The Falls of Glomach

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トランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)に関して、OpenADRアライアンス会員企業のQualityLogic社が作成したレポート『Transactive Control and OpenADR Roles and Relationships』のご紹介の続きです。

前回は「トランザクティブコントロール」とは何かをご紹介しました。そして、トランザクティブコントロール・ネットワークを構成するトランザクティブノードが内包する設備に対して送る監視制御信号(Advisory Control Signal:ACS)の取り扱いにOpenADRが関連しそうだということが確認できました。

今回は、「コントロール」ではなく、「トランザクティブ」の部分に焦点を当て、EMIX、TeMIXに関してご紹介します。

では、はじめますが、例によって、全訳ではないこと、本人の思い入れが混じった超訳になっていることはお含みおきください。

トランザクティブコントロールとOpenADRの役割と関連 (続き)

3.エネルギー市場情報交換(Energy Market Information Exchange:EMIX)

OASISが定めたエネルギー市場情報交換(EMIX)標準は、エネルギー市場においてエネルギー商品情報を交換するための情報モデルを定義したものである。EMIX標準をベースとした情報モデルを採用することで、エネルギーの利用とその利用のためのコストを最適化するような自動システムを構築することができる。

ところで、エネルギーの市場価格は、いつ送配電するかに非常に大きく左右される。そこで、EMIXでは、価格や送配電スケジュールを含むエネルギー取引情報を効率よく交換できるように、同じくOASISが定めたWSカレンダー標準を利用している。

また、エネルギー市場価格は、エネルギーがどのように生産されるかにも左右される。そこで、EMIXでは、取引されるエネルギー商品の氏素性も区別できるようにしている。

EMIXは、エネルギー市場において以下の手順で執り行われるあらゆる商取引に適用されることを念頭に規定されている:

1)入札:エネルギー取引は「入札」によって開始される。これは、取引相手との間でエネルギーの「売り」または「買い」のオファーを実施するものである。

2)オファーに関して双方が合意に達すれば、「契約成立」となる

3)その後、当事者間で、エネルギーの供給、送配電、消費、清算および支払いに関しての調整を行い、実際の「取引」が行われる。

EMIX標準は、以上の「入札」から「取引」までを一般化した情報モデルを提供するものである。また、EMIXはエネルギー市場におけるオプション取引も取り扱うことができる。これは、あらかじめ決められた期間中、一定の価格でエネルギー取引をする権利(オプション)を売買するもので、実際には取引を行わなくても良い。

EMIXは、取引日時のみが異なる定型商品その他、市場取引に関連する標準的なマーケットコンテキストの記述が可能で、その上、有効電力、無効電力、皮相電力といった特性を記述する等、エネルギー商品の取り扱いに関する機能拡張が行われている。

このEMIXの機能拡張を使えば、詳細にエネルギー商品を定義することが可能となる。

• 定型商品:ある期間、指定された電力(MW)をいくらの単価($/MW)で送り届けるか、あるいは、

• 不整形(出なり)商品:自社保有するエネルギー資源が提供できるエネルギーを、都度最大限まで提供するが、一定出力を保証するものではない。

• 発電機や蓄電池だけでなく、負荷を削減することによって産み出すネガワット商品、

• 更に、ある地点から別の地点まで送配電網を介して電気を送り届けるトランスポート商品(送電権商品)。このトランスポート商品には、送電ロスファクタや混雑料金も含まれる。

そして、OpenADRアライアンスが、OASIS EI1.0 OpenADRプロファイルをベースとしてDRの取り扱いに特化したOpenADR2.0プロファイルを定義したように、EMIXをトランザクティブエネルギーでの取り扱いに特化させるべく、TeMIXと呼ばれるプロファイルが策定されている。

4.トランザクショナルEMIX(Transactional EMIX:TeMIX)

トランザクティブエネルギーでは、M2M環境で頻繁に情報交換が行われることが想定されているので、わかりやすい、明瞭な信号が望まれる。

OASIS EMIX標準は、エネルギー市場の持つ複雑で多様な内容をすべて包含するべく設計されているので、ある種冗長な定義となっているきらいがある。そこで、EMIX標準をベースとしつつ、トランザクティブエネルギーの中で使用する範囲に限定して複雑さを抑制するための適合規則を定義して、TeMIXプロファイルが策定された。

ここで、「プロファイル」という用語は、ある標準に対して、明確な使い方を想定して公式に定義した部分集合を指す。

TeMIXでは、単一時間内に固定量の取引が行われることを基本にしている。価格も、単一時間内で変更されることはない。TeMIXでは、このような制限を課すことで取引の単純化を図っている。

TeMIXでは、以下の4つの商品を取り扱う。

• TeMIX電力商品

• TeMIXトランスポート商品

• TeMIX電力オプション商品

• TeMIXトランスポート・オプション商品

 2つのオプション商品に関しては、プット・オプション(売る権利)とコール・オプション(買う権利)があり、一旦オプション商品の権利が行使されると、それらはTeMIX電力商品かTeMIXトランスポート商品になる。

オプション取引は、売買する価格に「保険」をかけるために使われるが、TeMIX商品は容量確保、アンシラリーサービスの利用、およびデマンドレスポンスを実行するために利用することができる。

TeMIXプロファイルは、上記の4つの商品について、明瞭で、分かりやすく取引ができることを目指し、EMIXのスキーマエレメントのサブセットとして定義されている。

ところで、TeMIX商品情報の交換には、OASISが策定したエネルギー・インターオペレーション(EI)標準のサービスが用いられる。したがって、TeMIXは、OpenADR2.0同様、EIのプロファイルでもある。

TeMIXの技術並びにビジネス・コンテキストに関する広範な記述が、付録Aに示した「EMIX白書」に記載されているので、詳細は、同白書を参照されたい。

以上の通り、TeMIXは非常に興味深いEMIXのプロファイルではあるが、(OpenADRアライアンスのように)このプロファイルを具現化するためのアライアンスは今のところ存在しない。また、TeMIXは「トランザクティブ」という部分に焦点を当てたプロトコルで、系統の需給バランスや制御の面での考慮が図られていない。しかし、トランザクティブエネルギー・システムを実現する1つのアプローチであり、そのアプローチを通してTeMIX商品という考え方が生まれたことは非常に重要である。

本日はここまでです。

OASISのEI1.0標準のOpenADRプロファイルをベースにOpenADR2.0プロファイルがすでに開発され、製品が使われ出していることから比べると、TeMIXプロファイルは後れを取っていますが、

1)電力自由化が進む米国で、発送配電が分離され、独自の発電設備を持たない系統運用機関が系統の需給バランスをとるために電力(エネルギー)市場だけでなく、リアルタイム市場、アンシラリー市場、容量市場を整備してきた経緯、

2)DRのこれまでの経緯を見ても手動から半自動を経て全自動、すなわちM2Mへの流れが出来上がってきていること

3)現在日本では原子力が復活するかどうかが1つの焦点となっていますが、ウランも詰まる所は「枯渇エネルギー」でしかなく、遠い将来(ただし、太陽が元気なうち)は、出力変動の大きな再生可能エネルギーを主体とした電力供給体制を考えざるを得ないこと

を考えると、リアルタイムに「トランザクティブノード」間で需給調整を行っていくトランザクティブエネルギーが目指す方向というのは間違っていない気がします。

そして、それが、米国太平洋岸北西部スマートグリッド実証プロジェクトのような、実証実験段階にとどまっているのではなく、実はOpenADR2.0やPRD(プライスレスポンスデマンド)という形で、トランザクティブエネルギーを具現化するための「部品」が市場に出回ってきたということがわかり、まだまだ先と思っていましたが、着実に進んでいるのだということを実感しています。

レポート『Transactive Control and OpenADR Roles and Relationships』では、この後、EI1.0とOpenADR2.0の説明が続くのですが、本ブログでは散々取り上げているので、割愛させていただいて、次回は、このレポートのまとめと、結論の部分をご紹介したいと思います。

終わり