Winter 2010

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本ブログシリーズ「DRはどこへ向かうのか」では、2011年10月、米国エネルギー省(DOE)エネルギー効率化・再生可能エネルギー局(EERE:Office of Energy Efficiency & Renewable Energy)および配電・エネルギー信頼性局(OE:Office of Electricity Delivery and Energy Reliability)が共同開催したワークショップのレポート「Load Participation in Ancillary Services WORKSHOP REPORT」(以下、単に「レポート」と略称)内容を編集してご紹介しています。 前々回は、レポートの3.4節「Ancillary Service Prices」部分から、これまでのAS市場価格決定の理論的な根拠と、そのAS市場にDR資源の参入を許す場合の(予想もしなかった)制度設計者にとっての留意点についてご紹介しました。 その際は省略しましたが、レポートの脚注に以下のような記述があったので、本題に入る前に復習を兼ねてご紹介しておきます。 ワークショップでは、AS価格設定に関して3つの手法が議論された。 最初の手法は、AS調達量のうち、電源から調達する量を決め、AS市場に入札された電源をもとにAS価格を決定する。電源以外の資源は、AS価格決定には関与しないが、入札価格の安いものから順に、電源以外のAS調達量としての割り当て分を調達するというものである。ERCOTは、現在ASの最低半分を電源に割り当てると決めている。 2番目の手法は、DR資源提供者の入札には上限を求めない、もしくは、電源に比べて入札上限のAS価格を高く設定する方法である。電源に比べて小規模なDR資源提供者が多数AS市場に参加しているが市場行使力を有していない場合に有効な方法である。米国東部の系統運用者であるPJMは、現在この手法を用いて電源以外のAS市場参入を促進しているように見えます。 3番目の選択肢は、周波数制御力および瞬動予備力それぞれのAS価格を市場原理ではなく、制度上規定する手法である。これは、将来負荷やエネルギー貯蔵装置がASを提供する支配的な資源になり、AS価格を市場原理に任せておくとASの利用に支障をきたすようなことが起こりかねなくなった場合には意味をもつAS価格決定法である。 昨年7月公開された「電力システム改革の基本方針 -国民に開かれた電力システムを目指して-」を見ても、エネルギー市場(1時間前市場およびリアルタイム市場)や容量市場の創設に関しては検討されていますが、AS市場に関しては検討が進んでいないように見受けられます(バランシング市場という言葉も1か所で見受けられるのですが、AS市場ではなく、例えば次の5分間の電力調達を行うリアルタイム市場のイメージであると理解しました)。そこで、この方向で日本の電力システム改革が進むとするとAS市場は当面存在しなさそうなので、このレポートの想定(DR資源やエネルギー貯蔵装置がASを提供する支配的な資源となる)とは異なり、当面、電源が主なAS提供者となると思われますが、AS価格設定に関しては3番目の方法をとることになるかもしれないと思っています。 さて、今回ですが、同レポートの4章「Barriers」から、ASサービスへのDR資源参入障壁についてご紹介したいと思います。 例によって、全訳ではなく、超訳です。独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。文字色=緑の部分は、筆者のコメントです。 では、はじめます。

 DR資源のAS市場参入阻害要因

DR資源のAS市場参入を阻む要因は大きく分けると3つある。経済的な要因、技術的な要因、そして制度上の要因である。ここでは、まず経済的および技術的な阻害要因を明らかにした後、ワークショップ参加者の間で最大阻害要因との認識に達した制度上の問題について述べる。

 負荷をASに適用するための技術

負荷をDR資源としてASに適用するにあたって、それを可能とする技術は重要な問題の1つである。ワークショップ参加者は議論の末、技術に問題はないということで認識の一致をみたが、ここでは、その議論の過程を簡単に紹介する。

技術的な「問題」には、負荷をASに適用させるための、いわゆるフィージビリティとしての「問題」だけでなく、それが経済的にASに適用できるコストで実現可能かどうかという「問題」が含まれる。それを踏まえて、技術的な阻害要因に関する議論は、次の3つのトピックに集約された: すなわち、負荷提供側の問題、系統運用者側の問題および通信にまつわる技術的な問題である。

負荷提供側の技術的阻害要因

負荷提供者側の議論には、大口需要家(Large C&I)ばかりでなく、一般家庭や小規模需要家のDR資源を集約するDRアグリゲータが参加した。

以下に、その議論で得られた技術上の問題点を列挙する:

・一般に負荷をDR資源としてASへ適用するための運用コストは、電源や蓄電池などの電力貯蔵装置よりも経済的であるが、そのような運用を可能とするための初期投資が必要になる。

・熱エネルギー貯蔵のような新技術のコストおよび利点は、よく理解されていない。

・どんな技術も、その技術が実運用に供されるためには、当該技術導入により得られるコストが、技術導入および運用に要するコストを上回っていなければならないが、そのためには、特定市場向けだけに通用する技術ではなく、エネルギー市場、容量市場、およびAS市場のうち複数の市場で通用する技術であることが必要とされるかもしれない。

したがって、いくつかの市場横断的に適用が可能なようになるべく制約の少ない技術である必要がある。

参加者の議論に上がったもう1つの技術的な問題は、遠隔測定に要するコストと、DR資源対象の設備に、その設備を構成する要素個々の計測(サブメータリング)機能が欠如していることである。 通常、遠隔検針で用いられるメーターは料金計算に用いられるものなので、AS提供において必要とされるような短時間間隔のエネルギー使用量を計測できるようになっていない。 また、例えばビル全体の電力使用量を1つのメーターで計測すると誤差の範囲に入ってしましそうな小さな設備も、サブメータリングを行うことによってAS適用時の貢献度に応じた報酬を得ることができる。エネルギーの無駄遣いや、計測対象となった個々の設備の負荷特性を検知することができ、ビル内のシステムの障害検知にも役立つので、コスト・便益を見直した上で、サブメータリングを促進すべきである。

● 系統運用者側の技術的阻害要因

系統運用者からは、DR資源をASに適用する場合の技術的阻害要因として、DR資源は透明性が高くなく、持続可能性にも問題があるので、信頼できるAS資源として全面採用しづらい点が指摘された。 現在、AS調達にあたって、系統運用者はDR資源を発電機の一種と見なしているが、発電機と異なり、DR資源量は季節、週によってばかりでなく、1日の中でも時刻とともに変化する。また、先に言及した通り、DR資源には、提供時間が長くなると提供コストが非常に高くなるものがある。一方、電源をASに適用する場合、コストは一定のままか、起動時に必要なコストがかかる場合は、提供時間が長くなるほど単位時間当たりのAS提供コストが安くなる。 このような理由により、AS調達とエネルギー調達の市場を統合して実施している系統運用者の地域では、負荷がAS市場に参加できないことが多い。したがって、ASへの適用を促進するためには、DR資源をうまく表現できる新しい分析モデルが必要である。

更に、DR資源の透明性を高める手段の1つとして、DR資源から提供される不確実性を扱うことができるツールの必要性が指摘された。

最後に、一般家庭等小規模の負荷をあまねく集約してASに適用するための技術や、その技術を実運用に持ち込むための様々なアーキテクチャには、まだ気づいていない応答特性等に関する技術的な問題があるかもしれないことが指摘された。

● 通信に関する阻害要因

現在すでに、例えばWi-Fi、3G、4Gのような、安価で手に入り、広い範囲で利用可能な通信インフラが出来上がっているため、通信技術自体はDR資源がAS市場に参入するに当たっての阻害要因とはならない。 しかしながら、系統運用者は、そのような既存技術に対してセキュリティ面で問題意識を持っていた。というのは、大規模にDR資源を集約して系統運用に利用するに当たって、現在の通信技術で用いられているセキュリティ技術は、彼らの機密保護基準に照らした場合不安があったからである。 既存の通信インフラを用いれば実運用上コスト低減が期待できるので、それ自体に異存はない。更に、OpenADRのようなDRに特化した技術標準を採用することで、負荷をDR資源としてASに適用するにあたってのコスト低減が可能なので、DR資源提供者は、このようなDR通信プロトコルに基づいたビル制御システム等を採用すべきである。

制度上の阻害要因

現在、DR資源をASに適用するにあたっては、さまざまな制度上の制約がある。それは、政策、手続き、規則、料金に関係のある問題だけでなく、DRを実施するためのプロセスにも存在する。ワークショップの中で議論された問題について、以下に簡単に紹介しよう。

● 用語、ルールおよび政策

米国内の電力自由化進展度は、州によりまちまちで、系統運用者(ISO/RTO)が運用するAS市場のある州や、垂直統合された電力会社が独自調達した電源などをASとして提供している州もある。その結果、ASに関連した用語、制度および政策が統一されていない。その原因として、利用可能な電源タイプの違い、EMSの違い、市場規模の違い、地域ごとに利用できるDRやエネルギー貯蔵装置の違いがある。また、連邦、州、地域間の矛盾する制度のせいで負荷のAS適用が妨げられていることもある。例えば、FERCオーダー719では、各地域の系統運用者(ISO/RTO)に対して、DRアグリゲータのAS市場参加条件を均一化することを要求したものだが、これは必ずしも守られていない。その潜在的な阻害要因には、次のものがある:

・AS適用に不向きな負荷もあり、そのような負荷を集約しているDRアグリゲータが提供するDR資源はASには使えない

・アグリゲーションルールは恣意的で、採用に時間がかかる

・ISOは、実稼働しているシステムを、DRのような異なる資源を参加させるために変更したがらない

・ISOのルールが、需要家が提供する各負荷は単一のDRアグリゲータと関連付けられるよう限定しているため、新規参入者が複数の負荷を用いてASに適用する妨げとなっている

・州ごとの縦割り行政のせいで、複数の州にまたがる企業のDR資源をASに参加にさせるためには、州ごとに個別の登録が必要となり、場合によっては、企業単体および集約されたレベルのどちらでもDRの参加が阻害されてしまうことがある

・ASHRAEのような種々の機関によって提案された建築基準法その他の規定が負荷削減や負荷削減継続時間に制限を課し、DRの配備に影響を与えることがある

次に、小売自由化が行われていない州の場合を考えてみよう。このような州では、規制機関の承認なしに電力料金変更や、新しいDRプログラムその他のサービスを実施することができない。 そのため、DR資源をASに適用するような新料金規定を定めるには、一連の関係者による承認プロセスを経ることになるが、通常様々な利害関係者からいろいろな懸念が表明されるので、公益規制機関がDR資源をASに適用することを積極的に推進する場合を除いて、そのような新たなDRプログラムが認可されるのは困難である。 また、公益規制機関は積極的であっても、利害関係者の様々な懸念を解消するために、DRプログラム設計に制約が課せられ、DRプログラムの有効性・市場性が損なわれる可能性もある。

ISOが運営するAS市場は、元来発電事業者によって系統の品質・信頼性を確保するために設計されたものである。 したがって、発電機での入札を基本にしてAS市場の入札最低単位が1MWで、かつ、アグリゲータのAS市場への参加が認められないような場合、これらの制約が、小規模業務顧客や一般家庭にとってAS市場への参入障壁となる。 逆に、大口需要家であってもDR資源提供者はアグリゲータ経由でしかAS市場に参加できない制度となっている場合がある。地域ごとにAS市場に参加できる負荷削減サービス・プロバイダー(CSP)または負荷サービス会社(LSE)が指定され、ISOから地域単位に1つの負荷削減指令が出されるような制度となっている場合で、ISOから見ると効率の良い制度設計であるが、DR資源提供者から見ると、AS市場参画の自由度が制限されたものとなっている。 一般家庭からのDR資源、特に電気温水器をDR資源とする場合、省エネ運転のための規制が、AS市場へのDR資源提供とコンフリクトすることがある。省エネ運転のための規制は、電気温水器による電力消費を最適化するための規制なので、個々の温水器のエネルギー効率最適化を目標にしているが、その際、その温水器がつながる系統全体の電力消費の最適化は考慮されていないからである。 今後、技術開発および運用ガイドライン作成に当たっては、機器個々の省エネだけでなく、地域・コミュニティ・系統レベルのエネルギー効率最適化を視野に入れるべきである。 国家規格制定に当たっても、同様に、電力系統へのインパクトを考慮に入れる必要がある。

● DR資源をASに適用するに当たっての補助とサービス価格

DR資源をASに適用する場合のポテンシャルについては、いろいろ検討されてきた。今後着実に開発を進めるためには、利用者にとっての収益性が担保されなければならない。 しかし現時点では、DR資源のAS市場における市場占有率、負荷の処理の仕方、DR資源として提供できる負荷の可用性、および、頻繁にDR資源がASに適用された場合問題がないか等、いくつかの不安要因がある。 負荷がDR資源としてASに適用された場合の価値評価方法についても、まだ確立していない。例えば、現在のAS市場は、発電機の応答性を考慮して、周波数調整力は5分以内、瞬動予備力は10分以内にサービス提供するよう定められている。DR資源をASに適用した場合、もっと早く要求にこたえることができるが、そのような即応性に関しての考慮がなかった。FERCオーダー755は、ISOの給電指令に対応する精度を反映した価格支払い(performance payment)を命じたもので、DR資源提供者に有利な内容となっている。

ところで、ASへの適用可能な「DR対応家電」が販売された場合、そのDR対応機能に関するコストは誰が負担すべきだろうか?そもそも消費者は系統運用の最適化や、DR、ASにこれっぽっちも関心を持っていないので、消費者にとって「DR対応家電」の購入価値が明白でなければならない。経済的なメリットがなくては、顧客は喜んでより高価な「DR対応家電」を買うはずがない。ASのメリットを享受する電力業界がメーカーに補助金を払うことで、安く「DR対応家電」を提供するのが1つの手である。あるいは、「DR対応家電」に高いEnergyStar評価を与え、政府の省エネ政策補助金から、購入者にリベートが支払われるようにするのが良いかもしれない。電気器具は通常15~20年間使われるので、そのくらい初期投資をしても、長い目で見ると国内のエネルギー利用の観点から利益を生み出すことになるだろう。 このように、DR資源をASに適用することが電力市場にどのようなインパクトをもたらすのか、まだまだ見えないところがある。場合によっては、DR資源をASに適用することで、今までにない価値構造が必要となるかもしれない。

以上、今回は、DR資源がAS市場に参加するに当たってどのような参入障壁がについてご紹介しました。

終わり