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年明け早々、2013年1月17-18日にベルリンでE-Energyプロジェクトの最終報告を聞き、28-31日はサンディエゴでDistribuTECH2013での情報収集をしている間に、1月が終わってしまいました。昨年10月アムステルダムで行われたSmart Home2012を含め、今年度の海外調査はこれでひと段落したのですが、これから報告書にまとめなければなりません。今しばらくブログの更新が滞りがちになってしまいますが、よろしくお付き合いください。

今回は、そんな最中でしたが、去る2月14日、TKP市ヶ谷カンファレンスセンターで開催されたインプレスR&D主催の第1回SGNLセミナー『スマートグリッドの核となるデマンドレスポンス/OpenADRの全貌』でお話させていただいた内容から、『OpenADRに関するおさらい』の部分をお届けします。

では、はじめましょう。

OpenADRは文字通り、オープンでオートマチックのDR、すなわち自動デマンドレスポンスを行うためのオープン標準を指すが、これまでに、「OpenADR」が付いたさまざまな表現がすでに出回っている。

例えば、
• 「OpenADRアライアンス」、「OpenADRタスクフォース」、「OpenADRプロファイル」というような表現があるが、これらはどのような関係にあるのか?
• また、「OpenADR1.0」、「OpenADR2.0」というようなバージョン付きでOpenADRが語られることがあるが、これらのバージョンの間にはどのような関係があるのか?
• 更に、「OpenADRプロファイル」に関しても、単に「OpenADRプロファイル」という表現だけではなく、「OpenADR2.0aプロファイル」(あるいは、単にAプロファイル)、「2.0bプロファイル」(Bプロファイル)、「2.0cプロファイル」(Cプロファイル)というような表現が見受けられるが、これらの関係はどうなっているのか?
などなど。

これらに関して共通理解ができていないと、話し手と聞き手の間で実は大きな誤解を生んでいる可能性がある。

そこで、問題。図.1の左側に出現するOpenADRにまつわる表現の間の関係として、図の右側の吹き出しの表現は正しいだろうか?


図1 OpenADRにまつわる上記の用語の関係は正しいか?

 

答えは、すべて×。

最初の吹き出しの内容を〇だと思われた方は、図2とその説明を、2番目の吹き出しの内容を〇だと思われた方は図3、4とその説明を、3番目の吹き出しの内容を〇だと思われた方は図4、5とその説明で、何が違っていたかご確認いただきたい。

 

 OpenADR2.0ができるまでの経緯


図2 OpenADR2.0ができるまでの経緯

そもそも発端は、2000年、2001年のいわゆるカリフォルニア電力危機である。
これを契機として、どのようにOpenADRが発展してきたか、図には描ききれなかったもう少し細かな経緯を如何に箇条書きする。

(1)2002年:米国ローレンスバークレイ国立研究所(LBNL)とカリフォルニア州エネルギー委員会(California Energy Commission:CEC)が、ADRの研究を開始。

(2)2003年:XMLベースの価格情報シグナルと、DR自動化のためのサーバ(DR Automation Server:DRAS)設計が開始されている。

(3)2004年:インターネット継電器(IPプロトコルを使用して、ローカルあるいは広域のネットワーク上でリレー接点を遠隔操作可能とする装置)をDRサーバから遠隔制御できるようにして、テストを実施 。また、この年の春に、LBNL、CECおよび、カリフォルニア州の3大電力会社のひとつであるパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)は、DRに特化した共同研究センターであるデマンドレスポンス研究所(Demand Response Research Center:DRRC)を設立し、ADRの研究が加速。

(4)2005年:LBNR/DRRCは、PG&Eと共同で、CPPのADRテストを実施。

(5)2006年:完全自動でCPPイベントに対応できるテストサイトが11に増え、テスト期間中12回のCPPイベントでのテストを実施した。

(6)2007年:2006年の猛暑を考慮して、カリフォルニア州公益事業委員会(California Public Utilities Commission:CPUC)は、カリフォルニア州の公益企業3社に、DRRC(デマンドレスポンス研究所)と協働してADRを本格導入するよう要請した。ADRのフィールドテストがカリフォルニア州大に広がった。事実上OpenADR1.0の通信仕様はこの時点で固まった。

(7)2009年:2007~2008年のADRフィールドテストで使われた技術をLBNRと、DRサーバを開発した当時のAkuacom社(現Honeywell社)が「OpenADR1.0通信仕様書」にしてまとめた。

• 米国国立標準技術研究所(NIST)は、2009年9月に公開した「スマートグリッド相互運用標準に関する報告書でOpenADRをスマートグリッド関連標準規格のひとつとして選定するとともに、スマートグリッド標準化に関する優先行動計画(Priority Action Plan:PAP)のひとつである「PAP 09:Standard DR and DER Signals」(デマンドレスポンスおよび分散電源シグナルの標準)で、DRおよび分散電源(DER:Distributed Energy Resource)の信号規格の統一を要求した。

• このPAP09などへの対応を検討するため、UCAという電力会社・機器ベンダ等で構成される、公益企業の通信アーキテクチャを検討するユーザグループの中にOpenADRに関する要件を再定義するタスクフォース(OpenADR-TF)が組織されている。

(8)2010年:OpenADR-TFは、「OpenADR1.0通信仕様書」をベースにして、「OpenADR1.0システム要求仕様書(OpenADR 1.0 System Requirements Specification)」を9月に完成。また、北米エネルギー規格委員会(North American Energy Standards Board:NAESB)のスマートグリッド・タスクフォース(SGTF)が、PAP09などに関連してDRの制御シグナル/価格シグナルの標準策定。

(9)2010年:10月、OpenADRという自動DRの開発促進・普及を図るNPO団体として、OpenADRアライアンス(本部:米国カリフォルニア州パロアルト)が結成される。カリフォルニア州で発展してきた「OpenADR1.0通信仕様書」ベースのシステム/製品に関しては、OpenADR準拠の製品であるかどうかの検査ツールや、認定を行う機関が存在しなかった。OpenADRアライアンスは、OpenADR準拠のシステム/製品の今後の普及を見据えて活動を開始したものである。

(10)2011年、オープン標準の開発・統合・採用を推進する国際 コンソーシアムであるOASISは、エネルギー企業間のシステムの相互運用標準を定めたEI(Energy Interoperation)1.0の制定に着手。

(11) 2012年:2月にEI1.0のOpenADRプロファイルを完成。OpenADRアライアンスは、これをベースとして8月にOpenADR2.0aプロファイル仕様書作成を完了し、OpenADR2.0b開発・テストを実施中である。

 OASIS EI1.0のOpenADRプロファイルとOpenADRアライアンスの開発したプロファイル


図3 OASIS EI1.0のOpenADRプロファイルと、OpenADRアライアンスのOpenADR2.0aプロファイル

図2の2009年以降の動きが非常に立て込んでいるので、図3では「プロファイル」に注目して、その動きを整理した。

図中央上にあるOpenADR1.0通信仕様は、PG&Eとテストサイト間で行うADRフィールドテスト用に作成されたDRサーバのインタフェース仕様書のようなもの。それが、2007年にCPUCの指令でカリフォルニア州の3大電力会社すべてでADRを行うようになり、カリフォルニア州のローカル標準のような位置づけになった。
OASISがこれを引き継ぎでより公知な標準とするべく作業が行われたが、OASISが策定したEI1.0は、デマンドレスポンスの標準を定めることを目的としたものではなく、広くエネルギー企業のシステム間のインターオペレーションにフォーカスしたものである。
また、デマンドレスポンス部分のみに関しても、OpenADR1.0通信仕様書のみに基づいている訳ではなかった。

• UCAのOpenADR-TFは、DRシグナルを通信する部分に限定した標準を考えるのではなく、電力会社がDRプログラムを設計した段階から、そのDRプログラムに参加する消費者(および、その消費者が提供可能なDR資源)の登録・変更・抹消などの管理、実際のDRイベントの通知、各々の消費者がDRシグナルに基づいてどれだけ負荷削減したかの計測、その計測値に基づいた清算(支払および指定通り負荷削減できなかった場合のペナルティの計算)までを含めた電力会社のDR関連プロセスを考え、その中でシステム化する領域に関して、システム要件をまとめたものをOpenADR 1.0SRS(システム要件仕様書)を作成した
• NAESBは、NIST PAP09の要請に従い、①「一般家庭向けDRシグナル仕様(Requirements Specifications for Retail Standard DR Signals for NIST PAP09)」、②「大口顧客向けDRシグナル仕様(Requirements Specifications for Wholesale Standard DR Signals for NIST PAP09)」を制定している
• 更に、系統運用者の団体であるIRCは、大口顧客向けDRシグナル仕様における非機能要件(最低取扱単位や、DRシグナルに対するレスポンス要求など)をまとめたものも、OASIS EI1.0を作成する上でのインプットとなっている。
• 図3にある通り、国際標準であるIEC CIMのデマンドレスポンスの関連する部分も当然参照されている。
※ EI1.0の「Non-Normative References」を見ると、その他にも[BACNet/WS]や[ebXML-MS]等が参照されているが、ZigBee SEPに関しては、直接参照したという記述は見当たらない

このようにして出来上がったものが、EI1.0であり、その中で、OpenADR1.0通信仕様書の機能範囲をカバーするサブセットとして定義されたものが、EI1.0 OpenADRプルファイルである。
したがって、OpenADR1.0通信仕様書は、EI1.0 OpenADRプロファイルにとっても重要なインプットに違いないが、DR用価格情報やDRシグナルのスケジュール情報等のデータ構造には、OASIS EMIXと呼ばれるエネルギー市場情報交換の標準やWEB上のカレンダー・スケジュール情報サービスであるWS-Calendarを採用されており、カリフォルニア州のローカル色を消したものになっている。

すなわち、EI1.0 OpenADRプロファイルをベースにOpenADRアライアンスが開発したOpenADR2.0(Aプロファイル等)は、OpenADR1.0とは、「似て非なるもの」となっている。

OASISが作成したEI1.0の全11個のサービスとOpenADRプロファイルの関係を図示すると図4のようになる。


図4 OASIS EI1.0のOpenADRプロファイルの範囲

ところで、EI1.0というのは、デマンドレスポンスのためだけの標準ではなく、広く電力価格情報や系統の安定度に関する情報授受の標準として作成されているため、そのままでは実装に落としにくいのと、汎用的な表現になってしまっている。そこで、OpenADRアライアンスとしては、このEI1.0 OpenADRプロファイルに対して、当初、A、B、Cプロファイルに分けて、段階的に複雑なDR処理の実装可能な仕様レベルに詳細化する計画を立て、2012年8月にOpenADR2.0aプロファイル仕様書作成を完了し、2013年2月現在OpenADR2.0b開発・テストを実施中である。

Aプロファイルは、スマートサーモスタットのようなシンプルな装置をDRシグナルで制御できることを目標とした標準。BプロファイルではHEMS/BEMS等との連動を視野に入れ、より複雑なDRシグナルを取扱い、Cプロファイルでは、系統運用者、DRアグリゲータ間のDRも取り扱う予定にしていた。 ところが、最新情報(2013年2月現在)によると、米国の系統運用者からBプロファイルが系統運用者の求めていた要求仕様を満たしているという報告を受けたため、Cプロファイルの開発は中断した模様である。

図5に、OpenADR2.0の中で、各OpenADR2.0プロファイルがサポートする機能範囲を示したものである。


図4 OpenADR2.0プロファイルが支援するEiサービスの機能範囲

Aプロファイルでは、EI1.0で定義されたEiEventというDRイベント情報交換のためのサービスのごく一部の機能しかサポートされない。Bプロアイルでは、EiEventサービスをフルサポートするだけでなく、EI1.0がOpenADRプロファイルに定めた8つのEiサービスのうち、あと3つ(EiRegisterParty、EiOptおよびEiReport)をサポートするが、EiQuoteサービスに関してはCプロファイルでサポートされる予定だった。ところが、Cプロファイルの開発は現在ストップしているようなので、当面OpenADR2.0でサポートするのは、EiEvent、EiRegisterParty、EiOpt、EiReportの4つで、EI1.0のOpenADRプロファイルで指定された8つのEiサービスの半分しか使われないことになる。

以上、2月14日行ったセミナーの内容を抜粋して、見ていただきました。

当日配布資料は、弊社ホームページ「調査実績」からダウンロードできるようにしましたので、No.25「OpenADRを中心としたデマンドレスポンスに関する標準技術」をご覧ください。

また、図1は全問正解したけれども、OpenADRとCIM、SEPの違いがよくわからないという方は、上記のセミナー資料「2. OpenADRは、CIMやSEPと何が違うのか」を、OpenADRの全体像についてもう少し詳しく知りたいという方は「4.OpenADRの全体像」をご覧いただければと思います。

デマンドレスポンス/OpenADR2.0について、更に詳しいことを知りたいという方は、(コマーシャルになりますが)、「調査実績」のNo.24「スマートグリッドの核となるデマンドレスポンスの全貌2013」をご覧いただければと思います。こちらは有料ですが、「著者割引申込用紙」もありますので、年度末で図書購入費に余裕があればご購入・ご高覧いただければ幸いです。

おわり