Southend Road, Sunderland
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本当に久々のブログ更新になってしまいました。
一昨年12月に上梓した拙著『スマートグリッドの核となるデマンドレスポンスの全貌2013』の改定版を出すことで出版社と合意できたので、この『DRはどこへ向かうのか』シリーズをその中に反映するべく作業に取り掛かっていますが、経産省関連の新規プロジェクト公募への対応に加えて、日本KNX協会関連の作業も入ってきて、なかなかブログ更新まで手が回らない状況が続いています。
おまけに、このブログのプラットフォームとして使っているWordpressの3.9へのバージョンアップがうまくできず、ブログをアクセスできない状況が2日ほど続いたので、ご心配をおかけしたかもしれません。一応リカバリできていると思うのですが。。。
ただ、ありがたいことに、過去のブログの記事や調査報告書はコンスタントにアクセスしていただいているようですので、忘れ去られてしまう前にブログを更新しなくては-と思う今日この頃です。
今回のテーマはPRD。
まだ、“Price Responsive Demand”の略語としてのPRDは市民権を得ていないようで、GOOGLEで検索すると、別の内容ばかりで、20ページ目くらいまで探しても見つかりませんでした。
そこで、「PRD」と「responsive」の両方を指定してGOOGLE検索すると、出ました。
- [PDF] Price responsive demand, or PRD – PJM
- [PDF] PJM Whitepaper on Price Responsive Demand
- [PDF] Peter Langbein, PJM
- [PDF] Comments on PJM‘s Price Responsive Demand (PRD) Proposal of March 3, 2011.
- [PDF] Price Responsive Demand (“PRD”) – Energy Interop Server & System (“EISS”)
- [PDF] Price Responsive Demand in the MIDWEST – Miso
- [PDF] Price Responsive Demand in PJM – Revisited – Miso
- Markets Committee Materials Related to Price-Responsive Demand project
- ISO New England – Price Responsive Demand
- Session 307 – Integration of Price Responsive Demand into PJM Wholesale Market
ヒットした最初の10件の内、半数がPJMに関連しており、6,7番目がMISO、9番目がISOニューイングランドと、何やら米国の地域送電機関(RTO)に関連した用語であることがわかります。8番目もリンクをたどると、実はISOニューイングランドに関連していました。
また、5番目のPDFファイルはIPKeys Technologiesという企業の資料で、同社のDRアグリゲータ向け自動デマンドレスポンスサーバであるEISSにPRDを実装したレポートになっています。
このIPKeys社のPDF資料によると、(相変わらずの超訳ですが)
「価格に反応する需要(PRD)」はデマンドレスポンスに新たな市場進化をもたらすものだ。従来の価格反応型DRは、どれほどDR資源が利用可能となるかが不確かなため、ISO/RTOが運営するDRプログラムとしては敬遠されていたが、PRDは、価格に応じて提供されるDR資源量の予測が可能な、全く新しいDRプログラムである。
とありますので、『DRはどこへ向かうのか』をまとめるに当たって、この新しいDRプログラムの正体を把握しておかざるを得ません。
では、このPRDとはどういう物なのか? 1番目のPJMの資料「Price responsive demand, or PRD – PJM」の冒頭に、次のように定義されていました。
「料金に反応する需要(Price responsive demand:PRD)」とは、卸売り電気料金に応じて電気の使用状況を変更することにより、消費者がエネルギー消費をコントロールする能力のことである。
PJMでは、PRDを実施するため、AMI(高度計測インフラ)を利用し、一般家庭および低圧業務顧客が、リアルタイムに提供される卸売電力市場価格の情報をもとに需要を変更できるような電気料金制度の実施を可能とするビジネス・ルールを作成した。
この記述からすると、従来のRTP型DRは、“Real-Time Price:リアルタイム価格”とは言いながら、前日の卸売市場価格がベースとなっていた(SlowDRだった)のに対して、当日のリアルタイム市場価格に連動し、取引時間区分ごとに従量料金が異なる、真のRTP型DR(FastDR)のようなものが想像されます。しかし、それだけなら、価格変動によってどれほどDR資源が提供されるかは依然として消費者次第。不確かなままなので、「価格に応じて提供されるDR資源量の予測が可能な、全く新しい価格反応型DRプログラム」にはなりえません。
では、従来のRTPを含むダイナミック価格反応型DRプログラムと何が違うのでしょうか?ISO/RTOが主催するDRプログラムは、いわゆるB2Bビジネスでしたが、PRDとしてB2Cビジネスを始めるのでしょうか?どのようなビジネス・ルールが、これを可能としたのでしょうか?
同資料に、以下のように記載されています。
「料金に反応する需要(Price Responsive Demand:PRD)」というのは、PJMにおいてDR資源の役割を更に拡張するために導入したものである。
今日、ほとんどの一般消費者はkWhあたり固定価格で電気代を払っている。しかし、これらの消費者に電力供給する電力小売事業者等のサプライヤーが調達している電気の卸値は、1時間単位で変わっている。もし卸値が高い時、消費者が使用する電力を控えてくれれば、サプライヤーにとって非常にありがたい。そればかりではなく、ひいては、消費者の電気代も安くなるだろう。系統の需給ひっ迫や緊急事態発生を消費者が認識し電力使用を削減することは、系統のストレス緩和に貢献するだけでなく、消費者にとっても電気代の節約というメリットをもたらすものである。
ところで、PRDを実施するに当たって、一般消費者宅にスマートメーターの配備と、卸売電気価格と連動したダイナミック電気料金制の導入が必要である。インテリジェントで双方向通信が可能なスマートメーターは、月ごとに電力使用量を積算して記録する代わりに一時間ごとに記録するとともに、リアルタイム卸売市場の電力価格に連動して変化する動的小売価格を価格シグナルとして受け取るようになるだろう。(あるいは、スマートメーターとは別のホームゲートウェイで価格情報等を受け取るかもしれない)
PJMのメンバーである電力会社の多くは先進メーター基盤(Advanced Meter Installation:AMI)の導入計画を発表しており、州規制機関は、2022年までにPJM管内で1200万台を超えるスマートメーターの設置を認可した。
今後、これらのスマートメーターは(あるいは、ホームゲートウェイ経由で)、電気料金に基づいてあらかじめ設定しておいた動作を自動的に実施するスマート家電に、刻々変化する料金単価を通知できるようになる。そして、ホームオートメーション技術によって、消費者は簡単に卸売電力価格に応じて電力需要の削減ができるようになるだろう。
PRD実施のために導入する「ダイナミック小売料金」とは、使用する電気の料金単価が卸売電力価格に連動するものである。PRDでは、大口需要家が負荷削減を実施することで提供したDR資源量に応じてPJMが対価を支払う従来の方式とは異なった方式が使用される。PJMが、DR資源提供者に直接対価を支払うのではなく、消費者向けにDRサービスを提供している電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)や負荷削減プロバイダー(Curtailment Service Provider:CSP)経由で対価が支払われる。実際には、対価が支払われるのではなく、電力使用の削減状況に応じて、電気代を値引きする形をとる。
PRDは、PJMのリアルタイム市場にとって、オプション付きの需要であり、PJMのRPM容量市場に参加するDR資源とは別格として扱われる。それは、供給側の電源の代替ではなく、需要側における予測可能な変化量なのである。
PJMの容量市場にPRD供給者が参加することにより、系統運用における自由度・系統信頼度が増加するとともに、電力の卸売市場と小売市場が密接に連動するようになる。
(従来は小売価格と卸売価格が全く連動していなかったので、前日のスポット価格が高騰しても、それが当日の電力需要量に変化をもたらすことはなかったが)PRDの導入により、当日のリアルタイム市場価格に連動して時間帯ごとの小売電力価格が上がれば、電力需要量の減少が予測できる。その結果として卸売電力価格の上昇幅の縮小が期待でき、より効率的に系統を管理することが可能となったのである。
PJMは、そのために、リアルタイム市場で自発的に需要を削減するPRDプログラム参加者(PRDプロバイダー)の市場参加要件を以下の通り定めた:
- 一時間ごと、地点ごとの卸売価格を反映したダイナミック小売電力料金体系に基づいて、需要量を調整できること
- 価格に呼応して自動的に負荷調整を行え、1時間ごと計測可能なスマートメーターを配備した小口需要家を束ねていること
- 系統で緊急事態発生時、もし小口需要家の自発的な需要削減だけでは契約通りの需要削減ができない場合、責任を持って約束通りの需要削減を遂行できること
- 約束通りの需要削減を行えなかった場合、PRDプロバイダーは罰金を支払うこと
PJMは、PRDプロバイダーが提示した需要削減可能量を、需要予測の計算に組み込むとともに、系統の信頼度保証のための容量市場で確保すべき容量計算でも考慮するようにした。
PRDでの需要削減を約束したLSEその他のPRDプロバイダーは、その分だけ容量確保義務およびそれに付随した支払を免除されるので、彼らの顧客である消費者にとってもメリットがある。
以上、PRDはPJMでこれまで採用してきたDRを置き換えるものではなく、DRのこれまでの役割を超え、リアルタイム市場において、電源同様確実に手当てできる資源として、機能することを目指したものである。
この資料から、PRDは、消費者からすると、FastDRのRTP型自動DRプログラム。ですが、PRDプログラムを運営するISO/RTOから見ると、PRDは、リアルタイム市場で電源と同様に取り扱えるDR資源でありながら、価格反応型DRの弱点となっていた価格弾力性の問題をPRDプロバイダーに責任転嫁した、ISO/RTOにとって都合の良い、B2B2C型のDRプログラムのようです。
いかがですか?細かな部分はさておき、これでPRDの大枠はつかめたのではないかと思います。
具体的なイメージを持っていただくために、2番目の資料: PJM Whitepaper on Price Responsive Demandの図をご覧いただきましょう。
図の左上から見ていくと、PJMのリアルタイム市場価格LMPをもとにPRDプロバイダーが価格シグナルを右上の消費者宅に送ると、消費者は価格に応じて電力消費量を自動調整。右下のスマートメーターで「Retail usage to utility」で実際にどれだけ電気を使ったが計測されて(utilityとなっていますが)PRDプロバイダーに渡るので、ダイナミックに変動する時間区分別料金単価に基づいて電気料金を計算するとともに、そのPRDプロバイダーの顧客全体で事前の約束通り負荷削減されているかどうかチェックし、需要削減量が足りなければ対応。
図の下部では、コンセントから「Price/quantity curves and Wholesale usage to PJM」の情報がPJMに届いていますが、時間的にはこれが一番先で、PRDプロバイダーが、PRDの料金体系で契約した顧客すべてを束ねて、1時間ごとに電気代(料金単価)がいくらなら需要を何kW削減することができるという情報(=Price/quantity curves)をPJMに提出している状況を示しているものと思われます。
現時点ではまだ読み切れていないのですが、このPRDをどのように実現/実施するかに関しては紆余曲折があったようで、最終的にどのように落ち着いたかは、PJMマニュアルNo.18「PJM Capacity Market」に「Section 3A:Integration of Price Responsive Demand」として記載されています。
(読んだところまでの理解で恐縮ですが)PRDプロバイダーは、PJMの容量市場に対して、DR資源とは別枠で、顧客が時間ごと料金単価ごとに提示した需要削減可能量を束ねて「PRDプラン」と呼ばれるものを作成し、入札すると、2016/2017年向けは2500MW、2017/2018年向けは3500MW、2018/2019年向けは4000MWのPRDが「調達」されるようです。すなわち、PJMは、ここで調達したPRDプランを元にして、リアルタイム価格が高騰したらどれくらい需要が削減されるかが予測可能となった訳です。細かな説明は省かせていただきますが、同じく2番目のPRD資料に、PRDの効用として下図が掲載されていました。
PRDは、需要側の削減可能量なので、系統への電力安定供給に必要なUCAP(電源の計画外停止率等を考慮した実効容量:Unforced CAPacity)を小さくし、結果的に容量市場価格を押し下げる(グラフ上「RPM Price No PRD」が「RPM Price w/PRD」に下がる)効果があるようです。
終わり
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