第四次産業革命のエネルギービジネスへの影響(消費面)

National Brewery Centre – steam engine

   © Copyright Chris Allen and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

これまで、第四次産業革命が日本のエネルギービジネス(とりわけ電力ビジネス)にどのような影響をもたらすのか、エネルギーバリューチェーンを構成する運用、生産、流通のドメインごとに検討してきました。 スマートグリッドを、第四次産業革命のエネルギーバリューチェーンの流通面への影響という観点で見直した時、スマートグリッドの本質がより鮮明に見えた気がするのですが、いかがだったでしょうか? さて、今回は、6章『第四次産業のエネルギービジネスへの影響』の最後に残った、エネルギーバリューチェーンの消費面への第四次産業革命の影響を検討したいと思います。 では、はじめます。

エネルギーバリューチェーンの消費面への第四次産業革命の影響

これまで、エネルギーバリューチェーンへの第四次産業革命の影響を検討するにあたっての前提条件として、シュワブ氏の第四次産業革命の著書と同じ、2025年頃を想定していたが、消費面に関しては、もっと先、例えば2050年頃を想定して考えてみたい。 実は、「その4」で紹介した「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」の著書では、冒頭で、エネルギー政策が理想的に進んだ場合の2050年のユートピア的な一般家庭の生活と、中途半端なエネルギー政策が展開された場合に想定される悲惨な一般家庭の生活が描かれている。 何が「理想的」かに関して、人により考え方が違う(例えば原発政策)し、エネルギー政策が、そこで示されているように100%理想的に進むとは思われないので、現実的には、そのどこか中間あたりに落ち着くのではないかと思われるが、ここでは、第四次産業革命がエネルギーバリューチェーンの消費面にもたらす影響に絞って検討したい。

プロシューマーと自給自足者

すでに、「その6」で、「消費者」は「プロシューマー」になるという話をしたが、すべての消費者がプロシューマーになるかと言えば、2050年時点でも、そうではないと思われる。 まず、一般家庭の「消費者」に関していうと、(2世帯住宅も含めて)一戸建てに住む「消費者」は、太陽光発電や蓄電池を保持していてかなりの確率で「プロシューマー」になっているものと思われる。
ただ、都会では一戸建てよりマンション住まいの「消費者」が多く、マンションの屋上では、住人すべてのエネルギー需要を満たすほどには太陽光パネルを設置する余裕がない。したがって一戸建ての住人ほど、プロシューマーは多くないのではなかろうか?
逆に、田舎の一戸建て住んでいる「消費者」は、「プロシューマー」を越して、エネルギーの「自給自足者」になっているのではないかと思われる。国土交通省が提唱する「コンパクトシティ」のコンセプトの背景には、「人口の減少と都市への集中」が示唆されており、そういう意味では、意外と一般家庭の「消費者」の「プロシューマー化」は進まないのかもしれない。

マンション駐車場に駐車したEVのVPP資源化

マンションの駐車場に止まっている車が将来的にすべて電気自動車になったとすると、その充放電スケジュールを制御することで、結構大型のVPP資源とすることが期待できる。 したがって、EVを保有するマンションの住人とEV充放電サービス契約して、EVのバッテリーへの充放電を制御するVPPビジネスが始まることが考えられる。

一般家庭以外の「消費者」のプロシューマー化

商業ビル、学校、病院、工場、データセンターなど自前の施設内に設置した再生可能エネルギーで自給自足できない「消費者」も、基本的には電力会社から電気の供給を受けるものと思われるが、構内に自家発/熱電併給設備やUPSを保有する場合、DR資源/VPP資源提供者として、「プロシューマー」となりうるものと思われる。

エネルギーの消費からサービス(便益)の消費へ

金融業界の自由化が銀行業務と証券業務、長短金融、預金と信託等、様々な垣根を撤廃したように、電力業界でも、小売全面自由化に引き続き、電力業務・ガス業務の垣根がなくなった。更には通信サービス事業者やE コマース事業者が電力小売ビジネスに参入してきており、もはや、「電力会社は、電気を安定供給すれば良い」という考えでは、これからの電力小売事業は立ち行かない可能性が⼤きい。
従来、「メーターの先は感知せず」というのが電力業界の⽂化であったような気がするが、今後は「消費者」を意識し、エネルギーを売るのではなく、ユーティリティ(=消費者の便益)を提供するビジネスマインドを持ち、消費者の情報を多面的に蓄積・分析し、行動・サービスに結びつけるため、第四次産業革命の技術革新を構成する要素であるAI/ビッグデータ/IoT 技術を利用できなければ、電力小売事業自体、および電力小売事業に従事するマーケティング/営業部門には厳しい時代となることが予想される。

出典:https://www.ubiquitous.co.jp/products/iot/as/navi-ene-biz/

例えば、現状のスマートメーターでは、電力料金計算の基礎情報として30分毎の電力消費量しか計測しないが、上図にあるようにBルートで1分毎の瞬時電力値を計測し、負荷パターンからどのような家電機器をどれほど利用したかAIツールで解析して、活動状況を数値化し、指標化した値(生活反応指標)として提供し、省エネのために活用できるサービスとして情報提供することが考えられる。
更に将来的には、ネットワーク接続された家電機器毎に計量センサーが内蔵されていると、機器毎に電力使用量に基づいた自動課金、それもブロックチェーンを活用したマイクロ決済してしまうことが考えられる。

AIスピーカーが取り仕切る?将来のライフスタイル

 

出典:Amazon.com

最近になって、Amazon EchoやGoogle Homeに続いて様々なAIスピーカーが出現し、音声による指示により家庭内の設備機器を制御するだけでなく、家族のメンバーを識別し、人に合わせて能動的に発話するタイプの物も出てきているようである。SFの世界に出てくるような人間とコンピュータが音声により会話する生活がすぐそばまで来ている。したがって2050年ころともなれば、AIスピーカーは単に家庭内の設備機器を制御するだけでなく、DRアグリゲータ/VPPアグリゲータの指示と連動してDR資源/VPP資源の提供(そのための、各設備機器の運転調整も行う)まで担当するようになっているのではないか?
すなわち、表向きはAIスピーカーだが、裏側では従来以上にインテリジェントなHEMS機能を持ち、各部屋の住人のエネルギー利用に関する好みを把握(学習)した上で、どのように家電機器を制御すれば各部屋の住人のライフスタイルにそれほど影響を与えずにDR資源/VPP資源を紡ぎだせるか、インテリジェントに判断できるようになっていうのではないかと思われる。

 

今回は、エネルギーバリューチェーンの消費面への第四次産業革命の影響を検討しました。
「エネルギービジネスは第四次産業革命でどう変わるのか?」のシリーズはこれで一旦終わります。

 

終わり