Tree by Castle Hill
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トランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)に関するご紹介の続きです。
前回、OpenADRアライアンス会員企業のQualityLogic社が作成したレポート『Transactive Control and OpenADR Roles and Relationships』から、トランザクティブエネルギーを取り巻く状況についてご紹介しました。
今回は、その続きとして、このレポートのタイトルにも含まれている「トランザクティブコントロール」とは何かをご紹介したいと思います。
では、はじめますが、例によって、全訳ではないこと、本人の思い入れが混じった超訳になっていることはお含みおきください。
トランザクティブコントロールとOpenADRの役割と関連 (続き)
2. トランザクティブコントロール
トランザクティブコントロール(TC)は、トランザクティブエネルギー技術の1形態である。
TCの特徴は、「価値」(純粋な経済価値、もしくは、系統運用上の懸念事項も考慮に入れた概念的な価値)に基づいて運用制御の判断を下す点にある。
その実現例として、米国太平洋岸北西部スマートグリッド実証プロジェクト(Pacific Northwest Smart Grid Demonstration Project:PNW-SGDP)をあげることができる。
このプロジェクトの目的は一組の「トランザクティブシグナル」を用いて需給バランスをとる、分散型で階層構造をした系統の有効性を実証することである。大規模送電設備から最終電力消費を行う一般家屋までを、多段階の「トランザクティブノード」と捉え、系統内の電力の流れを決定するため、「トランザクティブシグナル」が、送配電系統の「トランザクティブノード」間でやり取りされるアーキテクチャが採用されている。
「トランザクティブシグナル」には、これから使われるエネルギー・コストの予想値を知らせるための「トランザクティブ・インセンティブシグナル(Transactive Incentive Signal:TIS)」とTISを受けたノードが、そのインセンティブに応じて検討した結果、自ノードから流す/自ノードで消費するエネルギーがどう変わったかを示す「トランザクティブ・フィードバックシグナル(Transactive Feedback Signal:TFS)」がある。
各「トランザクティブノード」は、TISとTFSのシグナルをやり取りすることによって、エネルギー消費をノード単位でローカル最適化するのではなく、系統内の状況を知った上での最適化(インフォームドローカル最適)を図る。Figure-2に示す単純化した例で考えてみよう。
ここには、2つのトランザクティブノードからなるTCネットワークがある。1つはエネルギーを供給する側のトランザクティブノード(Supply Transactive Node:供給ノード)、もう一つは、電気を使う側のトランザクティブノード(Load Transactive Node:負荷ノード)である。
負荷ノードは、負荷プロファイルを変更することができる1つ以上の設備(Responsive Load Assets)を持っている。
同様に、供給ノードも、エネルギー供給プロファイルを変更することができる1つ以上の設備(Responsive Supply Assets)を持っている。
典型的なTCは、以下のようなシナリオで遂行される:
• 供給ノードと負荷ノードは、5分ごと、あるいは、何らかの状況変化がありTISやTFSとして授受した内容に大幅な変化が発生するごとに、TIS/TFSのインセンティブ/フィードバック情報を交換する。
• 負荷ノードの決定ロジック(Decision Logic)では、将来のインセンティブとコスト、および負荷としてノード内で必要となるローカルな条件を調査し、TISの情報と、自己ノード内の設備利用計画に基づいて、個々の将来の時間帯で負荷設備利用計画を修正すべきかどうかの決定を下す。
• その後、負荷ノードは、その決定に基づいてTFSの内容を更新し、供給ノードにTFSの信号を送る。
• TFSを受けた供給ノードの決定ロジックでは、新たに受けたTFS情報と、自己ノード内の設備利用計画に基づいて、個々の将来の時間帯で供給設備利用計画を修正すべきかどうかの決定を下し、その決定に基づいてTISの内容を更新し、負荷ノードにTFSの信号を送る。
• TISまたはTFSの価値に著しい変更がなくなるまで、このTIS/TFS情報交換が繰り返される。情報交換がなくなった時点で、系統全体の電気の流れが決まったことになる。
• この決定に従い、互いのノード内では、最終的に決まった計画通りに負荷/供給設備が動作するよう、5分毎に監視制御信号(Advisory Control Signal:ACS)が実行される。
※ 負荷ノード内のACS信号は、OpenADR標準におけるDRイベントと機能的に同等のものである。供給ノード内のACS信号も、OpenADR標準におけるDER(分散電源)制御と機能的に同等のものである。
TCを実現するには、種々雑多な制御規格および通信手段を使用する負荷設備/供給設備の制御を行うためのフレームワークが必要となる。PNW-SGDPでは、TCのリファレンス実装に当たって、IBMのiCS(Internet-scale Control System)プラットフォームを用いた。このプラットフォームは、国際標準ISO/IEC 18012に基づいて設計されており、異なるベンダーが提供する異種のシステム間での制御情報のやり取りが可能となっている。
本日はここまでです。
単純化されすぎていますが、TCの構成要素が説明されました。その中でACSというシグナルが、デマンドレスポンスでいうとDRイベントのシグナルであり、供給ノードでは、ノード内の分散電源への発電指令に相当することがわかりました。
OpenADR2.0は、Openな自動DR実現のために策定された標準とみなされがちですが、OpenADR2.0bプロファイル仕様書の冒頭(FORWARD)の部分に、「OpenADR 2.0 defines profiles for DR and Distributed Energy Resources (DER), while keeping in mind the requirements of the diverse market and stakeholder needs」とあり、正にTCで必要とされるACSというシグナルの操作に関する部分のプロトコルを定義したものになっていることがわかります。
なお、以下では、TCのリファレンス実装として紹介されたPNW-SGDP(米国太平洋岸北西部スマートグリッド実証プロジェクト)について、2011年5月付けの資料「Overview of the Pacific Northwest Smart Grid Demonstration Project」、および2012年3月に行われた「GWAC Transactive Energy Workshop」でのプレゼン資料から補足しておきます。
次回は、トランザクティブエネルギーの関係、OASISのエネルギーインタオペレーション(EI)とトランザクティブエネルギーの関係に迫ります。
最後に、1つ宣伝させていただきたいと思います。
本ブログで取り上げてきたデマンドレスポンスの話題に注目していただき、インプレス社から本にしてみませんかと勧めていただいたのは2年近く前になります。そして2012年12月に『スマートグリッドの核となるデマンドレスポンスの全貌2013』として出版させていただきました。それからすでに1年半以上が過ぎ、本ブログでも、「DRはどこへ向かうのか」や、「プライスレスポンスデマンド」など、デマンドレスポンスに関する、それ以降の話題をご提供してきましたが、今回、それらの最新情報を盛り込んだ改訂版を出版することになり、原稿としてまとめ終わったところです。出版の日取りはまだ決まっていませんが、それを先取りしてデマンドレスポンスの最新動向に関するセミナー開催をインプレス社で企画していただき、来る8月28日(木)の午後、インプレスグループ市ヶ谷セミナールームで開催される運びとなりました。
セミナータイトルは「動き出した電力自由化時代のデマンドレスポンスの最新動向」で、セミナー詳細はここからご確認いただけます。
NTTコミュニケーションズ株式会社真田 教志氏、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構事務局長 石井 英雄 氏とともに、デマンドレスポンスに関する最新情報をお届けしようと思いますので、もしご興味をお持ちいただけましたら足をお運びいただければ幸いです。
終わり
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