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トランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)に関するご紹介の続きです。
本来は、GridWiseが2013年10月に公開している「GridWise Transactive Energy Framework DRAFT Version」(全58ページ)をご紹介すればよいのですが、自分自身なかなか腰を据えて読みこなす時間が取れていないので、外堀から攻めて、ぼんやりとでも、まずTEとはどのような概念かを浮き彫りにしようと思い、これまで、
その1)SlideshareのTEに関するビデオをご紹介し、
その2)その内容を簡単に補足説明し、
その3)TheEnergyCollective.comの記事「Transactive Energy: American Perspectives on Grid Transformations」
をご紹介しました。
ここまでで自分なりに理解したことをまとめると、以下の通りです。
• トランザクティブエネルギー(TE)というのは、電力ビジネスにおけるパラダイムシフトを促すもので、電力業界の全体構造に関わるものである。電力会社、消費者その他のステークホルダーにとっての市場およびビジネスモデルを根底から転換させるものになる
• 従来の電力ビジネスモデルでは、「規模の経済」を根拠に需要地から遥か彼方に大規模発電所を建造し、大量に電力を消費する需要地まで運んでいた
• この仕組みの中で2つの問題があった。すなわち:
①いくら発電効率を上げても燃料を電気に変換する過程で発生する熱を有効利用できず、大気や河川、海に熱を放出するというムダが発生していた
②電気を生成する場所と消費する場所が離れていることによる送電ロスがばかにならなかった
• 同じく、従来の電力ビジネスモデルでは、電力需給バランスをとる上で供給側がイニシアチブをとっており、自由主義経済諸国の電力会社であっても、社会主義国家の計画経済に近い仕組みをとっていた。すなわち:
①発電設備建設には時間がかかるので、長期需要予測に基づいて発電所の建造計画を立てるとともに、
②日々の電力需給においても、従来の需要実績をベースに、前日/当日朝/1時間前の天候その他の需要変動要因を考慮した需要予測量調整を実施し、その需要予測値を満たす電力供給を実施するため、ベース電源、ミドル電源、ピーク電源といった、初期コスト/ランニングコストの異なる、かつ発電指令に対する応答スピードの異なる電源をうまく組み合わせて発電コスト最適を図る
というように、計画値/予測値をもとに電気を生産する仕組みが採用されていた
• それに対して、TEが目指すものは、電力需給バランスを保つ仕組みとしても、自由主義経済の基本である市場原理主義の導入ではないだろうか?
• 電力需給バランスをとるしくみとして、中央集権的なトップダウンのメカニズムを廃止し、基本的に「市場取引」に委ねる。もう少しく詳しく言うと:
①従来長期需要予測に基づいて発電所建造計画を立て、将来の安定供給の保証と発電所建設の経営リスク回避を行ってきた仕組みの代わりに、「先渡取引」市場で発電事業者の投資および経営リスクのコーディネーションを図り、
②日々の電力需給バランスも、基本的に、「スポット取引」市場での「市場取引」に委ねる
• このように、電力需給バランシングを市場の自律性に委ねても、「売り手」から「買い手」に電気が届くようにするための仕組みとして「トランザクション処理」の考え方をベースとしたプラットフォームを考えた。それが、トランザクティブエネルギーである。すなわち:
①TEでは、市場取引商品として、電気エネルギーそのものとトランスポート(送配電)の2種類を設ける
②消費者の場所で電気が使われるためには、別の場所にある電気エネルギーという商品と、トランスポートという商品が合わさって初めて有効となるので、どちらか一方の取引が成立しなければ全体としての「取引」が成立しないようにする(売り手と買い手の間で売買が成立しても、売り手から買い手までの送配電網が混雑していて電気を送り届けられない場合、売買が成立しなかったものとする)
※コンピュータシステムにおけるトランザクション処理の定義(Wikipedia):
トランザクション処理は、既知の一貫した状態のデータベースを維持するよう設計されており、相互依存のある複数の操作が全て完了するか、全てキャンセルされることを保証する。
例えば、顧客の普通預金口座から当座預金口座に500ドルを移動させる典型的な銀行のトランザクションを考えて見る。このトランザクションは銀行側から見れば1つの操作であるが、コンピュータから見れば少なくとも2つの操作から構成される。普通預金口座から500ドルを引き落とし、当座預金口座に500ドルを入金するのである。引き落としが成功して入金が失敗した場合(あるいは逆の場合)、銀行の帳簿はその日の営業完了時点で不整合を生じる。したがって、2つの操作が両方成功するか、両方失敗することを保証する必要があり、それによって銀行のデータベースに不整合が生じないようにする。トランザクション処理はそのような保証をするよう設計されている。
トランザクション処理では、データベースの個々の操作が自動的に1つに連結され、不可分のトランザクションとされることがある。トランザクション処理システムは、1つのトランザクション内の全操作がエラー無しに成功するか、全操作が実行されないことを保証する。
計画経済では、計画変更となるものは何であれ悪者ですが、市場経済では変化こそが市場を活性化させる源と考えられています。
現在のところ、出力変動の大きな再生可能エネルギー大量導入により、
• 出力変動の拡大による周波数調整力不足
• 余剰電力過多による需給インバランスの発生
• 系統擾乱時の影響拡大
等が懸念されていますが、TEプラットフォームでは、再生可能エネルギーのもたらす出力変化も、それ以外による系統擾乱も含めて、計画通りにいかないこと自体は悪いことではなく、TE取引市場を活性化させ、ひいては、新しいタイプの電力需給バランシングを成功させる源となる - という発想の転換が必要ではないかと思います。
ただし、金融取引市場では、大幅な価格変動があった場合、ヒートアップした市場を冷やすために一定時間取引停止となることがあるようですが、TE取引においては24時間365日停止することなく取引できないと停電が発生してしまいますので、金融市場の先物取引と現物取引の仕組みをそのまま採用するだけではすまないと思いますが。
これからもTEについての調査を進め、ご紹介していきたいと思っています。
次回は、TEとOpenADRの関係に言及している資料「Transactive Energy, Transactive Control and OpenADR」をベースにご紹介する予定です。
終わり