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トランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)に関して、OpenADRアライアンス会員企業のQualityLogic社が作成したレポート『Transactive Control and OpenADR Roles and Relationships』のご紹介の続きです。前回はOASISが策定したエネルギー市場情報交換(Energy Market Information Exchange)の標準EMIXと、EMIXをトランザクション環境下の取引に特化させたTeMIX((Transactional EMIX)に関してご紹介しました。前回の最後に、「OASISのエネルギーインターオペレーション(EI)標準とOpenADRの紹介を割愛して、次回は最後のまとめと結論の部分をご紹介する」と書いたのですが、まとめの部分を翻訳しようとすると、EIおよびOpenADRをTE・TCの観点から紹介した部分を無視する訳にはいかないことが判明しました。
そこで、今回はレポートの順を追って、EIとOpenADRの部分をご紹介します。

では、はじめますが、例によって、全訳ではないこと、本人の思い入れが混じった(文字色が緑の部分)超訳になっていることはお含みおきください。

トランザクティブコントロールとOpenADRの役割と関連 (続き)

5.エネルギーインターオペレーション(Energy Interoperation:EI)

OASISのエネルギーインターオペレーション(EI)は、エネルギーの供給から消費までに関わる2者間の情報通信モデルの標準で、EIに関与するものとしては、エネルギー供給者と顧客ばかりでなく、市場、サービス・プロバイダーその他多くの分野のものが対象となっている。
また、2者間でやりとりされるメッセージには、現在・過去・未来の価格情報や、系統の信頼性/緊急事態を示す情報等がある。
EIは、取引の流動性を高めつつ、マーケットベースでエネルギー需給バランスをとるため、リソースのスケジューリングやアグリゲーションの管理、エネルギー不足/余剰の通知、系統の緊急事態や/信頼度維持のためのイベントの通知とともに、エネルギーの供給/負荷削減が容易に実現できるよう考えられている。そのため、時刻やインターバル情報の通信には、OASISが別途定義したWS-Calendar標準を、エネルギー価格やエネルギー商品の定義には、同じくOASISが別途定義したEMIX標準を利用している他に、エネルギー取引に関して以下の情報モデルの拡張を実施している。

 エネルギー取引に特化した情報モデルの拡張

•  取引に関連するアクターやコンテキストの定義:関連者(Party)、資源(Resource)、市場コンテキスト(market context)、対象(target)、仮想エンドノード(VEN)、仮想トップノード(VTN)

•  DRの取引でよく使われるイベントベースの対話を記述するフレームワークの定義:イベントの記述(Event Descriptions)、活動期間(Active Periods)、イベントシグナル(Event Signals)、ベースライン(Baselines)

•  資源の可用性を記述するフレームワークの定義: Opt in/outのスケジュール

•  モニタリング、レポーティング、および予測用のフレームワークの定義:希望するレポートの種類(report specifier)、レポートの頻度(report scheduler)、レポートの種類を規定するメタデータ(reports)

 エネルギー取引に関連するサービスの定義

EIでやり取りするメッセージには、EMIX標準が規定したエネルギー情報モデルの一部とともに、EI独自で定義したモデル拡張部分を含まれている。EIが提供するサービスは、大きく次の5つに分類される:

• エネルギー取引、登録、入札の実装に関わるトランザクション・サービス:EiRegisterParty、EiTender、EiQuote、EiTransaction、EiDelivery

• イベントと、関連するレポートの実装に関わるイベントサービス:EiEvent

• リモート・センシングとフィードバック情報をやり取りするためのレポートサービス:EiReport

• サービス・プロバイダー、資源、その他を識別し取引への参加資格を与えるためのエンロールサービス:iEnroll

• その他、付加的な能力を支援するサポートサービス – EiAvail、EiOpt、EiMarketContext

 EIのプロファイル

EIは、その標準の定義の中で、OpenADR、Transactive EMIX (TeMIX)、および、価格情報配信(Price Distribution)を実装するための3つのプロファイルを規定している。
プロファイルとは、特定のビジネス領域の実装に向けた標準のサブセットと考えられるが、残念ながら、これらのEI標準で規定されたプロファイルだけでは、自動デマンドレスポンスやエネルギー取引を自動的に行うシステムを構築することができない。システム構築にこぎつけるためには、EI標準で定めた情報モデルに大幅な制限を加え、適切なサービス対話パターンを決め、実際に運用するユースケースに特有なビジネス慣行等を適合規則として定める必要がある。
OpenADR 2.0プロファイル仕様書は、正にそのような目的でEIのプロファイルを特定のユースケース用に具現化した例である。

6.OpenADR2.0

OpenADR2.0は、電力会社を含めた電気に係わるサービス・プロバイダーとその顧客の間のデマンドレスポンス(DR)、価格および分散電源(DER)制御のシグナルを双方向通信で使用するため、OSI参照モデルのアプリケーション層に当たるメッセージ交換を規定したプロトコルである。
OpenADR 2.0はOASISのEI標準の部分集合で、単純なDR信号を取り扱うAプロファイル(OpenADR2.0a)と、より多くの自動DRの機能性を提供するBプロファイル(OpenADR2.0b)が規定されているが、ここでは、Bプロファイルに関して紹介する。

OpenADR2.0には2つの実体がある。

• 仮想トップノード(Virtual Top Node:VTN)はDRイベントを開始するノードである

• 仮想エンドノード(Virtual End Node:VEN)はDRイベントに参加する(VTNからの要求に応じて負荷を削減)ノードである

VTNとVENは、下図に示されるような階層構造を構成することができる。すなわち、系統運用機関(ISO)や電力会社(Utility)は、VTNとしてDRイベントを直接大口ユーザ(C&I、SMB)や一般家庭(Residential)のVENに伝えることができるが、伝えた相手がDRアグリゲータの場合、このアグリゲータはVENとしてDRイベントを受け取るとともに、今度はVTNとしてDRイベントをアグリゲータの顧客である大口ユーザ(C&I、SMB)や一般家庭(Residential)のVENに伝える。

VENは、負荷調整可能な設備・機器を持つノードで、EMS(Energy Management System)のようなアプリケーションロジックを持ち、VTNから送られたDRイベントのシグナルの内容に応じて負荷調整を行うように事前設定しておくことで、自動DRのアクションが可能となる。
※ VENには、このアプリケーションロジックの部分は含まれていないことに注意

DRイベントに含まれる、負荷削減行動を促す情報には、価格反応型DR用の価格情報や、発電機への給電指令に相当するもの、系統逼迫に対応して緊急に負荷削減を要請するために系統信頼度を単純な数値レベルで伝達するもの等、様々な種類があるが、それらはすべて今後の特定の時間に対するシグナルとなっている。
OpenADR2.0では、DR遂行のためVTN/VEN間でやり取りする以下のサービスを規定している:

•  EiEventサービス:VTNがVENに対してDRイベントを送ることを可能にし、VENは、当該DRイベントに対応する(Opt In)か、しない(Opt Out)かをVTNに通知する

•  EiReportサービス:VTNおよびVENが、どのようなレポート能力保持しているか宣言することを可能にし、互いにレポートを要請したり、一度きり、あるいは定期的にレポートしたりすることを可能にする

•  EiOptサービス:VENは、提供できるDR資源量の一時的な変更や、提供可能資源量が元に戻った時、VTNにDR資源提供能力の変更を宣言することを可能にする

•  EiRegistrationサービス:VENとVTNの関係を構築することを可能にする

※ EIでは、EiRegisterPartyとEiEnrollの2つのサービスがあり、DR資源提供者の登録管理とDR資源提供者が保有するDR資源をどのDRイベントに参加させるかの登録管理が区別されているが、OpenADR2.0では、VTNに対してVENを登録管理するサービスとなっている

OASYSでは、カリフォルニア州で集大成されたOpenADR1.0の機能範囲をカバーするものとしてEIが規定したサービスの部分集合をOpenADRプロファイルとして定義した。しかし、OpenADRアライアンスは、自動DRを実現する機能範囲としてOpenADR2.0a、2.0bを定める中で、EIのOpenADRプロファイルに規定された7つのEiサービスすべてを自動DR実現に向けて詳細化するアプローチをとらなかった。機能範囲を定め、必要最低限のEiサービスに限定して詳細化するアプローチを採用したので、OpenADR2.0aでは、EiEventのみ、OpenADR2.0bでも、上記の4つのEiサービスのみ詳細化を行っている。

OpenADRアライアンスは、2.0a、2.0bの機能範囲での自動DRシステム実装に必要な要件を洗い出し、個別にOpenADR2.0aプロファイル仕様書、OpenADR2.0bプロアイル仕様書としてまとめるとともに、それぞれのEiサービスの操作とペイロード(メッセージのボディ)をXMLスキーマとして公開している。
ただし、一から作り直したわけではなく、WS-CalendarやEMIXなど、EIが電力取引の定義に利用したOASIS標準は、DR実行のユースケースにも適用可能であるので、「ツール・ボックス」として利用している。

なお、OpenADR2.0に基づく自動DRシステム構築に当たって、現在OpenADRアライアンスはSimpleHTTPとXMPPの2種類のトランスポート層のプロトコルを採用しているが、これは、OpenADR2.0プロトコルに基づく自動DRシステム構築に当たって、技術的に他のトランスポート層のプロトコルの採用を排除するものではない。

※特にFast-DRの実装に当たって、今後XMPPをしのぐプロトコルが出現すれば、それを採用する可能性は十分あると思われる。

すでに多くのベンダーからOpenADR 2.0プロファイル仕様に基づいた製品の開発・提供が行われており、それらのベンダーから提供を受けたVENおよびVTNが、電力会社の運営するDRプログラムに使われ出している。

本日はここまでです。

自分で読んでいた時には気にならなかったのですが、まとめの部分を翻訳しようとして、『EI、OpenADR2.0の部分は、いままでDRの立場からしか見ていなかったが、トランザクティブエネルギーの観点から見るとこんなことを意図していたのか』 - という発見がありました。
下図は、EIとOpenADRプロファイルの関係を示すために以前このブログでご紹介したものです。

その中にTeMIX(=Transactive EMIX Profile)が含まれていましたが、当面関係がないと思い忘れていました。今改めてこの図を見てみると、EIにとって、TeMIXは、OpenADRと同等か、それ以上に重要な位置を占めているのだということがわかります。すなわち、自動DRというのは、広い意味で電力取引の1つの形態に過ぎず、トランザクティブエネルギーという、このブログでご紹介している「将来の電力流通の在り方」の1部品に過ぎないのではないか-ということです。

次回は、前回の約束通り、レポート『Transactive Control and OpenADR Roles and Relationships』のまとめと、結論の部分をご紹介したいと思います。

終わり