Wenallt bluebells

Bluebells are abundant during May in the Wenallt Woods

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プライスレスポンシブデマンド(Price responsive Demand:PRD)の続きです。

PRDとはどのようなものかについては、その1でご紹介した通りです。すなわち、それ自体は新たなDRプログラムという訳ではなく、リアルタイム市場価格に連動する価格反応型DRを導入することによって、リアルタイム市場での取引価格が高騰すれば需要が減る-という需要家の反応、あるいは、そのような反応によって削減される需要量がプライスレスポンシブデマンド(Price Responsive Demand:PRD)でした。

ところで、従来は1日前にDRイベント実施が通知されていた時間帯別価格反応型DR、すなわち典型的なSlow-DRとして運用されてきたシロモノを、Fast-DR型の運用に変更することによって、どのようなメリットがあるのでしょうか?

「DRはどこへ向かうのか」のブログシリーズで見てきたように、ICTの進化と運用コスト低減により、これまでのSlow-DRに加えてアンシラリーサービスのようなFast-DRの運用が可能となってきました。とはいえ、Slow-DRに比べると、Fast-DRを実施するには、新たな通信インフラへの投資や、自動DRが必須となるのでDRサーバ側だけでなくDRクライアントとしてDRイベントを受け負荷削減を行うような装置を需要家側にも設置しなければならないので、Slow-DRを上回るメリットがなければ、わざわざ導入する必然性がありません。

DR適用に関しては、発電事業者が結託し、いわゆる市場パワーを発揮して、必要以上に市場価格が高騰することを牽制する意味合いあるということが言われていますが、PJMをはじめ、MISOやISO-NEといった系統運用者が新たにシステム導入・運用コストをかけてまでPRDを導入するもの、この理由からだけなのでしょうか?

実は、前回(その2)ご紹介したPJMマニュアルNo.18セクション3Aの冒頭部分に、その理由が書かれていたのですが、ここで再確認しておきましょう。
双方向通信可能なスマートメーターの導入と同期して、時間帯別電気料金制度が発展・実展開されるにつれて、電力卸売市場価格に反応するPJM管内の電力需要量が無視できなくなってきた。
この部分です。

容量市場は、将来のピーク需要予測に必要十分な「電源」を確保するのが目的であり、「市場価格が高騰したらピーク需要量が減少する」という現象(すなわち、PRD)が考慮されていませんでした。
PRD現象を誘発させるには、上記のとおり価格反応型DRをFast-DRとして実施すれば良い。問題は、どの程度市場価格が上がると、どの程度需要が縮むか定式化しなければならないことですが、そのために必要な仕組みも出そろってきました。

すなわち、

  •  一般家庭へのスマートメーター導入が進み、かつDRによる需要削減量の定式化(いわゆるDRのM&Vの標準化)が可能となった。
  • 価格シグナルに反応するスマートサーモスタット等の自動DRクライアント製品が出てきた。
  • 価格シグナルをリアルタイム配信するための通信インフラや、OpenADRのような専用通信プロトコルも実用レベルに達してきた。
  • 負荷削減サービスプロバイダー(Curtailment Service Provider:CSP)が最終需要家の提供するDR資源を束ね、系統運用者が期待する需要削減量の不足分を補完することで、最終需要家が価格反応型DRプログラムであっても、系統運用者はCSPが提供するDR資源に対して「電源」と同程度信頼できるようになってきた。

電力単価がいくらならどれくらい需要を削減するかという情報を、各需要家から収集し、電力価格ごとに(ピーク時間帯でなくても)需要削減可能量を束ねる役割をCSPに持たせ、かつ、CSPに自社顧客からどれだけPRDを提供できるかコミットしてもらえば、意図した通りの負荷削減ができないという価格反応型DRの欠点も克服できるだろう-ということです。

そして、このPRDは、当日の電力取引市場で価格が高騰したときにも威力を発揮しそうですが、先渡市場である容量市場での市場価格を低下させるメリットのあることがわかりました。

ということで、今回も2014年4月24日に発行された最新のPJM マニュアルNo.18 「PJMの容量市場」Revision22からPRDの参加資格について細かく見ていきます。

PJM マニュアルNo.18 「PJMの容量市場」

Revision:22
発行日:2014年4月24日
セクション3A:プライスレスポンスデマンド(PRD)のPJM市場への統合(続き)
セクション3A.3 PRD参加資格

PRDを提供するに当たって、PRDプロバイダーのPRD参加資格は以下のとおりである。

● PJMに需要家のPRDを提供するPRDプロバイダーは、PJMの会員でなければならない。そのようなPRDプロバイダーを介してPRDを提供する需要家を最終需要家と呼ぶ

※ 最終需要家は、電力小売事業者(LSE)が提供するダイナミック料金での電力使用契約をしているか、その他のタイプのPRDプロバイダーとの間で時間ごとに従量料金の変わる料金契約をしていなければならない
いずれの場合も、電力料金は、その顧客に電気を供給する地域の送電ゾーン内の最寄りの変電所地点のリアルタイム市場価格(LMP)に連動するものである必要がある

●  PRDプロバイダーは、電力使用量を1時間ごともしくはそれより短い時間間隔で電力使用量を計測できるスマートメーターを最終需要家に設置しなければならない

●  また、信頼性補償協定(Reliability Assurance Agreement)に規定された監視制御(Supervisory Control)の条項に基づき、PJMが緊急事態宣言を出した場合、系統信頼性維持のためPRD分の需要削減を実施しなければならない

※ (当日の)リアルタイム市場価格が高騰すると、PJMは最大緊急イベント(Maximum Emergency event)警報を発令する。PRDプロバイダーは各地点別にリアルタイムLMP価格に応じて最終需要家ごとにPRDとして登録されている需要削減を遠隔操作で実施する

※ PRDプロバイダーは、このようにしてリアルタイムLMP価格に応じた最終需要家のPRD曲線(リアルタイムLMP価格がいくらならどれだけ需要を削減するか-というLMP想定価格とPRD事前登録データから描画した曲線)から得られた需要削減量の達成に努める

※ この需要負荷削減は、価格シグナル(LMP、あるいはそれをベースとするダイナミック電気料金情報)がトリガーとなって、一切人間系の介入なしに自動的に行われなければならない

●  最終需要家は、15分以内にPRD曲線から割り出された、当該需要家が電力供給を受ける地点でのLMPに対応する需要量まで需要削減を実施しなければならない

なお、PRD料金として認められる”LMP連動ダイナミック料金”のロジックには以下がある。

●  卸売市場価格がある閾値を超えた場合、ピーク小売価格を高くすることを許すCPP

●  卸売市場価格がある閾値を超えた期間中、需要削減量(最終顧客のベースラインを下回った電力)に応じて支払うPTR

●  LMPをベースとしたRTP

以上、PJMマニュアルNo.18 3A.3の内容を掻い摘んでご紹介しました。今回も大筋を見通すために細かなルールは端折っていることを再度お断りしておきます。

なお、セクション3A.2「Transition Period」の紹介をとばしましたが、その1の最後で簡単に触れたように、当面PRD調達量の上限(2016/2017年向けは2500MW、2017/2018年向けは3500MW、2018/2019年向けは4000MW)が設けられますが、それ以降は無制限-ということが書かれていました。

今回読み終わった「PRD参加資格」から、RTPだけでなく、CPP、PTR、RTPというダイナミック価格反応型で、これまではSlow-DRに分類されていたDRプログラム3種類すべてがPRD実現のため利用できることがわかりました。
また、「15分以内にPRD曲線から割り出された、当該需要家が電力供給を受ける地点でのLMPに対応する需要量まで需要削減を実施しなければならない」という点は、予備力用に利用されるDRプログラムの要件を連想させます。
その意味で、PJMの目指すPRDとは、「ダイナミック価格反応型DRプログラムをFast-DR対応として利用することで、PJMから指令を出すことなく、リアルタイムLMPが高騰する地点のみに自動的にアンシラリーサービスにおける予備力適用相当の行為が行われるような仕組み」で、かつ、「自動的に十分需要が下がらない場合、(PJMから直接負荷制御を実施しなくても)系統の非常事態宣言を出すだけで、各PRDプロバイダーが、それぞれ約束したPRD分の需要削減をしてくれる仕組み」という、PJMにとっては便利な仕組みということができると思います。

以下の図は、本ブログシリーズ-その1で3番目のPPT資料に掲載されていたものですが、$88/MWhでPRDが登録されていた場合、実運用で何が起きるかを示したもの(とわかりました)。

本来なだらかに需要が伸びていく(右図上、点線で示されたLoad Curve without PRD)ところですが、PJMが$90/MWhでリアルタイム市場に入札した発電機への給電指令を出す前に、リアルタイム価格が$88/MWhに達した段階で、PRDプロバイダーが最終需要家に対して負荷削減を実施する模様を示したもの(図中 $88 Price-Responsive Demandとなっている部分)と考えられます。

同じく右図の下部にコメントされているように、PJMとしては「No dispatch of additional resources」にも拘わらず、需要が一時フラットになってくれる様子を示しています。

次回も、PJMのマニュアルNo.18の3A章から、「3A.4 PRDプランの要件」について詳しく見ていきたいと思います。

終わり