のベースライン類型の第2番目である最大ベース負荷は、顧客がDR資源として負荷削減に協力できる能力に基づいたベースライン決定法である。米国東部の地域送電機関(RTO)であるPJMでは、この最大ベース負荷を、Firmサービスレベルと呼んでいる。
MBL手法では、まず、1つ以上の過去の最大負荷を洗い出す。複数の最大負荷を選んだ場合は、その平均をとって、そこから、顧客がコミットした負荷削減量を差し引いたものを最大ベース負荷とする。他のベースラインタイプⅠ手法では、電力削減量が指定されるのに対してMBL手法では、顧客はDRイベント期間中、最大ベース負荷レベル以下に電力使用を抑えなければならない。
最大ベース負荷の特徴は以下のとおりである:
• DRイベント期間中のベースラインは一定値となる。
• 個々の顧客サイトのメーター計測データと系統のデータを利用する。
• 1年前のメーター計測データを使用する。
また、他の手法と違い、DRイベント期間前、顧客の負荷が最大ベース負荷以下になっている場合、顧客は何もする必要がない。
最大ベース負荷手法を採用している事例として、ニューヨーク系統運用者(NYISO)のSCR(Special Case Resources)プログラムで採用されているACL(Average Coincident Load)、およびPJMのELPR( Emergency Load Response Program)でFSL(Firm Service Level)の1つとなっているPLC(Peak Load Contribution)がある。
両手法とも、前年ピーク負荷を記録した時間区分を洗い出し、その時間区分の負荷(最大負荷)を、その顧客の今年度のDRイベント時間帯に関するベースライン、すなわち最大ベース負荷としている。
システムピークとの関連
MBLベースライン手法には、システムピークに連動させる方式と、連動させない方式がある。
システムピーク連動方式では、最大ベース負荷として、系統全体がピークを記録した時間帯の、個々の顧客のメーター計測値を用いるのに対して、システムピークと連動させない方式では、純粋に個々の顧客の前年ピークデータを用いる。そのため、後者では、最大ベース負荷の時間帯は顧客によって異なり、他の同一DRプログラムの顧客と一致しないことがありうる。
2.3 DRイベント通知直前値をベースラインとする方法
5種類のベースライン類型の3番目は、DRイベント発動直前のメーター計測値をもとにベースラインを決定する方法で、主にアンシラリーサービス型DRプログラムのベースライン策定に適用されるものである。アンシラリーサービス用DRプログラムでは、そもそも事前通知などできず、系統の時々刻々の状況に応じて必要なDR資源を調達しなければならない。そのため、ベースライン計算の考え方も、ユニークなものとなっている。
本手法のベースライン計算の特徴は以下のとおりである:
• ベースラインは一定値である
• 個々の顧客のメーター計測値を利用する
• 過去のメーター計測値といっても、DRイベント直近のデータのみを利用する
2.4 ベースラインタイプⅡ
ベースラインタイプⅡも、5種類のベースライン類型の1つであるが、他のベースライン算定法と違い、対象顧客の過去のメーターデータを用いず、統計的なサンプリングデータをもとにベースラインを作成するものである。
過去のメーター計測値がないので、代わりにデータが利用可能な、似たような顧客のメーター計測データをもとにしてベースラインを作成する。
一般家庭と異なり、商工業顧客ではすでにインターバルメーターが設置されていることが多いので、ベースライタイプII手法によるベースライン作成はあまり行われない。
以上、今回は、EnerNOCの白書『デマンドレスポンスの基準(The Demand Response Baseline)』から、「第2章 ベースラインの類型」をご紹介しました。
説明だけでは、わかりづらかったかもしれませんので、白書にも掲載されていたベースライン算出法のサンプルを以下でもご紹介しておきます。
図.3 「High x of Y」手法によるベースライン計算例
図.3は、架空の会社TechBiz社の電力使用データです。これを用いて、「High X of Y」手法でどのようにベースラインを決定するか紹介します。
【TechBiz社7月22日のベースライン計算例】
TechBiz社は、オフィスビルと小規模の製造工程を持つ商用顧客です。電力利用パターンは、他の多くの商用顧客同様で、従業員が働きだす朝に電力利用が増え、従業員が帰宅する夕方になると電力利用が減少します。また、週末働く人はあまりいないので電力利用も非常に低くなっています。
同社は「High 5 of 10」手法でベースラインを計算するDRプログラムに参加しており、7月22日(水)にDRイベントが実施されることが事前通知されました。では、同社の7月22日のベースラインはどのようになるでしょうか?
図.3は、TechBiz社の過去の電力使用量に関するメーター計測値で、棒グラフのバーは、正午から午後8時までの平均負荷(kW)だとしましょう。
「High 5 of 10」だと、7月21日以前の10日分のメーター計測値からベースラインを計算することになりますが、除外ルールがあるので、7月12日から7月21日の10日間のメーターデータからベースラインを作る訳ではありません。土日(グラフ上青色のバー)、祝日(紫色のバー)と、以前のDRイベント発動日(緑色のバー)のデータを除外します。これらの日を除く、最も7月22日に近い日がグラフ上黄色のバー10本です。
それら10日分のデータのうち、負荷の高い日を5日選ぶと、7月9日、10日、15日、18日および19日(影付きの黄色のバー)になりました。平均化手法でベースラインを計算する場合は、この5日間の平均を、7月22日のベースラインとします。
ただし、この説明では、正午から午後8時までの8時間の平均負荷を用いて、DRイベント期間中一定のベースライン各時間間隔のベースライン計算しか行っていません。メーターデータ計測間隔が1時間なら、DRイベント期間が13-16時の4時間の場合、13-14時、14-15時、15-16時の3区分に分けてベースラインを計算する必要があります。30分単位に計測する場合は、13:00-13:30、13:30-14:00、14:00-14:30、14:30-15:00、15:00-15:30、15:30-16:00の6区分に分けてベースラインを計算しなければなりません。それも、TechBiz社だけでなく、同じDRプログラムに参加しているすべての顧客に対して、DRイベント実施前にベースライン計算が完了している必要があります。
計算手法として、平均化手法なら、それぞれの平均をとるだけですが、回帰分析手法となると、かなりのコンピューティングパワーが必要なことがお分かりいただけると思います。
以上、今回は「DR M&V」のコアとなる部分をご紹介しました。EnerNOCの白書は、この後第3章として、5つのベースラインの徹底的な比較分析を展開しています。これはこれで非常に興味深いのですが、本ブログでは、DRのM&V標準とはどのようなものかということにフォーカスしてきましたので、EnerNOCの白書のご紹介はここまでとします。
「DR M&V」を理解する上での基礎知識の解説は完了しましたので、次回は、NAESBのWEQ-015に戻って、(NAESBの実務規格書そのものの紹介ではなく)他の文献をベースに「DR M&V」の標準の全貌に迫ってみたいと思います。
【ここからはコマーシャルです】
以前から、何度かこのブログで進行状況をお伝えしてきましたが、去る12月20日、インプレスR&D社からデマンドレスポンスに関する著書を無事出版することができました。
最終的に本のタイトルは『スマートグリッドの核となるデマンドレスポンスの全貌2013』となりました。
目次や概要紹介は、ここからご覧いただけます。
CD(PDF+Excel)版89,250円(税込)
CD(PDF+Excel)+冊子版99,750円(税込)
と、結構値が張りますので、皆様是非ご覧くださいとは言いづらいのですが、図書購入費に余裕がございましたら、ご検討ください。
なお、1冊の本を書き上げたのは今回初めてですのでまだよくわかっていませんが、「著者販促プログラム」というのがあるようです。もし購入してみようという方がいらっしゃいましたら、弊社ホームページのお問い合わせページからご連絡いただければ、追って割引を受けられる購入申込用紙をお送りしますので、よろしくお願いします。
終わり
- 投稿タグ
- Demand Response, PJM, Smart Grid, Standard, スマートグリッド, デマンドレスポンス, 標準化
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