Ellis’ Mill
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本ブログシリーズ「DRはどこへ向かうのか」のその3、その4では、2011年10月、米国エネルギー省(DOE)エネルギー効率化・再生可能エネルギー局(EERE:Office of Energy Efficiency & Renewable Energy)および配電・エネルギー信頼性局(OE:Office of Electricity Delivery and Energy Reliability)が共同開催したワークショップのレポート「Load Participation in Ancillary Services WORKSHOP REPORT」(以下、単に「レポート」と略称)をご紹介してきました。
日本と米国では電力ビジネスの構造が違うので、当然と言えば当然ですが、このシリーズを理解していただく上でキーワードとなるアンシラリーサービスについて、従来の日本での使われ方と、米国での使われ方が違うので、このブログをお読みいただいている読者の方々との間で認識のすり合わせを行っていただこうと思い、前回、その5で「アンシラリーサービスに関する補足」を行わせていただきました。
実は、件の「レポート」では、更にアンシラリーサービスがなぜ必要かについてまで、非常にわかりやすい説明を行っています。このブログをお読みいただいている方々には蛇足に過ぎないかもしれませんが、今回は、ワークショップのレポートの2章「Background」をご紹介しようと思います。
例によって、全訳ではなく、超訳です。独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。文字色=緑の部分は、筆者のコメントです。
では、はじめます。
なぜ、デマンドレスポンスをアンシラリーサービスに適用することを検討したのか
電力を供給する側の資源(電源)だけでなく、電力需要側の資源(負荷)もアンシラリーサービス(AS)に利用できれば、より柔軟な電力供給が可能となり、系統の信頼度向上とともに、電力供給コストの削減が期待できる。また、電力需要側の資源を積極的に利用することで、系統の運用効率が高まるとともに、(運用効率が高まる結果として)電力分野で排出するCO2を減らすこともできる。
ところで、ASには、いくつかの種類があり、その名前、定義および技術的要求事項は地域や市場によって異なる。連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、全米のASを調査し、6種類に分類しているが、このワークショップでは、周波数調整力と瞬動予備力の2つに注目した。なぜなら、現在これら2つのサービスがASのうちで最も高価なサービスであるとともに、デマンドレスポンス(DR)資源でのサービス提供にもっとも馴染むものだからである。
一方で、これらのサービスは技術的にもっとも提供が難しいものでもある。
電力系統の信頼性
瞬時瞬時の電力需給バランスをとることが系統の信頼性を保つための基本である。
インバランスが発生すると、系統の周波数が乱れ、供給が不足すると周波数が下がり、供給過多となると周波数が上昇する。
わかりやすく説明しよう。
電力系統に連携されたすべての電源は、下図の通り、主軸(系統)と、その主軸にチェーンで繫がれた発電機で模擬することができる。系統が供給する電力は、それらの発電機が同期して回転する運動エネルギーと考えればよい。
米国での公称周波数は60Hzであり、系統運用者は、系統周波数を60Hzに保つ必要がある。許容誤差マージンは小さく、大規模系統で±0.035Hzである(小さな系統ではもう少し大きな誤差が許される)。系統周波数がこの許容誤差から大きく逸脱すると、主軸(系統)の回転と発電機の回転の差が大きくなり、発電機は、その回転数の差に起因する自己の破損を防ぐため解列(系統と同期して回転するためのチェーンをはずす)する。これが更なる系統周波数の逸脱を招くと、更に別の発電機の解列を誘発し、結果的に系統の崩壊(大規模停電)に結びつく。
したがって、周波数制御(つまり許容範囲内に系統周波数を保つこと)は、電力系統の信頼性を維持するために必須の作業である。
ところで、系統運用上、周波数制御は、瞬時瞬時の制御の他にも、いくつかのフェーズで実施されており、種々の関係者間での調整が行われている。
数年前から実施される需給計画策定がその1つで、そこでは、系統周波数を許容範囲に保つ上で十分な供給力と送電能力があるかどうかが検討されている。
更に時間が下ると、発電能力や送電能力が保守点検などで低下し、周波数制御に影響しないかどうかが確認される。
1日前には、基本的に翌日1時間ごとの計画発電量と需要予測量から、周波数制御に問題がないかどうかが確認される。
そして、当日実際に電力を供給する時間帯に入ると、需給バランスを保つために5分ごとにいわゆる発電指令(DR資源に対してはDRシグナル)が出される。
米国内では、州によって自由化の進展度が異なっているので、これら一連の周波数制御関連プロセスは、市場メカニズムを介して行われる州もあれば、市場を介さないで実施している州もある。ただ、どちらの場合も、電力需給バランスを保つ最終局面では、周波数の大幅な変動や、突然の大型発電所の事故等で電力供給不足になっても一定の周波数が維持できるよう、自動的なメカニズムが使用される。この自動メカニズムで提供される「電力」が、エネルギー市場で売買される「電力」と区別するためにASと名付けられたものの実態である。ASも、「電力」を提供するものではあるが、その真価は、電力の提供そのものではなく、需給バランスを維持するためにすばやく応答する能力にある。
周波数調整力、瞬動動予備力の他にも、系統制御に必要なASの1つとして電圧制御がある。しかしながら、これには系統全体というよりは局所的な対応が必要で、負荷側での対応には向いていないので、今回のワークショップでは対象外となった。
※SiemensのDRサーバSiemens DRMS Version 2.0が提供するSurgical Demand Response機能を利用すると、電圧異常が発生している区域に限定したDR資源制御も可能なようです。
周波数調整力と瞬動予備力
周波数調整力と瞬動予備力は、周波数制御を行うことで系統の信頼性を維持するサービスである。
FERCは、周波数調整力および瞬動予備力を以下のように定義している:
• 周波数調整力(Regulation)
実際あるいは予想される地域制御誤差(Area Control Error:ACE)を修正するために系統運用者から送られた自動発電制御(Automatic Generation Control:AGC)信号に対して適切に応答できる資源によって、有効電力(real power)を提供する能力。
これは、最短の発電指令実施間隔の間にも絶えずランダムに変動する、系統に接続された負荷の動きを吸収するもので、通常の経済的負荷配分制御(Economic Load Dispatch Control)に用いられる発電機では、追従できない(AGC信号は、2~8秒間隔で発電量のUP/DOWN指示が出される)。
• 瞬動予備力(Spinning reserve)
系統内で緊急に対応が必要な事態が発生した場合、即時対応して電力を一定時間供給する能力。
これは、元来、系統連系して稼働中(Spinning)、かつ、まだ発電余力(Reserve)を残している発電機を利用し、系統内の突然の供給力不足に対応するもので、通常、10分間指示された電力提供が求められる。
周波数調整力と比較すると、瞬動予備力が用いられる頻度は少ない(2、3日に一度の地域もあるが、週に一度未満の地域が多い)。
需要サイドによる需給調整
これまで、周波数調整は供給サイドで行うものと相場が決まっていた。周波数の低下を需要サイドで制御する手段として、北米電気信頼度協議会(NERC)が低周波数負荷制限(UFLS:Under Frequency Load Shedding)を規定しているものの、これは異常事態に備え最後の手段として実施されるもので、需要家自身の意思が反映されるものではなく、負荷制限に協力した需要家に見返りもない。したがって、需要サイドのASへの参加は非常に限られていたが、近年ASに参加する試みが増えつつある。
通信システムの進歩により、DR資源でのAS参画が、より簡単、かつ信頼性の高いものになってきたのがその理由の1つであるが、需給調整への積極的な参加の機運が需要家の中で高まってきたことも見逃せない。
※DR資源を束ねて、キャパシティー市場ではなくAS市場に投入しようとするアグリゲーターが出現したことも見逃せないと思います。
ASへの参画に際しての考慮点
• 周波数調整力市場への参画について:
従来、必要な周波数調整力はピーク負荷の1%未満から3%とされており、北米全体で考えると、必要な周波数調整力は8,000MWから24,000MWとなる。
ところで、この必要とされる周波数調整力の開きは、1つにはバランシングエリアのサイズに依存する。大きなバランシングエリアほど負荷同士のばらつきが均され、負荷に対して必要とされる周波数調整力が少なくて済む。
一方、PJM等のISO/RTOが管轄するバランシングエリアでは5分毎に発電指令を出しているが、ISO/RTOの管轄外のエリアでは、1時間毎にしか発電指令を出さないので、より大きな周波数調整力を必要としている。
北米では、ISO/RTOの管轄エリアは拡大傾向にあるので、そのようなエリアでは必要な周波数調整力は縮小傾向にある。
• 瞬動予備力市場へのDR資源の参画について:
瞬動予備力へのDR資源参画に関しては、当該地域がすでに保有する予備力や、その地域で必要とされる、NERCが定めた予備力に関する規定に依存するので、地域ごとに検討が必要である。NERCの設定したN-1信頼度基準(当該地域の最大電源ユニットに相当する予備力を確保する)があるので、それが参画の目安となる。
北米全体での瞬動予備力の必要量は、約50,000MWである。
以上、今回は、アンシラリーサービスが提供する電力系統の信頼性に立ち返って、その必要性を再確認し、周波数調整力と瞬動予備力に関するFERCの定義をおさえた上で、これらのアンシラリーサービスにDR資源で参画する場合に考慮すべき点についてご紹介しました。
ASの必要性はそれほど高くなく、需要サイドが参加すると、ASの供給過多になるかもしれないと懸念する声も聴かれますので、DR資源を束ねてASへの参画を検討しているアグリゲーターにとって、ここは考えどころです。
周波数調整力市場は、本当にシュリンクしていくのか?
実際、北米最大規模のバランシングエリアとなっているPJMでは、以前ピーク負荷の1%だった周波数調整力が0.7%に引き下げられています。ただ、エリアが拡大するということは、ピーク負荷も増えているはずなので、ピーク負荷に対して、周波数調整力が必要とされる割合が減少しても、MWベースではそれほど変わらないのではないかという気もします。
しかし、8,000MW~24,000MWとされる北米の周波数調整力市場規模は、今後8000MWに近づいていくことには間違いないと思われます。
これと、50,000MW規模の瞬動予備力市場を、従来のAS用電源および、蓄電池やフライホィール等の新たな電力貯蔵装置を用いた市場参加者との間で取り合うことになりますので、DRアグリゲーターとしてAS市場へ参加するか否か判断するには、市場価格および競合の動向を見据えてよく検討する必要があると思います。
日本の場合は、まずAS市場が何時できるのか?そこにDR資源でも参加できるような制度設計がなされるのか-という問題が先ですが。。。
終わり