Holly Lodge, Lynn Road
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昨年7月、米国標準技術研究所(NIST)が立ち上げたTEチャレンジの概要をご紹介しました。 ざっと復習すると、NISTの思惑は次の通りでした。
- 近年の再生可能エネルギー利用増加は、従来の計画経済主義的な電力需給の仕組みの重大な欠陥を露呈させた
- 米国エネルギー省(DOE)内に設けられたGridwiseアーキテクチャ会議(Gridwise Architecture Council:GWAC)が公表したトランザクティブエネルギー(Transactive Energy:TE)のフレームワークは、この問題解決の可能性を秘めている
- GWACによるTEの定義は以下のとおり:
TEとは、従来の計画ベースの電力需給システムではなく、電力供給者・消費者の「価値」を基準とし、経済主義的な制御メカニズムによって需給バランスを保とうとする、新しいアプローチ
- しかし、TEが再エネ大量導入に起因する系統問題解決の切り札となるかどうかはまだ確証が得られていない
- そこで、この従来の電力供給の仕組みを代替する方式のインパクトを調査し、市場ベースで電力需給を取り仕切るシステムの実現可能性を技術開発者や政策決定者が評価するため、新たに企画されたプロジェクトの名称が、「Transactive Energy Modeling and Simulation Challenge for the Smart Grid:トランザクティブエネルギーのスマートグリッドに向けたモデリング&シミュレーションへの挑戦」(略称「TEチャレンジ」)である
- TEチャレンジ・プロジェクトの1つの目的は、未来の電力需給システムを研究する研究者や企業だけでなく、現在電力ビジネスに携わっている、系統運用者、電力事業者その他の関係者に、新たな電力供給システムのモデリングとシミュレーションを実施するプラットフォームを提供することにある
- もう1つの目的は、再エネ大量導入で露呈した現在の系統制御メカニズムの問題解決にTEのアプローチを適用してみることである
- また、TEチャレンジの目標は、電力業界関係者が、TEを「非現実的」、「絵に描いた餅」として退けるのではなく、TEの可能性を理解し、実際にTEを試行してみようという気にさせることである
2015年9月10日、公式にTEチャレンジのキックオフミーティングが実施されました。ミーティングの中でトランザクティブエネルギー(TE)とは何かについて説明したのは、米国パシフィックノースウェスト国立研究所(Pacific Northwest National Laboratory:PNNL)のRon Melton氏でした。その時は、なぜトランザクティブエネルギー協会(Transactive Energy Association:TEA)のEdward Cazalet氏ではなく、Melton氏がTEの説明をしたのか不思議に思ったのですが、調べてみると、いろいろ見えてきました。 2011年5月、米国エネルギー省(DOE)が先進的なスマートグリッド・ソリューションの相互運用性を確保するため有識者を集めて設立した産学協同の諮問機関である「GridWiseアーキテクチャ協会(GridWise Architecture Council:GWAC)」がTEに関するワークショップを開催しています。その議事録のIntroductionの章に掲載されたワークショップ参加者の写真で、Cazalet氏とともに前列で写っており、まずMelton氏がTE創成メンバの1人であることがわかりました。
Grid-Interop Forum 2011で、Edward Cazalet氏が「Automated Transactive Energy(TeMIX)」について発表していますが、これは、OASISが策定したEI(Energy Interoperation)1.0標準のうち、自動DRに関連する部分に関して相互運用性を担保した標準OpenADRが作られたように、OASISが策定したEI(Energy Interoperation)1.0標準とeMIX情報モデルをベースとして自動TEに関するサブセット標準となっています。
これが、TEに関するトップダウンのアプローチだとすると、TEのアイデアを実装し、実証実験で確認してきた、トランザクティブエネルギーを実現するアルゴリズムに関するボトムアップのアプローチが、Ron Melton氏らがPacific Northwest Smart Grid Regional Demonstration Project(略称PNW)で進めてきたものと捉えて良いように思います。
ブログ「トランザクティブエネルギー-その5」でもご紹介させていただきましたが、「Transactive Energy Case Study」の資料では、上記のRon Melton氏がTEのCase Studyとして、PNWを紹介しています。
なお、キックオフミーティングでは、以下のとおり、今後のTEチャレンジのスケジュールがアナウンスされていました。
- 2015年12月:中間レビューと、チーム編成ミーティング
- 2016年4月:第1回サミットEXPOの実施と報告
- 2016年9月:第2回サミットEXPOの実施と報告
そして先月、キックオフミーティングにオンラインで参加していた筆者に以下の文面のメールが届きました。
Dear TE Challenge partners and interested TE supporters,
The NIST TE Challenge has completed its first year (Phase I) and we are celebrating that with a Capstone program at NIST on September 20-21. We will present the accomplishments of this first year and present plans for our 2017 Phase II. The work products of the Phase I team efforts are posted online at our Collaboration Site Community page. Updates on the work products and progress since our May Portland meeting will be presented. Additional work to be presented includes the draft results of a recent effort to develop a co-simulation reference architecture and defined simulation reference grid, scenario and metrics.
Phase II of our TE Challenge will launch formally in early 2017, with some outreach and other activities over the next several months. The TE Challenge goals are fundamentally consistent across Phase I and Phase II: build up simulation tools, identify reference components, collaborate and communicate in order to build community, and work toward applying knowledge gained to TE demonstrations. In Phase II, however, the focus shifts from laying the intellectual groundwork for understanding TE to analytically modeling and demonstrating TE concepts.
We hope many of you will engage in the Challenge and join us in Gaithersburg next month. Consider participating in Phase II. Come to find out more about Phase II and provide input on our plans. Pass this email on to others who might be interested. Thanks for your involvement!
Please visit our Sep 20-21 Capstone Event Page for more information and Registration.
開始後1年が経過したTEチャレンジの成果報告会の案内です。
当初のスケジュールでは「第2回サミットEXPOの実施と報告」となっていましたが、今回のアナウンスによると、NIST TEチャレンジのフェーズⅠ完了を祝うキャップストーンプログラムという名称で、9月20-21日、NISTの本拠地で執り行われるようです。 残念ながら今回も現地参加は叶いませんが、もし今回もオンラインで参加できるようなら、おって、その状況をブログでお伝えします。
終わり