第四次産業革命のエネルギービジネスへの影響(流通面)
Railways at Castlefield
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前回は、第四次産業革命がエネルギービジネスにどのような影響をもたらすかを検討するにあたって、検討対象ドメインを定め、エネルギーバリューチェーンの運用面・生産面への第四次産業革命の影響の検討までを行ないました。 今回は、6章『第四次産業のエネルギービジネスへの影響』の続きで、エネルギーバリューチェーンの流通面への第四次産業革命の影響を検討したいと思います。
では、はじめます。
■ エネルギーバリューチェーンの流通面への第四次産業革命の影響
電力流通に関するここ数年の最大の変化は、スマートグリッドと呼ばれる一連の技術革新がもたらしたものである。スマートグリッドという言葉が使われ出したとき、それが、第四次産業革命の影響と言われたことはなかったが、今振り返ってみると、スマートグリッドは、エネルギービジネスの流通面での第四次産業革命の影響そのものといってもよい。
まず、数百万世帯に設置されたスマートメーターはセンサーとして各家の使用電力量を計測するだけでなく、遠隔操作で家庭への電力供給を開始したり止めたりすることのできるアクチュエータとして機能する今日のIoTデバイスの先駆けであり、数百万世帯の使用電力量を定期的(15分/30分/1時間間隔など)に計測することで集められるデータ量の規模感も、このシリーズ「その2」で紹介したシュワブ氏の第四次産業革命の特徴に一致している。更に言うなら、スマートメータリング登場当時の通信スピードが遅かったので、各戸の電力使用量を個別に収集するのではなくて、コンセントレータ(集約器)と呼ばれる装置に各家庭の使用電力量を集約して、例えば1日分(96コマ/48コマ/24コマ分のデータ)をまとめてセンター側に提供していたが、これも、昨今使われている言葉でいうと、「エッジコンピューティング」を先取りしていたものと言える。
下図は、今年デマンドレスポンスビジネスの老舗&最大手のEnerNOC社を買収したイタリアの大手電力会社が2007年に早々と運用を開始したスマートメータリングシステムを示している。3000万世帯の電力使用量の遠隔データ収集を10年前に実現していたという意味で、スマートグリッドは第四次産業革命の先駆けの1つであったことは間違いない。
なお、スマートグリッドという言葉が日本でも聞かれ出した当初、日本政府&電力会社では、「日本の電力システムはすでに十分スマートであり、日本ではスマートグリッドは必要ない」という考え方が大勢を占めていた。
これは、スマートグリッドを、「(Smart=賢い)+(Grid=送電網)=賢い送電網」として、単にICTを利用して、技術面で系統運用をスマートにしただけのものと捉え、第四次産業革命がもたらす産業構造/社会構造/経済構造の変化という観点で捉えられていなかったからと考えられる。 スマートグリッドの本質は、
- 大規模発電所から利用者へ「川上から川下への一方通行」であった従来の電気の流れを、双方向に流すことを可能とするための技術革新というだけでなく、
- 遠隔地に建設した大規模・集中型電源が発電した電気を、送電線を使って(送電ロスを伴いながら)需要地に届けるという形態から、需要地に近接した場所の小規模分散型電源をまとめて仮想発電所(VPP)として利用しようとする産業構造の変化にある。
出典:2008 NIST Standards Workshop
- 更に、当初ピーク電源の代替として考えられたデマンドレスポンスや、その後新たなスマートグリッドのキラーアプリとして登場したVPPは、「電力会社(=電力供給者)vs 需要家(=電力消費者)」という、電力流通における社会構造?に、「プロシューマー(Prosumer):生産者(プロデューサー、Producer)兼 消費者(コンシューマー、Consumer)」という新たな役割の参加者を生み出した。
出典:GLOBE FORUM:Manage smart in smart grid
- 更にさらに、従来は、資本主義経済下の電力会社であっても、長期需要予測と現有発電能力を基にして発電所建造計画と供給計画を立て電力の安定供給を図る企業体質は、社会主義下の計画経済的なものだったが、電力自由化への制度変更で、取引市場ベースで「メリットオーダー(発電コストの安い順)」で自社電源以外も有効利用するという資本主義的な経済構造への変革も進められている。この電力自由化の流れも、大局的にみると、第四次産業革命が電力流通にもたらした経済構造の変化と考えられなくはない。
今回は、エネルギーバリューチェーン、流通面(とりわけ、電力流通面)への第四次産業革命の影響の検討を行ないました。
次回は、エネルギーバリューチェーンの消費面への第四次産業革命の影響を検討します。
終わり