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9月1日、経産省より「ネガワット取引ガイドライン」改定がアナウンスされました。 弊ブログでは、「デマンドレスポンスに関連するもう1つの標準-その1」から「その5」で、米国においてDRのベースラインがどのように検討され、新たな『標準』として法制化されたかをご紹介しましたが、日本でインセンティブ型DRを進める上でどのようにベースラインを考えているかについて、これまでご紹介できていませんでした。
そこで、今回は、平成29年中に予定されているネガワット取引市場の創設に向けて、経済産業省が日本でのDRをどのように展開していこうとしているのか、「ネガワット取引に関するガイドライン」から見ていきたいと思います。
さて、今回改訂が行われたということは、初版がすでに出ている訳ですが、そちらから振返ってみましょう。
2015年3月30日公開された「ネガワット取引に関するガイドライン」を策定しました~スマートな節電を行える環境整備を進めます~』によると、「エネルギー基本計画(平成26年4月閣議決定)や改訂日本再興戦略(平成26年6月閣議決定)において、ネガワット取引に関するガイドラインを策定することとされました」となっています。
エネルギー基本計画「2.エネルギー供給の効率化を促進するディマンドリスポンスの活用」では以下のように言及されていました:
ディマンドリスポンスにおける次の段階として、需要量の抑制を定量的に管理する方法が考えられている。こうした方法は、電力会社と大口需要家の間での需給調整契約という形で従来から存在しているが、こうした取組を欧米のように社会に広く定着させるためには、当該方法の効果や価値等について、電力会社等の関係者の間で認識を共有することが必要である。このため、複数の需要家のネガワット(節電容量)を束ねて取引するエネルギー利用情報管理運営者(アグリゲータ)を介すなどして、小売事業者や送配電事業者の要請に応じて需要家が需要抑制を行い、その対価として小売事業者や送配電事業者が需要家に報酬を支払う仕組みの確立に取り組んでいく。具体的には、こうしたディマンドリスポンスの効果や価値を実証し、定量的に管理できるようにしていくとともに、需要抑制の測定方法等に関するガイドラインを策定する。
また、改訂日本再興戦略では、「Ⅴ.改革のモメンタム~「改革2020」の推進~(技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出)」として以下のように言及されています。
(2)分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決
ⅱ)革新的エネルギーマネジメントシステムの確立
④主な課題・今後の取組
・VPP事業に係る有識者によりプロジェクト採択、進捗管理を行う「VPP事業委員会(仮称)」において、本年度中に実証事業の実施者を決定し、プロジェクトの実施主体や実施場所を明確化する。
・蓄電池の群制御技術等の確立に向けた取組を進めるとともに、引き続き通信規格の整備やサイバーセキュティの確保に向けた検討を進める。また、来年中のネガワット取引市場の創設に向けて「ネガワット取引に関するガイドライン」の改定等を行う。
※余談になりますが、改訂日本再興戦略では、「Ⅴ.改革のモメンタム~「改革2020」の推進~」でサブタイトルが「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」とされている中でVPPが取り上げられているにもかかわらず、そして、現時点ですでに海外では1GWクラスのVPPシステムが実運用されているにもかかわらず、5年間のVPP構築実証の成果目標が「50MWクラスのVPP実運用を目指す」からには、単に蓄電池の群制御技術に長けたものとするだけではなく、再生可能エネルギーの出力を最大限有効活用する、 異種分散型電源の混合設備を用いた最先端のVPP(Mixed-asset型VPP:「VPPとエネルギーリソースアグリゲーション-その1」参照)の実用化を目指して欲しいと思っています。
話を元に戻すと、このような政策決定に基づき、経産省ではネガワット取引に関する有識者から成る「ネガワット取引のガイドライン作成検討会」を設置し、主に「ベースラインの設定」「需要削減量の測定方法」「契約のあり方」の3つの論点について検討・整理を行ない、2015年3月30日「ネガワット取引に関するガイドライン」(初版)公開に至っています。 これに対して、2016年5月25日、資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新産業・社会システム推進室から「ネガワット取引に関するガイドライン」の改定についてで、次のようにアナウンスされています。
- 平成27年6月の電気事業法改正(第3弾)により、需要削減量(ネガワット量)についても、発電した電力量と同様に、一般送配電事業者が行う電力量調整供給(インバランス供給)の対象と位置付けられた。
- 平成27年11月の「未来投資に向けた官民対話」において、平成29年中までに「類型1②(後述)」に関連したネガワット取引市場を創設するとの総理発言がなされ、事業者間の取引ルールを策定することとされた。
- 現行の「ネガワット取引に関するガイドライン」においては、「類型1②」におけるベースラインの在り方や需要削減により売上が減少する小売電気事業者に対する売上補填の在り方が規定されていなかった。
今般、それらの点について規定するため、「ネガワット取引に関するガイドライン」を改定することとする。
また、2016年9月1日公開された「ネガワット取引に関するガイドライン」を改定しました~スマートな節電を行える環境整備を進めます~』では、改定版公開に至った経緯が次のように説明されています。
平成28年4月に有識者及び事業者から成る「ネガワットWG」を設置し、ガイドラインの改定案を検討しました。平成28年5月に開始したパブリックコメントを経て今回の改定に至るものです。
ここから、今回の改定のポイントの1つは、「官民対話」での安倍首相の宣言により2017年運用開始を余儀なくされた(?)ネガワット取引市場で、「類型1②」のネガワット取引が支障なく執り行われるようにすることだと考えられます。
そこで、日本におけるDRのベースラインを明らかにする前に、今回は、「ネガワット取引に関するガイドライン」のどこがどう変わったかを比較検証してみたいと思います。
まず、両者の目次項目を比較してみましょう。
初版と改定版の目次を横並びにすると、この表のとおり、4つの章+参考という全体構成は変わっていませんが、4ぺージ長くなっているのと、各節に2つ、あるいは3つの項目見出しが追加されています。
更に記述内容を比較してみましょう。
■ 第1章の内容比較
初版の第1節(1)が、改定版の第1節「1.ディマンドリスポンス導入の背景」、初版の同(2)が改定版「2-1.電気料金型DR」、(3)が、「2-2.ネガワット取引」と大体同じですが、初版(1)では、DRによる需要パターンの変化として「ピーク負荷削減」のみが意識されていたのに対して、改定版では再生可能エネルギーの導入拡大に伴い電力の供給過多状態に陥った際に「需要増加」を行うのもDRであるとの認識が示されています。
ネガワット取引の類型について議論された、2014年10月30日開催の第9回制度設計WG事務局提出資料「~ネガワット取引の活用について~」によると、そもそも「ネガワット取引」とは、「DRによる需要削減量を発電した電力量と同等の価値があるものとして取引すること」と規定されていました。そのDRを、改定版では「負荷削減(=ネガワット)」の提供だけでなく、「需要増加(=ポジワット)」にも使われると拡張したため、第1節のタイトルがDRに関する新たな認識にそぐわないと判断されたのか、初版の「ネガワット取引の意義」から改定版では「ディマンドレスポンスについて」に変更されています。
それにしては、ガイドラインのタイトル自体、そして、改定版の内部でも、DRではなく、「ネガワット取引」という言葉を使用し続けている理由は、改定版の第1章第4節に追加された表を見て納得しました。
今回の改定版ガイドラインの策定範囲が、DRによる需要パターン変化の分類上、「需要削減」に関するもので、かつ契約に基づく、いわゆるインセンティブ型DRのガイドラインとなっているということです。
また改訂版2-2では、平成27年度に開催した有識者からなる「ネガワット取引の経済性等に関する検討会」が実施したネガワット取引のkWベースでの費用対効果分析の成果として、
- ネガワット創出のためにかかる費用が約700~7,000円/kW/年(システム費、オペレーション費など)であるに対して、
- ネガワット取引による効果が約3,500~9,000円/kW/年(現存する発電設備の維持管理の回避費用+将来建設する発電設備の投資の回避費用) である
という試算が得られ、経済性の観点からもネガワット取引に一定の意義があることが判明したことが追記されていました。
第1章第2節を比較すると、初版(1)部分が改定版「1.策定の理由」、(2)は改定版「2.策定の方針」の最初のパラグラフと同じでしたが、初版(3)の部分は、平成27年6月の電気事業法第3弾の改正を受けて全面的に書き直されており、「類型1②」のベースラインやネガワット調整金の考え方等について、今回の改定版で定められたことが示されています。
第3節では、初版(1)と、改定版「1.類型の種類」の記述は全く同じですが、改定版には参考図①が追加されわかりやすくなりました。
- 類型1①:小売事業者が自社の需要家からネガワットを調達するもの
- 類型1②:小売事業者(A)が他社(X)の需要家からネガワットを調達するもの
- 類型2:系統運用者(一般送配電事業者)が需給調整のためにネガワットを調達するもの
ということなのですが、なぜ類型1を①と②に分けたのでしょうか? それは、追って検討することとして、第2章以降の比較に移ります。
■ 第2章の内容比較
第1節は、初版、改定版とも表現は同じですが、ベースラインのイメージ図(下図)が追加されていました。
第2節は、初版(1)と改定版「1.標準ベースラインについて」の記述は同じですが、改定版では「2.需要家をグループ化したベースラインについて」が追加されています。 もともと、ベースラインとは、DR発動時間帯の需要家の需要予測値の集まりに過ぎませんが、ユニークな日負荷曲線の需要家が複数集まることでユニークさが均され、よりベースラインとして正確な予測値になることが期待でき、良い方法だと思います。また、マンションの住民を束ねた高圧一括受電にもうまく使えそうです。
第2節の構成は、それ以降変更されており、初版(2)~(4)は改定版ではなくなっていました。
第3節では、初版の第3節全体が、改定版では「第3節 ベースラインの設定方法」の「1.反応時間・持続時間が比較的短いDRのベースライン」として記載されています。
#今回は、内容紹介ではなく、内容比較が目的ですので、中身には触れません。
そして、初版の第4節の「1. 標準ベースライン」部分が、改定版では「第3節 ベースラインの設定方法」の「2.反応時間・持続時間が比較的長いDRのベースライン」の「2-1.設定の方針」と「2-2.標準ベースラインの設定方法」として記載され、初版の第4節の「2.1.ベースラインテスト」部分は、改定版では「2-3.ベースラインテストの実施」となっています。初版「2.2.代替ベースラインが認められる場合」の記述は、改定版では「2-4.代替ベースライン」に相当しますが、初版とほぼ同じ内容が、改定版では「①類型1①、類型2の場合」として記載されており、新たに「②類型1②の場合」の説明が加えられているのと、参考図④として、ベースラインの設定フローの図が追加されていました。
続いて、初版第4節の最後の部分「2.3.代替ベースラインの種類」は、ほぼそのまま改定版では「2-4.代替ベースライン」の「(2)代替ベースラインの種類」に引き継がれていますが、改定版では「2-5.確定数量契約の場合」として、「小売と需要家との間で事前に決めた量(確定数量)のとおりに小売供給 する契約)が結ばれている場合は、確定数量をベースラインとして採用する」というルールが新たに追加されていました。
■ 第3章の内容比較
細かな表現で異なる部分はありましたが、初版、改定版でほぼ同じです。
■ 第4章の内容比較
第1節の内容はほぼ同じでしたが、3項目が初版は「3.小売電気事業者への補填」となっていたものが、改定版では「3.類型1②における小売X(参考図②参照)へのネガワット調整金の支払い」というタイトルとなり、類型1②のネガワット調整金に関する記述が追加されていました。
第2節は、初版では「1.類型1の場合(需要削減量の買い手が小売電気事業者の場合)」、「2.類型2の場合(需要削減量の買い手が系統運用者の場合)」という構成になっていましたが、改定版では、「1.需要家やアグリゲーターに支払われる報酬(基本報酬及び従量報酬)」、「2.需要家やアグリゲーターに課されるペナルティ」それぞれの中に「(1)類型1の場合」と「(2)類型2の場合」の説明が入り、かつ、「3.類型1②における小売X(参考図②参照)へのネガワット調整金の支払い」の説明が追加されていました。
■ 参考の比較
この部分は、初版、改定版全く同じでした。
以上、今回は、「ネガワット取引に関するガイドライン」の初版と改定版の違いについてご紹介しました。
終わり
- 投稿タグ
- Baseline, Demand Response, デマンドレスポンス, ベースライン