Chartist cottage, Snig’s End

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前回、まず、分散エネルギーリソース(Distributed Energy Resources:DER)という用語について調べました。DERという略称も含めて、分散エネルギーリソース(あるいは、分散エネルギー資源)という言葉は、これまで日本ではあまりお目にかかりませんでしたので、今年になって「エネルギーリソースアグリゲーション」という言葉に遭遇して、まず、DERとの関係が気になったからです。

なお、DERにはいろいろな定義がありましたが、前2回のブログに掲載したEnergyPoolの図にあるように、最新のDERの定義には、従来の化石燃料を用いる分散型電源に加えて、再生可能エネルギー、ヒートポンプや燃料電池、電気自動車(EV)、さらにはデマンドレスポンスも含まれており、まさしくVPPがしていることは、「DERのアグリゲーション」、すなわち、「分散エネルギーリソースアグリゲーション」であることが確認できました。

ところで、最近耳にする「エネルギーリソースアグリゲーション」では、VPPに相当する「分散エネルギーリソースアグリゲーション」から「分散=Distributed」が抜けています。
そこで、「Energy Resource」をアグリゲートする「エネルギーリソースアグリゲーション」とは何なのかを次に検討した訳ですが、調査の結果、「分散=Distributed」部分が欠落しているものの、「エネルギーリソースアグリゲーション」の適用範囲の定義を、2016年1月29日に開催されたエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会第1回配布資料4「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスについて」3ページ「エネルギー・リソース・アグリゲーションの範囲」で見つけ、「エネルギーリソースアグリゲーション」とは「分散型の電源」を束ねることにほかならず、正にVPPがすることを指していることが確認できました。

この「エネルギー・リソース・アグリゲーション」や「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」という言葉ですが、なぜ急に使われだしたのでしょうか?
今回は、今年から開始されるVPP構築実証事業も含め、ここ最近のVPPに関する国内の動きを整理してみたいと思います。

では、始めましょう。

2012 年12 月

「我が国経済の再生に向けて、経済財政諮問会議との連携の下、円高・デフレから脱却し強い経済を取り戻すため、政府一体となって、必要な経済対策を講じるとともに成長戦略を実現する」ことを目的として、内閣総理大臣を本部長とし、全ての国務大臣からなる日本経済再生本部の設置が閣議決定された。

2013 年1月

「我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査審議する」ため、日本経済再生本部の下に産業競争力会議を設置することが閣議決定された。

2014年9月18日

「我が国産業の競争力強化や国際展開に向け残された課題について分野別に集中的な議論を行う」ため、下記の4分野ごとに産業競争力会議ワーキンググループを組織・運営することが、産業競争力会議にて議長決定された。 

  • 雇用・人材・教育WG
  • 新陳代謝・イノベーションWG
  • 国際展開WG
  • 改革2020WG

2014年11月28日~2015年5月27日

改革2020WGでは、竹中平蔵主査の下、計6回の会合が持たれ、

1) 技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出
2) クールジャパンの深化とその認知度の向上
3) 訪日観光客の拡大に向けた環境整備
4) 対日直接投資の拡大とビジネス環境等の改善・向上

という4つの重点政策分野について具体的な政策課題を各省庁が持ち寄り、2020年に実現するためのアクションプログラムが検討された。

1番目の政策分野(技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出)では、

① 次世代交通システム・自動走行技術の活用
② 再生エネルギー・水素・蓄エネルギー
③ ロボット
④ 高齢化社会への対応

が取り上げられ、第3回の会合で資源エネルギー庁新産業・社会システム推進室長から資料4「2020年頃に向けた新たなエネルギーシステムの構築」と題してエネ庁の考えが説明されている。 (下図参照)

 

図中に記載されているとおり、従来は、エネルギー需要を所与のものとし、エネルギー事業者の大規模・集中電源をどのように積み上げるかというアプローチが取られてきたが、2020年ごろに実現したい絵姿として、これまでの集中型と分散型システムが調和したエネルギーシステムへと変革するため、エネマネ技術、蓄電技術、水素・燃料電池技術などを活かし、需要家側の分散電源を有効に活用することで強靭なエネルギーシステムを構築する考えが示され、それを推進するためのプロジェクト案として以下が示された。

 

そして、第5回会合では、この2つのプロジェクト案がまとめられ、資料2「集中型と分散型システムとが調和したエネルギーシステムへの変革」の中でプロジェクト案2:需要家側エネルギー資源の統合的な活用(仮想発電所)として示されている。


※ ここで仮想発電所という言葉が初登場しています。

そして、この実現に必要な取組、役割分担・体制・工程表も示されている。

 

第6回会合では、需要家側に設置される複数の蓄電池等を群制御することで再⽣可能エネルギーの導⼊拡⼤等を図ろうとする産業競争⼒懇談会の事業プランが、資料2「集中型と分散型システムとが調和したエネルギーシステムへの変革」の中で参考情報として示され、再⽣可能エネルギーの⼤量導⼊と系統安定の両⽴に向けたVPPモデルが提案されている。

2015年6月30日

第11回経済財政諮問会議/第23回産業競争力会議が開催され、『日本再興戦略』改訂2015(案)が示された。その資料2の中で「分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決」があげられ、具体的には、配布資料7「改革2020プロジェクト」として、下図のとおり、分散して存在している再生可能エネルギーや蓄電池等と、高度な需要管理手法であるディマンドリスポンス等を統合的に活用することであたかも一つの発電所(仮想発電所)のように機能させる新たなエネルギーマネジメントシステムを確立することが提案された。

 

  2015年8月28日

平成28年度資源・エネルギー関係概算要求の一環で、資源エネルギー庁は、「Ⅴ.強靱なエネルギーサプライチェーンの構築」の「(2)新たなエネルギーサプライチェーン構築への取組」の1つとして、バーチャルパワープラント構築実証事業費補助金 39.5億円を申請。

 

2015年11月26日

安倍総理の「第3回官民対話」の中で、節電インセンティブを抜本的に高めるため、家庭の太陽光発電やIoTを活用し、節電した電力量を売買できる『ネガワット取引市場』を、2017年までに創設。来年度中に、事業者間の取引ルールを策定し、エネルギー機器を遠隔制御するための通信規格を整備すると宣言。 また、「アグリゲーターが需要家側のエネルギーリソース(PV、蓄電池、EV、エネファーム、ネガワット等)を最適遠隔制御し、IoTを活用して需要家群を統合することで、あたかも一つの発電所(仮想発電所:Virtual Power Plant)のように機能させ、系統の調整力としても活用する」ことが表明された。

※ バーチャルパワープラント構築事業費補助金額は29.5億に減額されています。

2015年12月24日

産業競争力会議第30回 実行実現点検会合で、経産省・国交省・環境省連名で作成された、「プロジェクト2 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境問題の解決」に関する検討結果の報告が行われた。

その資料の中で、

  • 創・蓄・省のエネルギーリソースをIoTにより最適に組み合わせることで、仮想的な調整力を実現。
  • また、蓄電池により余剰電力を吸収することにより、出力制御指令の発動を回避し、再エネ導入拡大を図るため、分散エネルギーリソースを束ねて仮想的な調整力として活用する革新的エネルギーマネジメントシステムの確立

が謳われている。

また、それを遂行する上での課題として、

  • 蓄電池の遠隔群制御やネガワット(節電した電力)創出等の技術的実証
  • 通信規格の拡張
  • ネガワット取引市場、逆潮流に係る計量等に関する制度整備

があげられており、今後のアクションとして、

  • バーチャルパワープラントの技術実証(2016年度から実フィールドで蓄電池の遠隔制御や制御性の高いネガワット実証を開始し、5年間事業として段階的にスケールアップを予定)と
  • 通信規格・制度整備

があげられている。また、通信規格・制度整備のさらに具体的なアクション項目としては、以下が示されている。

  • 2016年初頭に産学と連携して会議体を設置し、多岐にわたる制度整備を進める
  • 2016度中に、通信規格の拡張、ネガワット取引に係る事業者間ルールの策定、逆潮流に係る計量方法の整理を行う
  • 2017年中に、ネガワット取引市場を創設

2016年1月26日

早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)内に設置された産学主体の「エネルギー・リソース・アグリゲーション・フォーラム(ERABF)」第1回会合が開催された

ERABFのホームページを見ましたが、残念ながら、会議の資料は公開されていないようです。

2016年1月29日

経産省にて第1回エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会が開催され、同ビジネスの課題と今後の進め方について検討された。 その際、配布・説明された資料3「背景について」の1ページ「本検討会の位置づけについて」の中で、省新部政策課新産業・社会システム推進室では、

  • 通信規格の拡張・国際標準化、
  • FIT併用逆潮流に係る計量方法の整理、
  • ネガワット取引活性化・系統調整力への活用

を推進する上で、

(1)情報経済課-JSCAスマハビルWG(含:HEMSTF、DRTF)、
(2)国際電気標準課、
(3)電ガ部政策課電市室、
(4)社シ室-ネガワット検討会、
(5)電力広域的運営推進機関-調整力等に関する委員会

と連係し、バーチャルパワープラント等の予算措置も効果的に活用していくことが述べられている。
なお、同検討会資料6「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスの 課題について」を見ると、アグリゲーションビジネスにおける通信規格を次図のように整理しており、バーチャルパワープラント構築実証事業の範囲では、蓄電池を含めたすべての末端の分散電源に対して、送配電事業者-リソースアグリゲータ間ではOpenADRプロトコルでの通信が想定されている。

同じく2016年1月29日

経産省資源エネルギー庁新産業・社会システム推進室は、「平成28年度予算事業バーチャルパワープラント構築事業費補助金(バーチャルパワープラント構築実証事業)に係る補助事業者(執行団体)の公募を実施。 平成28年3月8日、一般財団法人エネルギー総合工学研究所が補助事業者に決定したことが公開されている。

2016年2月22日

総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会第20回会合において、資源・エネルギー政策を所管する資源エネルギー庁省エネ・新エネ部が作成した「エネルギー革新戦略 中間取りまとめ」が発表された。その中で、

(1) 徹底した省エネルギー化、
(2) 再生可能エネルギーの導入拡大、
(3) 新たなエネルギーシステムの構築

を行うことが掲げられ、(3)に関連して、産学のトップマネジメント層で構成されるエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・フォーラム(ERABF)と官主体の実務的検討の場であるエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会(ERAB 検討会)が政策推進の場として2016 年1月に設置されたことが報告されている。
また、アクションプランとして、

  • 通信規格の整備(需要家側エネルギーリソースを遠隔制御するため、2016 年度中に通信規格の拡張を行う)
  • ネガワット取引市場の創設に向けたルール策定(2017 年中のネガワット取引市場の創設に向け、2016 年度中に取引ルールを策定する)
  • 逆潮流に係る計量ルールの整理(需要家側エネルギーリソースを効果的に活用するため、系統への逆潮流に係る計量方法を整理し、実装に向けて実運用上のルール等の整備について検討する)
  • バーチャルパワープラントに係る制御技術の技術実証

が掲げられ、VPP構築実証事業に関して、制度整備と並行し、予算措置を通じて、需要家側エネルギーリソースをIoT により統合的に管理・制御し、あたかもひとつの発電所のように機能させるバーチャルパワープラントを構築する-と説明されている。

更に、同資料内の「革新戦略 工程表 - 再エネ・省エネ融合型エネルギーシステムの立ち上げ」を見ても、制度整備等の環境整備と平行して複数年度にわたって「VPPに係る制御後術の技術実証」をしていくことが想定されている。

2016年4月19日

資源エネルギー庁は、4月18日に「エネルギー革新戦略」がまとめ上げられたことを発表。昨年7月に策定した徹底した省エネ(=石油危機後並みの35%効率改善)、再エネ最大導入(=現状から倍増)等の野心的な目標を実現するためには、市場任せではなく、総合的な政策措置が不可欠で、関連制度の一体的整備を行うため、「エネルギー革新戦略」を策定した -と、戦略策定にあたっての背景を説明している。

VPPに関して「エネルギー革新戦略 中間とりまとめ」との相違に注目すると、まず、「3.革新戦略による新たな展開」の「<3>IoT を活用したエネルギー産業の革新」の中で、
特に今後導入拡大が期待される定置用蓄電池については、車載用蓄電池の市場拡大・技術革新の進展を踏まえ、それと整合的な価格低減・導入拡大策を検討する。また、エネルギー機器の遠隔制御のために整備する通信規格については、今後の国際展開も見据えて国際標準化を行う。」という文言が、
また、2020 年のバーチャルパワープラントの自立化を目指して、今後導入拡大が 期待される定置用蓄電池については、車載用蓄電池の市場拡大・技術革新の進展も踏まえて 2016 年夏までに目標価格を設定するとともに、価格低減・導入拡大に向 けた対応策をまとめ、2017 年度にその実施に向けて取り組む。加えて、エネルギー 機器の遠隔制御のために整備する通信規格については、今後の国際展開も見据 えて国際標準化を行う。 」という表現に置き換えられており、

定置用蓄電池の導入・普及に力を入れるとともに、2020年にはVPPがビジネスとして自立していることが想定されていることがわかる。

再エネ・省エネ融合型エネルギーシステムの立ち上げの工程表は、「IoTを活用したエネルギー産業の革新」とマージされて、次図のように差し替えられており、2017年にネガワット取引市場の創設・送配電事業者によるネガワットの試行的にVPPの技術実証環境が使われだすとともに、その後も制度設計等の環境整備と連動させてVPPの技術実証環境をブラッシュアップさせ、2020年にはVPPビジネスが自立するというシナリオが描かれているようである。

 

以上、今回は時系列でここ最近のVPPに関する国内の動きを整理しました。

次回は、さらに時間をさかのぼって、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して調べた内容をご紹介しようと思います。

終わり