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前々回、経産省より9月1日付けで公開された「ネガワット取引ガイドライン」改定版が、初版からどのように変わったのか比較してみました。
要約すると、
- これまで「ネガワット取引」というと、主に電力会社が需要家から提供されるDR資源をアグリゲータから調達すること(ガイドライン中の言葉にすると類型2)を指していたが、
- 「官民対話」(2015年11月)での安倍首相の宣言により2017年のネガワット取引市場運用開始を余儀なく(?)され、
- ネガワット取引市場では、小売電気事業者が、電源調達の一環としてアグリゲータからDR資源を調達する(同じくガイドライン中の言葉にすると類型1)ことが考えられますが、
- その場合、小売電気事業者Aがアグリゲータを介して、自社が電力供給する需要家からDR資源を調達する(類型1①)場合と、
- 小売電気事業者Aとは別の、小売電気事業者Xから電力供給を受ける需要家のDR資源を調達するアグリゲータを介してネガワットを調達する(類型1②)場合が考えらます。
- この類型1②のケースで、小売電気事業者Xが電力供給する需要家の負荷をアグリゲータによって勝手に制御されてしまうと、供給対象の需要家の需要予想を基にした計画値同時同量のバランスが崩れてしまうので、
- 送配電事業者は、小売電気事業者Xに、インバランスを起こした責任者として、不当にペナルティを課してしまう可能性が出てきます。
- かてて加えて、小売電気事業者Xの需要家がアグリゲータからの制御で需要を減らせば、小売電気事業者Xが需要家から期待していただけの電気料金が入らず、売上高が減少します。
- そこで、小売電気事業者Xが不利益を被らないように、小売電気事業者Xとアグリゲータの間でネガワット調整金等の契約を結ぶなど、類型1②のDR調達パターンにおいて、一定のガイドラインを示す目的で改定された
ということだったと思います。
※言葉にすると、複雑でよくわからなくなってしまいますが、第2回ERAB検討会の資料4「ネガワット取引の経済性等に関する検討会概要」類型1②の小売電気事業者A、Xとアグリゲータの関係については、以下の絵でご確認ください。
図. 類型1②の取引フローの一例
前々回のネガワット取引に関するガイドライン改定版のご紹介では、初版との差分に注目し、具体的な内容には触れませんでした。そこで、今回は、どのように変わったのか、内容を見てみようと思います。
ちょうど、9月14日開催された第4回ERAB検討会資料6:ネガワットWGからの報告を見ると、改定のポイントは、大きく2点あるようです:
改定ポイント1:類型1②のベースラインの設定方法
- 標準ベースラインの改定
- ベースラインの選択フローの変更
- 需要家のグループ化の容認
- 確定数量契約の場合のベースライン
改定ポイント2:ネガワット調整金
- ネガワット調整金の額の決定タイミング
- ネガワット調整金の額の計算方法
- ネガワット調整金の支払いタイミング
では、これらの改定ポイントに関連して、ネガワット取引に関するガイドラインがどのように改定されたか、中身を具体的に見てみましょう。
■ 第1章第3節「1.類型の種類」
ここで、DR資源調達パターンとして、類型1、類型2、そして類型1を更に①②に区別し、表現が固いですが「一の小売電気事業者が他の小売電気事業者の需要家によって生み出された需要削減量を調達するもの」のことを類型1②として定義しています。
■ 第1章第3節「2.適用の範囲」
ここで、類型1②に関して「本類型では、売り手となるネガワット事業者(アグリゲーター又は需要家)が計画値同時同量の主体となり、また、ネガワット取引の当事者ではない、需要削減を行う需要家と電力供給契約を結んでいる小売電気事業者「小売X」がネガワット取引による影響を受けることとなる。そのため、類型1①に比して正確性と公平性がより強く求められるため、本ガイドラインの活用が特に強く期待される。」との記載があります。
上図の取引フロー例でいうと、「小売X」が計画時同時同量の主体で、かつアグリゲータによって負荷制御のかかることを知らされていなかった場合、需要側の計画値100に対して需要実績は80なので、インバランスが発生したと判定されますが、「小売X」の需要家からDR資源調達を行なうアグリゲータを計画値同時同量の主体とすることで、「小売X」がインバランスの責めを受けないようにするということですね。
■ 第2章第2節「2.需要家をグループ化したベースラインについて」
この「需要家をグループ化したベースライン」という記述は、類型1②のために考えられたものではなく、類型1、2に適用可能な、改定版で新たに追加された考え方ですが、類型1②に関して、(当然ですが)以下のような制約条件を付しています:「ただし、類型1②においては、グループ化の対象は、同一の小売電気事業者と小売契約をしている需要家とする。」
■ 第2章第3節「2-2.標準ベースラインの設定方法」
「反応時間・持続時間が比較的短いDRのベースラインは、事前・事後計測の考え方によって設定するものとし、代替ベースラインは定めないこととする。」ということで、初版と変わっていませんが、反応時間・持続時間が比較的長いDRのベースラインとして標準ベースラインを採用する場合、ベースラインの当日調整対象データに関して類型1②に関する考慮が示されています。
すなわち「(1)DR実施日が平日の場合」および「(2)DR実施日が土曜日・日曜日・祝日の場合」の②において、通常は標準ベースラインの当日調整値として「DR実施時間の4時間前から1時間前までの30分単位の6コマについて、「(DR実施日当日の需要量)-(上記①の算出方法により算出された値)」の平均値を算出」した値が用いられますが、類型1②のアグリゲータは、「5時間前から2時間前までの30分単位の6コマ」とするように指示されています。
その理由として、アグリゲータも計画値同時同量の主体として、実需給の1時間前に需要抑制計画と、図.1の「小売X」の需要家のようなアグリゲータ配下の全需要家の需要合計に関するベースライン提出が必要なため-とされています。 4時間前から1時間前の需要家のデータが確定したところで、そのデータを基に需要家のベースラインを計算していたのでは、1時間前にアグリゲータとしてのベースラインの提出は不可能ですので、当然と言えば当然ですが。
■ 第2章第3節「2-3.ベースラインテストの実施」
「(3)基本方針」-「①類型1の場合」に、べースラインテストを実施せず代替ベースラインを適用する例外則として、類型1②に関して、「小売Xとネガワット事業者が合意した場合には、後述の代替ベースラインによることも可能とする」という記述が追加されています。
また「(4)実施方法」において、ベースラインテストの実施主体はネガワット事業者(アグリゲータ)で、テスト結果の検証・承認者として、類型1②の場合は「小売X」であることが記載されています。
■ 第2章第3節「2-4.代替ベースライン」
「(1)代替ベースラインが認められる場合」の中で、類型1②について、以下の通り規定されています。
a) 2-3のベースラインテストで不合格(誤差が20%超)か、標準ベースラインの当日調整計算に時間がかかり、配下の需要家の需要の総和としての、アグリゲータとしてのベースラインを実需給の1時間前までに提出できない場合、以下の条件で代替ベースラインの採用を認める。
• 設定を希望する代替ベースラインについてベースラインテストを行った結果、誤差が20%以下
• 小売Xとネガワット事業者の間で合意したベースラインを設定する
※ ベースラインに関し合意が得られない場合は、当該需要家に関し当該類型におけるネガワット取引を実施できないことも想定される
• 設定を希望する代替ベースラインがない時は、小売Xとネガワット事業者の間で合意したベースラインを設定する
※ベースラインに関し合意が得られない場合は、当該需要家に関し当該類型におけるネガワット取引を実施できないことも想定される
また、「(2)代替ベースラインの種類」では、類型1②では、代替ベースラインとして、「②同等日採用法」、「③事前計測」、ならびに「④発電機等計測」は認めず「①High4of5(当日調整なし)」のみとなっていました。
■ 第2章第3節「2-5.確定数量契約の場合」
「需要家をグループ化したベースライン」は、類型1、2に関係なく採用できるようですが、確定数量契約に基づく代替ベースラインは、類型1②のみのようです:
類型1②において、小売Xと需要削減を行う需要家との間で、確定数量契約(小売と需要家との間で事前に決めた量(確定数量)のとおりに小売供給する契約)が結ばれている場合は、確定数量をベースラインとして採用するものとする。
■ 第3章第2節「需要削減量の測定方法についての基本的な考え方」
類型1②の場合は小売Xに対して遅くともネガワット取引の精算に間に合うよう需要データを提出することが求められています。
以上が、類型1②のベースラインに関連する記述です。
■ 第4章第1節「ネガワット取引において定めるべきその他の事項」
「3.類型1②における小売Xへのネガワット調整金の支払い」の項に、実際にどのように解決するかまでは触れていませんが、以下のように記述されています。
類型1②において、需要削減が実施されると、小売Xの需要家に対する小売供給量が減少することから、小売Xは需要削減分の電気の調達費用を回収できない。一方、ネガワット事業者は当該需要削減分の電気を活用してビジネスを行うこととなる。そのため、小売Xとネガワット事業者との間に生じる費用と便益の不一致を調整するべく、ネガワット事業者が小売Xに対して支払う調整金(ネガワット調整金)について契約において規定する必要がある。
■ 第4章第2節「その他の事項に関する基本的な考え方」
「3.類型1②における小売Xへのネガワット調整金の支払い」の項に、以下の考え方が示されています。
ネガワット事業者が、小売Xに対して、需要削減量に応じてネガワット調整金を支払うものである。ここでは海外事例等も踏まえ、①ネガワット調整金の額の決定のタイミング、②ネガワット調整金の額の計算方法、③ネガワット調整金の支払いタイミングについて、以下のとおり例示するものとする。なお、小売Xと需要削減を行う需要家との間で確定数量契約が結ばれている場合は、小売Xは需要削減分の電気の調達費用も回収できることから、アグリゲータによるネガワット調整金の支払いは不要である。
① ネガワット調整金の額の決定のタイミング
DR発動前
② ネガワット調整金の額の計算方法以下の4パターンを選択肢として例示する。
a) 電力料金単価(実績値)-託送料金:DR対象の需要家の実際の小売価格から託送料金を引いた価格
b) 電力料金単価(参考値)-託送料金:DR対象の需要家の想定の小売価格から託送料金を引いた価格
※参考値例:旧一般電気事業者の小売部門が公表している単価
c) 一般社団法人日本卸電力取引所の平均価格
なお、計算条件は以下のとおりとする。
• 採用データ(スポット市場)
システムプライス、エリアプライスのいずれか
※ 需要削減を実施する需要家が所在するエリアの価格
• 算出単位(区分)と計算方法
以下の区分毎に算出するものとする。
・ピーク時:夏季の平日(土曜日も含む)の10時から17時 夏季=7/1~9/30
・非ピーク時・昼:ピーク時を除く平日(土曜日を含む)の8時~22時
・非ピーク時・夜:ピーク時、非ピーク時・昼を除く時間
→ 上記3つの区分では以下のいずれかの計算方法を採用
1) 同一区分の過去5日間の平均値
※季節の始めについては、昨年度に遡る場合もありえる。
2) 同一区分の昨年度の平均値
・区分なしとする場合は、過去5日間の平均値又は昨年度の平均値を採用
d) 一般社団法人日本卸電力取引所のDR実施時間のスポット市場価格
③ ネガワット調整金の支払いタイミングインバランス精算と同じタイミング
上記①~③に関しては、小売Xとネガワット事業者が協議し、上記に挙げたもの以外の内容にてネガワット調整金を支払うことも妨げない。
類型1②での調整金支払いに関しては、4パターンの他に、最後のセンテンスに「上記に挙げたもの以外の内容にてネガワット調整金を支払うことも妨げない」とあり、ガイドラインとしては選択肢が多くて、いったいどうすればよいのか迷ってしまいます。海外事例を踏まえた結果、このようなパターンが列挙されているようですが、海外では実際どのように当事者間で問題解決が図られたのでしょうか?
あるいは、今回ご紹介したように規制機関がガイドラインのようなものを作成しているのでしょうか?
次回は、「類型1②」のパターンのDRビジネスについて、海外の状況/事例を自分でも調査し、ご紹介したいと思います。
終わり
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- Baseline, Demand Response, デマンドレスポンス, ベースライン