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プライスレスポンシブデマンド(Price responsive Demand:PRD)の続きです。

前回、「PRD」と「responsive」の両方を指定してGOOGLE検索すると、リストアップされた最初の10件の内、5件がPJMに関連していた-ということで、1番目のPrice responsive demand, or PRD – PJMの内容をご紹介しましたが、この資料は2014年4月に作成されたものです。

それに対して、2番目の PJM Whitepaper on Price Responsive Demand が作成されたのは、それより3年以上前の2011年3月ですが、この中に、PRDに至る、PJMでのDRに関するこれまでの取り組みが簡単に紹介されていました:

  • PJMとして1997年に電力市場運用を開始する以前のパワープール時代からDRに相当するメカニズムはあったが、それはピーク負荷削減ではなく、緊急時対応のためのものだった。
  • それ以降、PJMではDRの制度を拡充し、電力取引市場において経済性の観点から電源と対応に取り扱うことや、容量市場、アンシラリーサービス市場への適用を図ってきた。
  • PRDは、このDRによるPJMの市場改革をもう一段進めるものである。
  • DRは、電源の代替物という意味で、電力供給側に所属するものであるのに対して、PRDは卸売市場価格が高騰すると需要が減り、逆に卸売市場価格が安いと需要が増えるという需要側の振舞いである。

これ以上詳細に中身を読んでも、その後変更されている可能性があるので、これくらいにしておきましょう。

3番目のPeter Langbein, PJM は2013年5月。この資料には、図がたくさん入っていて良いのですが、典型的なパワーポイント資料(?)で、実際に説明を聞かないことには、図だけでは意図するところが伝わってこないので、紹介はパスします。

次にリストアップされたComments on PJM‘s Price Responsive Demand (PRD) Proposal of March 3, 2011.は、2011年3月3日にPJMが作成・公開したPRDに関するPJMでの取り扱い提案に関するコメントです。PJMの市場を監視しレポートを作成している、PJMとは独立した調査会社のMonitoring Analytics社が作成したもので、全4ページ(コメント本文2ページ)しかなく、2011年時点のPJM提案に対するコメントですので、これも内容紹介は割愛します。

次にPJMに関連していたのは、10番目の Session 307 – Integration of Price Responsive Demand into PJM Wholesale Market で、これは、2013年9月23日~25日にカナダで開催されたSmartGrid Canada‘13のセッションの1つ、Session307では、「プライスレスポンシブデマンドのPJM卸売市場との統合(Integration of Price Responsive Demand into PJM Wholesale Market)」というタイトルで話される-という案内でした。その紹介文の中で、PRDは「第3世代のDRプログラム」と称されています。また、具体的に話された内容はわかりませんが、PJMは、2011年にALSTOMグリッド社と、PRDをどのように実現し、PJM市場と統合していくかを検討する「PRDプロジェクト」を開始したようです。

PJMでのPRDの現状を知るには、後は、やはりPJMの市場運用マニュアルを紐解くしかありません。ただ、この種のマニュアルにありがちなのが、全容を理解している人が読めば、詳しく書いてあって良いのですが、全容を理解していない段階で読むと、細かな記述の隘路に落ち込んで全体が見通せないことです。そこで(というか、どのみちいつも超訳ですが)、PRDに関するPJMのマニュアルを飛ばし読みしながらPRDの全容を、1番目の資料からもう1段掘り下げてみたいと思います。

PJM マニュアルNo.18 「PJMの容量市場」

Revision:22
発行日:2014年4月24日
セクション3A:プライスレスポンスデマンド(PRD)のPJM市場への統合
3A.1  PJM容量市場におけるPRD

双方向通信可能なスマートメーターの導入と同期して、ダイナミックな時間帯別電気料金制度が発展・実展開されるにつれて、電力卸売市場価格に反応するPJM管内の電力需要量が無視できなくなってきた。価格に反応して電力消費を制御する技術の発達と、消費者自身の行動変化によって、PJMが直接負荷削減を要求しなくても、また自らはPJMの電力取引市場に参加しなくても、消費者は、卸売電力価格が高騰すると需要を控えるようになったからである。
卸売市場の電力価格と小売電力単価を連系させるリアルタイム価格(Real-Time Pricing:RTP)型DRの普及で、卸売電力価格が高くなると需要が減り、安くなると需要が増えるという電力消費行動が顕著となってきて、PJMとしては、この新たな消費者行動を卸売電力市場の設計と運用にも反映せざるを得なくなってきた。

この卸売電力「価格」の変更に「反応」して変化する電力「需要」は、「価格に反応する需要(Price Responsive Demand:PRD)と呼ばれている。
スマートサーモスタットのような価格シグナルに自動的に反応する装置の普及で、PJMが、発電事業者に直接給電指令を出すように消費者に直接負荷削減指令を発動したりしなくても、卸売価格に対する需要の反応がある程度予測可能となり、卸売価格に反応して変化する需要曲線が描けるようになってきた。電力需要予測がPJM管内の発電設備容量ぎりぎりに近づくにつれ、卸売電力価格が高騰し、その結果、実需要は減少する。結果的に、PRDは、系統の信頼度基準を満たすために必要な電源設備容量の縮小に貢献するものなのである。

ところで、PRD(のもたらす電力需要の減少自体)は、RTP型DRプログラムに参加する個々の消費者の電力消費行動を集約した結果であるが、PRDの実運用は、そのような消費行動をとる消費者を束ねることができるPJMのメンバーに委ねられる。そのような、PJMにPRDを提供するメンバーは、PRDプロバイダーと呼ばれ、具体的には、電力小売事業者(Load Service Entity:LSE)の他に、配電事業者(Electric Distribution Company:EDC)や、負荷削減サービス・プロバイダー(Curtailment Service Provider :CSP)がPRDプロバイダーの候補となる。
PRDプロバイダーは、PJMの容量市場に、(自らの顧客の電力価格に応じた負荷削減行動予測に鑑みて?)提供しうるPRD量を「PRDプラン」として提出する。
「PRDプラン」とは、実施の3年前に開催される初期容量オークション(Base Residual Auction:BRA)あるいはその後の3回目の補足容量オークション(Third Incremental Auction)に向けて、容量保証を行う年(Delivery Year)にPRDとして、取引単価に応じて最大何MW需要を削減可能か記載したものである。
この「PRDプラン」とは別に、PRDプロバイダーは、PJMの容量市場取引を管理するeRPMシステムに「PRD election(PRD提供候補)」を登録する。これは、提供するPRD量(MW)を価格別($/MW・日)に示した公称PRD値(Nominal PRD Value)である。複数のPRDプロバイダーから提出された「PRD election」は、PJMのRPMオークションで用いられる「RTO/LDA VRR曲線」の形に変換される。
PJMは、RPMオークションの清算価格「Resource Clearing Price」と、「PRD election」から、PRDを提供するプロバイダーを確定する。すなわち、「PRD election」上、RPMオークションの資源清算価格かそれ以下の価格でPRDを提供することを指定していたPRDプロバイダーは、このRPMオークションによって、PRDの提供を確約したことになるのである。

PRDプロバイダーは、一旦BRAあるいは3回目のIAで確定したPRDは、必ず提供しなければならない。(他のPRDプロバイダーとの間で、PRD提供量を調整することは可能)特定のゾーン/サブゾーンでのPRD提供を確約したPRDプロバイダーは、「Delivery Year」開始前に、同ゾーン/サブゾーンへのPRD提供量を登録する。
「Delivery Year」通年で、当該ゾーン/サブゾーンに十分なPRD提供を確約できないPRDプロバイダーは、罰金(PRD Commitment Compliance Penalty)が課せられる。PRDプロバイダーには、さらに、「Delivery Year」に発生する最大緊急イベント(Maximum Emergency Event)に際してPRDの提供ができなかった場合も罰金(PRD Maximum Emergency Event Compliance Penalty)が課せられる。

以上、PJMマニュアルNo.18 3A.1の内容を掻い摘んでご紹介しました。もっと細かなルールが記載されていましたが、大筋を見通すために端折っていることを再度お断りしておきます。
また、前回は、まだ自分自身、消化不良のまま、下図をお見せしたので、FastDRタイプのRTP型DRとPJMの容量市場(RPM市場)にいったいどんな関係があるのか疑問に思われたかもしれませんが、今回の説明で納得していただけたでしょうか?

なお、今回のブログ記事のアップにともない、前回のブログ記事を「DRはどこへ向かうのか」のブログシリーズとは独立させるため、タイトルを「プライスレスポンシブデマンド(PRD)-その1」に変更させていただきました。
過去の記事をさかのぼってみると、2011年10月に書いた「デマンドレスポンス・プログラムの現状と展望-その1」で、『米国系統運用者の1つPJMの資料「Demand response in PJM」を見ると、長期的なビジョンとして、PRD(Price Responsive Demand)という、本来のリアルタイム価格に連動したデマンドレスポンスも数年前から議論されているようですので、機会があれば別途ご紹介したいと思います。』としていたのですが、今回の「プライスレスポンシブデマンド(PRD)」のブログシリーズで、やっと紹介することができました。
次回は、同じくPJMのマニュアルNo.18の3A章から、PRDについて更に見ていきたいと思います。

終わり