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トランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)に関するご紹介の続きです。
今回から、何回かに分けて、OpenADRアライアンスのメンバ企業でOpenADR2.0の仕様策定のみばかりでなく、OpenADR2.0のテストツールの作成・提供、更にはOpenADR2.0普及のための講習会開催と、OpenADR2.0に深くかかわっているQualityLogic社のレポートを紹介しようと思います。

実は、トランザクティブエネルギーという言葉を初めて聞いたのも、QualityLogic社の方でした。その時は、OpenADR2.0のように今すぐスマートグリッドに関わるシステム構築に寄与するようなものではなく、長期的展望に立った、「将来電力ビジネスはかくあるべし」を議論する概念、あるいは、その概念を具現化するには何をどうすればよいのかを議論している場-という位に理解していました。ところが、『Transactive Control and OpenADR Roles and Relationships』というレポートが5月に公開されたと同社のニュースレター「Smart Grid Interop Times」Vol.2 Issue 2に載っており、意外と米国でのトランザクティブエネルギーの動きが早そうなので、そろそろどんなものか覗いてみようと思った次第です。

では、はじめますが、例によって、全訳ではないこと、本人の思い入れが混じった超訳になっていることはお含みおきください。

トランザクティブコントロールとOpenADRの役割と関連

2014年5月公開 1.07版

本レポートは、米国エネルギー省助成プロジェクト採択番号:DE-OE0000190の支援に基づいて作成されたものである。

目次

1.はじめに
2.トランザクティブエネルギー
3.トランザクティブコントロール
4.エネルギー市場の情報交換
5.トランザクショナルEMIX (TeMIX)
6.エネルギーインターオペレーション(EI)
7.OpenADR 2.0
8.まとめ
9.結論
Appendix A: CIM と IEC 61850
Appendix B: 参考文献

1.はじめに

本レポートは、トランザクティブコントロール( Transactive Control:TC)、トランザクティブエネルギー、トランザクショナルEMIX(TeMIX)、OpenADRの元となったエネルギーインターオペレーション(EI)標準、およびエネルギー市場の情報交換(Energy Market Information Exchange :EMIX)の相互関係を理解するため、これらの概略を紹介したものである。
NISTはスマートグリッド実現に関連する標準として実に様々なものをリストアップした。
その中で、人々はTCとOpenADRを競合する規格とみなし始めているが、これは、ある意味では正しいが、ある意味では正しくない。
本レポートでは、それらに関連する標準の役割を明らかにし、お互いにどのように補完しあっているのか、あるいはどのような点でオーバーラップしているのかを明確にしたい。
とはいえ、スマートグリッド技術は複雑に入り組んでいるので、ここで取り上げる標準とプロファイルがスマートグリッドの運用面で果たす役割を明確に区別することは非常に困難である。
※プロファイルとは、具体的な用途への実装を考慮し、オリジナルの標準の部分集合に対して詳細な適合規則による制限を加えたものを指す。
例えば、OpenADRはEIという標準から派生した自動DR(および分散電源制御)に特化した部分集合である。
なお、本レポートでは、先に挙げた種々の標準自身と、それらの関係について紹介していくが、標準間の役割と違いを大局的に捉えるため単純化しているので、注意されたい。
また、タイトルにもある通り、本レポートはトランザクティブコントロール推進の観点から組み立てられており、その流れの中で他の関連する標準を評価するためのフレームワークを提供するものである。

2.トランザクティブエネルギー

トランザクティブエネルギー自体は、標準ではない。従来の電力ビジネスを支えていた社会主義・計画経済的な仕組みから、自由主義・市場経済的な仕組みに移行するための技術は如何にあるべきかを議論する概念的な枠組みである。そこでは、電気の流通は、エネルギー(電気自体)と、その送配電に関連した相対的あるいは実際の経済的価値に基づいて行われるべきだと考えられている。
化石燃料ばかりでなく、ウランも枯渇資源であり、やがてはなくなってしまう。トランザクティブエネルギー推進の背景には、将来、出力変動の大きな太陽光/風力発電のような再生可能エネルギーが電力供給の主体となった場合、従来のトップダウンの電力供給のやり方では最早立ちゆかないという認識がある。市場メカニズムを導入し、地域に分散したクローズドループの需給バランス制御系をうまく協調させようというのが、トランザクティブエネルギーの目指す、動的、長期的な解決法である。

トランザクティブエネルギーには、いくつかの定義がある。

1)GridWiseアーキテクチャ会議(GWAC)の定義

GWACは、経済メカニズムおよび制御メカニズムからなるトランザクティブエネルギーの正式なフレームワークを記述している。
このフレームワーク内で、GWACは、系統の安定化を担保しつつ、従来のように発電側から消費者側に単方向に電気が流されるのではなく、系統全体でダイナミックにエネルギーバランスの流れを作り出すことを提案している。
この新たな電気の流れ方を決定づける「価値」は、系統運用コストに紐付く単なる経済価値ではなく、系統の安定化や、「いくら電気代が高くても快適性を優先する」というような人間の嗜好も含んだものである。この「価値」に関する広い解釈が、「電気の取引」の主要なモチベーションは、系統とその配下の電力流通設備を直接制御することであるという概念とともに、GWACが定義するトランザクティブエネルギーの重要な要素となっている。

GWACは、ここまで実践されてきた特定の「トランザクティブエネルギーシステム」を包含するよう、意図して広くトランザクティブエネルギーを定義している。
これに対して、TeMIXでは、トランザクティブエネルギーに関して、より狭い定義を行っている。

2)TeMIXでの定義

TeMIXでは、買い手と売り手の間で頻繁に行われる、ピア・ツー・ピアの自動電力取引をトランザクティブエネルギーと定義している。
買い手と売り手には、現物取引を行う発電事業者や消費者だけでなく、実際の電気のやり取りが発生しない金融取引を主体とするトレーダーも含まれる。
トランザクティブエネルギーのポジションを持つというのは、エネルギーという商品(電力自体)を、ある量だけある期間ある地点に供給する契約を行ったことを意味する。そして、エネルギーの市場予想価格の変化や、必要な電力消費量の変更に伴って、ポジションは買い足したり、売ったりすることができる。
トランザクティブエネルギーを特徴づけるのは、この、エネルギー市場価値の変化に伴って発生する頻繁なエネルギーの売買により、ポジションが絶えず調節される点にある。
このモデルでは、「価値」は純粋な経済価値であり、「神の見えざる手」が必要に応じて系統安定性の確保というような運用上の懸念事項も経済価値に換算して解決してくれるものとみなしている。

現在、我々はFigure1に示されるように、エンドツーエンドでトランザクティブエネルギーをやり取りするための入り口に差し掛かっている。最も広義の解釈に従えば、現時点で経済的あるいは系統運用上の価値に基づいてエネルギー取引への参加を決定する、もしくは、系統運用の決定を下すことに関わっている技術はすべてトランザクティブエネルギー技術の一部と考えられる。
例えば、卸売電力市場価格に基づいて電力市場取引をしたり、デマンドレスポンス・イベントに参加したりする仕組みが挙げられる。

本日はここまでです。

最後に示された例からすると、本ブログで最近ご紹介したプライスレスポンシブデマンドこそが、現時点でトランザクティブエネルギー技術を代表する仕組みということが分かったと思います。
トランザクティブエネルギーの全体像からすると、ホンの一部に過ぎませんが。。。

次回は、新たに出てきたトランザクティブコントロールという言葉と、トランザクティブエネルギーの関係、OASISのエネルギーインタオペレーション(EI)とトランザクティブエネルギーの関係に迫ります。

終わり