Station Road, Horton in Ribblesdale

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前回、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して「調査」した内容をご紹介しました。

NEDOの成果報告書の中に、VPPに関連するものがないかどうか調べたところ、調査報告・実証報告がいくつかありましたので、前回は一覧を作成しただけで終わりましたが、今回、これらの報告書に書かれたVPP関連の情報を時系列に並べてみて、国内外のVPPに関する動きを概観したいと思います。
では、はじめます。 

米国におけるVPPの誕生

株式会社テクノリサーチ研究所が実施した平成16年度成果報告書「新エネルギーの貯蔵・輸送等による有効利用法の調査(管理番号:100007472)」によると、1999年、オレゴン州に本拠を置く米国エネルギー省ボンネビル電力局(Bonneville Power Administration:BPA)が、電力ネットワークの負荷を最適化し、消費者と電力会社にとってのコストを削減し、再生可能エネルギーの導入を促進し、電力系統の信頼性を高めるとともに、電力需要の増加に伴う環境影響を低減するために、電力系統、通信システム、エネルギー市場の統合を目指す「EnergyWeb」の概念を提唱。この概念に賛同する企業とコンソーシアムを結成し、2002年から各種の実証を行なったようです。そして、その中で、Celerity Energy社(現EnerNOC社?)が、分散型電源と需要資源を結びつけるVPP システム&サービスを行い、6th Dimension社(現Comverge社)がVPP 用ネットワークシステムの核となるプラットフォームを提供したことが報告されています。

※ 2006年5月、EnerNOC社がCelerity Energy Partners LLC社を買収しています。この会社とCelerity Energy LLCとは別会社のようですが、FERCに登録されているCelerity Energy社のCo-founder&CEOであるDennis Quinn氏が、上記の買収記事でEnerNOC社のシニアディレクターに就任したと報じられていますので、「現EnerNOC?」としました。

※ EnergyWebのホームページを見ると、“EnergyWeb – the original Smart Grid Concept (May 1999 – BPA)”となっていて、ボンネビル電力局こそがスマートグリッドの元祖であることがさりげなく主張されています。このホームページの「Useful Docs」として、EnergyWebに関連するドキュメントへのリンクが貼られているのですが、残念ながらアクセス制限がかかっていて読めませんでした。以下、上記の成果報告書等から、EnergyWebと、その中でVPPに関連する部分をもう少し詳しく紹介します。

EnergyWebの概要

Energy Web を創設した目的は以下の通りとされています。

①増加する電力需要やピーク負荷対応を行うために新たな発電所や送配電線を作らなくてすむようにする
②環境に優しい再生可能エネルギー(特に風力)の導入を促進する
③需要家のコスト削減(ピーク時の高い電力価格を避ける)
④分散電源のアンシラリーサービスへの適用
⑤通信を活用したオープントランスミッションシステムの構築
また、BPA 供給エリアの一部の地域で送電線のボトルネック(混雑)があったので、そのボトルネック対策としても期待されていたようです。
このような背景から、
①ディスパッチ可能DSM(DSM 型VPP)、
②分散電源活用VPP、
③電力貯蔵、
④風力発電・バイオガス・PV 等再生可能エネルギー
を活用した広範なコンセプトのEnergy Web が立ち上げられました。 上記の概念図上、マーケットが中心に描かれていますが、WIREDの記事「Energy Web」によると、このコンセプトを打ち出すにあたってBonneville National LabのTerry Oliver、Steve Hauser、Mike Hoffman氏等は、電力サプライチェーン全般にわたって、電力のコストに関するリアルタイム情報を利用し、またデマンドサイドマネジメントの自動化を検討したようです。

※ 現時点では詳しい確認作業を行なっていませんが、EnergyWebの活動は、その後、トランザクティブエネルギー-その6でご紹介したPNW-SGDP(米国太平洋岸北西部スマートグリッド実証プロジェクト)から、現在のトランザクティブエネルギーに引き継がれているようです。 

欧州におけるVPPの誕生

一方、みずほ情報総研が実施した平成19年度成果報告書「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム共通基盤技術研究開発 IEA PVPSプログラムタスク10に関する情報収集(管理番号:100012004)」の中で、欧州では、ヨーロッパ の電力供給システムをより分散型かつ市場志向の構造へ移行させることを目的に2001年から 2005 年にかけて、IRED(Integration of Renewable Energy Sources and Distributed Generation into the European Electricity Grid)研究開発プロジェクトクラスターの一つとして、Dispower(Distributed Generation with High Penetration of Renewable Energy Sources)プロジェクトが実施されたことが紹介されています。2005年12月に公開されたDispowerプロジェクトのワークパッケージ 5(情報、コミュニケーションと電力取引)の報告書では、分散型電源が高密度に連系された場合のアンシラリーサービスへの適用が検討され、ワークパッケージ 11(地域電力供給システムにおける分散型電源の総合評価)の成果物の中でVPPのコンセプトが述べられていたようです。

※ こちらも、詳細を確認しようとしたのですが当時のホームページ(Dispower.org)へのアクセスができませんでした。 

また、三菱総合研究所が実施した平成20年度成果報告書「新エネルギーの系統連系に関わる国内外の技術調査(管理番号:20110000001555)」では、海外技術動向として、欧州のfenixプロジェクトが紹介されています。これは、NEDO海外レポート No.1001 2007.6.6「欧州におけるエネルギー研究の現状と展望-電力網」と題した特集の中でも報告されていたものですが、欧州での本格的なVPPへの取り組みは、このfenixプロジェクトに端を発しているように見受けられます。

※fenixプロジェクトに関しては、当時のホームページが残されていましたので、fenixプロジェクトと、このプロジェクトに関連した欧州の動きをもう少し詳しく眺めておきましょう。 

まず、このプロジェクトは、欧州大で科学技術分野の研究開発を計画的・戦略的に実施するための財政的支援制度である欧州研究開発フレームワーク計画(Framework Programme for Research and Technological Development)の1つとして実施されています。数年ごとに財政支援を行なうプロジェクトが定められてきたようですが、fenixプロジェクトは、その第6次計画(Sixth Framework Program:FP6)に属し、2005年10月開始、2009年9月終了したプロジェクトだったようです。下図は、全く関係のない資料ですが、欧州研究開発フレームワークの枠組みが簡潔にまとめられていましたので、掲載させていただきます。

出所:鉄道総合技術研究所 田中裕 鉄道国際規格センター長「鉄道技術の国際標準化に関する指針動向」

Fenixプロジェクト概要

以下は、NEDO成果報告書「新エネルギーの系統連系に関わる国内外の技術調査」の受け売りです:

FENIX とは、Flexible Electricity Networks to Integrate the Expected Energy Evolution、「エネルギーの進化を組み込んだ柔軟な電力網」であり、目的は、分散型エネルギーを大規模仮想発電所(LSVPP;Large-Scale Virtual Power Plants)へ集約し、管理を分散化することによって、分散型エネルギーの電力システムへの貢献度を最大化し、後押しすることである。

FENIX は2005 年10 月開始、2009 年9 月終了予定の、1,400 万ユーロのプロジェクトである。このプロジェクトにより、分散型エネルギーのインフラ開発が促進され、既存のインフラへの組み込みが促進されることが期待されている。

FENIX プロジェクトの一環として、欧州諸国から18 の参加者(送電/配電システムの運用関係者、製造業関係者、研究機関関係者など)が集まった。そして分散型エネルギーをベースにしたシステムを将来のコスト効果の高い、安全で持続可能な欧州の電力供給システムとするため、技術的なアーキテクチャ及び市場の枠組みの概念検討・設計・実証を行った。

このプロジェクトの目標は以下のとおりである: 
● 分散型エネルギーの現実的な普及度を二つの将来計画(EU 北部・南部)で評価し、電力系統への分散型エネルギーの貢献度を分析する。 
● 階層化された通信と制御ソリューションの開発を行う。下記がその具体例である
 - エネルギー市場やその付帯サービス市場に多種多様なサービスを提供するために、柔軟性と制御性を特徴とする大規模仮想発電所を開発する。
 - 大規模仮想発電所に連系する装置の管理を受け持つ、分散型エネルギー側のローカルソリューションを開発する。
 - 仮想大規模発電所の発電量をネットワーク上で管理できる新しい能力を備えた送配電サービス運用者用の新世代ツールを開発する。さらに、この電力を評価する市場を発展させる。
● 二つの大規模なフィールド展開を通じた妥当性の検証:
(1) 国内の熱電供給の集約
(2)「国際的なネットワークの管理・市場」に統合された大規模仮想発電所内の大規模な分散型エネルギー源同プロジェクトは以下の成果を達成することを主要な目標としている:
 - 集中型発電の発電量を減らす
 - 送配電網の稼働率を上げる
 - システムのセキュリティ強化
 - 総費用の削減とCO2 の削減

Fenixのアーキテクチャ

Fenixは、下図のようなアーキテクチャとなっています。

出所:Flexible Electricity Networks to Integrate the eXpected Energy Evolution

ここで、FB(Fenix Box)は、分散型電源を遠隔監視・制御するインタフェースで、CVPP(コマーシャルVPP)は、個々の分散電源の出力を、発電事業者の立場から最適となるように遠隔監視・制御するのに対して、TVPP(テクニカルVPP)は、配電事業者の系統管理の立場から、同一地域の分散電源を束ねてあたかも大型電源のように、需給バランシングやアンシラリーサービスに利用できるようにするもののようです。

弊ブログのVPPシリーズその1で、VPPの定義を調査した際、VPPにはCVPPとTVPPの2つがあるということが分かったのですが、なぜそのように分けるのか理解できていませんでした。上記の資料に掲載されている、スペインおよび英国の実証サイトのアーキテクチャ図を見ると、CVPPは、様々なタイプの分散型電源を束ねる、分散電源用のエネルギー管理システム(DEMS)であるのに対して、TVPPは、配電管理システム(DMS)の一部として機能していることがわかります。

なお、図中、ICCP、MODBUS、PLC、OPC DA、101、104と書かれているのは、当時採用されていた通信プロトコルで、最後の101と、104はそれぞれIEC 60870-5-101とIEC60870-5-104のことです。

Fenixプロジェクトの紹介が長くなってきたので、後は別の機会に譲るとして、VPPの歴史に戻りましょう。

ここまで、NEDOが実施したスマートグリッド関連の調査事業の成果報告書から、海外のVPP事情を概観しました。 次に、同じくNEDOの調査予算で日本企業が実施したVPP関連実証に関する報告をいくつか見てみましょう。

日本企業が実施してきたVPP関連の動き

マレーシアでの実証

平成18年度~21年度、東京電力はNEDOからの業務委託を受けて、マレーシアで「太陽光発電を可能な限り活用する電力供給システム実証」を行なっています。具体的には: 
● 太陽光発電を可能な限り活用する電力供給システム実証研究(PV+BESS)システム詳細設計:これは、自然変動電源である太陽光発電を最大限に活用しながらも、電力貯蔵装置(Battery Energy Storage System:BESS)の活用により、電力の高品質化を図りつつ、負荷平準化により、経済性向上も目指し、その実証研究システムの詳細設計を行ったものです。
● 太陽光発電システム等高度化系統連系安定化技術国際共同実証開発事業/太陽光発電を可能な限り活用する電力供給システム実証研究(PV+BESS):これは、「高品質PV+BESS電力供給システム」の実証開発を目指したもので、VPPシステム構築に近い実証研究と言えます。

ハワイでの実証

平成23 年度~平成27 年度、日立製作所はNEDOからの業務委託を受けて、「国際エネルギー消費効率化技術・システム実証事業/ハワイにおける日米共同世界最先端の離島型スマートグリッド実証」を行なっています。
マウイ島におけるEVを活用した離島型スマートグリッド実証の中で、VPP を見据えた最適なV2G 制御に関する実証研究も実施されたようです。 チャデモ協議会第5回総会の資料「V2H機能を活かした実証事業」に掲載されていたVPPに関連するNEDO実証の模様をいくつか紹介しましょう。

 

今回は、NEDOの成果物データベースから、欧米でのVPP誕生当時の状況や、日本企業が絡んだVPP関連の実証についてご紹介しました。

 

おわり