Horses and a pylon at sunrise

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本ブログシリーズ「DRはどこへ向かうのか」では、2011年10月、米国エネルギー省(DOE)エネルギー効率化・再生可能エネルギー局(EERE:Office of Energy Efficiency & Renewable Energy)および配電・エネルギー信頼性局(OE:Office of Electricity Delivery and Energy Reliability)が共同開催したワークショップのレポート「Load Participation in Ancillary Services WORKSHOP REPORT」(以下、単に「レポート」と略称)内容を編集してご紹介しています。

前回は、レポートの3.2節「Future Ancillary Service Requirements」および3.3節「Characterizing Demand Response」部分をご紹介しました。
3.2節に関しては、既にいろいろなところで議論されていますが、今後再生可能エネルギーが大量導入されると、Rampという突然の大きな出力変動が起きることがあり、ASサービスの中でも周波数調整力の増強が必要となること。また、大規模なウィンドファームなどでは、Rampイベントが長時間にわたる予想外の大出力変動となることがあるので、瞬動予備力を適用するのか、あるいはそのようなRampイベント対応の新たなASを検討する必要がある-ということが指摘されました。
3.3節では、周波数調整力や瞬動予備力、あるいは上記のRampイベントに対応するようなASに適用可能なDR資源の持つ特徴が明らかにされました。まず、ADR、すなわち自動DRであることが必須条件ですが、ASでも周波数調整力と瞬動予備力では要件が異なるので、ASのタイプに適合する条件(AS提供期間、運転条件、応答性等)を満足するDR資源を選ぶ必要があることが指摘されました。そして、産業(C&I)、商業(Commercial)および一般家庭(Residential)部門で、どのような機器がASに適用可能なDR資源となり得るか例が示されました。また、ASに適用するDR資源のコスト要因についても議論されています。最後の部分では、弊社ブログシリーズ「デマンドレスポンスに関するもう1つの標準」で取り上げたベースラインの重要性が指摘されていました。

さて、今回は、同レポートの3.4節「Ancillary Service Prices」部分をご紹介します。
例によって、全訳ではなく、超訳です。独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。文字色=緑の部分は、筆者のコメントです。

では、はじめます。

 アンシラリーサービス価格

2008年以降、全米でAS価格が大幅に下落していた。それは経済不況のせいかもしれないので、景気が回復し電力需要が回復すれば、AS価格も回復する可能性がある。今後AS価格は上がるのか、下がったままなのか?多くのワークショップ参加者がAS価格に興味を持っていた。

ところで、わかりきったことだが、AS市場においては、AS提供者とAS利用者との需要と供給の関係でAS価格が決定する。そして、DR資源提供者等が市場に参入してくる以前は複数の発電事業者がAS提供者であるのに対して、AS利用者はAS市場運営者である系統運用者一人なので、AS価格は発電事業者が電力取引市場から得られる機会コストと連動していた。

ここで、AS市場価格決定の理論的な根拠となる電源の機会コストについて簡単に説明しよう:

※ここでは、系統運用者が運営するAS市場に限定して話を進めています。

例えば、ASを提供することができる電源の発電コストが$40/MWhで、電力取引市場に売りに出すと$50/MWhで取引されるとしよう。この電源を停止していつでも瞬動予備力を提供できるように待機させておく場合、この電源を保有する発電事業者は、$50/MWh-$40/MWh=$10/MWh(1時間当たり$10/MW)の収益をあきらめたことになる。そこで、この発電事業者のAS提供のための機会コストは、$10/MW-時と考えられる。

※電力量としてのMWhではなく、1時間当たりMW当たりの価格として考えています。1日当たりMW当たりに換算すると$240/MW-日、1か月当たりMW当たりに換算すると、$7200/MW-月が、この電源の機会コストをベースとする理論的なAS提供価格となります。

このように、AS提供者がすべて発電事業者の場合、AS価格の考え方は比較的簡単だったが、DR資源提供者がAS市場に参入したことで、AS価格の計算が複雑になってしまった。

1つには、AS市場への新規参入を目指すDR資源提供者は、意図的に入札価格を低めに設定せざるを得なかった事情がある。しかし、もっと大きな問題は、DR資源をAS市場に投入する場合、コストをどのように考えれば良いかという点にある。

DR資源提供者に共通するコストとしては、系統運用者とDRシグナル等をやり取りするための通信・制御装置や、負荷設備側にもDRイベントシグナルに連動して負荷を上げ下げする装置が必要となる。ASのタイプによっては、リアルタイム遠隔測定の要件が厳しく、そのための装置コストが嵩む。しかし、現在のAS市場価格決定においては、そのような資本コストは価格に反映されない。また、製造ラインを丸々停止するような場合を除いて、機会コストを算出するのも容易ではない。例えば、ある設備を周波数調整力や瞬動予備力に適用するDR資源として運転するということは、その設備が本来の使われ方以外の使われ方をするということである。それが、設備の寿命に影響したり、より頻繁に保守を行う必要が生じたり、設備を効果的・効率的に運用するためコストがかかったりする可能性がある。更に、DR資源を提供する設備の設計仕様から外れた使い方となっているために、設備の故障発生時に製品保証対象外となる可能性もある。

発電事業者がAS市場に参加している限り、良くも悪くも発電事業者の機会コストがAS市場の価格指標となり得るが、もしいなくなるとAS価格決定基準が定まらなくなり、暴落する可能性もある。

制度設計者は、この点に十分留意するべきである。

DR資源がAS市場にどんどん参入することで市場価格は安くなるかもしれないが、その結果、発電事業者はAS市場からの退場を余儀なくされるかもしれない。それでもなおDR資源提供者のみによる値下げ合戦が繰り広げられ、提供コストを回収できなくなったDR資源提供者もAS市場から退場した時、既にAS市場に参入できる発電事業者が残っていないと、系統運用者は十分な周波数調整力、瞬動予備力が調達できなくなり、大停電や系統崩壊につながりかねないからである。

非常に短いですが、本日ご紹介するのはここまでです。

前半のAS市場価格決定の理論的な根拠として電源の機会コストを基本にしているのは、瞬動予備力のAS価格としては納得がいくのですが、周波数調整力のAS価格も同じに考えて良いのか疑問に感じました。
瞬動予備力は、あくまで「予備力」であって普段は使われないことが前提ですので、使わない場合の機会コストをもとにAS適正価格を考えるのはもっともな気がしますが、瞬動予備力よりももっと素早く周波数UP/DOWNシグナルに従う俊敏性が求められる周波数調整力のAS価格付けに関しては、そのような俊敏性の付加価値を考慮した別の理論的な根拠が必要だと思うのですが、皆さんはどのようにお感じになったでしょうか?読者諸兄のご意見がうかがえれば幸いです。

また、後半の制度設計に関する留意点の論理展開は予想外でした。

漠然とですが、『AS市場で調達されるDR資源の割合というのは全体の1割程度? 将来的に増えても5割はいかないのでは?』と考えていましたので、すべての電源がAS市場から退場を余儀なくされるようなシナリオは正に「想定外」でした。
考えてみると、現在AS市場に参加している火力発電の電源はいずれも化石燃料、すなわち、枯渇エネルギーを使っています。原子力発電も同じくウランという枯渇エネルギーを使っているので、遠い将来、「電力」を支えるのは再生可能エネルギー、系統用蓄電池やフライホイール等の電力貯蔵装置とDRということになるのかも知れません。
更にいうと、充放電ロスが少なく低価格・長寿命の蓄電池が実現した暁には、DRも市場から姿を消しているかも知れません。その意味でも、今年の流行語風にうならば、

デマンドレスポンスはいつ使うのか? イ・マ・デ・ショ!

ではないでしょうか?

以上、今回は、これまでのAS市場価格決定の理論的な根拠と、そのAS市場にDR資源の参入を許す場合の(予想もしなかった)制度設計者にとっての留意点についてご紹介しました。

本年も弊社ブログをご愛読いただき、ありがとうございました。

何分小さな会社ですので、本業が忙しくなるとブログの更新が滞りがちとなりますが、来年も独自のアンテナにかかった最新情報を適宜ご紹介しようと思っておりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

終わり