New Sails on Skidby Windmill

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前回は、greentechgrid:Eric Wesoff氏の2013年9月11日の記事「Is Opower About to Reinvent Residential Demand Response?」をご紹介しました。
米国でのDRの定義は、何らかの経済的な見返りと引き換えに消費者が需要パターンを変更することだと理解していましたが、その定義にあてはまらない行動型DR(“Behavioral” Demand Response)は果たして広まるのか?Opowerの今後の動きに注目したいと思います。

さて、今回は、同じくgreentechgrid:から、約半年前の情報になりますが、Jeff St. John氏の2013年3月11日の記事「Biggest Power Users Provide Gigawatts of Smart Grid Flexibility」をご紹介したいと思います。

例によって、全訳ではなく、超訳です。独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。
では、はじめます。

スマートグリッドにギガワットレベルの柔軟性を提供する大規模需要家

Jeff St. John  2013年3月11日

冷蔵倉庫の温度調節ノブを回すことで、電力系統の需給バランスの危機を救う。あるいは、大規模水道事業者がいつどれだけ送水するかを操作することで、地域のウィンドファームの出力変動を吸収する。

これらは、単にEnbala Power Networks(以降、Enbala社)が抱いた夢の話ではない。 トロントに本拠を置くこの新興企業は、2011年後半以降、水道事業者、冷凍倉庫業者その他の大規模需要家の設備を対象として、4秒以内にそれらの設備の負荷をUP/Down制御することで、米国北東部の系統運用者であるPJMの系統周波数を安全圏内に収めるプログラムに協力してきた。

それは、PJMがこれまで開拓してきたデマンドレスポンス・プログラム(以降、DRプログラム)よりはるかに速いレスポンスが求められるものだったが、その代わりに収益性が高い。更に、ニューブランズウィックのプロジェクトでは、風力発電の出力変動を吸収するため、その地域内の商工業サイトの負荷管理も行っている。

2012年12月、オンタリオ州の系統運用機関であるIESO(Independent Electricity System Operator)は、フライホイールや蓄電池を利用したプロジェクトともに、ニューブランズウィック・プロジェクト内での同社の技術を、再生可能エネルギーを利用して低炭素社会を実現するための重要な3つのDR技術の1つと認めた。

Enbala社のCEOであるRon Dizy氏は、次のように語っている。

我が社の顧客のような大量に電力消費を行うユーザは、これまで未使用だった電力貯蔵装置のようなもので、系統の電力需給調整に柔軟性をもたらすものということができます。 例えば、水道事業者は、水の供給にあたっていつどれだけポンプを稼働させればよいか、ある程度の柔軟性を持っていますし、冷凍倉庫に関しても、倉庫内の製品を痛ませない範囲で冷房温度を調整する余地があるのです。 これは省エネとは別の話です。我が社のシステムも、お客様の日常的な電力消費量パターンなどを微調整し、省エネを援助する機能を持っていますが、今お話ししているのは、日常業務の中で数秒から1時間半くらいの限定した時間の中での負荷調整です。お客様によってどれくらいの時間、どれほどの負荷を削減できるか異なりますが、私どもが運用管理させていただいているお客様の負荷は、系統大での需給調整用DR資源として、いつでも使える状況にあります。発電事業者の調整電源に代えて、私どもが用意した貯水場のポンプ負荷、冷凍倉庫の負荷や下水道の通気プラントの負荷-これらすべてに電力貯蔵装置と同じ働きを持たせることができるのです。

お客様の主要な設備制御システムに接続し、遠隔制御可能な装置を設置するには、$100/kW程度のコストが必要ですが、この装置を我が社のネットワーク・オペレーション・センター(NOC)から遠隔制御することで、大規模需要家の負荷をあたかも電力貯蔵装置のごとく扱うことができます。 そして、発電事業者がPJMやIESOの周波数調整市場に入札し、落札したら要請に応じて周波数調整力を提供するように、我が社がお客様の負荷削減能力に応じて周波数調整市場に入札し、落札できたら、必要な時にお客様の負荷を遠隔調整することで周波数調整力を提供します。 会社名は公開できませんが、我が社の技術を用いてDR資源による周波数調整を実施している電力会社もいらっしゃいます。

この、これまでは手が付けられていなかった、いわゆるFastDR資源がどれほど世の中にあるでしょうか? 弊社とエネルギー省管轄下にあるオークリッジ国立研究所(ORNL)が実施した調査によると、約26ギガワット、あるいは全米電力消費量の約3%に達することがわかりました。

Dizy氏は、同社が現在どれほどDR資源による周波数調整力を有しているか明らかにしなかったが、IESOプロジェクトでは周波数調整力のうち10MWを(電源ではなく)FastDRのような代替資源から得ているとしている。また、米国では、全発電設備の1~1.5%が周波数調整用に用いられているので、そこから、周波数調整力としてFastDRの潜在市場規模が想像できる。

このFastDRという新たなスマートグリッド市場を狙っているのはEnbala社だけではない。 DRアグリゲーターのEnerNOC社は、アルバータ州の周波数調整市場に彼らの顧客のDR資源で参加しており、最大の周波数調整市場であるPJM管内への参画も目論んでいる。 Schneider Electric社、Siemens社、General Electric社、Johnson Controls社のような大手の企業も、自社開発や企業買収によってB2G(Building to Grid)市場への参入体制を整えている。

更にもう1つ、スマートビルとスマートエネルギー市場を融合させるというアプローチをとる新興企業に、フィラデルフィアに本拠を置くViridity Energy社がある。同社は、2011年末、Enbala社と同時に、PJM市場で初めてDR資源により周波数調整力を提供する企業として登録された。
同社は、フィラデルフィア交通局(SEPTA)が設置した蓄電池(列車がブレーキをかけたときに発生する回生エネルギーを有効利用する)の蓄電余力を利用してFastDRを実現している。

その他にも、同様の技術をバックとしてこの分野(B2G)を狙っている企業としてBuildingIQ社がある。この会社は空調設備(HVAC)の最適化を得意とする新興企業で、 Schneider社と Siemens社が投資パートナーとなっている。

病院その他のバックアップ発電機を装備したクライアントのエネルギー管理を得意とするBlue Pillar社や、産業顧客のパワー・センサーおよび制御ネットワークを専門とするPowerit Solutions社も、この分野への参画を目指している。

風力発電の出力変動平滑化にDR資源を適用しようとしている事例としては、Honeywell社のプロジェクトがある。同社は、OpenADRベースの B2Gによる需給バランシングプロジェクトを、ハワイ、英国および中国で展開している。 EnerNOC社も、政府予算(DOE-stimulus-grant)を受けている太平洋側北西部の風力バランシングプロジェクトや、ES、A123、Xtreme Powerその他製の大規模蓄電池ベースの電力貯蔵装置を用いてウィンドファームの出力をバックアップするプロジェクトに参加している。

いかがでしょうか?

FastDR資源を用いた周波数調整力の提供は、Enbala社のみでなく、既にEnerNOC社やViridity Energy社で始まっています。もう少し枠を広げたB2Gビジネスには、BuildingIQ社、Powerit Solutions社、の他にもSchneider Electric社、Siemens社、General Electric社およびJohnson Controls社といったビッグネームが名を連ねています。

DRはどこへ向かおうとしているのか?

今年になって弊ブログで何回か取り上げてきましたが、『ピーク負荷削減のみがDRに非ず』というのが、今回ご紹介した記事でご理解いただけたのではないかと思います。

最後に、これも以前からご覧いただいているDRの用途に関するトレンド図ですが、動きを加えたバージョンアップ版を作成しましたので、ご覧ください。

終わり