Start Point lighthouse and holiday cottages
© Copyright Steve Fareham and licensed for reuse under this Creative Commons Licence
少し時間的に余裕が出てきましたので、ブログを頻繁に更新できるようになりました。
今回から、何回かに分けて『PJMのDRプログラム』をご紹介したいと思います。唐突な話題変更に見えるかもしれませんが、実は、これまでとつながっています。
ここまでに、FERC(米国連邦エネルギー規制委員会)から発行されている報告書『Assessment of Demand Response & Advanced Metering Staff Report』をベースとし、3回に分けて米国におけるDRに関する報告の部分をご紹介し、それを踏まえて、前回は日本におけるDRの現状把握を行いました。
FERCのDR評価レポート-その1からその3を総括すると、
その1では、この報告書においてFERCが単にDR(とスマートメーター)の米国内での普及状況について、事後分析・評価を行ってきただけでなく、DRの意義をしっかりとらえ、大きな政令から系統運用機関(ISO/RTO)の動きに関する細かな勧告に至るまで、政策面でもDRの普及に向けて活動してきたことが確認できました。
※ただし、州政府の力が強い米国では、州の規制委員会のDR活用に関する考え方に温度差があり、DRアグリゲーター(あるいはCSP:Curtailment Service Provide)が事業参入できない州があるとEnerNOCの方から聞いたことがあります。
その2では、現在実運用されているDRプログラムを13種類に分類し、それぞれについて概説した後、どのタイプのDRプログラムがピーク負荷削減に貢献するのかを確認しました。
前回のFERCのDR評価レポートを踏まえて-日本のDRの現状把握でも言及させていただいたように、DRという用語はスマートグリッドという用語と時を同じくして巷間に広まったので、『DRと言えばスマートメーターを利用し、AMI/MDMのような先進のICTソリューションを利用して緊急ピーク時課金(Critical Peak Price:CPP)のようにダイナミックに電力価格を変化させることにより消費者に電力需要を控えさせて電力需給バランスをとる仕組みである』と捉えられている方がまだ多いと思います(かつて自分自身もそうでした)。しかし、FERCのDR評価レポートではっきりしたことは、(少なくとも現時点で)米国のピーク負荷削減に貢献しているのは、CPPのようなダイナミック価格連動のDRではないということです。CPPやリアルタイム料金(Real-Time Price:RTP)といった目新しいものではなく、料金ベースDRプログラムなら、現在すでに日本でも主に大口需要家対象に行われている時間帯別料金(TOU)の方がピーク負荷削減に貢献しています。それよりも、スマートグリッドという用語の出現する以前から米国の電力会社/系統運用機関が利用していた直接負荷制御(Direct Load Control:DLC)や日本で言うと需給調整契約に相当する契約ベースのDRである遮断可能負荷(Interruptible Load:IL)や緊急時応答(Emergency Demand Response:EmDR)の方が、ピーク負荷削減に貢献するという事実を確認しました。
その3では、現状米国内でもDR普及に地域差があることを確認しました。ただし、地域ごとに、どの程度発電予備力があるのか、DR資源を提供する大口ユーザがたくさんいるのか、州規制機関および系統運用者がどれほど電力需給バランスや系統の安定運用に向けてDR資源を積極的に利用としているかなどの諸条件がDR利用の地域間格差に影響していると思われ、期待したほど、DR普及に向けての阻害要因・促進要因を見出すことはできませんでした。ただ、そんな中で、DRをあらゆる場面で活用していこうという系統運用機関PJMの存在が印象に残りました。
※前回、FERCのDR評価レポートを踏まえて-日本のDRの現状把握でも確認したように、PJMのDRによる負荷削減可能量は、過去最大負荷の10%弱に相当しています。
そこで、自動DRを含め今後の日本型DRがどうあるべきかを考える上で、PJMでのDRの使われ方を少し詳しく見てみようと思い、今回のブログの企画となった次第です。
前置きが長くなってしまいました。では、はじめます。例によって、参考資料の全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。
1.PJMの概要
PJM(正式名称:PJM Interconnection, LLC)は、図.1中、薄紫で示された米国中東部地域の系統運用機関(RTO)である。
図.1 北米の系統運用機関(RTO/ISO)
出典:AEP 「 RTOs and ISOs」
PJMの前身は、1927年からペンシルベニア州とニュージャージー州にあった3電力会社によって設立された米国初のパワープール(複数電力会社の電力供給地域全体の需給バランスをとる組織)である。現在は、13州の全域あるいは一部地域とコロンビア特別区の電力調整を行うRTOとして2002年12月にFERCの認可を受け、地域内の高圧送電線の運用を行うとともに、卸電力市場を運営している。
なお、米国では系統信頼度の安全基準はNERCに所属する地域信頼度協議会が規定している。PJMの管轄区域は、Reliability First Corporation(RFC)と、Southeastern Electric Reliability Council (SERC)にまたがっているため、周波数制御上は1つの制御地域となっているが、予備力確保上2つの制御地域に分かれている。
以下に、北米の3つの同期系統と、NERCに所属する地域信頼度協議会の分布を示す。
図.2北米の同期系統とNERC下部機関
出所:ERCOTホームページ 「NERC Interconnection」
PJMが運営する卸電力市場には、以下の4種類がある。
1)エネルギー市場:一日前およびリアルタイム(需給制御時間内)に電力取引を行う
2)容量市場:需給運用に必要な供給力を確保する
3)アンシラリーサービス市場:予備力および周波数調整力を調達する
4)金融的送電権市場:送電制約発生時に高騰する混雑料金をヘッジする
以下に、FERCの米国電力市場に関するホームページに掲載されたPJMの情報を示す。
【PJMの諸元】
発電・供給
• 2009年夏の発電設備容量(Generating capacity):167,454MW
• 2009年夏の予備設備容量(Capacity reserve):40,649MW
• 2009年夏の予備率(Reserve margin):32%
※(167454 - 126805)÷ 126805 = 32%
※ 発電設備だけで予備率が32%あるにも関わらず、容量市場、予備力市場でDR資源調達を行うPJMのDR資源活用に対する積極性はどこからきているのでしょうか?
需要
• 2006年夏の最大電力:144,644MW(過去最大:2006年8月2日)
• 2009年夏の最大電力:126,805MW
※ 米国では、まだ需要は増加傾向にあるということですが、PJMエリアに関しては、年々需要が減少しているようです。
価格(24時間年間平均一日前取引価格)
• 2006年:$50.07/MWh
• 2009年:$38.71/MWh
※ PJMエリアに関しては、取引価格も安くなっていますね。
【PJM管内の電力小売価格】
以下は、米国エネルギー省エネルギー情報局が公開しているForm EIA-826 detailed data の今年1月から5月までのPJM管内ペンシルベニア州、ニュージャージー州、メリーランド州の電力小売価格を平均したものである。
ペンシルベニア州
• 一般小売価格: $0.12/kWh
• 業務用価格: $0.09/kWh
• 産業用価格: $0.07/kWh
ニュージャージー州
• 一般小売価格: $0.15/kWh
• 業務用価格: $0.12/kWh
• 産業用価格: $0.10/kWh
メリーランド州
• 一般小売価格: $0.13/kWh
• 業務用価格: $0.11/kWh
• 産業用価格: $0.08/kWh
※こうして見ると、PJMエリアの電気料金(特に一般小売価格)は、日本の電気料金と比べるとかなり安いですね。ただし、自由化以前と比べると値上がりしているようですが。
2.PJMの容量市場
PJMでは、小売事業者に対して将来の安定供給のため十分な容量を確保することを義務付けており、自社保有の発電機や発電事業者との相対取引で容量を確保できない小売事業者は、容量市場で足りない分を調達している。
PJMの容量市場は、当初は利用可能な発電設備、すなわち発電設備容量(Installed CAPacity)の市場ということでICAP市場と呼ばれていた。ICAP市場は1998年10月に開設されているが、2007年6月、PJMは信頼度価格モデル(Reliability Pricing Model:RPM)と呼ばれる新たな容量市場を導入。発電機ばかりでなく、DR資源を含めて、必要な時に必要な場所で容量を確保できる仕組みを導入した。これは今後3年間に亘る容量の先渡取引で、6月1日から翌年の5月末までの1年間を単位としてオークション形式で取引が行われている。
具体的には、容量が利用される3年前に最初のオークション(Base Residual Auction:BRA)が開催され、その後3回補完的なオークション(Incremental Auction:IA)が開催される。2013年度(2013年6月-2014年5月末)の容量市場を例にとると、2010年6月にBRAが開催され、その後2011年9月、2012年7月、2013年2月にIAが開催され、必要な容量の確保が行われている。
PJMでは、容量市場に入札可能なDR資源を負荷管理資源(Load Management Resource:LMR)と呼び、下表のように3つの種類がある。
表.1 PJMの容量市場に参加できるDR資源の種
出所:PJMホームページ「PJM Emergency DR (Load Management)」よりインターテックリサーチにて作成
なお、LMRとして登録するDR資源にタイプには、以下の3種類がある:
1) 直接負荷制御(DLC):CSPが、需要家のエアコンや給湯器等を直接遠隔制御して負荷削減できるもの
2) 確約(Firm Service Level:FSL):CSPからの通知に基づいて、需要家自身が事前に確約したレベル(MW)まで負荷削減するもの
3) 負荷削減保証(Guaranteed Load Drop:GLD):CSPからの通知に基づいて、需要家自身が事前に確約した電力量(MWh)の負荷削減をするもの
オークション開催に当たって、PJM管内のゾーンごとに、電源の計画外停止率等を考慮した実効容量(Unforced CAPacity:UCAP)が公開され、オークションでは、各ゾーンに属した入札札が集められて、入札価格($/MW-day)の低い順に必要量に達するまで容量の確保が行われる。必要な容量に達した時点の入札価格が、当該ゾーンの市場価格(Resource Clearing Price:RCP)となる。
図.3は、PJM管内の20のゾーンを示したものである。
図.3 PJM管内の20のゾーン
出所:PJMホームページ 「PJM Zones」
長くなってきましたので、今回は、PJMの概要紹介と、PJMの容量市場に適用するDR資源(PJM用語では負荷管理資源(Load Management Resource:LMR))のご紹介までにとどめます。
次回は、PJMのアンシラリーサービス市場と、アンシラリー市場に適用するDR資源についてご紹介しようと思います。
なお、今回PJMの調査に当たって、NTTコミュニケーションズ株式会社にもご協力いただきましたので、ここに付記させていただきます。
終わり