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プライスレスポンシブデマンド(Price responsive Demand:PRD)の続きです。
前回は、PJMの容量市場のマニュアルから「PRDプランの要件(PRD Plan Requirements)」の部分をご紹介しました。
ここまでで、プライスレスポンシブデマンドの仕組みがどのようなものかが、お分かりいただけたのではないかと思います。
前回の繰り返しになりますが、価格反応型DRの実施のみでは、例えそれをFastDR型に変更しても、PJMの望み通り確実に負荷削減を行うことは不可能です。しかし、PJMがPRDプロバイダーとの間で締結した信頼性補償協定(Reliability Assurance Agreement)に規定された監視制御(Supervisory Control)条項により、PJMが緊急事態宣言を出した場合、PRDプロバイダーは、系統信頼性維持のため、需要削減に応じなければならない。そうすることによって、PJMから見ると、従来、制御不能(Non-dispatchable)と思っていた価格反応型DR資源を、確実に予定した分(すなわちPRDとしてあらかじめPRDプロバイダーがPJMに登録した分)の制御が可能(Dispatchable)になる。
これがPJMの目指すプライスレスポンシブデマンドの実運用の仕組みです。実によく考えられていると感心します。ただ、これがプライスレスポンシブデマンドの仕組みのすべてではありません。
「双方向通信可能なスマートメーターの導入と同期して、時間帯別電気料金制度が発展・実展開されるにつれて、電力卸売市場価格に反応するPJM管内の電力需要量が無視できなくなってきた(その2-PJMマニュアルNo.18 3A.1冒頭)」結果、系統運用者が従来実施してきた需要予測ベースの必要設備容量計算ロジックへの変更を余儀なくされた。PRDというのが、正に需要予測を狂わせる元凶の1つであり、それをどのようにPJMの容量市場運営に込みこむか、過去数年にわたって検討してきた結果、PJMでは容量市場に更に手を加えた。
すなわち、PJMの容量市場を、それまでのRPM市場から、PJM管内のゾーン/ローカル配電地域(Locational Delivery Area:LDA)ごとにUCAP(電源の計画外停止率等を考慮した実効容量:Unforced CAPacity)とPRDを調達するためのマルチオークション構造とし、電源の代替としてRPM供給曲線側に組み込むのではなく、需要曲線側にDR資源を組み込むという、新たなDR資源の利用法を採用した。
-ということで、PRDは、リアルタイムの需給バランスだけでなく、将来の需給バランスを保証するためのPJMの容量市場改革の仕組みでもあるのです。
※まだ調査できていないのですが、ここで「PJMの」としたのは、同じ系統運用者でも、MISOやISOニューイングランドの目指すPRDの仕組みは、PJMと全く同じということではなさそうだからです。
なるほど! と納得していただけたでしょうか?
実は、自分自身では、まだどこか腑に落ちない感じが残っていました。
それがどうしてかと考えてみるに、外側から見た大まかな仕組みはこれで分かったのですが、内側の細かな仕組みについては、まだ内容がよく見えてないからだと気づきました。
そこで、今回は、内容がわかっていなかった項目について追加調査して分かったことをご紹介したいと思います。
1)PRDプラン作成に当たってPJMが公開するWeather Normalized Zonal Peak Load
この情報は、PJMのホームページ「Load Forecast Development Processで公開されていました。2013年(夏)のPJM各ゾーンのピーク負荷は以下の通りです。
2)PRDプラン作成に当たって公開されるCustomer PLC (Peak Load Contribution)
この情報は、配電事業者(Electric Distribution Company:EDC)が作成するもので、どのように計算されるかについては、PJMの「オープンアクセス送電料金(Open Access Transmission Tariff:OATT 全2738ページ!)」内にATTACHMENT M-2として、複数のEDCのCustomer PLC計算ロジックが記載されていました。
以下、アトランティックシティー電力会社(Atlantic City Electric Company:AE)の配電ゾーンで採用されている「最終需要家のPLCと負荷削減義務量決定手続き(Procedures for Determination of Peak Load Contributions and Hourly Load Obligations for Retail Customers)」から、2種類のCustomer PLC計算方法についてご紹介します。
Customer Capacity PLCの計算
• PJMで前年度の電力需要(1時間値)が最大となった5回の日時 (上記、Weather Normalized Zonal Peak Load情報の最後に記載されたSummer 2013 RTO Coincident Peaksにある日時)の当該顧客の使用電力量の平均をとる。
• メーター計測値をそのまま用いるのではなく、計測時に電圧低下など特殊な状況にあった場合は、その影響を排除した値を用いる。天候による影響や送電ロスも排除した値を用いる。
• 特定のゾーンに所属する需要家のPLC値の合計が、そのゾーンのZonal Peak Loadと合致するように調整する。
※ AEは、毎日、自社配電ゾーンで電力供給を受けている顧客のCustomer PLCを、当該配電ゾーン内で電力供給を実施している事業者ごとに集計し、PJMおよび消費者に公開しているようなので、同社のホームページを探してみたのですが、残念ながらCustomer PLCのデータらしきものは見つかりませんでした。
Customer Network PLCの計算
• AEゾーンで前年度の電力需要(1時間値)が最大となった5回の日時(上記、Weather Normalized Zonal Peak Load情報の最後に記載されたSummer 2013 RTO Coincident Peaksにある日時とは、異なる可能性あり)の当該顧客の使用電力量の平均をとる。
• メーター計測値をそのまま用いるのではなく、計測時に電圧低下など特殊な状況にあった場合は、その影響を排除した値を用いる。天候による影響や送電ロスも排除した値を用いる。
• AEゾーンに所属する需要家のPLC値の合計が、AEゾーンのZonal Peak Loadと合致するように調整する。
3)PRDプラン作成に当たって公開されるZonal Scaling factor
今年開催される3年先の容量市場(Delivery Yearが2017/2018年)向けにPRDプランを作成するための各ゾーンのScaling Factorは、すでにPJMのホームページ(RPM Auction User Information)に掲載されていて、下記の通りとなっています。
※表中(1)の欄は、1)の「PJM Interconnection Summer 2013 Weather Normalized RTO Coincident Peaks」と同じ値になっているのがわかると思います。
※なお、「PJM Load Forecast Report January 2014」に掲載されているAEゾーンの需要予測データ(2)は下図の通りです。
黒のピーク負荷実測値に対して、赤がWeather Normalized Peak、緑が2014年以降の需要予測値です。
このグラフを見ると、2017年の需要予測値は2900MW近くあり、2014年以降の需要予測曲線上、LOAD=2750MWに相当するのは、2014年の需要予測値に近いことがわかります。
(2)欄のタイトルは「Preliminary 2017 Zonal Peak Load Forecast」となっていますが、Zonal Scaling Factorの定義「前年のデータから夏季の天候の影響を除いた形で計算されたゾーンごとのピーク負荷に対して今年度のゾーンごとのピーク負荷予想値の倍率」どおり、2017年の需要予測値でなく、2014年の需要予測値をベースにZonal Scaling Factorが計算されていることも確認できました。
4)「PRD elect(PRD提供候補)」とPRD価格曲線
さて、これらの情報さえわかれば、PRDプロバイダーはPRDリストを作成できるのでしょうか?
自社顧客である最終需要家のCustomer Capacity PLCは公開されるので、その顧客が属するゾーンごとに合計すれば、各ゾーンでPRDプロバイダーの顧客合計で何MWの電力需要があるかわかります。
これにZonal Scaling Factorをかければ、2017/2018年の当該PRDプロバイダーの顧客の最大需要予測量となります。
また、各顧客が「PRD elect(PRD提供候補)」のもととなるデータ、すなわち、年間ピーク電力はyMWだけれども、電力小売価格が$ x1 / MWhになったらy1 MW、更に$ x2 / MWhに上がったら y2 MWに需要を減らすという情報を提供してくれるなら、それらもゾーンごとに集計することで、ゾーンごとに下図のようなグラフを描くことができます。
これは、「Price Responsive Demand – Integration into PJM Energy Market」の資料に掲載されていたものです。あるゾーンに属するPRDプロバイダーの顧客の「PRD elect(PRD提供候補)」を集約してグラフにしたところ、ピーク需要は1000MWだけれども、LMPが$50/MWhより高くなると、PRDとしての需要削減が発生しだし、$1000/MWhに上がると100MW減の900MWに、$2000/MWhまで高騰するなら、更に25MW減の875MWになりますが、これ以上需要は減らないこと(すなわち、当日のLMPに対応するMax Emergency Service Level:MESL)を示しています。
このグラフは、あるPRDプロバイダーが、あるゾーンについて集約した「PRD elect(PRD提供候補)」ですが、PJMとしては、すべてのPRDプロバイダーが提出した「PRD elect(PRD提供候補)」について同様の集約を行えば、PJMのゾーンごとのLMP-MESL曲線を描くことができます。
『羊の皮を被ったオオカミ』ではないですが、普段は価格反応型DRプログラムの顔をしながら、系統緊急事態発生時には、直接負荷制御で着実に負荷削減が実行される-これがプライスレスポンシブデマンドの正体という訳ですね。しかも、PJMは自分の手を汚さないで、『助けて~』と叫ぶだけ。全く、うまく考えたものですね。
5)PRDプロバイダーが提供するDRプログラムの詳細
さて、もう1つ、はっきりしないのが、PRDプロバイダーが一般需要家に提供するPRD向けのDRプログラムです。もちろん、外枠としては、価格反応型Fast-DRで、CPP、PTRあるいはRTPの顔をしているということまでは、わかっています。
CPP/PTRの場合は、例えば『助けて~』コールが年に10回とか決まっているけれども、RTPの場合は、通年で、『助けて~』コールの回数制限なしという感じなのでしょうか?
すなわち、CPP/PTR型Fast-DRを採用した場合は、従来のCPP/PTR同様、年数回のピーク負荷削減の役割。それに対して、RTP型Fast-DRを採用した場合は、真夏昼間のピーク時間帯だけでなく、夜間を含め、再生可能エネルギーの出力変動対応に使えそうです。
PJMのPRD関連の資料をいろいろ探してみたのですが、実際に最終需要家とPRDプロバイダーの間でどのような契約が執り行われるのか、はっきりしません。
しかし、これは、PJMが定めることができるルールは卸売市場の範囲であり、PRDの仕組みを遂行する上で重要な小売市場部分の制度は、PRDプロバイダー(と、州規制機関)の領域であって、PJMが直接云々できないのだ-ということがわかりました。いくらPJMの資料を探しても見つからないはずです。
そこで、一般家庭向けにプライスレスポンシブデマンド対応のDRプログラムを提供するPRDプロバイダー(=DRアグリゲーター)として、Comverge社にあたりをつけたところ、PJM向けのDRプログラムはあったのですが、PRDに関連したものではありませんでした。
先に、各顧客が「PRD elect(PRD提供候補)」のもととなるデータ、すなわち、年間ピーク電力はyMWだけれども、電力小売価格が$ x1 / MWhになったらy1 MW、更に$ x2 / MWhに上がったら y2 MWに需要を減らすという情報を提供してくれるなら-という前提のもとに、PRDプロバイダーが、自分の顧客のゾーンごとのPRDが計算できるという話をしましたが、
1)そのようなことまで、各顧客に情報提供を求めるのかどうか?
2)各顧客に導入する自動DRのクライアント端末によって、例えば、プリプログラム式のスマートサーモスタットで価格シグナルが$500/MWhに達したら、設定温度を2度上げるというような設定をするだけのもの、その設定変更によっていくら需要が減るのかわからないのではないか?
3)したがって、例え各顧客がここまで需要を落とせる-という情報を提供したとしても、それを集計してMESLとするのは、PRDプロバイダーにとってリスキーではないか?
等々、疑問はまだ尽きないのですが、現時点では、これ以上情報が見つからなかったので、PJMのプライスレスポンシブデマンドに関するご紹介は、一旦これで終了させていただきます。
また、ISOニューイングランドやNYISO、それにMidwest ISOで行われているプライスレスポンシブデマンドについても調べたいのですが、PJMのPRDが、PJMの卸売市場(エネルギー市場及び容量市場)と深くかかわっていたように、他のISOが主催するPRDを調査するには、PRDだけでなく、調査対象ISOの市場の仕組みまで調査・理解しなければなりません。ISOニューイングランドに関しては、少し調べてありますが、NYISO、Midwest ISOに関しては、手つかずですので、PJM以外のPRDに調査対象を広げると、泥沼にはまりかねず、今回の「プライスレスポンシブデマンド」のブログシリーズは、しばらく保留とさせていただきます。
終わり
- 投稿タグ
- Demand Response, PJM, PRD, Smart Grid, スマートグリッド, デマンドレスポンス, プライスレスポンシブデマンド