Reflections on the Strule river

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このブログの「FERCオーダー745の顛末」シリーズ-その7では、いよいよ米国連邦裁判所で、ワシントンDCの高等裁判所によるFERCオーダー745無効判決に関する口頭弁論が開始されたことをご紹介しました。 実は、口頭弁論の議事録を読んでみたのですが、いわゆる口述筆記で、言い間違い、言い直しを含めて発言内容が一言一句そのまま記録されていて、かつ、聞き取れなかった?ところはブランクになっています。得意の「超訳」でご紹介しようかとも思ったのですが、裁判官がどのような意図で発言しているかも含めてバックグラウンドを確かめないと、文字通り翻訳結果が本筋から飛躍してしまいそうなので断念しました。 ただ、議事録を見た限り、裁判官達は、本来のDRの価値を明らかにするどころか、「DRとは何か」ということはさておいて、ひたすらFERCオーダー745が州規制機関の権利を侵す越権行為に当たるかどうかの見極めに終始しているようで、多少残念な気がしていました。

今回ご紹介しようとしているのは、それに対してDR資源提供者への支払額、すなわち、DRの価値に関する記事で、Public Utilities Fortnightlyの12月の記事「The Price is Right?」の内容です。

※ 本来、この記事は、Public Utilities Fortnightlyの会員でなければ全文参照できないのですが、PLMA(Peak Load Management Alliance)のメーリングリストで下記のようなWebinarの案内が届き、そのWebinarの講演者が今回の記事の著者で、Webinar参加者への予備知識提供の目的で、「The Price is Right?」の記事全文が参照できたので、そこからのご紹介となります。

では、はじめますが、いつもどおり、個人の思い入れが入った超訳になっていることはお含みおきください。

 

DR資源の価格は適正か?

Steve Isser & Bob King

FERCオーダー745(以降、O745)は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)の指令の中で最も物議をかもした指令の1つである。

2011年3月、FERCは卸売市場でのデマンドレスポンス(DR)資源に対する支払い(Local Marginal Price:LMP)を電源と対等とするルールを定めた。発電事業者協会(Electric Power Supply Association:EPSA)その他の団体は、DR資源として負荷を削減して提供した電力量に対して電源と同等の対価を受け取るのならば、DR資源を提供する前に使ったであろう電力量に関しても電気代を支払うべきではないかとして、当初FERCにO745のルールを変更するよう陳情したが認められず、最後の手段としてワシントンDCの高等裁判所に訴え出た。高等裁判所に上訴するにあたって作成された告訴状では、この「DRへの支払価格は正しいのかどうか」という論点ではなく、O745が定めたDR資源への支払価格の規制は、米国各州の規制機関の権限を侵すものである点が強調された。この作戦が功を奏して?高裁は、FERCの制定したO745に対して無効判決を下したのである。

DRの機能は卸売か小売か?

卸売電力取引市場の市場価格安定化に大きく貢献するDRは、あくまで卸売市場での取引と認識している。したがってO745が州規制機関の権限を侵しているとは考えていない。DRは卸売市場の価格高騰を防ぐのに非常に有益である。 ところで、大量に電力を使う大口需要家は、卸売市場参加者の資格で直接、卸売電力取引市場に自らDR資源を提供することができるが、負荷を削減してもまとまった量のDR資源が提供でいない需要家は直接卸売市場に参加できない。この問題を解決するために現れたのがDRプロバイダーで、消費者が提供できる小口のDR資源を集約して卸売電力取引市場に提供するようになった。その際DRプロバイダーが消費者に支払う対価は、卸売市場価格の影響を受けるだろうが、O745が直接消費者のDR資源買取価格を指定しているわけではない。

■ DR資源の価格は何が適正か?

ところが、最高裁でも、この点(DR資源買取価格)が問題となっている。

系統運用者にとっては、電源もDR資源も、需給バランスをとる上でまったく変わりはない。 ただ、DR資源が卸売市場に入ってきたせいで、「供給者」から調達する電力と、「需要家」に供給する電力の帳尻が合わなくなった。例えば、ある時間帯に1GWhの電力が必要とする。すべて供給側が電源の場合、供給量=需要量=1GWhだが、100MWhをDR資源から調達した場合、実際に系統に流れる電力は900MWhとなる。ただし、DR資源提供者にも発電事業者の電源と同じ対価を支払うとすると、1GWh分を卸売市場価格で支払わなければならない。それに対して系統を通じて需要家にわたる電力は全部で900MWhしかないので、買い手からの徴収額は100MWh分少なくなってしまう。そして、この収益の不足分は、DR資源提供のため負荷削減を実施した需要家を顧客として持つ電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)から徴収されることになる。すべてのLSEがDRプロバイダーを兼ねている場合、それはそれでよい。DRプロバイダーとして、提供したDR資源分の支払いを受け取ることができるからである。

問題は、LSEとは別にDRアグリゲーターが介在する場合だ。DRアグリゲーターは、卸売市場に提供したDR資源に対して対価を受け、その収益を、DR資源提供に協力したLSEの顧客に還元するが、顧客はLSEに対して使用した電力量に応じた電気代しか支払わない。

そこで、卸売市場でDR資源提供者に支払う価格は「LMP-G」、簡単に言うと卸売市場価格から発電単価を差し引いたものを使うという考え方が出てきた。この考え方の問題は、負荷削減した電力の価値と、DRイベントに協力して負荷削減を実施するための機会コストを同一視している点にある。DRイベント通知に応じて負荷削減を実施するためには、それなりに必要なコストや技術的制約が存在する。自動DRで負荷削減を遂行するための機器/システムへの投資コストがかかっており、DRイベントの通信を含めた運用コストもかかる。

また、「LMP-G」の支払額を計算するための投資・運用コストを考えると、単純にDR資源に対して電源と同等の価格(LMP)を支払う方が安上がりになる可能性もある。 更に、O745では、あらゆるケースでDR資源を利用することを推奨しているのではなく、「ネットベネフィットテスト」を実施し、DR資源の利用が電源のみの利用より経済的と判断される場合に限定して、DR資源に対しても電源相当の支払いを指示しているのである。

■ 容量市場、エネルギー市場への影響

経済的DR資源がピーク負荷の電力価格を下げる結果、電力市場から運用コストの高い電源が締め出され、適正な設備容量が確保できなくなってしまわないかが一部で懸念されている。確かに、DRによる負荷平準化は、エネルギー市場価格を低下させるかもしれないが、それが設備容量低下を引き起こし、長期的に見て容量市場価格を引き上げるかもしれないというのは杞憂に過ぎない。容量市場価格が上がれば、発電事業者が新たな電源開発に投資し、設備容量が増えるだろう。

■ 結論を出すのはまだ早い?

DRプロバイダー並びに個々のDR資源提供者に支払う価格決定には、DRを実施するためのコスト、DR資源提供者へのインセンティブ価格と市場が享受する便益とのバランスをとることが必要となる。残念ながら、現時点ではその適正価格を決定するだけの完璧な公式が確立されていない。 そこで、現段階でとりえる短期的な最良策は、もしかすると払いすぎかもしれないが、O745の指示通り、DR資源に対して電源相当の対価を支払う方法をしばらく続け、データをとって、経験値が出そろったところで、再度DR資源の対価をいくらにすべきが検討するのが良いと思われる。

今回は、O745の本来の争点であるDR資源の価値について、ご紹介しました。最初は、記事を忠実にご紹介しようと思ったのですが、「DR資源の価格は何が適正か?」の部分で、原文だけではわかりづらいと思って補足していくうちに、自分の意見が入り込んでしまって、今回も、正に超訳になってしまいました。合わせて原文を参照していただければ幸いです。 

終わり