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ずいぶん時間がたってしまいましたが、前回で一応MISOのDRのご紹介を終わったので、今回からMISOのDIR(Dispatchable Intermittent Resources)の紹介に入ります。

 

そもそも、今回のブログシリーズを始めたきっかけは「Dispatchable」と「Intermittent Resource」という、従来、相容れないと思っていた言葉が結びついたDIRという用語を偶然発見したからです。

Wikipediaの「Intermittent energy resource」の記述を見ると:

An intermittent energy source is any source of energy that is not continuously available due to some factor outside direct control. The intermittent source may be quite predictable, for example, tidal power, but cannot be dispatched to meet the demand of a power system. Effective use of intermittent sources in an electric power grid usually relies on using the intermittent sources to displace fuel that would otherwise be consumed by non-renewable power stations, or by storing energy in the form of renewable pumped storage, compressed air or ice, or in batteries, for use when needed, or as electrode heating for district heating schemes.

冒頭の部分を訳してみると、こんな感じでしょうか?

「Intermittent energy resource」とは、外部からの制御が効かず、連続的に利用できないエネルギー源のことである。その中には、潮力のようにある程度エネルギー出力の増減を予想できるものもあるが、その出力を思い通りに制御することはできない(⇒ cannot be dispatched)。

つまり、「Intermittent energy resource」は「dispatchできない=制御不能」であるはずなのに、「DIR(Dispatch+able Intermittent Resources)」とは、是如何?と興味を抱いた訳です。

そして、このWikipediaの「Intermittent energy resource」の記述を更に読み進むと、こんな記述がありました。

Wind energy

Wind-generated power is a variable resource, and the amount of electricity produced at any given point in time by a given plant will depend on wind speeds, air density, and turbine characteristics (among other factors). If wind speed is too low (less than about 2.5 m/s) then the wind turbines will not be able to make electricity, and if it is too high (more than about 25 m/s) the turbines will have to be shut down to avoid damage. While the output from a single turbine can vary greatly and rapidly as local wind speeds vary, as more turbines are connected over larger and larger areas the average power output becomes less variable. <中略>

Dispatchability: Wind power is “highly non-dispatchable”. MISO, which operates a large section of the U.S. grid, has over 13,000 MW of wind power under its control and is able to manage this large amount of wind power by operating it as dispatchable intermittent resources

この部分もざっと訳してみるとこんな感じでしょうか?

風力による発電量は、風速、空気の密度、風力タービン性能その他に依存し、風が弱い(およそ2.5m/s未満)と電気を作ることができず、風が強すぎても(およそ25m/s以上)、タービンの損傷を避けるために運転を停止する必要があり、風力発電の出力は一定しない。

そのため、風力発電は、再生可能エネルギーを利用した発電の中でも制御不能な資源の代表格と考えられているが、MISOでは、13000MW以上の風力発電が系統に接続されていて、しかも、制御可能(dispatchable)な「Intermittent resources」として使いこなしている。

出ました! DIR「dispatchable intermittent resources」。

ということで、今回は、「Smart Grid(R)Evolution (著者: Jennie C. Stephens、Elizabeth J. Wilson、Tarla Rai Peterson 、 Cambridge University Press発刊)」の6.5.2「Smart Grids Across the Midwest for Wind Integration」でDIR誕生の経緯を見てみましょう。 

ほぼ全訳しましたが、いつも通り翻訳内容を100%保証するものではありませんので、あらかじめご了承下さい。

MISOにおけるウィンド・インテグレーション

MISO管内では、冬季の夜間風力発電量が最大となるが、それは需要が最低の時間帯と重なっている。
MISOでは、風力発電の系統接続が増加するにつれて、この需給ギャップの問題がクローズアップされてきた。 発電用タービンを回すための「燃料」である風は無料であり、風力発電事業者は、連邦政府から再生可能電力生産税控除(Renewable Electricity Production Tax Credit、PTC)が受けられるので、風が吹いて風車が回っている限り系統に発電した電気を送り込もうとする発電事業者が多い。
その結果、供給電力量が需要より多くなりすぎ、リアルタイム市場価格がマイナスとなる地域も出てきた。また、風力出力抑制の必要性も出てきた。 2010年には、風力発電出力変動の系統への影響と、風力発電の系統接続が引き起こす送電線混雑が顕著となり、全風力発電量の4.2%に出力抑制がかけられた。出力抑制は、単に風力発電事業者の収益減となるだけでなく、系統運用者にとっても収益減となる。

一方、風力発電を電力取引市場連動させるのにも問題があった。電力取引市場では、時間帯ごとに入札価格の安い電源から順に入札電源の提供可能電力を必要な需要量に達するまで電力調達を行うが、そのようにして採用が確定した電源が当該時間に入札時に示しただけの電力量を提供しないとぺナルティが課される。風力発電予測技術はまだまだ精度が悪いため、1日前市場に、予測した風力発電量で入札すると、実際の風力発電量と予測発電量の差が大きくぺナルティが課されることになる。
MISOは、3つの独立した気象モデルの出力に重み付けをした最新の予測システムを開発し、風力発電の短期予測結果は飛躍的に改善されたが、それでも1日前市場での入札に耐えうるまでの精度には達していない。

MISOは、このような風力発電にまつわる現状を踏まえた上で、風力発電を電力取引市場に参加させるための仕組みとしてDIRプログラムを開発した。

DIRプログラムは、洗練された気象モデルと風車制御技術とを組み合わせ、風力発電量を電力取引市場に連動して、他の電源同様自動的に電力供給調整するものである。
DIRが導入されるまで、風力発電は市場への参加が許されなかったが、今日、MISO管内の風力発電施設の約80%がDIRプログラムに参加しており、市場への参加を果たしている。 その結果、風力出力抑制を実施する回数は2011年の半分となり、1日前市場入札が可能となった。ただし、出力に関しては、実際の発電指令の10分前に短期風力発電予測結果に基づいて定められる。 現在のところ、アンシラリー市場への参加はまだ認められていないが、現在継続して実施されている制御システム研究成果が実れば、その日も遠くないだろう。

いかがでしょうか?

DIRプログラムは、洗練された気象モデルと風車制御技術とを組み合わせ、風力発電量を電力取引市場に連動して、他の電源同様自動的に電力供給調整するものである。

というDIRの定義らしいものが示されましたが、では、いったいどのように実現されているのか?まだ皆目見当がつかないですね。

次回は、2011年4月、DIR運用を開始するにあたってMISOが関係者向けに開催した「Dispatchable Intermittent Resource (DIR) Workshop」の内容をご紹介します。

 

以上